イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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第149話 留守番たち

 八幡side

 

 

 

八幡「······カマクラ、いるのか」

 

 執務室で俺がそらに呟くと、使い魔の猫又、カマクラが出現した魔法陣からぴょこんと現れる。俺が生まれた時、つまりクルルとよりも付き合いの長いカマクラは一目俺を見て、肉球で俺の頬をペチンと叩いた。

 

八幡「分かってる。クルルは生きて助け出す、また、手を貸してくれ」

 

 そう言うと、満足してカマクラは部屋を出て行った。

 

 

ルシフェル《あの娘、あんなに強かったのね》

 

 意識体のお袋は、そう一言だけ呟いた。生前のお袋に、カマクラは寄り付こうとしなかったらしい。お袋が死んだ時、あいつは()()()()()()当時16やそこらだったと思うが、継母のお袋を好かなかった。とはそれとなく本人に聞いたことがある。俺を通してあいつの違う一面を見て、お袋はよく驚いている。俺の切り札というかジョーカー的存在でもあるし、戦闘ならクルルとよりも連携しやすいくらいだしな。

 人間態を長時間維持出来ない体質と言っても、それが単なる欠点ってわけじゃない。

 

ルシフェル《私は、あの娘の戦闘能力なんて知らなかったわ》

 

八幡「猫が混ざってるだけあって精神的な成長は早かったんだよ。お袋がどうやって俺を生んだのかを本能的に把握しちゃったんだろ」

 

 どうもあいつは、生まれた時の俺と、生んだお袋をおぞましく感じたらしい。俺はそれでも見捨てられなかっただけ良かったか。クルルが、ギャスパーを助けたのも何か俺に通ずる所を感じたからかもしれない。

 

ルシフェル《それは······》

 

八幡「別に、俺は恨んでない。()()()生まれ方をしてなきゃ、間違いなく俺はとっくに死んでるしな」

 

 覚醒したお袋に、一つ聞かされたことがあった。俺はお袋の胎から生まれたわけではないらしい。詳しいことは知らない、というか、外法に外法を重ねすぎていて、ミーミルの泉の知識を動員しても理解しきれなかった。今も、カマクラに何を見たのか聞けていない。

 

ルシフェル《あの時は、ああするしか無かったのよ······》

 

八幡「それくらい分かる。俺でも」

 

 お袋は、それきり喋らなかった。

 

 

 

 理解出来ない。或いは、理解出来たからこそ恐ろしい。四鎌童子も、そうやってクルルや666を排除しにかかったのかもしれないと、今更ながらに気付いた。

 

 

 

 八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 クルルside

 

 

 

 

 きぃ、と音を立ててドアが開く。自分の鼓動が加速するのを感じる。使える武器は自分の能力と体だけ。いけるか······

 

 待ち構えていると、訪問者はやぁ、と軽い声をかけてきた。

 

クルル「え────」

 

 訪問者は、金髪に私よりも頭半個分高い身長。瞳は、私と同じ赤。でも、私よりは綺麗な赤だ。だが、四鎌童子じゃない。というより、彼女の気配が答えをくれた。

 

クルル「ルエ、ル、ト·······?」

 

 だ、だ、だって······

 

ルエルト「凄い、一瞬で分かるんだね。比企谷八幡ですら疑ってかかってたのに」

 

クルル「は────?」

 

 どう、、、······?

 

ルエルト「ただいま。そしておかえり、お母さん」

 

 

 目の前の事態に頭が真っ白になった私を、ルエルトは抱き締めた。

 

ルエルト「今度は、捨てたり捨てられたりすることもないんだよね?」

 

 

 

 クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー『黒歌はこね、白音ちゃんの身柄引き渡しに反対しなかったの?』

 

 2日前。引き渡しの旨が記された書状のコピーを手にしたままじっと動かない彼女に、ふと尋ねた。

 

黒歌『······まぁね。リアス・グレモリーのとこに居るよか安全だとは思うし』

 

ギャスパー『でも本人の意思にはきっとそぐわない、って?』

 

 黒歌は、ゆっくりと頷いた。頬杖ついて窓に目をやりながら、言った。

 

黒歌『ここだって、デカいトラブルがあったばっかだしさ。セキュリティ面は、八幡と勝永で見直したらしいけど。そんなとこが本当に世界で一番安全なとこって? バカな話よ』

 

