イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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 8ヶ月間も無更新だったこと、謹んでお詫び申し上げます。とは言っても6000文字もあるのに、盛り上がりのないリハビリみたいな回なんですけどね(目逸らし)

 9月中にもう一本投稿出来ればと思ってるんで、この作品をまだ生暖かい目で見てくれる、という方は期待せずに待っていてください。
 


第147話 人と怪物のハザマ

 

 

 

 ギャスパーside

 

 

 嫌に忙しい朝だった。お母様が連れ去られたことはもとより、屋敷内に侵入を許したことでセキュリティの見直しを余儀なくされて、手の空いていた人全員が体力を搾り取られるまで魔法と頭脳を酷使することになった。

 親が連れ去られたというのに、ろくすっぽ動揺している暇もなかった。

 

 

 

 

八幡「束、監視カメラのチェック終わったか?」

 

束「とっくにね〜·······束さんは四鎌童子の様子見てくるから」

 

 自分のスペックを高々と誇るほどの束さんでも、焦りと動揺はあったようで疲れが見えていた。お母様と仲が良かった分もあるはずだ。

 

八幡「頼んだ。勝永、金庫のチェックは?」

 

勝永「ダメですね。宝玉類と秘薬系の物にかなり被害が出たようです」

 

八幡「分かった。追跡はお前と美猴で────」

 

 

そんな光景を見て一周回って冷静になれた僕は、任された区画とその結界のチェックと報告だけやって、引っ込んだ。悔しいが、僕がいても邪魔になりそうだった。

 この屋敷の結界はあらゆる系統の魔法を複合して作られたもので、流石に今の僕では出入りする程度が限界だ。頑強に張り直される予定らしいけど、手助けも出来ない。こんなことなら、もっと魔法の勉強をしておけば良かったかもしれない。ロキとの戦闘でも、その差をパワーで埋めようとして失敗したのだ。

 

ギャスパー「はぁ······」

 

溜息をついてベッドに寝そべれば、部屋に来ていたヴァレリーが僕の視界を覗きこんだ。

 

ヴァレリー「ねぇギャスパー。紅茶を淹れたの」

 

 

 

 

 

 

ヴァレリー「ギャスパーは、落ち着いてるのね。意外だわ」

 

ヴァレリーは紅茶を淹れることに集中して、強引に自分を落ち着かせたらしい。

 

ギャスパー「自分でも不思議だけどね。他の人が皆慌ててて、逆に冷静になった感じ」

 

 ヴァレリーを見れば、平常心を保っているようで焦りの色が見えていた。当たり前だ。寧ろ、落ち着いていられる自分がおかしいのかもしれない。

 

ギャスパー「現実を受け入れられてないだけかも······」

 

ヴァレリー「私はダメね。ルーマニアでは女王までやったのに。こういう状況でこそ毅然としてるべきなのに·······」

 

 ヴァレリーは窓の方に目を逸らして、呟いた。

 

意外だった。ウチでは、心身に大きなダメージを負ったヴァレリーの、ルーマニアで女王に担ぎあげられていたことはタブーのようなものになっていて、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』が摘出された後でもその話題が上がるのはせいぜいリゼヴィム討伐の時だけだった。

 

ギャスパー「ヴァレリーを女王にしたルーマニアが······ヴァレリーは怖くないの?」

 

窓の外では、メリオダスさんとクロウさんが張り直された結界の強度を確認しているところだった。微かにドン、という音が聞こえた。

 

ヴァレリー「怖くないわけではないけど······皆がびくびくする程ではないかしら。あの頃の記憶があやふやなのもあるし」

 

ギャスパー「そっか」

 

 ティーカップを置いて立ち上がる。

 

ギャスパー「僕、何か出来ないか聞いてくるよ」

 

ヴァレリー「ギャスパー」

 

 歩きだそうとしたところをヴァレリーに呼び止められた。

 

ギャスパー「?」

 

ヴァレリー「あ······私にも出来ることがあるなら手伝わせてね」

 

 ヴァレリーは一瞬迷ったかのような表情を見せたが、次の瞬間には元の表情に戻っていた。何か、違うことを言おうとしたのが分かった。でも、踏み込んでいいのか分からなかった。

 

ギャスパー「うん」

 

