イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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いやもうホント、5ヶ月も空けてすいませんでした。我ながら、これは流石に不味いですね····




第143話 母を失う日

 

 

 

黒歌side

 

 

 

ヴァーリが拉致された。ラヴィニアとデートに行ったきり、そのまま消息を絶った。

 

 

けれども、この娘────カルナにだけは、誰とも言わず満場一致(暗黙の了解)でそのことを伝えないことが決定していた。

ヴァーリの姉、オーフェリアの実子である彼女は、私達の中で唯一()()()()の中にいない。それこそ、ヴァーリが力に固執する理由でもある。

 

 

 

ヴァーリ『カルナには、俺や姉さんのような思いはさせたくない。もちろん、姉さんにもこれからはいい思いしてもらいたい』

 

黒歌『凄いわ、ヴァーリは。私なんか全然』

 

ヴァーリ『?』

 

ギャスパー『黒歌さんは白音ちゃん? をちゃんと守ってたんじゃないですか?』

 

黒歌『だと、思ってたんだけどね······忘れちゃったわ』

 

 

自分の無力さなんて······忘れられれば楽だったのに。

 

 

 

 

カルナ「んん······(にい)······」

 

ベッドの中で寝返りを打つカルナに布団を掛け直して、立ち上がる。輪の中にいない······それでも、運命からは逃げられない。私がカルナに抱いた印象はそんなものだった。生まれが普通じゃないこの娘も、いつかは戦争に巻き込まれるのだろうか。

 

 

八幡『······カルナは、遺伝的にはオーフェリアからもヴァーリからも不自然に遠いんだよ。しかも、リゼヴィムとも直接繋がっていない。なのに、ルシファーの魔力は受け継いでる。それに、何故か茶髪だ』

 

黒歌『帝王切開で生まれたんでしょ? そんなこと、有り得るの?』

 

八幡『普通は有り得ないけどな。オーフェリアが宿した赤ちゃんは、全く別のどこかから来たって。代理出産なら魔力は引き継がれない。妥当なラインなら、体外受精して受精卵持ってきたってとこだが、手術跡がない。オーフェリア本人も話したがらないし、手詰まりだ。まぁ······無闇に掘り返すものでもなし、原因究明は断念した。

魔力は······母体の影響を受けた、としか言えない。本人が妊娠を自覚するまでに時間かかってたから、余計にどんな状況だったのかも推測しにくいしな。

······お前も、あの子とは普通に接してくれ。頼む。カルナはこのことは知らないから······な』

 

黒歌『それは、いいけど······』

 

 

 

黒歌「ねぇ、ギャスパー」

 

ギャスパー「?」

 

ココアを啜っていたギャスパーがこっちに顔を向ける。ギャスパーと対面する形で座ると、ギャスパーは新しいココアを渡してくれた。ヴァレリーは、雰囲気を察してか黙っていた。

 

黒歌「どう思う? カルナのこと」

 

ギャスパー「どうって?」

 

聞き返したギャスパーに、カルナの、とだけ言った。この娘の事情を知っているなら、これだけで私の言わんとすることがわかる。それだけ、この娘がいずれ直面するであろう闇は深い。

 

ギャスパー「どうとも言えないよ。気にはなるけど、軽々しく触れていいことでもないし······突然どうして?」

 

ギャスパーの瞳に、言葉に、詰まった。

 

黒歌「それ、は······」

 

 

こんな時だからこそ、言わなきゃ。私が────カルナに······同情して、そんな自分を慰めて欲しいだなんて。

 

 

ヴァレリー「······黒歌さん?」

 

黒歌「······なんでも、ない。こんな時だからか変に気になっただけね。ごめん」

 

どうしようもなく口が開けなくて、結局濁すしか出来なかった。

 

 

 

 

黒歌(くろか)······─いや、『Enhancedー0001(レイワン)』が、人工物に産み落とされたデザインベビーだなんて。

 

 

 

黒歌sideout

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

目頭を押さえて、目の前のブツから目を離す。

 

八幡「勝永、そっちどう?」

 