 クリフォトの拠点から見つかった、旧ネビロス家研究機関の実験データ。塔城小猫が狙われるのも時間の問題。小猫(しろね)ちゃんは、自分がそういう存在だということすら知らないらしい。リアス部長は知っているはずもない。アザゼル先生でも知らないだろう、とお父様は言った。

 

 僕にはお父様の行動は余りにも露骨に見えたが、お父様は守りやすい場所(ホーム)に移動させることに重きを置いたらしい。その上で、先手を取る。黒歌と一緒にいた方が守りやすいというのも分かる。

 お母様がいない状況で強気に打って出たお父様の大胆さは、僕には真似出来なさそうだ。

 まぁ、お父様にはどちらかと言えば強硬派でもあるから、そういうやり方に行き着いたのだと思う。

 

黒歌『白音は、学校で友達とワイワイやってるのが合ってるって、お姉ちゃんとしては思う。ギャスパーもそう思うでしょ』

 

ギャスパー『うん。周りよりは口数こそ少ないけど、僕よりもよっぽどアクティブだよ』

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「────クリフォトの拠点から回収したデータの中に、小猫ちゃんのパーソナルデータがあったんです」

 

 先生と部長は、僕の一言一言を吟味しながら聞いている。

 

ギャスパー「どうしてそれが問題なのかと言うと、そのデータの中に、父と敵対する組織との関連性が認められたんです」

 

アザゼル「だが、それだけで八幡を狙う連中全てってことにはならんだろう。偶然や杞憂の可能性もある」

 

ギャスパー「いえ、似たようなデータが別の、複数の拠点からも回収されたんです。さっきのとは、また別の組織への提供用に暗号化されていました」

 

 お父様からは、問い詰められたらこう返せと段取りを決められた。堕天使側が小猫ちゃんの保護に反対するとはお父様も思っていないみたいだけど、なるべく借りは作りたくない、ということだと思う。相手がアザゼル先生じゃ、そうなるのも仕方ないのかな、とは想像がついた。

 

ギャスパー「クリフォトは聖書勢力外の多数の組織と裏で繋がっていたみたいで。先生も、ご存知だと思います」

 

アザゼル「それはな。あいつの報告だとオリュンポスや須弥山の一部だ、って話だったが」

 

リアス「オリュンポスに須弥山が·······?」

 

 お父様は、回収した全てのデータを公開したわけじゃない。それに、殆どの勢力は首脳部に通知されたデータを末端まで公開していないと聞いている。だいたいの勢力にはクリフォトのシンパが紛れ込んでいる。あれは、一テロ組織というにはあまりに巨大な組織だった。テロで経済的に疲弊した勢力もあるため、安易に刺激も出来ない。

 お互いジリ貧になる前に行動を起こすとは思うが、その膠着を破壊するのはお父様かもしれない。

 

ギャスパー「大小問わなければもっとあるらしいですけど、どうやら、報告されてない中に、悪魔の政治家の一部も含まれているらしいです」

 

アザゼル「それで?」

 

ギャスパー「これはクリフォトの張った予防線の一つですけど、ウチの黒歌さんの妹である塔城小猫を攻める糸口にしようって作戦があったらしいんです」

 

リアス「そんな······」

 

 愕然とする部長と表情を変えず思案を巡らす先生は、エラく対照的に見えた。

 

アザゼル「だから、向こうが小猫に対してアクションを起こすこと前提で、先んじて小猫を使われる前に手元に置こうってわけか。最近の八幡にしちゃ強気だな」

 

ギャスパー「それは僕もそう思います」

 

 先生と僕の意見が一部一致したところで、部長は堪らずなのか声を上げた。

 

リアス「待ってちょうだい。それなら、グレモリー家でもいいはずよ。理由なんて後からいくらでも······」

 

ギャスパー「部長。その政治家は、サーゼクス・ルシファー派の一人なんですよ」

 

リアス「お兄様の······? そんなことが有り得るわけ······」

 

ギャスパー「サーゼクス派の政治家が小猫ちゃんを狙ってるんじゃなくて、小猫ちゃんを狙っている者が政治家としてサーゼクス派に潜り込んでいたんです。残念な、ことですけど」

 

アザゼル「リアス······」

 

リアス「分かっているわ······。私は『(キング)』だもの。でも······!」

 

 部長はがっくりと項垂れて、椅子に深々と座り込んだ。本当に嫌な役回りだ······お父様、何でこんなことをグレモリー眷属の僕にやらせたんだ。

 

 部長の背中をさすっていた先生が僕を呼んだ。

 

アザゼル「······ギャスパー、一つ聞いていいか」

 