 どこを手伝おうか。破壊された医務室の改修してる一夏さんの所でもいいし、食堂の人達の手伝いもいい。孤児院の警護してるディオドラさんの所でもいいかもしれない。

 

手持ち無沙汰でふらふらしてるよりはマシだと言い聞かせて、ドアを締めた。

 

 

 

 ギャスパーsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡side

 

 

 

オーフィス「······話は分かった」

 

八幡「それは助かる」

 

 

 ウチの国の端っこ。タンニーンの領にも跨る広大な森の中にポツンと佇む一軒家で、俺はオーフィスと秘密裏に接触した。俺がオーフィスを匿っていることを知ってるやつは少ないが、アザゼルに知られているため接触も簡単ではない。

 今でこそアザゼルとは表面上は仲良くしているが、ウチは60年前に、冥界のエネルギー利権でもめにもめて、『神の子を見張る者(グリゴリ)』と戦争寸前までいったことがある。結局、合弁企業で利権確保になったがよくそこまで漕ぎ着けたと思う。マジで。

 

 

オーフィス「我、クルルの救出に、関与しない」

 

八幡「頼む」

 

 こいつは仮にもテロリスト。匿っているなんてバレるわけにはいかない。それを知ってるアザゼルがバラすとも思えないが。

 

オーフィス「······八幡、クルルをどう、助ける? 」

 

八幡「アテは······あるにはある。使いたくはなかったが······」

 

 

 建設的、とは言い難かったが、オーフィスとの話を纏めて俺は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 自分の屋敷に戻った俺は、屋敷の地下にある懲罰房に向かった。作って以来埃が溜まりっぱなしだったここには、初めての利用者がいる。

 

八幡「意外と元気そうだな。捕まってるワリには」

 

 利用者───四鎌童子は俺の声に気付くと、俺を睨み付けた。

 

四鎌童子「······なんの用だ。雑談ならお断りだ」

 

 3m以上ある壁の向こう側、最低限の治療だけ受けて両腕と下半身を壁に埋め込まれた四鎌童子は、忌々しさを隠しもしなかった。

 

八幡「俺が、んなこと来たと思うか?」

 

 光も魔法も何も使えなくされて、筋弛緩剤を打たれてマトモに動くことも出来ない姿は滑稽だった。天使嫌いの悪魔に見せたら、腹抱えて笑い転げそうだな。

 

八幡「聞きたいことなんて決まってるだろ。ルエルトだよ」

 

 四鎌童子は、ハッと笑って言う。

 

四鎌童子「そうか。アイツはクルル・ゼクスタに届いたか。それで? 殺したか?」

 

 仮にも姪に対しての扱いじゃないな。ただこれを見ても、世界のどこにもこいつを諌めるやつがいないって点では哀れだ。

 

八幡「······クルルは死んだよ。で、今お前に聞きたいのはルエルトがどうやって生きてきたかだ。答えない場合はお前をバラして魔獣の餌にする」

 

 俺の言葉を真に受けるほどバカではないだろうが、この女もマジの死にたがりじゃないだろう。死にたいとか死んでも構わないとか言うやつほど、いざと言う時は死ぬのが怖くなるのが世の常だ。そう言うやつは、頭の片隅で自分の生死を意識してるからな。

 

四鎌童子「私が答えて何の得になる?」

 

八幡「ならないな。だが、お前の寿命は少し延びる。お前をありがたがるやつはウチ以外でも存在しないぞ?」

 

 答えなきゃ首だけにして記憶を読むだけだが、損切りするにはまだ早い。それに、こいつは俺に負わされた負傷が回復していない。ここから脱出して誰かが助けてくれるとしても、()()()助からない。

 

 そんな自分の立場くらいの理解はしていたのか、四鎌童子は嫌々口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 何百年も昔、クルル・ツェペシに産み落とされたルエルトは、生後3週間程で母親に捨てられた。当然、赤ん坊は誰かに守られなければ人外だろうと関係なく死ぬ。だが、当時の上流階級の使用人に偶然にも拾われたルエルトは、九死に一生を得る。グレイヴィーというのはその使用人らしい。

 

