イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
クロウ「───うぉぉッ!!」
アポプスが放つ闇をブレスで相殺し、触手の如くうねり狂う『原初の水』の弾幕を掻い潜りドラゴンのオーラを込めた拳を叩きつける。
原初の水は、触れたものを文字通り『溶かす』。アポプスは神話に記される通り闇の化身であり、ラー神の太陽の船の運行を妨げていた。
話が反れるが、この世界に住まう生物の大半───それこそ邪龍や邪神、純血悪魔を除くほぼ全ての生物は、光を司る者の血を継いでいる。これは俺も例外ではない。
原初の水は、これら光に纏わるもの───その要素を崩壊させるという厄介な特性を持っている。これはアポプスが邪龍筆頭格足る理由の一つでもある。
アポプス「·······ぐぉっ!! なるほどっ······伊達に強さを求め続けてはいないな!!」
お返しとばかりに、うねる原初の水が左腕と右足首を掠める。
クロウ「クッ······当然だ。今の俺は破壊を拒絶するために戦っている!!」
俺の左足がアポプスの肩に突き刺さる。そして、原初の水が俺の右足を貫く。
アポプス「ドラゴンが破壊を拒むか······では、私はお前のその矜持を上回ろう!!」
クロウ「上等だ、アポプス!!!」
俺の拳、アポプスの拳が激突し、拮抗状態に入る。スケールにして軽く俺の6倍以上あるアポプスだが、俺も負けてはいない。昔なら或いは······と言ったところだが、伊達に数千年鍛え続けてきたわけではない。
───今の俺が簡単に押し負けると思うな!!
クロウ「·······ぬおぉぉぉおおお!!」
アポプス「なにッ······!!?」
アポプスの拳を、俺の拳が上回る。アポプスの拳は砕け、アポプスの腕が不自然に歪む。
ズドンッ!! と音を立ててアポプスの腕が折れ曲がる。
だが、これで終わらせるつもりは──ない!!
クロウ「おぉぉッ···!!」
すれ違いざまに、アポプスに全力でブレスを叩きつける。と、触手のような原初の水が俺の両翼を貫く。が、俺のブレスもまたアポプスの頭にほど近くを大きく消し飛ばした。
クロウ「クウッ······!!」
アポプス「がァっ······!?」
一度アポプスから距離を取り、治癒の魔法を翼に掛ける。再生の禁術は時間が掛かりすぎて使えん。止血しか無理だ。
······機動力も先程までより格段に劣るだろうが、無いよりはマシだろう。そう思う外ない。
地面は既に原初の水で浸水しており、アポプスを降さない限り降りることは適わない。時間がないな······だが、それはアポプスもそうだろう。
翼から直接オーラを排出して機動力を少しでも確保する。アルビオンの鎧を参考にした急場凌ぎではあるが······瞬間速度なら多少は確保出来るだろう。
クロウ「······流石だアポプス。今の俺は天龍を超えた強さを手にしたと自負しているのだがな」
この強さ、八幡に影響されたおかげか。
八幡とは数百年の付き合いになるが······アイツに出会い、俺の価値観は大きく揺らいだ。
俺よりも遥かに強さへの渇望を抱きながら、アイツは俺と真反対の理由を持っていた。当時の俺が戦う理由はドラゴンの力を揮うためであり、その力ために磨きをかけ続けた。
だが、八幡の強さを求める理由······いや、存在理由とでも言った方がいいのだろうか。アイツの強さは、刹那の平和への渇望と直結している。クルルのために───と、いっそ自己犠牲と言った方が正しいほどに、八幡は強さを求めていた。
『力がないと、また俺は誰かを殺す』
初めて聞いた時はまるで理解出来なかったが、アイツは本当は誰かを巻き込みたくないのだ。本来なら、この襲撃もアイツ一人で行う気だったのだろう。
初めて理解した時、俺の価値観は根底から揺らいだ。
今でこそ多少は柔軟な思考が出来るようになったものの、俺が出会った当初は本当にそればかり考えていた。俺が危機感を覚えるほどだ。更に間近で見てきたメリオダスやティアはもっとであろう───。
クロウ「アポプス······護るべき者がいる、ということはすなわち生きて帰らなけれはならないということだ。今のお前に言っても解らないだろうがな。
───つまり、俺はお前に勝つ。そういうことだ」
体から放つオーラを一層高める。次の一撃が最後になるだろう。
俺に限った話ではなく、俺達の命は俺達のものだけではない。違う場所で戦う者、共に戦う者、そして────帰りを待つ者。一堂に会して全員で笑い合う。嘗ての俺は知らなかった最大級の喜び。
アポプス「······このオーラ、まともに食らえば私は一瞬で消え去るだろう。だが、私とてやられるつもりは毛頭ないぞ、クロウ・クルワッハ!!」
重傷を負っているとは思えない昂りを見せるアポプス。
クロウ「ならば勝負だ。
翼から推進剤代わりにオーラを吹かせ、急加速でアポプスに突貫する。
アポプス「面白い!! だが勝つのはこの私だ!!
