イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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あけおめことよろッ!!(無礼)

ゆっくりでも更新は続けるので、目に止まったら楽しんで頂けたら嬉しいでっす。


第140話 ツケ

師匠(スカアハ)にぶち破られたドアを魔法で直して、ソファに掛けるように促した。これまた魔法で来客用のポッドに紅茶を淹れて出す。カマクラは、俺の腿の上で寝ている。起きない時は起きないので放っておく。温かいのもある。

 

 

スカアハ「·····お前、そんなに面倒くさがりだったとな」

 

八幡「アポなしで来たくせに一丁前に来客面しないでください」

 

ちょっと人間的に面倒な部類に入る女だ。ただ、俺とクルルはこの人に弟子入りしてるし、この人の旦那には散々世話になったし、一時期ヴァーリの外部コーチに来てもらったりと山のように恩がある(借りを作ってしまった)

美猴もそれを知ってるから屋敷に入れたんだろう。でなかったら武力で追い返している筈だ。

 

 

束が俺の隣に座るのを見ながら寝ているカマクラを膝に降ろして、視線を戻す。

 

八幡「······それで、突然どうしたんです。ルーの使い、らしいですが」

 

ルーの使い、とは言うもののアポなしで来られては堪らん。そんだけ急を要することなのだろうが。

 

スカアハ「そう急くな。落ち着け」

 

スカアハは紅茶に口を付けて一息吐く。そして、手元に展開した小型の魔法陣から出した書類の束を渡してきた。

 

八幡「これは?」

 

スカアハ「ここ1ヶ月でケルト神話の領域で確認された、行方不明者の日毎の増減と、パーソナルのデータだ」

 

八幡「ふむ······」

 

横から覗き込む束にも見えるように調整しながらパラパラと捲る。このデジタルが当たり前の時代になっても、紙の信頼性は依然として高い。情報の流出を防ぐなら紙の方が処分が容易だからな。データは一度情報が流出すると、もうそれで手遅れ。

 

 

で、スカアハが持ってきたリストだが ······多いな。クリフォトの拠点襲撃で保護した者も混ざってはいたが、半分もいない。クリフォトを襲撃する前に、奴らがどこぞに連れ出したのか、また別の組織が動いているのか。

なんにせよ、リゼヴィムはもう死んでいる。ユーグリッド・ルキフグスに問い質すしかないか。散り散りになったであろう残党は残っている筈だし、クリフォトが秘匿していた拠点も見つかっていないものもあろう。四鎌童子は拠点襲撃時に確認されていないから、どこぞに潜伏しているだろうし。

 

 

八幡「お前どう思う?」

 

横にいる束にも意見を乞う。俺の独断で出来る領域をとっくに超越している。あとで、全員集めて話し合わないとな······それも、ヴァーリが帰って来ないことには何ともならない。なんとも情けない話だが、アイツは俺にない視点を持っている。出来るだけ多くの意見を聞いておきたい。

 

束「う~ん······束さんの今の推測で言うなら、クリフォト及びその残党だけじゃないだろーね。クリフォト()()がこっちに攻めてくるとか変だし」

 

それもそうか······はぁ。今まで裏で散々にやってきたからな。ツケが回ってきた、って言えばそれまでだが。ツケごと消し飛ばしてぇ······俺が好き好んで作ったツケじゃねえってのに。

 

まぁ、俺達が標的と確定したわけじゃない。もっと情報が欲しい。

 

 

八幡「······情報提供感謝します。わざわざご足労いただきありがとうございました」

 

書類を置いてスカアハに視線を戻す。

 

スカアハ「まぁ待て待て。まだこっちの用事が終わっていないんだ」

 

八幡「と、言うと?」

 

スカアハ「まだいくつかあってな」

 

俺が尋ねかえすと、スカアハは指を鳴らした。と、テーブルの上に展開された魔法陣から、ゴトンという音を鳴らしながら牛革に包まれた細長い何かが落ちてきた。

 

八幡「······一応聞きますが、これは?」

 

全く、何てものを持ってきてくれたんだか。影の国は、書類上は少なくともケルト神話の管轄だが、許可取ったんだろうか。

 

スカアハ「クルージーンだ」

 

八幡「やっぱりか」

 

ホント、なんてものを持ってきてくれたんだこの女。第一、アンタの旦那の剣だろうが。

 

スカアハが、革の袋から······鞘に収められた剣を取り出して言う。見た感じ、一般的な日本刀よりも刀身が短いな。前に見せてもらったときは、かなりの長さだったんだが。

 

スカアハ「ああ安心しろ。これは私の旦那のものではないよ」

 

ならいいんだが······じゃあ、クルージーンと同型の剣ってだけか。ゲイボルグだって何本もあるわけだし、クルージーンが何振りあってもおかしくない······のか?

