イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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第142話 未だ曙は来ず。

クルルside

 

 

 

ヴァーリが消息を絶って30時間が経った。

 

 

時刻は夜の11時。実母を部屋から出られなくして、私は、ある人物と会っていた。

 

 

クルル「······こんな時間に悪かったわね」

 

「大丈夫です。俺の耳にも話は入ってきてますから」

 

 

目の前に座る青年────織斑(おりむら)一夏(いちか)は、嫌な顔一つせずに言った。だが、次の瞬間には普段の柔和な雰囲気を振り払った。

 

一夏「······それで、ヴァーリがいる場所にある程度の目処は付いてるんですよね?」

 

彼、織斑一夏は、元神器持ちの人間で、束と共に勝永と八幡に保護されてウチにきた。公私共に束の右腕的存在でもある。普段は後方支援が多い。実力は束と大差ない。束を第一に考えがちという可愛いところがある。

過去、20人以上の女の子を無意識に引っ掛けておいて告白してきた娘全員をフるという大記録を持っており、私はある意味で尊敬している。

 

 

クルル「当然。美猴が持ち帰ったデータと、これまでに手に入れたクリフォトの情報から推察するに、こことここ。あとは······」

 

ホログラムで宙に投影した世界地図に、バツ印のポイント加える。

 

一夏「この国、確か今も紛争中だよな······」

 

一夏の呟きに首肯する。洗い出した場所は、アフリカ某国。現在も内紛が続いている国だ。このような地域に調査の手が行き届かないことなどよくあることで、定石とも言える。

 

クルル「奇襲作戦で手に入ったデータが無かったら、まぁ絞り込めなかったわ。保護した人達一人一人から聞き出せるだけ聞き出しといてよかったわよホント」

 

奇襲作戦が失敗していたら、アフリカということまでしか絞り込めなかっただろう、と私は考えている。救出した人達は、アフリカ在住の人が一番多かった。253人。それが先日救出した人数であるが、そのうち129人がアフリカ······特に治安の悪いことで有名な国の人間だった。次に多かったのは73人でアジア(特に内陸部や中東)だった。

 

 

銃弾がすぐ側で飛び交うような地域で、人一人がいなくなっても大きな問題にはならない。ならない、というか、側にいる人間達でも気に留めていられない。気の毒な話だ、とは思う。

 

 

一夏「······4つまで絞り込んだはいいですけど、決行はいつになるんですか?」

 

ホログラムから視線を外した一夏が言う。

 

クルル「準備が整い次第。今調整してるのよ。魔の鎖(グレイプニル)

 

先日の戦闘で、敵の戦闘の中核相手に魔の鎖がまるで通用しなかったことを踏まえて、調整をすることになった。ディオドラかロキが情報を提供したのだろうが、あれが通用しないと、些か不便になる。魔法よりも諸々のコスパが遥かに良く、耐久性に優れ、攻守に転用出来るため、ウチでは標準装備だからだ。

使う使わないはともかく、ウチの中で持ってないのは非戦闘員であるカルナとヴァレリーくらいだろうか。

 

八幡が急ピッチで調整を進めているが、どこまで持っていけるかは分からない。

 

一夏「それはまた急ですね······ここのところ、いつもですけど」

 

一夏は、ココアを啜りながら言う。奇襲作戦では、保護した人達の引受先の病院探しに奔走していた一夏の顔には、若干疲れが浮かんでいた。たった4人であの人数を捌き切った内の一人だが、下手したら戦闘に赴いた私達よりも、疲れが溜まったかもしれない。

 

クルル「その······ごめんなさいね」

 

一夏「あ······いえ。俺は散々お世話になってますし。これくらいどうってことないです」

 

一夏は頭を掻きながら言った。

 

 

······若者ばかり巻き込んで。私達は、どうかしている。

 

 

と、ドアがノックされる。陰々とした思考を堰き止めたノックに返事すると、艶めいた蒼髪の少女がドアを開けた。

 

