イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

157 / 157
第150話 今から過去

 

 

 小猫side

 

 

 

 豪邸である兵藤邸の一室。長期休暇中のオカルト研究部の集合場所でもあるこの部屋に、グレモリー眷属とイリナ先輩、アザゼル先生が集まっていた。ギャー君だけは、最近のいつものように欠席だけど。

 そして、いつものようなワイワイとした雰囲気は、今日に限ってはなかった。

 

 

 最初に口開いたのは、イッセー先輩だった。

 

イッセー「······それ、本当なんですか」

 

アザゼル「本当だ。紙切れ一枚の通知だが、確かに効力のある文書だ。魔王アジュカのハンコまで付けられちゃな」

 

 

 数日前、上級悪魔リアス・グレモリーに一つの命令がくだった。塔城小猫()を、比企谷八幡に引き渡せと。正確には比企谷さんからの要請で、アジュカ様がその要請を受け入れたということになるらしいが。

 

 

リアス「この文書が届いたのが3日前。一応、小猫にはすぐに伝えたのだけれど、アジュカ様への事実確認もしなければいけなくて、皆にはすぐに伝えなかったの」

 

 ロングスカートを強く握りしめる部長。

 

リアス「確認はすぐに出来たし、アジュカ様へ抗議するつもりだったのだけれど······昨日ね、ギャスパーがオカ研に来たわ」

 

小猫「───ギャー君が?」

 

 ギャー君は、ここ2週間ほど全く部活に出ていない。冬休みに入るまで学校には来てたけど、それまでも暫くの間部の活動にはほとんど顔を出さなかった。何度か来ないのか聞いたけど、実家の用事としか言わなかった。

 もちろん、ギャー君が実家で何してるかは知ってるけど······比企谷さんのクリフォト討伐作戦からもう1ヶ月経つのに。

 

朱乃「昨日の部活は休みでしたよね? 入試がありましたから」

 

リアス「えぇ、ギャスパーも知ってて私とアザゼルを呼んだのでしょうね」

 

 祐斗先輩がおずおずと手を挙げた。

 

祐斗「部長、ギャスパー君はなんと?」

 

リアス「ギャスパー達······向こうも詳しくは調査中のようだけど。どうやら、小猫と、小猫のお姉さんの、黒歌が狙われているようなの」

 

アーシア「そんな······」

 

朱乃「狙われている、とは、誰にでしょうか」

 

 アーシア先輩が震える中、朱乃さんは意を決したように尋ねた。

 

リアス「ギャスパーは、クリフォトだと言ったわ」

 

「「「!!」」」

 

 

 その場を緊張が支配した。

 

 

 そんな中ゼノヴィア先輩が首を傾げた。

 

ゼノヴィア「······おかしいだろう、リアス部長。比企谷八幡のクリフォト討伐作戦から1ヶ月経っている。あの男は首魁の死亡を確認したと宣言したし、多少の生き残りはいるだろうが、中級の転生悪魔を狙う意味が分からない」

 

 ゼノヴィア先輩がそう言って、初めて気付いた。自分が狙われるということにほとんど違和感がなかったことに。

 サーゼクス様に保護されたあとも、はぐれ悪魔の妹を野放しにするのかという声が多かったことは知っている。だから、今回もそういう、比企谷さんに保護される前の姉のトラブルが原因ではないかと思っていた。いや、でも今考えてみれば······

 

アザゼル「ゼノヴィアの言うところももっともだよ。ただ、ギャスパーは、理由までは言わなかった。ギャスパーが知ってるかも怪しいとこだな。

 明後日の引渡しの日に、八幡のやつから直接聞くしかないかもしれんが······」

 

小猫「あの、先生」

 

アザゼル「どうした」

 

小猫「姉の指名手配は、どうやって取り消されたんでしょうか」

 

 先生は、ふむ、と少し考え込んでから言った。

 

アザゼル「確かに、八幡の話を聞く限り、黒歌は冤罪というわけではなかったみたいだが······」

 

リアス「まさか、はぐれ悪魔だった頃の黒歌の因縁が原因だとでもいうの?」

 

アザゼル「その可能性も無くはない。が、黒歌は指名手配されてすぐに八幡に保護されたんだろう?」

 

小猫「はい。姉様はそう言ってました」

 

 以前、姉様は自分が比企谷さんのところに居着いた時の話をしてくれたことがある。私とはぐれてから暫くしてギャー君に保護された、と聞いた。それから、一年かからずにはぐれ悪魔の登録は解除出来たけど姉様の身の安全を考えて表沙汰にならないようにしたと。

 ただ、はぐれ悪魔になる前のことははぐらかされてしまった。その時は、本人のトラウマなのだろうと深堀しなかった。

 

イリナ「だとすると、はぐれ悪魔になるよりもっと前のことなのかしら」

 

リアス「はぐれ悪魔は、主君に牙を向いた眷属悪魔がほとんどだけど、登録される際にその経緯が問われることはほぼ無いわ。制度の欠陥なのかもしれないわね······。気になるの?」

 

小猫「はい。姉様ははぐれ悪魔になる前のことは話したがらないんです。話を聞く限り指名手配がすぐに解除出来たのもその辺に理由があるのかな······と」

 

 よくよく考えてみれば、姉は政治的に強い影響力のある人の保護下にある。比企谷さんの考えていることは分からないけど、もしかしたら私達姉妹は、まだ政治の渦中にいるのかもしれない。

 

 

 

 

 小猫sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡side

 

 

 

 

 がちゃんという音を立てて、鍵を開ける。

 