 大人になるまで自分が人外だとすら知らなかったルエルトだが、ある日同僚と買い出しに赴いた帰り、教会と悪魔の戦闘に巻き込まれる。そこを助けたのが、クルルを殺す手立てを探していた四鎌童子だった。

 助けたルエルトの気配から666(トライヘキサ)の縁者だと気付いた四鎌童子は、人外の存在と見たことの無い実母のことを教えた。実母に対して、自分を捨てたことへの恨みと迎えに来て欲しい寂しさをない混ぜにして四鎌童子に同行することを決めたルエルトを同行させて、今に至る。

 

 

八幡「······なるほどな」

 

 聖書の三竦みの戦争が疲弊の限界に近付いていた頃、俺とクルルで、クルルの娘(ルエルト)を探してヨーロッパ中を歩き回っていた時期かある。でもその時は、ルエルトのことを何も突き止められなかった。

 

 それに、クルルが娘を捨てたというのも少し思うところがある。ルエルトは、結論から言えば望まれない妊娠だ。それでも、それだけならクルルは娘を放り出しはしなかっただろうが、当時クルルは任務の失敗から身柄を狙われており、冥界に戻るのもままならずの状況だった。当然、赤ん坊を連れては行けない。

 まぁ、これもクルル側に立って見ればという話で、ルエルトから見れば自分を捨てた母親という認識になるのも当たり前だし、それでもまだ母親を愛したいと思えるルエルトの、その点は俺は尊敬したい。

 

 

八幡「で、お前は復讐のためにルエルトを利用したと」

 

四鎌童子「まぁそうなるな。殺す目的の私とは、いずれ対立するのが決まっていたが。それくらいはアイツも分かっていただろう」

 

 これが本当のことならとりあえず何でつるんでたか、だけは解決する。問題は、ルエルトがどこに行ったか、クルルが無事なのか、だが······とりあえず、話が本当ならクルルはまだ生きてるな。

 

八幡「そうか。話してくれて感謝する。味のある固形食くらいは出すように言っておいてやるよ」

 

 モニター室に、面会終了とメールを送って頭を切り替える。

 

四鎌童子「······意外だな。ルエルトがどこに行ったか聞かないのか」

 

八幡「お前の話が本当なら、お前とルエルトの協力関係はもう破綻しただろ。時間と金の無駄だ」

 

四鎌童子「どうだかな。そう思わせるのが狙いかもしれないとは思わないのか?」

 

 四鎌童子はつけ込める隙でも見付けたのか、俺を引き止めるように言葉を繋いだ。

 

八幡「思わないが······もしお前の言う通りだったら、食事はフレンチでもトルコ料理でもお前の希望通りにしてやるよ」

 

 俺が軽口を叩くと、意外にもこいつは乗った。

 

四鎌童子「イタリアンにしろ」

 

 乗ったが······こいつトマト好きかよ。趣味合わねぇな。

 

八幡「考えといてやるよ。じゃあな」

 

 

 

 

 

桃花『八幡、とっとと出て下さい。閉められません』

 

八幡「分かってる分かってる。あぁ、今出たから閉めてくれ」

 

 

 分からないことだらけだが、一歩前進だな。分厚い扉が閉まっていくのを背中で聞きながら、俺は頭の中で次にやることを考えていた。

 

 

 

 八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルルside

 

 

 

 

 私は、森の中を走っていた。泣き叫ぶ赤ん坊を抱えて。

 

 

クルル「はぁ、はぁ、状況、を切り抜け、るには······」

 

 腕の中で赤ん坊の泣き声が反響する。私の不安を感じとって。

 

クルル「静かに、してよ······!」

 

 潜入の失敗、隷属、拷問、脱出、妊娠、出産······父親はこの赤ん坊のオーラで分かる。間違いなくあの憎きシガマドゥだ。でも腹に風穴一発開ければ、それだけで私は解放されたはず。私自身はその程度では死なない。なのに出来なかった。やろうとすると手が震えて、体から血の気が引いた。

 

 どうして、産んじゃったの······!?

