イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~   作:シャルルヤ·ハプティズム

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第96話 ハカイシャの憤怒

 

 

クルルside

 

 

 

クルル「······ガフッ!!」

 

四鎌童子(しかまどうじ)が放った突きをモロに食らい、私は地面に叩き落とされた。口からは血の塊が吐き出された。

ブランクが長かった分、いざと言う時になって私は自分の力に振り回されていると言ったところが正直な感想だろうか。

 

 

······私はペースを完全に乱され、四鎌童子の攻撃を良いように食らい続けていた。まともにやれば私の圧勝だろうが、攻撃しようとする度に私の頭を先ほど四鎌童子が言った言葉が過ぎり、攻撃の手が止まる。そこを突かれてしまう。

 

 

アシェラ『───しっかりしろクルル!!』

 

阿朱羅丸(あしゅらまる)』を通して、義兄さんの声が頭の中に響く。

 

······分かってるわよ。でも、四鎌童子の言っていることが本当なら、少なくともルシフェル様は私に嘘を付いていることになる······

 

その時、私に四鎌童子の聖剣が振り下ろされる。が、私の右手が()()()()()()『阿朱羅丸』で聖剣を受け止めた。

 

アシェラ『······しっかりしろクルル。僕は君の体の主導権を奪ってでも君を生かすぞ』

 

······分かった。今はこれに集中する。どの道ルシフェル様には終わってから問い詰めるしかない。

 

義兄さんはひとまず納得したのか、何も言わなくなった。

 

 

四鎌童子が横薙ぎに聖剣を揮ってくるのを体を反らして躱し、そのまま顎を蹴り上げる。そのまま地面に左手を付いてバク転で体勢を整えつつ、『阿朱羅丸』で袈裟斬りにする。

 

奴が直前で後ろに下がったため、深く切りつけられなかったのだが、まぁ多少のダメージにはなっただろう。

 

『阿朱羅丸』に付いた血を払い、再び構える。昔だったら振り上げて振り下ろすだけで山を真っ二つにしたりしたのだが······夏に体は元に戻っても戦闘の勘が中々戻らず、この有様だ。我ながら情けない。

 

 

そう思って溜息を吐きつつ、切り込もうとした時、不意に奴が声を上げた。

 

四鎌童子「······!! この女を見逃せと言うのか!!」

 

クルル「······?」

 

奴は耳に手を当てながら、何やら叫ぶ。どうやら通信機の類を耳に付けているようだ。

 

四鎌童子「······チッ。分かった。撤退する」

 

次の瞬間、奴は魔法陣を展開して転移する。私に恨み辛みの篭った目で睨みながら。

 

奴は転移の光の中に消えていった。

 

アシェラ『······見逃してよかったのかい?』

 

義兄さんの声が頭に響く。声に出さずに、それに答える。

 

────今はいいわ。今はギャスパーの方を優先すべきだから······

 

 

 

······それに、奴はまた現れるでしよ? 殺すなり捕縛するなり、その時に考えるわ。

 

声に出さずに、そうとだけ返した。今は私のことより優先するべきことが多い。

 

 

アシェラ『······うわ。君えげつないな』

 

────失敬な。貴方の妹なんですけど。

 

アシェラ『う〜ん·····どこかで教育を間違えたかなぁ······君、昔はもっと純真無垢ないい子だったのに』

 

 

────·············ふ〜ん。あっそ、分かったわ。

アシェラ『えっ······今の間は何?』

 

────さぁ?

 

アシェラ『えっ、ちょっ』

 

 

日本に戻ったら義兄さんとオナハシ(物理)することを決めた私は、服の戦闘によって破けた部分を魔力で修復すると、戦闘中の八幡達の気配を頼りに、地下に急いだ。

 

 

クルルsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーside

 

 

 

ギャスパー「······一つ訊くが、ディオドラさんは何処にいる」

 

ロキとの砲撃戦を繰り広げる中、目の前に対峙するロキに向かって言う。

 

ずっと気に掛かっていた。あのゴミ(リゼヴィム)やロキまで来ているのだから、本当に寝返ったのならディオドラさんがここにいないのは普通に考えておかしい。

 

ロキ「ディオドラ? ああ、フェンリルの牙から作った神殺しの聖剣まで与えたにも関わらず貴様を殺し損ねた無能悪魔は確かディオドラとかいう名前だったな」

 

ギャスパー「······ッ」

 

こいつ······!! 知った風な口を······!!

 

······今のではっきりした。少なくとも、『クリフォト』は一枚岩ではない。ゴミが仕切る派閥とは、ロキは別で存在している。ディオドラさんがゴミに降ったのなら、の話だが。それも今では怪しい限りだ。

 

ロキは更に続けた。そして、僕の怒りを完全に爆発させる。

 

ロキ「ふはははっ。奴なら今頃我が独自で開発した魔術によって拷問を受け、死に体となっているだろうな······奴の側には何やら女がいたが、そいつも同じようにやったのだったかな? ま、無能にはお似合いだろう。奴共々貴様を殺し、『堕天魔』や白龍皇なども始末して後から送ってやる。安心するといい」

 

ロキは笑いながらそう言った。

 

────僕の中で何かが弾け飛んだ気がした。

 

 

 

······次の瞬間、僕の手に握られていたブリューナクは振り上げられ、ロキの右腕を切り飛ばしていた。

 