勝永「最大限やりましたが、どうでしょうね」

 

 

魔の鎖(グレイプニル)の調整。時間のない中では、やはりと言うか、限界があった。

 

クリフォト襲撃時······敵側には俺達の対策がこれでもかと言うくらい成されていた。ロキか誰かは知らないがウチの情報が漏れていた。便利なだけあってこれに頼ることが多かった分、対応に慎重を要せざるを得なくなったなんて言うまでもない。

 

クリフォトから押収したデータ全てを精査して、対策の対策の対策を、更なる術式を施した。言うには簡単だが、魔の鎖には、強化や反魔法(アンチマジック)で既に改造・改修を重ねてたせいで、新たな術式を組み込むのに神経を擦り減らされた。500年以上改良し続けてる代物だ。もう俺からでも思い付きで弄り回せない。12万の術式が、噛み合わなくなる。

 

とはいえ、クルルに作戦指揮を任せた分、俺もこれぐらいはやらなければ夫として立つ瀬がない。今回ばかりはクルルは戦場に出ないのが幸いか。今のあいつはおかしい。

 

 

······誰も口に出さなかったが、目が覚めてからのクルルは明らかにおかしかった。アジ・ダハーカとの戦闘で何かあったのは間違いないが、アイツが口を割らない限りは、俺は何があったかを知ることが出来ない。ある程度は察せるとはいえ。

ユーグリット・ルキフグスと違って、アジ・ダハーカを自由に尋問出来ないのもある。身柄を三竦みに引き渡したのは、大失敗だった。政治なんてクソ喰らえだ。いくら向こうとこっちの信用云々ったってな。ったく、アザゼルの頭と口は回りすぎだ。回りすぎて空回りしねぇかな。

 

兎に角、クルルは自分の体調を管理出来ないほどのバカ女じゃない。とはいえ、もうちょっと自分の身体を大事にして欲しい。はぁ、体張るのは俺だけで十分、の筈だったんだがなぁ······流石に、思い上がりすぎた。

 

 

八幡「兎に角、もう時間切れだ。勝永、助かった」

 

勝永「これぐらいは」

 

 

 

とにかくヴァーリ······帰ってきて骨にでもなっててみろ。もう3回骨にしてやる。

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

ヴァーリ「······」

 

事態が一気に退転した。これ以上下手に手を打てば、俺達全員殺される。

 

さっきの男の声は······少なくとも片方はこの女の声だったのだろうか。四鎌童子は、声が聞こえていた方向から歩いてきた。

 

母さんと束は、以前この女を撤退に追い込んでいるが、俺に出来るかは分からない。母さんを殺そうとしているのだ。それなりの手段と準備があって然るべきだ。

 

 

四鎌童子「······速攻でダンマリだな。そうまでして喋りたくないようだが······これを見て、同じことを続けられるか?」

 

四鎌童子が指を鳴らす。と、転移の魔法陣が展開され、そこからラヴィニアが現れた。後ろで両手を縛られている。

 

夏梅「ラヴィニア······!!」

 

ラヴィニアは力ない目をこちらに向けた。空虚だ。まるで、本当に自殺しそうなやつのそれだ。

 

ラヴィニア「ナツメ、シャーク、シャーエ······ヴァーくんも」

 

紛れもない、幻術(ニセモノ)でなく本物のラヴィニアだ。『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』が拉致されてからそう何日も経っていないはずなのに、何故あそこまで衰弱して······?

 

 

クソ。彼女に何の非がある。それもこれも俺のせいなのか······?