 

スカアハが少しだけ刀身を見せてくれたが、刀身は赤かった。まるでゲイボルグのような深紅だ、と感じた。

 

スカアハ「わざわざボルグ・マックベインに依頼してな。我が居城の倉庫に、大昔、献上された海獣───クリードの骨が少し残っていたから、いい機会だと思ってお前用に拵えさせた」

 

······2人揃って前につんのめりそうになった。色々突っ込みたいが、取り敢えず何故クリードの骨でクルージーンなんだ。ゲイボルグじゃダメなのか。

 

俺の表情を読んだのかは知らないが、スカアハは更に続けた。

 

スカアハ「先に言っておくが、金は要らん。私と旦那からのプレゼントだ。お前は基本的に使うのが剣だから、ゲイボルグではなくクルージーンにしておいたぞ」

 

八幡「そう、ですか······ならお言葉に甘えて」

 

この人、こんな優しかったか······? あぁ、(ウアタハ)ができて以降丸くなったんだっけか。

 

スカアハ「さて、クルルとヴァーリもいないようだし私は帰るよ」

 

スカアハはゆっくり立ち上がる。

 

八幡「あぁ、送ります」

 

玄関まで、と言おうとして手で制された。なんか妙に様になってんな。やっぱり、仕草一つ取っても女王としての威厳があるな······プライベートじゃ割かしないが。

 

スカアハは、扉に手を掛けて、不意にこちらに振り向いた。その表情はいつになく引き締まったものだった。

 

 

スカアハ「八幡。ルー経由で、妙な噂が入ってきている。ここのところオリュンポスと瀕死の筈のメソポタミアが妙にきな臭い。お前も上に立っているんだ、頭に入れておけ」

 

八幡「······ご忠告痛み入ります。あと、今度からはちゃんと連絡入れてから来てください」

 

スカアハ「······その時は、楽しみにしておくよ」

 

ふっと笑みをこぼして、師匠は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束「······思ったようなこと何もなかったね、はーくん」

 

束はソファに身を投げ出す。

 

八幡「······だな。クルージーン(仮)も、罠が仕掛けられてたワケじゃなかったしな。善意だけならありがたい」

 

後から脅されて渡すしかありませんでした、なんて言われることもないだろう。クルージーンとは大きさが違うし、本当にそうなったら録音したさっきの会話を流せばいい。

 

と、束が欠伸しながら言う。

 

束「······ねぇはーくん、カマクラ退けてよ」

 

八幡「なんで?」

 

尋ね返しつつも腿の上で丸くなってるカマクラを抱えると、今度は束が俺の腿に頭を預けてきた。

 

八幡「······はぁ」

 

束「いーじゃん。少しは甘えさせてよ。束さん頑張ったんだからさ」

 

束の目にはもう瞼が降りていた。

 

束「昔、()()()()を子どもみたいなもんだ、って言ってたでしょ。前も言ったけど嬉しかったんだよ? 人間の時、変なのに追っ掛け回されて、しかもそいつらは束さんよりも遥かに強くって······はーくんと勝永はまさしく救いだったよ」

 

束と一夏が人間の頃、2人のことをどこからか聞き付けた悪魔達に狙われていた。束は当時から科学者として飛び抜けた頭脳を持ち合わせていたが、自分の研究に熱を注ぐあまり脇が甘かった。何らかの方法で一夏の姉、織斑千冬から束の研究について聞き出したその悪魔達は、束の追跡を開始。

 

最初は一夏を人質に取ったらしいが、束は奇襲を掛けてなんとか一夏を救出。一夏が神器(セイクリッド・ギア)持ちだったため、尚のこと狙われた2人は逃亡生活を余儀なくされた。別件ではぐれ悪魔の調査をしていた俺と勝永と鉢合わせした。