ロキ「クッ······!! よくも貴様······」

 

ギャスパー「殺す」

 

ただでさえ先ほどの吸血鬼共のせいで怒りが頂点に達していたのだが、こいつのせいで完全に爆発した。

 

ロキは───この存在自体に価値のない男は殺す。絶対に、確実に、迅速に。

 

ギャスパー「······黒歌さん、結界強化しといて」

 

自分でもこれは身内に向けるものとは思えないほどの低い声が出た。それだけ怒りを爆発させるのに十分だったのだ。今の一言は。

 

黒歌「······了解にゃん」

 

ギャスパー「ありがとう黒歌さん」

 

黒歌さんは僕と目の前の奴以外に張った結界を三重に張り、今までの倍近くの強度に強化させて、僕に言った。

 

 

黒歌「······別に気にしなくていいにゃ。私も腸煮えくり返ってるから。私もやりたいけど、ギャスパーに譲るにゃ。────潰して」

 

黒歌さんからの死刑宣告に頷いた後、口から一言だけ発した。

 

ギャスパー「······来い」

 

その一言を聞いた、鎖になって心臓に巻き付いているオリジナルのブリューナクは、僕の胸から飛び出して僕の周囲を数周周り、完全に僕の外に出た。

 

僕は先端の鏃になっている部分のすぐ後ろを持つ。すると、ブリューナクは深紅の粒子となって弾けた。そして、柄、刀身、と集合した深紅の粒子が二叉の槍を形作っていく。

 

ロキ「······ほう。それが本物のブリューナクか。以前も貴様は偽物を使っていたから実物は初めて見るが······なるほど。ケルト神話ではブリューナクは槍や投石器と、話によって形状が定まらなかったが、変形するというのか」

 

何やらぶつぶつ呟いているが、聞く気は毛頭ない。

 

 

ギャスパー「······天雷よ」

 

そう唱えると、ブリューナクは(おびたた)しいほどの電撃を放ち始める。これがブリューナクの能力の一つだ。ケルト神話の伝説には、投げれば稲妻となる灼熱の槍とあるが、この能力から来ていることは明白だ。

 

 

そして、周囲の地面すら放電だけで抉り始めるブリューナクを·········奴に向かって全力で()()()

 

ロキ「······ガッ!?」

 

奴は飛来する槍に全く反応出来ずに、右足を切り飛ばされた。傷口からは一気に大量の血が流れ出る。

ブリューナクは付け根から右足を切り落としても尚止まらず、一直線に飛び続ける。だが、向こうの壁に突き刺さる直前に急停止し、むちゃくちゃな光条を描いて、僕の手に戻ってくる。これもブリューナクの能力だ。

 

 

投げれば必中し、必ず戻ってくるという、一種の因果逆転の力だ。

 

他の神話で言えば、グングニルなどはこれに近い。まぁ、だいたいの神話にはある程度の共通点があるのだが。

 

 

ギャスパー「······力を寄越せブリューナク」

 

僕がそう言うと、ブリューナクは更に強力な電撃を放ち、物凄い高熱を帯びた。

 

······さて、終わりにしよう。

 

 

僕はブリューナクを両手で構える。槍の切先には電撃と高熱の一点への収縮により、恐ろしいまでの力がチャージされる。全力ではないが。

 

ギャスパー「······消し飛べ」

 

一歩踏み出し、槍を突き出す。ブリューナクの先端からは極大のオーラが放出され、奴はそれに飲まれていった─────

 

 

 

 

 

 

 

僕はブリューナクを鎖に戻してまた心臓に巻き付けると、黒歌さんの結界を()()()()()、黒歌さんとヴァレリーの元に駆け寄った。

 

黒歌「······ちょっとギャスパー、やりすぎにゃ」

 

ギャスパー「······あ〜、うん、そうだね。確かにやりすぎたと思う」

 

あれでも全力ではないし、黒歌さんも分かっているとはいえ、確かにやりすぎた。

 

······城を破壊するとかじゃなくて、崩壊寸前まで空中を歪ませたらそうなるよね。

 

 

黒歌「······まぁそれはいっか。そうそう、この娘の体ちょっと調べさせて貰ったんだけど······今のままじゃ暫く目覚めそうにないにゃ。やっぱり、聖杯を()()()()()()()()()そうなる?」

 

ヴァレリーに宿った神器(セイグリッド・ギア)の、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』は亜種神器であり、聖杯が3つでワンセットになっている。これはバロールさんが最初に目覚めた時に観測したことらしい。

 

······お父様の話では、最悪一つでもあれば死ぬことはないそうだが、一つか2つは抜き出されている可能性が高いとの話だった。

 

黒歌さんの調べた結果、体内には聖杯が2つあることが分かった。

 

 

 

······一つを抜き出したのは『クリフォト』で間違いないだろう。そもそも、『クリフォト』とは、生命の実『セフィロト』の逆位置を指す言葉だ。あのゴミならそんな悪趣味な名前を付けることもするだろう。

 

その時だった。

 

 

「······あー、ロキはやられたのかぁ。いくら神格持ちとはいえ、北欧の悪神がガキ一人に負けるなんてねぇ。聞いて呆れるぜ」

 

 

僕と黒歌さんの耳に不快な音が届いた。

 

 

 

ギャスパーsideout

 

 

 




ギャスパーがやったのは『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』をモデルに考えました。

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