イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
八幡side
第二天に転移した俺の目に、上空に出現した魔法陣から降下する無数の邪龍もどきが映り込む。
しかと確認した俺は、ミカエルに特殊な魔法で入電。こちらは別に傍受されようが構わないことだけを送信したので普通の魔法だ。
一瞬で入電を完了させ、寄り掛かる建物の壁を駆け上がり、屋上まで登りきるとそこからジャンプしつつ、亜空間から剣を取り出す。
久々の『塵外刀真打』だ。多少暴れさせてもらおうか。
───塵外刀変化。型式『
巨大な刀身は少し細くなり、全体的に以前より好かれている。
俺が、触れただけで指が弾けそうなほどの速さで振動する刀を上空で一薙ぎ。ドデカい超高周波の塊でもって魔法陣から現れた瞬間の千を超す邪龍もどきどもを片っ端から消し飛ばした。
まだ連絡を取ってないが、第三、第四天にも俺のように待機していた。てことは、向こうも戦闘に突入してるってわけだな。
また10体ちょっと消し飛ばした後、俺は少し移動することにした。
八幡「······うだうだしてないで早く逃げろ!!」
第二天はバベルの塔関連の収容施設がある。俺は避難が進んでいなそうなところがどこか考えたら、まずここが出てきた。既に第二天でも天使が避難誘導や迎撃を開始しており、もう少しすれば俺達は必要なくなるだろう───
八幡「───って言っても逃してくれねぇもんなぁ!!」
トカゲもどきを斬り裂いた直後、背後に寒気を感じ、通常形態の『塵外刀真打』を盾のように構える。
瞬間───莫迦みたいな衝撃に襲われる。俺の体は施設の壁を突き破って思い切り外まで吹き飛ばされる。防御に間に合ったし、後ろに跳んで衝撃は逃せたからダメージはない。
俺が空中で姿勢を整えると、俺の目の前に俺を吹き飛ばした張本人の少女がフラッと浮かび上がる。
八幡「······来ると思ってたよ。コマチ」
少女───コマチは、絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような濁った色のオーラを震わせ、俺を睨みつけた。
八幡sideout
小猫side
ギャスパー「こんのっ·······!!」
正臣「いい加減にっ·······!!」
グリゼルダさんに、天界『クリフォト』に襲撃されているという報告が入ってきても、私達は動けないでいた。
·······襲撃者とギャー君が戦っている。果たして、私達がギャー君をその場に置いて避難してもいいのか。いや、そんなことは······
ふと、部長が私達を見て言う。
リアス「······皆、私達も避難しましょう。ここにいても、私達に出来ることは何もない。イリナさん、トウジさんを連れて、安全な所へ行きましょう。ここも、ギャスパーと八重垣の戦闘の余波に晒される可能性は十分ある」
避難······ギャー君を置いて······?
イリナ「は、はい」
小猫「でも部長······」
私は······
リアス「小猫、今の私達ではギャスパーの足でまといにすらなれない······悔しいのは分かるけど。私達には何も出来ないのよ」
ギャー君を見捨てるなんて······
正臣「ぐぁっ······」
小猫「······!!」
剣がカチ上げられ、人が倒れる音に思わず振り返ると、仰向けに倒れる八重垣に、八重垣を見下ろしながらエクスカリバーをダラリと持つギャー君の姿が映った。
ギャスパー「はぁ······はぁ······貴方の負けです」
正臣「けほっ······」
ギャー君にカチ上げられた八重垣の剣は、明後日の方向に飛んで、地面に突き刺さった。
ギャスパー「なんで、今になって······」
肩で息をしながらギャー君は問う。八重垣はそれにポツリポツリと答える。
正臣「ギャーなら、分かってくれると思ってたんだけどな······知ってるだろ? オートクレールは元々母の遺品だ。あの日───クレーリアを選ぶか、オートクレールを選ぶか。僕にはその二択しかなかった。比企谷さんは強いけど、万能ではない。オートクレールを紫藤トウジに回収させなかった場合、僕達の死の偽装は······」
その口ぶりは───まるで、オートクレールは元々八重垣のものだったとしか思えないものだ。
ギャスパー「······分かってます。だから、せめて永久封印になるように条件をつけたんですよね?」
正臣「······あぁ。と言っても比企谷さんがいなければそんな条件つけようもなかったけどな。
·······あの日、差出人不明の茶封筒が届いた。中に入ってたのは、5年前の襲撃部隊の個人データ。それと、紫藤イリナへのオートクレールへの貸与の旨を示した書類が幾つか。見た時は驚いたさ······そして、あの日から閉じ込めてた感情も解き放った」
ギャスパー「何も言わずに飛び出して行ったのは、あの人が止めると思ったからですか?」
正臣「それも少しはある。目の前が真っ赤に染まって、見えなくなったんだ。何もかも」
ギャスパー「······そうですか」
ギャー君はそう言うと、不意にこちらを向いて言う。
ギャスパー「すいませんイリナ先輩。文句は貴方の父親と上司に言ってください」
イリナ「きゃっ······!!」
そう言いギャー君がイリナ先輩に手を向ける。指をクイッとすると、突然イリナ先輩が持っていたオートクレールが引っ張られ、イリナ先輩が手を離してしまうと同時に吸い寄せられるかのようにギャー君の手に収まる。
イリナ「なっ······!?」
ギャスパー「······どうします?」
ギャー君は刃に触れないように器用に刀身を持って、柄側を八重垣に出す。
八重垣「······ああ」
八重垣はオートクレールを受け取る。と、次の瞬間、思いっきり上に放り投げた。
八重垣「······頼むよ」
ギャスパー「いいんですか?」
八重垣「さぁ······これが正しいのかなんて分からない。復讐心は消えてない。
······僕には覚悟が足りなかった。これと向き合おうと、折り合いを付けようとしてこなかった。それでも、今はこの選択が僕にとって一番正しいと信じる」
ギャスパー「僕も······そう信じますよ」
不意に、ギャー君は宙を舞うオートクレールに向けて手を伸ばす。掌を向けたかと思うと、拳を握った。
と、次の瞬間─────
ギギギャギッ────
パキィィィィィン!!
