イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
9月中(30日の9時すぎ)
ヴァーリside
2時間前、俺は、小部屋に放り込まれて、何人かに尋問されていた。
黒歌『アンタ、ラヴィニア助けようとしてここの情報教えたんだって? ラヴィニアに聞いたけど』
その内の一人の黒歌は、そう言った。言い訳する気も起きず、俺はただ頷いた。
ヴァーリ『······あぁ』
黒歌『他になんか思い浮かばなかったの?』
違う、と言いたかったが、この時は何も答えられなかった。沈黙は是だ。
黒歌『······ま、いくらヴァーリでもそうなる時はそうか』
そう言って、黒歌は後ろのメリオダスにバトンを渡した。
メリオダス『んじゃぁ、初めるぞ。八幡にゃいい感じに伝えとくから、隠し事はすんなよ。な?』
言葉とは裏腹に、メリオダスの圧は強かった。だが、それ以上に黒歌の問い掛けが俺には辛かった。
ヴァーリ「······他のやり方、か」
3年前、家を飛び出した時も。アザゼルに会ってからも。俺は、中途半端なままだ。
父さんの力なんて借りなくとも。あの時のリゼヴィムによる騒動の対応に追われて、会見で必死になって説明する父さんを見てそう思ったことは今でも憶えている。だが、出奔して分かったのは、そんなものは、そう思わせてくれるだけの環境を与えられていたからだということ。アザゼルの所に転がり込んでからも、それまでの延長線上をただ歩いているだけだった。
ヴァーリ「俺がもっと強ければ、今回のことは未然に防げたのか······?」
分からなかった。力があれば? 知恵があれば? 武器があれば? 分からない。そんな規模の話とも思えない。
他の誰かだったらと思ったが、その誰かが、こういう時どうやって対処するかも、思い浮かばなかった。意外と、自分が他人をよく見てないのだと気付いただけ、良かったと思うべきなのか······
他人のやり方を真似ればいいというわけでもないのは分かる。
ヴァーリ「俺のやり方、か······」
ヴァーリsideout
アザゼルside
駒王学園、オカルト研究部。新年明けてそうそう、その部室で俺とリアスは、一枚の書類に頭を抱えていた。
『上級悪魔リアス・グレモリーに猫趙『白音』の引き渡しを命ずる』
引き渡し先はよりにもよって比企谷八幡。だが、問題はそんなことではない。
この引き渡し命令は、アジュカ・ベルゼブブ······つまり、魔王の承認を受けていること。先日、本人に直接確認したため間違いもなく。
アザゼル「リアス、一応聞くが、小猫にこのことは」
リアス「昨日、小猫には······でも、他の眷属にはまだ伝えてないわ。アジュカ様に確認を取る前だったのもあるし······」
一週間前に突如届いたこの通知。いや、勧告か。先月の、『
アザゼル「八幡は、軟禁するわけじゃないとは言ってたが······駄目だったな。あいつの目的は探れなかった」
リアス「そう······でも、どうして今なのかしら。小猫は、素行に問題があるわけでもなし、私もイッセーも小猫と同居しているのだからあの娘が犯罪に関わってない証明くらい······」
リアスは疑惑を更に深めるが、答えは見つかりようもない。
アザゼル「八幡は、実際は『保護』だと言ったが······」
リアス「
そんな時、部室のドアがノックされた。まだ冬休みで、今日は部活も休みにしているのに、訪問者なんているはずもないのだが。
リアス「どうぞ」
訪問者は、オカルト研究部の所属一年生。
「お久しぶりです。部長、先生」
リアスの眷属でもある、ギャスパーだった。
アザゼル「久しぶりだが、ギャスパー。今日は休みにしていたはずだが」
コートを脱いでソファに座ってギャスパーは、鞄から封筒を出した。
ギャスパー「分かっています。今日は、部員としてではなく、比企谷八幡の息子として来ました」
差し出された封筒を開けると、そこには一枚の紙が入っていた。
ギャスパー「それは、父からです。アザゼル総督宛に、って」
書類に書かれていることをざっくり纏めると、『禍の団はまだ存続しており、我々の作戦はまだ終わっていない。また、塔城小猫はその存在を狙われる可能性があり、保護する必要性を主張する』
