スパロボVで頑張る   作:白い人

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君の声と結末

 その日がやってくる……。

 

 

 

 ヤマトの修理の為、光子力研究所にやってきていた彼等。

 敵の襲撃などもなく修理が終わるまでパイロット達は待機となってしまった為、時間が出来ていた。

 するとナインの様子がおかしいと話を聞いたソウジは彼女から話を聞いていたのだが、そんな中で奴等が現れた。

 ガーディムのグーリーである。

 奴等の目的はナインの拉致。

 彼女を拉致してどうするつもりかは不明であるが、ナインを奪われる訳にはいかない。

 いや、それ以上にソウジに闘志が湧いてくる。

 ガーディムはチトセを既に拉致しているのだから。

 だがグーリーが求めていたのは拉致ではなくソウジとの決着。

 それを承諾したソウジは負傷を押して出撃。

 ヤマトを防衛しつつ行われた戦闘はやはりと言うか、何度も繰り返されたようにソウジ達の方に勝利の女神が微笑んでいた。

 そう、あれがやってくるまでは。

 

「ぐぅぅ!」

「キャップ!!」

 

 グーリーにトドメを刺そうとしたヴァングレイに対して奇襲で攻撃を仕掛けてきた機体があった。

 それは、誰もが目を見張るものであった。

 

「ゲシュ……ペンストだと……!?」

 

 被弾し、ボロボロになったヴァングレイを操作しながらこちらを攻撃してきた機体を確認するソウジ。

 それは奪われたチトセの機体、ゲシュペンスト・タイプRによく似た機体。

 いや、これは似ていると言うよりも……。

 

「ゲシュペンスト・タイプRVだって!?」

「ショウ、知っているのか!?」

 

 ショウが機体を見て驚きの声を上げる。

 間違いなく奪われたゲシュペンスト・タイプRの改造機だろう事は分かったが、まさかショウが機体名まで知っているとは思わなかった。

 

「ゲシュペンストの改良プランにあった機体だ!だけどここじゃペーパープラン!いや、それ以前にペーパーにだって上げられてない機体だぞ!どうして!?」

 

 幾つか引っかかる物言いだったが、気にする余裕はない。

 今、必要なのは奪われた機体がガーディムによって改造され、こちらに矛を向けているという一点だけだ。

 そしてもう一つ。

 彼女がやってきた、という事は。

 

「貴様もいるんだな!ジェイミー・リータ・スラウシル!」

 

 怒りの声で叫ぶショウ。

 チトセを操っている張本人だと思われる女指揮官。

 何か不測の事態に備えて近くにいるに違いない。

 そう思ったのだがやはり予想通りであった。

 

「五月蝿いわね。そんなに吠えなくても聞こえているわ」

「っ!」

 

 ゲシュペンスト・タイプRVの横に現れたガーディムの大型指揮官機。

 そこから聞こえてくる声は間違いなくあの女のものであった。

 

「まったく弱い犬程、よく吠えるというけどまさに貴方の事ね、タカサカ・ショウ」

 

 見下すように、まるで物を見るかのように声を出すジェイミー。

 それを聞くだけで頭が沸騰しそうになるショウではあったが、いきなり飛び掛る真似はしない。

 熱くなりすぎたら、相手の思う壺だという事を分かっているからだ。

 

「あら、思いのほか冷静ね。でもこの子を見て冷静でいられるかしら?」

「ショ、ショウ……」

「チトセ!?」

 

 ジェイミーの声に反応して聞こえてきたのはチトセの声だ。

 そしてそれは先日の操られた状態ではない。

 

「は、早く逃げ……て……!」

「チトセ!チトセなのか!」

「そこまでよ」

 

 一体どうして、と声をかける前にジェイミーの声が響き渡る。

 すると、テレビの電源を切るかのように一瞬にしてチトセの声も沈黙する。

 

「ふふふ、どうかしら。久しぶりの彼女、声はいかがだった?」

「……!」

 

 それだけ聞けば全て理解できた。

 操っているのも、そしてチトセを玩具のように使っているのは間違いなくこの女だと。

 

「で、こちらの要求は簡単よ。そのAIとヤマトを渡して欲しいのだけど」

「断る」

 

 ジェイミーの要求を一刀両断するソウジ。

 それを理解できないと言った様子を見せるジェイミー。

 

「あら、そんなボロボロの機体でよく吠えるわね」

「俺がボロボロだろうが、お前達を倒すのとチトセちゃんを奪還するには十分だ」

 

 強がり、ではない。

 例えソウジが敗れたとしても頼れる仲間達が沢山いる。

 今までの戦いが物語ってきたように、ガーディムに負けるとは思えない。

 

「そう、でもこれを見てそんな事を言えるかしら」

『敵機の反応増大!この数は!』

 