少女の───母親譲りのその髪は、いつ見ても美しい。それでいて、父親譲りのヘテロクロミアがミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

 

「失礼します。こんばんわ、御二方」

 

笑顔で挨拶した彼女がここに来たことを変に思った一夏は、入ってきた少女に問いかけた。

 

 

一夏「······クレア? こんな時間にどうしたんだよ?」

 

一夏にクレアと呼ばれた、後ろ手にドアを閉めた少女───クレア・ナンムは言う。

 

 

クレア「はい。(わたくし)は、両親に代わって今回の騒動の解決に協力せよ、と仰せつかってきました。どうか御二方の支援をさせていただきとう存じます」

 

 

「「······うん?」」

 

 

クレアの提案?が予想外だったため、2人揃って妙な声が出てしまった。

横を見れば、「あの親バカが娘を戦場に出すなんて!?」、とありありと顔に書いてあった。私も多分、顔に出ている。

 

······うーん。本当にこの娘の両親───クロウとティアが言ったのだろうか。今までの経験からじゃ有り得ないんだけど。

 

 

クルル「それ、本当に貴女のパパかママが言ったの?」

 

クレア「いいえ、祖母です。実力的には後方支援くらいなら出来るだろう、と」

 

クレアが言うと、一夏が、あー流石にそうかと呟いた。

 

私としては·······初の実戦がテロリストの基地を襲撃して人質奪還など、考えられない。この娘の祖母(一応)は遂に耄碌したようだわ······

 

一夏「······どうするんですか。バレたら俺達殺されません?」

 

一夏は、クロウ達の恐怖が上回ったようで私に判断を委ねてきた。とはいえ、私だって死にたくない。私があの2人の立場だったら、間違いなくゴーサイン出したやつを血祭りにする。

ヴァーリやギャスパー、黒歌を戦場に出した私が言えることではないが·······

 

クルル「······クレア。おばあちゃん呼んで」

 

自宅で死の恐怖に怯えていることに怯えながら、思考を戻す。なんか頭痛くなってきた。

 

クレア「それなら······」

 

と、クレアが後ろを向いた。そこに魔法陣が展開され、カルナぐらいの身長で、クレアも持つ艶めく蒼髪の、()()()()女の子が現れる。

 

一夏「げっ······」

 

 

クレア「おばあちゃん」

 

「······一夏よ。げ、とはなんだ、げとは。儂が直々に来てやったんだぞ。もう少し喜んだらどうだ?」

 

 

クレアの()()の祖母────ナンム・ナンム。孫娘をここに寄越した本人で、今年の秋頃に隠棲をやめて復帰した老媼(ろうおう)

 

その正体は────。

 

 

ナンム「······クルルよ。お主、死にたがるのもいい加減にせよ」

 

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリside

 

 

 

綱生「······で、どうだったよ」

 

 

ルエルト・グレイヴィーとの対談とも拷問とも言えぬものが終わり、俺は元いた牢に戻された。

そんな俺を見た鮫島綱生は、俺に声をかけた。俺は、それに溜息混じりで返した。

 

ヴァーリ「どう、などと言われてもな······謎が深まっただけだ」

 

 

恥ずかしいことに、結局ルエルト・グレイヴィーが何故俺を呼んだのか、分からずじまいだった。俺の母(クルル・ツェペシ)に捨てられた、と息子である俺の前で言い、殺害を目標としていると宣言した理由も、分からなかった。

手っ取り早く知りたいなら、俺を拷問なり洗脳なりすればいい筈だ。それをしない、或いは出来ない理由があるのか、カウンタートラップを警戒しているのかは不明だが······

 

泳がされているのだとしても、取り返しのつかないラインはまだ超えていなそうだ。

 

 

ヴァーリ「俺はともかく、君達を狙った理由は掴めなかった。だが······」

 