正式な書類じゃないとしても、こんな紙一枚を雑に寄越しやがって······
アザゼル「······まぁ、八幡の言い分は分かった。にしても、何で引き渡しなんだ。あいつは、一度も保護の必要性なんて言わなかっただろ。今更どういうことなんだ」
リアスに紙を渡してギャスパーに視線を戻せば、ギャスパーは、窓を······いや、もっと遠い所を見ていた。
ギャスパー「僕も詳しくは聞き出せませんでしたけど、聞けた限りだと、サーゼクス魔王との折衝に持ち込ませないため、らしいです。父は、政治だとサーゼクスさんと偶に揉めるので······」
八幡は、実利主義がいきすぎて、周りには政敵だらけ、揉めないのなんてファルビウムくらいだが······まぁそれはいい。
リアス「ギャスパー。真剣に答えて。小猫は、誰に狙われてるの? 何故わ狙われてるの······」
ギャスパー「小猫ちゃんは······いや、『白音』は······」
ギャスパーは、言い淀んだ。ほんとは黙ってるよう言われてるんですが、と言って、意を決した。
ギャスパー「彼女は、父の敵全てに狙われています」
罪悪感で満たされた顔を、俺は忘れられそうになかった。
アザゼルsideout
ギャスパーside
12月末。
ギャスパー『白音······小猫ちゃんですよね。何で引き渡しを』
あのような書類を見れば、誰だって疑いの一つや二つ持つはずだ。僕も当然その一人だった。
八幡『お前には言えない』
お父様は、こちらを見ようとしなかった。手元のタブレットから目を離さない。
ギャスパー『じゃあ、何で僕にこれを見せたんですか!』
八幡『······そうしてくれって頼まれたからだよ』
そんなことを頼む人がいるわけ······いや、いるか。身柄の引き渡し(もとい保護)なら、小猫ちゃんに危機が迫っているからだ。彼女に、政治的な価値はない。貴族子女の眷属の一人でしかない。それなら、知名度がある朱乃さんやイッセー先輩のが余程重宝されるはず。
小猫ちゃんがそういう状況にあるなら、黒歌が、知らないわけがない。あの人は妹のために、他の全てを捨てたこともある人だ。
ギャスパー『わざわざウチに引き渡すのは』
お父様は、漸く僕を見た。
八幡『ギャスパーなら想像、出来るだろ』
ギャスパー『······黒歌』
彼女は、部屋で酒を煽っていた。時間的には、まだ少し早い。それに、部屋が酒臭くなるって普段は外に呑みに行く人だ。鼻がいいから、部屋が酒臭いと起きた時気持ち悪くなる、らしい。
黒歌『······八幡から、聞いたんでしょ』
頬が少し紅潮した黒歌は、ぎろりと僕を睨んだ。
ギャスパー『詳しくは聞いてないよ。引き渡しがあるからってだけ』
冷蔵庫から出したお茶のペットボトルを一気飲みすれば、黒歌は新しい缶ビールを開けていた。
黒歌『じゃあ、聞いてよ全部。私の好きなギャスパー······』
ビールの缶が、ドラマチックな甘いセリフと噛み合わなくて、ちぐはぐさを覚えた。
話し終えた途端、飲み過ぎたと青い顔をしてトイレに駆け込んだ黒歌を見送って、僕はまた、お茶を飲み下した。
ギャスパー『
余りに無機質な名前だ。人の名前にしておくべきじゃないものだと思う。
ネビロス家の研究機関で生まれた黒歌は、幼少期から投薬や拷問レベルの訓練、思想教育を受けて育った。だが、妹が生まれた時、そんな環境に疑問を抱く。お母さんの死後は、ナベリウスに下って自分一人で妹を育てていたが、主を殺して逃走。途中で妹とはぐれて、その後に僕と出会って······
普段は飄々としてるし、割と他力本願みたいな言動もあるけど、本質的には人に頼れない人だ。責任感というか使命感というか······不器用すぎる。
何の気なしに飲みかけのビールを飲んでみた。
ギャスパー『苦っ······』
飲めなくはないけど、結構キツい苦さだった。大人がこんなんをありがたがる理由が分かるのは、まだ時間がかかりそうな気がする。匂いもキツいし。
黒歌『う、頭痛い······』
ギャスパー『水飲む?』
黒歌『飲む······』
ペットボトルを渡せば、水をがぶ飲みしてぷはっ、と短く息を吐いた。
黒歌『ごめんねギャスパー······酒臭いでしょ』
ギャスパー『そんなことないよ。僕はこの匂い嫌いじゃないし』
ギャスパーsideout