 ナデシコCからの声に反応して全員が回りを見渡す。

 そこには夥しい数のガーディムの機体が並んでいた。そこにはいつもの白い機体だけではなくグーリーが乗っている機体も数多く見られる。

 

「なんて数だ!」

「チッ、さっきまでは様子見だったって事か!」

 

 事実そうなのだろう。

 最初の戦闘時と比べると敵機の数があまりにも違いすぎる。

 これはつまり目的の物を入手する為に本気を出してきた、という事だろう。

 だが逆に言えばこれはチャンスである。

 

「関係ないな!お前を倒し、チトセを取り戻す!」

「ああ!これだけの数を撃退すれば敵の攻勢だって弱まる筈だ」

 

 これだけの機体を出してきたという事は逆に言えばこれの撃退に成功すれば、ガーディムの弱体化に繋がる可能性は高い。

 ピンチの中にチャンスあり。ここが正念場だ。

 それを理解しているのか、誰もが弱音を吐くものはいない。逆に闘志を燃やし続けている。

 そしてそれは彼女もそうである。

 

「キャップ!こっちに乗り換えてください!!」

「ナイン!その機体は!?」

 

 ボロボロになったヴァングレイの前に現れる新しい機体。

 それはMSやPT以上の大きさを持つ機体。まさしくスーパーロボット。

 

「ヴァングレイの強化型!グランヴァングです!」

 

 強化型、というよりはコンセプトを見直した機体なのだが。

 いつの間にこんな機体が出来ていたのかと思うソウジではあったが、今はそんな時間ではない。

 

「乗り換えてください!」

「おう!」

 

 ボロボロになったヴァングレイからグランヴァングに乗り換えるソウジ。

 驚いた事と言えば、ナインもそのままコックピットに乗ってきた事か。

 

「お前も一緒に乗るのか?」

「はい。グランヴァングを正確にコントロールするにはダイレクトなオペレートが必要ですから」

 

 それに、と付け加える。

 

「私も姉さんを助けたいですから」

「……ああ!そうだな!」

 

 ソウジ、そしてナインが乗り込んだグランヴァングが光を点す。

 完全に起動した証である。

 

「チッ……グーリーめ。みすみす乗り換えるのを見過ごすなんてね」

 

 忌々しそうにグランヴァングを見つめるジェイミー。

 既にボロボロになった機体であり、そのトドメはグーリーに任せていた事から完全に対応が遅れてしまった。

 だが。

 

「例え新型だろうと、この戦力差は覆せない。それを教授してあげましょう」

 

 各機に指示を出す。

 あのAIが乗っているらしい新型は捕獲を。

 他は敵を撃破し、ヤマトを鹵獲する事。

 そしてジェイミー自身は。

 

「さぁ、チトセ。私達のコンビネーションであれを破壊しましょう」

「……」

 

 その視線の先に映るのは巨大なメイスを構えたもう一機の黒き亡霊。

 あれを破壊すれば新たなステージへと進めるのだ。

 チトセは無言のまま機体を動かす。

 その巨大な銃、メガ・バスターキャノンをゲシュペンスト・タイプSへと向けると共になんの躊躇いもなく発射する。

 

「悪いがやられる訳にはいかない!」

 

 それをすかさず回避するショウ。

 しかしそれは囮。

 

「たった一機で私達を止められるのかしら?」

 

 回避した先に現れた巨大な機体、マーダヴァがその両腕に仕込まれたビーム砲を向ける。

 その光の槍で亡霊を貫こうとした瞬間。

 

「させるかあぁぁぁ!」

「くっ!?」

 

 その腕を吹き飛ばされた。

 ジェイミーが吹き飛ばしてくれた犯人に目を向ければ、そこには髑髏のマーク。

 

「ドクロつきのガンダム!?」

 

 クロスボーンガンダムX1・改・改とトビア・アロナクスである。

 近接戦闘用に調整されたMSはその手に持つ格闘武器――ムラマサブラスターの出力を全開にして倍以上の巨大差を誇るマーダヴァを吹き飛ばしたのだ。

 

「ガンダムとは言え一機程度の増援で!」

 

 機体スペックは遥かにマーダヴァの方が上である。

 数は並んだが、それだけであると判断する。

 しかし。

 

「一人じゃないわよ!」

「チィッ!雑魚がわらわらと!」

 

 上空から砲撃と共に降り立つのはアンジュのヴィルキスとタスクのアーキバスだ。

 

「だ・け・ど!」

 

 まるで指揮棒を揮うかの如く、腕を振るうとグーリーが乗る機体と同一の機体、プラーマグが複数現れる。

 

「貴方達はこれと遊んでいなさい」

 

 プラーマグを援護に現れた三機へと向けると共に己はゲシュペンスト・タイプSへと意識を向ける。

 チトセは先に戦闘を開始しているようだ。

 それを援護しようとして。

 

「待ちな。てめぇは俺達と遊ぼうぜ」

「っ!お前は……!」

 