ギャスパー「はい」

 

アザゼル「お前、クリフォトの討伐作戦に参加していただろう」

 

 僕が頷くと、先生は僕の目を捉え直した。

 

アザゼル「そこで生き残ったお前から見て、小猫はどう見える? お前自身の意見でいい。聞かせてくれ」

 

 先生の目は、ここだけは嘘は許さないと強く叫んでいた。

 

ギャスパー「······正直に言うと、今巻き込まれたら確実に死にます」

 

 覚悟を決めて言うと、部長が俯いたまま呟いた。

 

リアス「ギャスパー、貴方、小猫の努力は知っているでしょう? 今のあの子なら、上級悪魔相手に引けを取らないはず」

 

 暫くグレモリー眷属から離れて行動してはいたが、色々話には聞いている。昔は忌避していた猫魈の力と向き合って、それを完全に使いこなせるようにと。黒歌も指導に来ていたし、本人からも経過とか聞いてはいた。

 

ギャスパー「もちろんです。でも、その、今の小猫ちゃんのレベルだと、万に一つもない、と思います。小猫ちゃんが仙術を完璧に使いこなせても、イッセー先輩並の攻撃力や防御力を持ってても、多分、変わらないと思います。逃げに徹するのも、今の小猫ちゃんだと······」

 

 部長の代わりに、先生が「そうか」と言った。

 

アザゼル「理由は?」

 

ギャスパー「敵は殺し合いや非合法手段のプロです」

 

アザゼル「そりゃそうだな」

 

 彼女は仲間で、好きな人の妹だ。何も起きないで欲しい。でも。

 

ギャスパー「でも、小猫ちゃんに同じことは、出来ないですよ。普通に生きてくなら、普通は出来なくても何も問題ないですけど······」

 

 今の小猫ちゃんは中級と上級の間くらいの実力しかない。猫魈の力の性質的に格上相手に渡り合うことは不可能ではないけど、コネや財力とかは身分相応にしか持ち合わせていない。対して敵は最上級クラスのものを当たり前のように持ち合わせてる。手段も選ぶ必要がない。勝てるわけがない。

 

アザゼル「そうだな。小猫は、八幡みたいに常に危険の傍にいるわけじゃない。巻き込まれたことはあっても、あいつの歳なら出来なくて当然だ。それに、本当にサーゼクス派の中に間者がいるってんならグレモリー家の方もあまりアテには出来ない」

 

ギャスパー「······はい」

 

 それに、グレモリー家はウチの屋敷みたいにオートメーションを進めて非戦闘員の出入りを限界まで減らしているというわけでもない。

 

 先生は、椅子にどっしりと座り、コーヒーをあおった。

 

アザゼル「問題はそれ以外にもあるが、一番の問題は、小猫本人にどう伝えるかだな。八幡はなんて言ってるんだ」

 

ギャスパー「父は、本人の精神に大きな負担がかからない最低限に収めると言ってます。黒歌さんとの姉妹であるということだけを伝えて、それ以外は当面の間伏せておく、と」

 

 分かった、とため息を吐きながら先生は立ち上がった。それから、少し窓を眺めてから言った。

 

アザゼル「良いだろう。小猫以外にも、引き渡しの件は必要なことだけ俺から話しておいてやる。その代わり、引き渡しには八幡本人が来るように伝えるんだ。あいつには聞きたいことも山ほどあるしな。いいな、ギャスパー」

 

ギャスパー「必ず伝えます」

 

 僕の返答を聞いて、先生は肩から力を抜いた。

 

アザゼル「なら今日はもう帰れギャスパー。俺とリアスで考えなきゃいかんこともあるしな」

 

ギャスパー「はい、失礼しました」

 

 

 

 

ギャスパー「······変な役回りを引き受けちゃったなぁ」

 

 購買の側の自販機によりかかる。カイロ代わりに買った缶コーヒーはもうぬるい。蓋を開けたまま、逃げていく湯気を暫く缶を見つめていたが、気付いたら湯気は見えなくなっていた。

 

 正直、後悔している。引渡しの件は、お父様に反対しなかった。でも、反対していたら多少は違ったんじゃないか。白音······小猫ちゃん本人はこれを聞いてどう思うんだろう。漠然と自分の身に危険が迫っているとだけ聞いて納得するようなタイプではないし。姉との確執が無くなって、姉のいる生活に慣れ始めてようやくこれからって時期なのに。

 

ギャスパー「反対しても状況が良くなるわけでもないんだよな······」

 

 

 

 ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 


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