ヴァーリ「おはよう父さん」

 

 ヴァーリは、壁によりかかって、窓も無いのに遠くを眺めていた。

 

八幡「考えごと、少しは落ち着いたか」

 

ヴァーリ「正直、全くまとまらなかった」

 

 

 クルルが拉致されて、それを手引きしたヴァーリは独房へ入ること数日。

 

 

 俺にとってこの数日は、クルルのことや白音のこと、テロのことで一瞬だったが、ヴァーリはどうなんだろうな。

 

 

ヴァーリ「······迷惑を、かけた」

 

 灯りの消えた独房に振り返り、ヴァーリは呟いた。

 

八幡「なら、あとで、皆に謝りに行くぞ。『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』にもな」

 

 ヴァーリにしては、珍しく弱気だな。普段のすまし顔も今は見えない。かなり堪えたな。当然と言えば当然だ。すぐに切り替えてくれると考えていた俺の感覚の方が麻痺している。

 

ヴァーリ「あぁ······ラヴィニアは?」

 

八幡「『神の子を見張る者(グリゴリ)』の本部で静養中。監視付きのな。向こうも事情聴取は終わってるらしい。お前には悪いが、ラヴィニアにだけは暫く会わせられない」

 

ヴァーリ「······まぁ、そんなことだとは思ったさ」

 

 強がりを言ってみせても、その一言だけでヴァーリは押し黙った。

 

 あのあと、ヴァーリはウチの独房に。ラヴィニアは他の『刃狗』のメンバー共々バラキエルが連れてきた移送部隊に回収されていった。総督直属の部隊だ。こっちが優先的に尋問するとか流石に出来ないし、すぐに尋問に移る余裕もなかった。

 

八幡「ヴァーリ、逆効果になることを承知で言うが無理に気に病むなよ。必要以上に気に病んでもろくなことにならん」

 

 そう言う俺も、いざヴァーリを前にするとうまい言葉が見つからない。親父のくせに。親のくせに。

 

 『親』って、もっとこう、どっしりと構えて子どもに余裕を与えられるとか、そういう存在じゃなかったのか。

 

 あー、ダメだ。俺の不安はヴァーリの不安になる。ただでさえ黒歌が気落ちしてるってのに。

 

八幡「ヴァーリ。飯、食うか」

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「······これは」

 

八幡「嫌だったか?」

 

ヴァーリ「······そういうわけでは」

 

 塩茹でしただけのパスタ。匂いのしないパスタ。香り付けのにんにくはもちろん、コショウすらほとんど使ってない。これ、作るの久しぶりだな。

 

 ······俺も料理して少しは頭整理出来たし、切り出してみるか。

 

八幡「黒歌とメリオダスから、話は聞いてる。めちゃくちゃ頑張ったんだってな」

 

ヴァーリ「はは。物は言いようだな······」

 

 

 昔、ヴァーリとオーフェリアの思い出を頼りに作ったパスタ。2人の、お母さんの思い出。俺達3人とも、何度もこれに力をもらっていた。

 

 

ヴァーリ「······母さんと、ラヴィニア。どちらか一方しか助けることは出来なかった。どっちも助ける手段が思い浮かばなかった。結局、母さんを裏切った。()()()から、まるで進歩していない。

 ······父さんはなんで今これを」

 

八幡「······少しな、2()()()()()()()の力を借りたかった。情けない話、こうでもしないとお前を許せなくなるところだった」

 

 実は、3日前にも作って食べたんだよ。

 

 そう付け加えた。

 

ヴァーリ「父さんは、よく、言いきれるな。俺がやったのは、スパイみたいな······ものだ」

 

 ヴァーリは少しずつ口に運ぶ。

 

八幡「これ、作りながら考えたんだけどな。同じ状況にあったとして、あの人がヴァーリを恨むか」

 

 ヴァーリは、首を横に振った。そうするだろうと思った。俺もそう思う。一度しか会ったことがないが、本当に強い人だったのを覚えている。当時既に軟禁状態でキツかったろうに。芯、というか目力というか······母親というものの意地を感じた。······なんで助けられなかったんだろうな。

 

八幡「だろ。で、仮にもお前の親父やってる俺が、許せなくなるなんて······ま、そういうわけで、許すための力をもらった」

 

 そうか。か細い声が聞こえた。

 

八幡「今のクルルもな、お前が手引きしたとか、そういうことを伝えても、お前を恨んだりしないだろうな」

 

 空になった食器を浮かせて、食洗機へ送り込む。

 

八幡「だから、あんまり自分を責めるなよ。ヴァーリ。それにな、お前が何かしなくてもルエルトはいずれこっちに攻めてきただろうと思うぞ」

 

 そうかもしれないが。そう言いそうになっているヴァーリに先んじて続けて言う。

 

八幡「·······というかな、お前。ラヴィニアを助けるためにしたことだろ。ラヴィニアはあの状況でも軽い切り傷程度で済んだんだぞ。『刃狗』の他のメンバーも大した怪我はしてない。しかも、お前が送ったメールのおかげで早い対応が出来た。俺としては助かったよ。それは誇れよ」

 

 ヴァーリの顔が、少し和らいだ。折角整った顔してるのに、親がそれをダメにしちゃ最悪だな。

 

八幡「で、だ。ヴァーリ。情けない話だが、もう少し父さんを助けてくれ」

 

ヴァーリ「あぁ······もちろんだ」

 

 

 いつものヴァーリらしい、余裕を含んだ笑顔があった。

 

 

 

 八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。