イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
束side
8階の司令室を目指すA班の束さんと勝永。メンドい有象無象を避けつつ来ているため、かなり遠回りした挙句、情報外の奴らが結構居て、尚更時間を食っていた。
とはいえ、セキュリティが薄い所しかクラッキングしてないから、警備が堅い所に突っ込めば、最悪捕虜が殺される。『クリフォト』が捕虜を捕まえに捕まえたのは、こっちを自分達有利に引き摺り込むための手段でしかない。飽きりゃ殺すかも。
三重四重の意味で、それは避けたい。
勝永「······束、クラッキングの残り時間は?」
勝永は左手を腰に提げた刀の柄頭に掛けたまま、束さんに確認する。
束「後4分。ただ、向こう側が早速気付いてきたから保障は無理」
束さんはずっとバソコン片手に移動してるけど、向こうのセキュリティめ中々にやる。
勝永「了解しました。束、スピードを上げますよ。置いて行かれないように」
勝永が目に見えてスピードを上げる。ホント、何でこんな狭い通路でそんなスピード出せるかなぁ!?
束「あぁもう了解ッ!!」
と、マジで足の速い勝永に追いつこうとして、スピードを上げたところ······
勝永「止まりなさい束」
勝永が急ブレーキを掛けた。もちろん束さんは止まれなくて勝永の背中にクラッシュ。
束「いっつー······何で止ま───」
あ痛たた······束さんは痛いのに、なんで勝永は微塵も痛がってないのさ。
勝永「構えなさい束。司令室を目の前にして、最後の関門ですよ。予想の範疇ではありますが」
勝永は、こっちに一切視線を向けずに言う。勝永は、司令室の前に立ち塞がる木······? みたいな感じのドラゴン? ······うん、ドラゴンだ。を捉えていた。その双眸は赤い。と言っても、クーちゃんやギャーちゃんのように深紅というわけでもなく、もっと明るい赤。ついでに言うと、あんま綺麗じゃない。
「······そちらのお嬢さんは初めましてでしょうかね。私は『
ラードゥンって言うと······なんだっけ。束さん、ギリシア・ローマ神話興味ないからあんま調べてないんだよね。あそこってガチでどうしようもない奴ばっかだし、そういうの他に任せてるし。
勝永「······ラードゥンは初代ヘラクレスの十二の試練で、ヘラクレスにヒュドラの毒を口の中に投げ込まれて死んだマヌケドラゴンですよ、束」
勝永にしては珍しく棘のある言い方で言う。
束「あれ、妙にあたりキツいね」
勝永「この低木擬きは過去に私が封印したドラゴンですよ。その時は、幻術にまんまと引っ掛かっていましたが」
へ〜······そんなこともやってたんだ。そう言えば、はーくんも昔アスガルズに依頼されてトカゲ退治やったとか言ってたっけ。サングィネムが出来る前はホントに色々やってたんだね。
束さんの話無視されたけど。
ラードゥン「また出会えるとは思いませんでした、毛利勝永。今度は私の障壁で押し潰されるのでしょうかね」
対するラードゥンも、体から発するオーラを敵意として見せつけながら勝永を睨めつける。
勝永「仕方ない。束、援護するので司令室に向かいなさい」
勝永が目に見えない(ホントに束さんの目じゃ全く追えない)ほどの早さで剣を揮った。が、ラードゥンの前に三重の障壁が張られて、ラードゥンまで斬撃が届かなかった。
束「はいはいりょうか〜い」
ラードゥンの脇を通り過ぎようとすると、障壁が張られる。が、斬撃が飛んで障壁を破壊されたので、魔法で
束「────っと」
というところで、束さんの周囲に立方体の結界が張られる。
ラードゥン「神器ですか。中々の練度ではありますが······無駄ですよ、私の障壁を破るのにその程度では」
余裕綽々で束さんを鼻で笑いやがる。
勝永「······チ、なら───」
勝永がラードゥンを消し飛ばそうとするが、勝永も結界で閉じ込められそうになり即座にその場を離れる。
ラードゥン「させませんよ。前回は幻術にしてやられましたが、今回はそうもいきません。毛利勝永、あなたの人生をここで閉ざして差し上げましょう。どうせ
わー······束さん完全にアウェー·······
う〜む······どうしたら手っ取り早く抜けられるかなぁ?