一つだけ、収穫はあった。俺が牢に戻る時、一瞬だが、俺達から抜き出した神器を目撃した。光翼はケースに置かれ、独立具現型の3つは檻の中で、それぞれケーブルに繋がれていた。

 

そこから導き出される推論は······

 

 

綱生「ウツセミの研究、か······」

 

綱生がそう言ってから、俺達は暫く口を噤んだ。2年前のウツセミ事件は、彼等に途方もなく深い傷跡を遺した。

 

五代家の追放された者達が独立具現型神器を人工的に開発して五代家に復讐するという目的、彼等によって当時の陵空高校の生徒などに多大な被害をもたらしたウツセミ。人的被害は決して少なくなく、ラヴィニア以外の刃狗のメンバーは()に関わるようになった。

 

紗枝「あれが、また起こるの······?」

 

ぽつりと、紗枝が呟くのを聞いて、夏梅は歯噛みする。

 

夏梅「······せめて総督か詩求子(しぐね)に連絡が取れれば······!!」

 

七滝(ななだる)詩求子────ここにはいない、もう一人の刃狗のメンバー。神の子を見張る者が神器のデータを採取するため、一人任務を離脱していた彼女だけは、拉致を免れていた。

彼女の神器はシンプルに強いが、刃狗の中で一番禁手に至ったのが遅かったため、必要な処置だった······というのが綱生から聞いた話。

 

そもそも、ラヴィニアと鳶雄を除く5人の内3人が2年かからずに禁手に到達したこと自体、相当異常なことだ。才児だなんだと持て囃されてきた俺よりも遥かに天才というか、鬼才というか。

 

 

と、その時不意に、牢の外から会話が聞こえてきた。2人。男の声。

 

「······アレらの調査はどうなっている?」

 

「は。四凶の2つと勇気を失った獅子(カウアドリ・レオ)は順調に進んでおります。しかし、神滅具(ロンギヌス)となると流石に思うようには進まないのが現状で······」

 

 

ここは、研究室からそこまで近くない筈だが······場所は廊下の角の向こうか。牢と言っても、元は別の用途の部屋だったようだから、かもしれない。俺達以外に拉致された者もいないようだ。会話はその後も続いた。

 

 

「······捕らえた白龍皇の調査は?」

 

俺の話か。連れて来られてすぐ、血を採られたな。奴ら、俺の血からバケモノでも作る気なのか······?

 

「それが、当人が事前にガードを固めていたようでして······」

 

······どうやら、まだ俺の血の解析はされずに済んでいるらしい。安心は出来ないが、

 

「そうか。研究を続けろ」

 

「かしこまりました」

 

 

······あまり、喜ばしい状況とは言えないな。ここにいる俺達4人なら、脱出はすぐにでも出来る。遠見の魔法でこの建物の構造、トラップの位置、見張りの配置は把握出来ている。だが、抜き取られた神器を回収し漏れたデータをバックアップ含め全て消さないと、このあとのどこかで詰む。

四鎌童子やルエルト・グレイヴィーも無視出来ないし、どうしたものか······

 

 

と、その時、牢の前に立つ者が。見るまでもなくオーラで分かっていた。

 

ヴァーリ「······何か用か。四鎌童子」

 

俺以外の3人は、四鎌童子が顔を見せた瞬間に臨戦態勢に入っていた。

 

四鎌童子「気分はどうだ、と聞きたいところだが······ヴァーリ・ルシファー。貴様、聞き耳を立てていただろう?」

 

ヴァーリ「何の話だ」

 

あの位置、あの距離で、気付かれた······!? 気配は完全に押さえていた筈だ······!!

 

 

四鎌童子「クルル・ツェペシは、盗み聞きの練習まではさせなかったようだな。ほんの僅かだが、貴様は気配(感情)を殺しすぎた。経験が足りなかったな」

 

ヴァーリ「······」

 

 

 

────さて、どうする。

 

 

 

ヴァーリsideout

 

 

 


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