 

 

ヴァーリ「······なんの、つもりだ」

 

ないまぜにした怒りと後悔を押し殺しながら声を絞り出すと、四鎌童子は俺を見下して、嗤う。

 

四鎌童子「こいつの身体には爆弾が仕掛けられている。と言ったら?」

 

綱生「······ッ!!」

 

紗枝「そんな······!!」

 

こことここ、ここにな。四鎌童子は、ラヴィニアの頭部、胸、下腹部の順番に指差した。

 

四鎌童子「もちろん魔法のな。ここまで言えば、意味は分かるだろう?」

 

つまり、四鎌童子が爆発しろ、と頭の中で命令しただけで爆裂する。スイッチを押す必要もない。多分、時間があれば俺でも解ける魔法だろうが、『起爆』と『解除』、命令するだけでいい起爆と、正しい手順で解除し(バラさ)なければならない解除では、当然ながら前者の方が圧倒的に早い。

 

四鎌童子は更に、運が良ければ()()()()爆発なら、生存は、出来るかもしれないな、と他人事のように呟いた。

 

綱生「ゲスが······!!」

 

ヴァーリ「四鎌童子!! 貴様、そうも外道に堕ちてまで母さんを殺したいのか!!」

 

四鎌童子「当然だ。お前は、リゼヴィムを憎んでおきながら復讐が何かを理解出来ていない。いやお前の心情などどうでもいいか。

さて、ここからが本題だ」

 

今までとは違う笑み(嗤い)を浮かべ、四鎌童子は俺を見る。

 

 

四鎌童子「ヴァーリ・ルシファー。私の下に降れ。ラヴィニア・レー二を見殺しにしたくなどないだろう? それに、条件を呑むなら、お前が喉から手が出るほど欲しい情報をくれてやろう。例えば、『E(エヴィー)×E(エトゥルデ)』の、などな」

 

 

────俺は、母さんに何も!! 何も······

 

 

 

ヴァーリ「······分かった。その代わり、今すぐラヴィニアを解放しろ」

 

綱生「正気かヴァーリ!!」

 

夏梅「ヴァーリ!?」

 

綱生と夏梅、紗枝が、目を見開いてこちらを見るが、俺はそちらを向かなかった。向く余裕など、なかった。

 

四鎌童子「そう答えてくれると思っていたぞ。まぁ、今すぐとはいかんがな」

 

ヴァーリ「貴様······」

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルルside

 

 

 

一夏『準備整いました』

 

クルル「了解」

 

 

インカムに、一夏の声が届く。出撃しようとして取り押さえられた私は、結局安全な場所から口を出すだけの役割に収まっていた。映像は、一夏のカメラからこちらまで届いており、夜の闇に、廃墟が不気味に佇んでいた。

 

私が放られる一方で、一夏はクレアとナンムを伴って襲撃を仕掛けに現地に飛んだ。が、4つに絞って、既に2つスカしている。本人達もそうそうヤワではないが、そろそろ疲れが溜まり始めるはず。ここらで決着を付けたい。

 

 

クルル「突入開始」

 

一夏『了解。突入します』

 

 

一夏が外壁を特殊なブレードで音もなく切り裂いて廃墟に侵入する。クレアとナンムが後に続いた。

 

 

クルル「中はどう?」

 

一夏『······当たりです。()()()()がいくつもあります』

 

今までのスカした2つは、チンピラだかホームレスだかが根城にしていただけで特にめぼしいものは何もなかった。が、今回は本命らしい。

 

ナンム『さて一夏よ。儂が適当に暴れるから、クレアと共にヴァーリを探せ。そんな大きな建物ではなさそうだ』

 

一夏『了解。行くぞクレア』

 

クレア『はい』

 

2人がナンムと別れて移動を開始した数秒後に、爆発音が轟き、叫び声が上がり始めた。

 

クルル「どう? 中の構造は」

 

一夏『終わってます。位相歪めてて、ウチと似たような感じです。でも、そこまで広くなさそう。俺達は陽動(向こう)がバレた前提で動きます』

 

一夏が神器(セイクリッド・ギア)───束と同じ、拳銃型のそれを発動した。一夏の神器は束と同じもので、通常形態も禁手(バランス・ブレイカー)も同型のもの。まぁ、細かい機能にはそこそこ差があるけど。

 

クルル「分かったわ。

······当初の目的通り、ヴァーリの奪還と敵部隊の鹵獲。最悪排除。一夏、クレアの援護、頼むわ」

 

クレア『了解です!』

 

一夏『了解。これよりバタフライ3(スリー)指揮下、ヴァーリ・ルシフェルの奪還作戦に移行します』

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 


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