 

八幡「······改めて言うなよ。俺が恥ずかしい。勝永なら、普通に喜ぶだろうがな」

 

束の頭をそっと撫でると、束はまた一つ欠伸をした。

 

束「少し寝るね。その後やるから······」

 

母親は関東大震災で被災し、後を追うように父親も88年前の済南での軍事衝突で戦死していた束達は、俺達に親を重ねたのかもしれない。

 

八幡「ありがとな。おやすみ、束」

 

束「······うん。おやすみ()()······」

 

間もなくして、腿の上からはすーすーという寝息が立ち始めた。

 

 

 

八幡「··········美猴」

 

束が寝息を立て始めて間もなく、俺が呼ぶとすぐに美猴が戻って来る。

 

美猴「あい、よ」

 

寝息を立てる束に気付き、美猴は声のボリュームを下げた。

 

八幡「聞かせてくれ」

 

美猴「起きてからじゃなくていいのかよ?」

 

束に、大き目のブランケットを掛けると、美猴は束を見て言った。

 

八幡「お前のことだし、書き起こしてるんだろ」

 

美猴はいつも飄々としているが、先祖譲りなのか抜け目はまるでない。機転が利く、と言ってもいい。でなきゃ単独任務を任せたりしない。

 

美猴「当たり前だぜぃ」

 

手元の魔法陣から封筒を出すと、俺に手渡した。この短時間でここまでか。相変わらず準備のいいやつだ。早速拝見させてもらおう。

 

 

 

······なるほどね。

 

美猴「八幡の名前使って『神の子を見張る者(グリゴリ)』に問い質してみたが、収穫ナシだったぜ。向こうは、そんな命令は出していない、どころかこちらからも連絡が繋がらないとよ」

 

美猴は呆れたように言う。そら堕天使側がそんな反応じゃ呆れるわな。

 

仮に堕天使だとしたら、アザゼルやシェムハザに、ヴァーリを拉致って何の利益があるのかがさっぱりだ。ヴァーリはアザゼル相手なら、そんなことされなくともデータぐらい提供する。ヴァーリから抜き取っても、使えるやつなんかいないしな······

 

八幡「······お前個人の見解は?」

 

実際に調査した美猴の目にはどう映っているのか、尋ねた。

 

美猴「少なくとも、アザゼルじゃねぇ。あの総督はバカじゃない、やるんならお粗末に証拠なんか残さないだろうねぃ。現時点じゃクリフォトの残党? が妥当だろ。更に別の可能性もあるけどよ」

 

八幡「なるほどな、分かった」

 

束の首と膝の下に腕を滑り込ませて抱え上げる。カマクラは、美猴と入れ替わりで部屋から出たのでもういない。場所はギャスパー達の所だろうな。

 

 

八幡「······美猴、追加で一個頼んでいいか」

 

美猴「いいぜ」

 

美猴の手元に魔法陣を展開し、そこから要請書を出した。その文面を見て、美猴は大きな溜息を吐いた。

 

美猴「······あぁ、そういうやつね」

 

八幡「頼めるか? 勝永にも頼むつもりだ。書いてあるように、お前と、勝永に護衛を頼みたい」

 

さて、束を部屋に連れてったら、俺も少し仮眠取って動き始めるか。

 

美猴「俺っちはいいけどよ。向こうが───本人や()()()()()()()()()()()()()()()、どうすんだよ」

 

八幡「それに関しては大丈夫だ。お前に渡したそれとは別で、法的効力を持つ礼状がある。あとで渡す。発行者は魔王(アジュカ)だ。問題ないだろ。行くのは少し先だけどな」

 

美猴は再び溜息を吐いた。悪いな、本当に。

 

美猴「そうかい。ギャスパーとの仲が拗れなきゃいいけどねぃ······流石に無理っぽいぜ?」

 

八幡「······そうだな」

 

 

 

────上級悪魔、リアス・グレモリーに猫趙、白音の引渡しを命ずる。

 

 

 

 

八幡sideout

 

 

 

 




本作の束ちゃんは、研究以外だと割りとマトモ······誰やねんって思っても仕方ないっすね。だって作者も書いてて思ったもん。


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