束sideout
美猴side
美猴「······ここだぜぃ、三日月」
最下層の収容所へと辿り着いた俺っちと三日月は、セキュリティがダウンしてただの自動ドアと化した、ロックが外れた入口のドアをバリケードごと三日月がソードメイスで破壊して中に入る。
美猴「うおっ······こりゃひでぇ······」
奥まで延々と続く通路に、両側に3畳くらいの部屋に一人、或いは2人······両手両足を繋がれて捕囚されていた。通路側を鉄格子で区切り、おまけ程度でカーテンがあった。そして何より────
美猴「······ひでぇ匂いだ」
三日月「何人か、死んでる」
鼻の奥を突くような強い腐臭。生物の死体から発せられる悪臭。見たところフロア全部を換気出来るほど換気扇もねぇし、埃の溜まり具合からここは碌な管理をされていない。つーか、その肝心の換気扇も埃塗れでまるで掃除されていなかった。あれ、効いてんのか?
······ホンット、捕まえるだけ捕まえて後は放置って感じだ。
美猴「おい三日月────」
俺が三日月に話しかけようとしたところで、遮られた。
三日月「来るよ」
三日月が言うやいなや、入口の向こう······廊下の奥から複数の火球が飛来する。俺は如意棒を、三日月はソードメイスを、盾にして火球を凌ぐ。弾いたらマズい。捕虜を余計な危険に晒しちまうなんて本末転倒もいい所だぜぃ全く。
俺と三日月が入口から外へ出ると、そこにはくるぶしまでかかるローブを着てフードを深くかぶった魔法使いが多数。このローブ······『
俺っちと三日月はぎりぎりまで戦闘を避けてきたから、追いつかれたってのが正しいとこか。
三日月「アンタら、捕虜がいるのに攻撃とか、正気?」
三日月がそう呟くと、敵さんの内の一人が高い声で叫ぶ。
「そのような死に体を何故気にする必要がある!」
そいつが叫ぶと、周りからも同調するような声が挙がる。
······参ったね。ロキと交戦中のギャスパーは別として、黒歌はまだ来ねえし、あいつとも結局合流出来なかったし、俺達2人で守りきれるか? 殲滅だけなら三日月一人いりゃ余裕なんだろうけどねぃ。
「侵入者を殺せ!! 潰してしまえ!!」
今度はだいぶ後ろの方から別の女が叫ぶ。それを銃爪に一斉に魔法による攻撃が開始される。
·······ん? この声······あいつ合流出来ねぇなと思ったら、んな所にいたのかぃ。
俺達が魔法攻撃を捕虜達に当たらないように弾きながら、接近して如意棒で魔法使いを薙ぎ倒していくと、突然、俺っちと三日月のいた位置の中間に
それを見た魔法使いの一人が喚く。
「な、何をしておられるのですか、
ヴァルブルガ───紫炎使い、『
ヴァルブルガ「······あらん? ごめんなさいね。わたくし、元々貴方方の味方ではないのですわん」
その一言で何人かの魔法使いの顔が絶望で覆われる。
『魔女の夜』の最大戦力の一人たるヴァルブルガが敵の仲間だったっつったらその派閥の奴はショックだろなぁ。
ま、元々、次元の狭間に『オズ』っつー魔法使いの国があるが、そこの不安定な情勢を危険視したクルルが送り込んだスパイだし、それに気付けなかったこいつらの不覚だろうねぃ(『魔女の夜』はオズのはぐれ者が集まった烏合の組織)。
「そ、そんなっ······!!」
ヴァルブルガ「ごめんなさいん♪」
と、エネルギーの収束を感じて慌てて俺っちと三日月が退ると、集団の中心にポッとちっちゃい紫炎が発生したかと思うと、それが爆発して魔法使い達をまとめて吹き飛ばした。
何人かは免れたが、それもヴァルブルガが魔法で意識を奪い、瞬く間に鎮圧された。
美猴「······オイオイ、俺っち達を巻き込む気かよい」
フードを取ったヴァルブルガに、呆れるようにぼやく。
ヴァルブルガ「だから、規模も威力も調整したわん。
······避けれると思ったし。あー、この口調疲れる」
ヴァルブルガの口調が素に戻った。何でんな珍妙な口調にしたんか俺っちには謎だわ·····
と、牢を見て回っていた三日月が戻ってくる。
三日月「······ヴァルブルガ、ディオドラとフェリアがいないんだけど」
美猴「お疲れさん三日月。で、ディオドラもフェリアもいなかったって?」
三日月「みたい。他にも、何人か捕えられたっていうやつのリストに載ってた中でもいないのがいた」
そっちは覚えてたんか······ここの地図も一緒に覚えて欲しかったぜぃ。
ヴァルブルガ「ディオドラ含む一部の捕虜は4階に移送されたわ。体のいい実験体扱いで。どうにかしようにも、知ったの昨日だし、何ともならんかったわよ」
美猴「そうかぃ。ま、スパイお疲れさん。終わったら飲み行こうぜ。お前もう飲めんだろ?」
ヴァルブルガ「全くよ。飲まんきゃやってらんないわ」
美猴「お、いいねぃ」
美猴sideout
毎度、話を上手く切るのホント難しい······尻すぼみ酷い(笑)