 

 頭の中がぐちゃぐちゃのままがむしゃらに走っている内に、切り立った崖に辿り着いた。周囲を魔法で探索すると、自分の真下にそれなりのサイズの空洞があることが分かった。飛び降り、飛び込み、奥に潜り込んだ。

 

 結界を張って、へたり込む。

 

クルル「あ······」

 

 その瞬間、自分が抱えているものを思い出した。出来れば、ずっと忘れていたかった。

 

 

クルル「ルエルトなんっ、名前付けて······!!」

 

 結界の中に赤ん坊の泣き喚く声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

クルル「は────!」

 

 

 視界が一瞬ボヤけ、すぐにピントが合った。

 

クルル「夢······か。ここは······」

 

 私は、知らない部屋のベッドで寝ていた。布団を捲れば自分は全裸で、寝ている間に犯されたかと思ったが、頭が猛烈に痛いことと耳鳴りがすること以外は体に異常はなかった。すぐ側には、畳まれた自分の服と下着が置いてあった。服の下に隠し持っていた銃やナイフは流石にない。

 

 服の匂いを嗅ぐと、使ったことのない柔軟剤の匂いがした。何かが仕掛けられているわけではなかったが。

 

 服を着て、体内を仙術で安定させれば、頭痛も耳鳴りも収まったから、状況を整理する。

 

 

 ヴァーリ達を保護して、医務室に様子を見に行ったら四鎌童子に奇襲された。アイツのラッパの音を聴いた瞬間、頭を勝ち割られたような痛みがして怯んで、攻撃された。切られた腕や足の再生が出来なかった。失血で意識が朦朧としてたら、八幡と束が突入して、八幡は四鎌童子を外に追い出した。そこからの記憶はない。

 

 あのラッパは十二分に脅威だけど、私が生きているってことは四鎌童子は私を殺せなかったということ。八幡か束か、あの場には美猴もいたし四鎌童子を殺すなり撤退なりさせた、という認識でいいはず。ならここは。四鎌童子の増援? 別の勢力? あの世、は流石にないか。死んだら魂ごと無に帰るだけだし。

 拉致にしてはどこも拘束されてないし、監視カメラもない。盗聴器、はこれから探せばいい。もしかしたら隠しカメラとかあるのかも。

 

 唯一気がかりなのは、部屋の外を探れないこと。結界なのは間違いないが、知らない術式だ。

 

 

クルル「出来ることからやるか······」

 

 色々探って分かったのは、部屋の間取りは16、7畳くらい。窓は開かない。電気ガス水道は通っている。内装は特に気になるようなこともない。最近の女なら、だいたいこうなるだろうという程度。間取りにしてはキッチンは広い。トイレ、洗面台、シャワールームもあった。水道水が毒入りの可能性もあるけど、確認のための持ち合わせはない。

 あった家電は冷蔵庫、炊飯器、ドライヤー、電子レンジ、洗濯機。冷蔵庫は空、洗濯機は使った後の匂いがする。この服の洗濯はこれでやったのだろう。テレビや電話はない。ネット環境もなかった。気がかりなのは、コード付きの家電や、キッチンに刃物があること。ベッドから少し離れた所の棚の引き出しには、ハサミとカッター、ドライバーまであった。

 

 酔狂な話だが、私を閉じ込めるためだけの部屋なのだろう。私が出られない、という確証でもあるのかもしれない。脱出ゲームのつもりだろうか? 或いは、自殺に持っていかせる気か。ただ、飢え死にさせるつもりが無いなら冷蔵庫が空な以上補充しにくるはず。失血で力が出ない今、思い付く脱出のチャンスはそれくらいだ。

 

クルル「外と連絡取れれば楽だけど、そんな訳ないか」

 

 換気扇と冷蔵庫の稼働音だけが静かに充満する。どれだけ魔法で探っても、室内に怪しい箇所はない。本当に、少し手狭だが一人暮らしのOLとかが住んでそうな部屋だ。ミッション インポッシブルみたいな脱出劇は起こらなそう。

 

 あと出来ることは、結界の術式を解析するくらいか······駄目だ。血が足りないし糖分も欲しい。

 

 

 ······拉致られたのなんてそれこそさっきの夢以来だ。されかけた事は何度もあるけど、八幡か、偶に八幡がいない時はメリオダスとかが守ってくれたし。でもあの時とは違う。力も知恵も経験も武器も、あの時とは比べ物にならない。

 

 

 そう自分を奮い立たせた時、ドアのノブの回る音がした。

 

 

 

 

 クルルsideout

 

 


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