アポプスが今までで最大級の闇の濃縮弾を放つ。食らえば致命傷になり兼ねない────ならば、それすらも打ち破ってみせよう!!
クロウ「おおぉぉぉぉぉおおおッ!!!!」
オーラを纏う拳にて正面から迎え撃つ。
アポプス「なれば、これならどうだ!?」
アポプスは更に4つの闇の濃縮弾を放つ。尚、チャージをして追撃を3つ放つ。
全部で8つ────それがどうした!! 俺は勝つためにアポプス、お前に拳を向けたのだぞ!!
クロウ「俺の────勝ちだ!!」
一つ、また一つ俺の拳は闇を吹き飛ばしアポプスに肉薄する。そして全ての闇を突き破り────
アポプス「······完敗だ、クロウ・クルワッハよ。私の力はお前に届かなかった」
アポプスは人間態に戻り、地面に仰向けに倒れる。
クロウ「いや、恥じることはない。少しでも何かが違えば、俺の勝利は夢想の内に終わるものだった」
地面を沈めた原初の水は既に完全に引いており、元の無機質な床が顔を覗かせていた。
······と、アポプスの体が端から塵へと変わり始める。
アポプス「······どうやら、私の体が限界を迎えたようだ。本来なら数千年と時間がかかる筈の手順を聖杯によって強引に省略したからだろうな」
両足の先から始まったアポプスの体の崩壊は、膝まで到達する。
アポプス「そうだ、最後に聞かせて欲しい。お前をそこまでの強さまで押し上げた女の存在が気になるのだ。堕天魔だけでは、おそらくそこまで価値観が様変わりはしまいよ」
最後にそんなことが気になるとはな。だが、俺もアイツも表舞台へと舞い戻った。アポプスに教えるくらいならば問題はあるまい。
クロウ「······そうだな。もう、それくらいは教えても良いだろう。『
と、アポプスは目を見開いた後、フッと笑う。
アポプス「······そうか。ティアマットか。それでは私が勝てぬのは当たり前だったよ。龍王筆頭格足るティアマットと高め合ってきたことは想像に容易だからな」
アポプスの両腕が塵となり舞い散り、胸まで消滅する。
クロウ「そういうことだ。闘争以外に生きることも悪くない。アポプス、貴様も次に復活した時は、世界を見渡してみるといい。今の貴様では見えぬ世界がそこに広がっていることだろうよ」
アポプス「······次は、お前が負ける番かもしれないぞ、クロウ・クルワッハ」
クロウ「フッ······その言葉は次に相見えた時に聞かせてもらいたいものだな」
とうとう、アポプスの首まで塵へと変貌し、頭までも消滅を始める。
アポプス「そうさせてもらおう。ではな、クロウ・クルワッハ。また会おう────」
最後にそう言い残し、アポプスは消滅した。
クロウ「······もちろんだ。また会おう、アポプス────」
クロウsideout
今作の独自設定の中に、クロウ・クルワッハは人間界に潜伏中に人間にかなり感化された、っていう設定があります。この辺はルシフェルあたりにもあります。
アポプスとクロウの最後の会話は魔法戦争で鷲津吉平の最期から着想を得てます。ほぼそのままにも見えますけどもね(笑)。