オートクレールは粉々に砕け散った────。
正臣「母さん·······僕は、今度こそ、この呪縛と向き合っていこうと思う。そっちに行くのはまだ先になるから、もう暫く待ってて欲しい」
ギャスパー「·······正臣さん。大人しく来てもらいますよ。聞きたいことが山ほどありますから」
正臣「······分かった。
ギャー君は頷くと、指を鳴らす。すると、魔法陣が開き、そこから妙な鎖が飛び出してきて、八重垣の両手首に巻き付いた。
更にもう一回指を鳴らすと今度は地面に魔法陣が開く。
ギャスパー「じゃあ、行きましょうか」
ギャー君が八重垣を先に歩かせ、魔法陣の中に入ろうとする。
イリナ「あ、ま、待って!!」
そこで我に返ったイリナ先輩が2人を呼び止める。思わずだったのか、2人は立ち止まって振り返る。
ギャスパー「······先行っててください。このために態々待機してもらってるんです」
正臣「あ、あぁ、分かった」
そして、八重垣は魔法陣の中に消え、次いで魔法陣も消える。その場にギャー君だけが残った。
ギャスパー「······なんでしょうか」
ギャー君はイリナ先輩を見据えて言う。
イリナ「な、なんでしょうかって······」
イリナ先輩はギャー君の声色に困惑する。普段の明るいギャー君からは想像もつかない冷たい声。斯く言う私もこれには困惑を隠せなかった。
ギャスパー「······まぁ。僕も突然来て介入しましたからね。同じ状況なら戸惑うと思いますよ。ただ······」
そこで、ギャー君は一旦言葉を切る。
イリナ「ただ·······?」
イリナ先輩は恐る恐る聞き返す。
ギャスパー「そこの男から、だいたいのことは聞いたとは思いますが。貴方の父親は弄られてないはずですよ?」
ギャー君の眼光が、イリナ先輩へと突き刺さる。トウジさんは何も言わなかった。それとも、言えなかったというべきなのだろうか。
ギャスパー「まぁ聞いてないんなら言いますけど。
5年前、オートクレールはそこの男が回収して教会に献上しました。あの人の死亡を偽装するためにです。ただ、それは元々正臣さんのお母様の遺品。お母様の死後、正臣さんが引き継いだもの。そこの男が触れるだけでも憤死しそうになるのを堪えるほどですが、始末したのに回収出来なかったでは不審がられる。だから、あえて回収させたんです。苦悶の末に。
ただ、それだけでは、また別の誰とも知らない誰かの手に渡る可能性もあるし、最悪の場合そこの男が持つ場合もある。だから、永久封印という条件をつけたんですよ」
それなら、なんで封印が解かれたのか······
ギャスパー「封印を解かれた理由は詳しくは知りませんが······大方、もっと上の誰かがテロにかこつけて封印を強引に解放させたと考えるのが自然ですかね。
───そこの男がこれに便乗しさえしなければ、正臣さんがオートクレールを回収して、それで終わりだった」
そこまで言うと、ギャー君は一息吐いて持っていたエクスカリバーを消した。亜空間へ収納したと考えられるが······
ギャスパー「難しいなぁ······どうしてこう上手くいかないんだろ」
ギャー君が何か呟いた時だった。
「それって、こういうシチュエーションを言ってるのかい?」
ゼノヴィア「なんだ!?」
突然、男の声が辺り一帯に響き渡る。それは一月前、ルーマニアでも聞いた声────
次の瞬間、空中に無数に出現した魔力弾がギャー君に降り注いだ!?
ギャスパー「·······チッ」
数分の後、降り注いだ魔力弾が病む。魔力弾はギャー君を覆い、10メートル近くまで巻き上がっていた。咄嗟に聖魔剣でシールドを張った裕斗先輩のおかげで、私達には被害はなかった。
リアス「ギャスパー!?」
部長がギャー君の名を呼んだ瞬間、巻き上がった粉塵が吹き飛ばされる。
小猫「ギャー君······」
粉塵の中から、ギャー君の姿が浮かび上がる。ギャー君は光のベールのようなものに包まれており、一切のダメージを受けていないように見える。
そこで、銀色の魔法陣が出現。ギャー君を攻撃したであろう張本人が姿を現す。銀髪で初老───実際はその1000倍は生きているであろう───のように見える男。
リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!?
前ルシファーの息子でありサーゼクス様やアジュカ・ベルゼブブ様に並ぶ『超越者』の1人。そして『クリフォト』を率いる稀代の扇動家······!!
リゼヴィムは、ボロボロの服を着た紫色の髪の女性の、髪を掴んで現れる。
ギャスパー「ゴミ屑が······!!」
そしてリゼヴィムは、ギャー君の敵意を物ともせず、まるで旧友に逢いに来たかのような笑顔で言う。
リゼヴィム「やっほ〜ギャスパーきゅん。1ヶ月ぶりー。ヴァーリが何処にいるか探すの面倒だったから、こっちに来ちゃったゼ♪」