 巨大な斧による攻撃相手に回避を余儀なくされる。

 攻撃を仕掛けてきたのはいつの間にか接近していた真・ゲッターロボとゲッターチームであった。

 

「真・ゲッターロボ……。確かに情報は取りたいけど、今は貴方の相手をするつもりは……!」

「おせぇ!」

 

 先程と同じようにプラーマグを相手にさせようとするもに、瞬時に叩き落される。

 そのあまりの瞬殺っぷりに思わず呆然とするジェイミー。

 

「な……なっ……!」

「焦るなよ。ちょっとはゆっくりしてけや」

「フッ、そういう事だ」

「ああ。そして味わっていけ。俺達とゲッターの恐ろしさをな!」

 

 真・ゲッターの猛攻に防御を専念するはめになるジェイミー。

 護衛のプラーマグ達も後から駆けつけてきたグレートマイトガインやブラックサレナ達の相手で手一杯という有様だ。

 しかも戦局全体を見渡せば。

 

「押されている!?我々ガーディムが!」

 

 そう、押されているのだ。

 あれだけの数の戦力を投入したのにも関わらず既に数で並べられている状態だ。

 

「チトセは!?」

 

 ゲシュペンスト・タイプSとタイプRVは激しい戦闘を繰り広げていた。

 スペックは改造されたRVの方が上。

 だがそれ以上にタイプSは動き回っていた。

 

「チトセぇ!」

「っ!」

 

 機動力も運動性も低い機体だが、それでも果敢に飛び込みタイプRVへと攻撃を仕掛けるタイプS。

 メガ・バスターキャノンを破壊しようと、左のプラズマ・スライサーで攻撃を仕掛けていく。

 しかしタイプRVも負けていない。

 攻撃を回避すると同時に距離を開けながらヴァンピーア・レーザーで反撃する。

 タイプSもそれを回避しようとするが、攻撃を仕掛けた直後だ。左腕にかすり傷とはいえ被弾してしまう。

 

「くそっ!エネルギーが減少するとか本来の効果も持ってるのか!」

 

 被弾した事により機体エネルギーが予想以上に磨り減っていく。

 悪態をつくがショウの目はタイプRVから目を離さない。離してたまるものか。

 

「チトセ!聞こえているか!」

「……」

「俺が!俺達が今、助ける!」

「……っ!」

 

 気のせいかもしれない。

 だが、今反応したように見えた。

 

「うん!今助けるよチトセ先輩!」

 

 タイプSから距離を離したタイプRVに、接近した機体、超闘士グルンガストとシャルロッテ・ヘイスティング。

 その拳が今度こそタイプRVを捉えた。

 

「……!」

 

 グルンガストの拳で体勢を崩すが、それでも一瞬にして立て直す。

 その優秀さに関心するが、それでもまだ攻勢は続くのだ。

 

「ヴェルト!」

「任された!」

「っ!?」

「切り裂け!」

 

 体勢を立て直した先に待ち構えていたのはヒュッケバインとヴェルターブ・テックスト。

 ロシュ・セイバーの一振りによりメガ・バスターキャノンが破壊される。

 

「チトセ先輩帰ってきてよ!」

「貴女の帰る場所はガーディムなどではない!」

「ロ、ロッティ……ヴェルト……!」

 

 今度こそ聞き間違いではない。

 チトセの声が聞こえたのだ。

 

「チトセ!?」

「もしかして!」

「ああ、彼女も戦っているんだ!」

 

 洗脳されたチトセもまた戦っている事を確信する。

 それならば尚の事、今がチャンスだ。

 

「チトセちゃん!」

「姉さん!」

「ソウジさん……ナイン……」

 

 グーリーを撃破したグランヴァングも駆けつける。

 気がつけば、大体の敵は掃討されており残っている敵もジェイミーとその護衛だけだ。

 

「帰って来いチトセちゃん!」

「姉さんの居場所はここなんです!」

「チトセ!」

「あ……あ……!」

 

 ソウジやナインだけではない。

 共に旅をしたヤマトの皆が、転移した先で出会った新しい仲間達の声が集まって行く。

 

「刹那!」

「ああ!クアンタムシステムを使う!」

 

 まだ調整が完了していないとは言え、この場を満たすだけならば可能。

 みんなの想いと願いをチトセに届ける為に、使う事を決意する。

 次の瞬間、大量のGN粒子が世界を満たす。

 

「届け!」

 

 GN粒子を通して、みんなの声がチトセへと届く。

 それにあわせるようにタイプRVの動きが鈍っていく。

 

「みんな……!わ、私は……!」

「ショウ!」

「ああ、分かってる!」

 

 後一押し。

 そして最後の一手は彼に委ねられる。

 

「もう一度言う!」

 

 ボロボロのゲシュペンスト・タイプSがメイスなどの武器を投げ捨て、拳を構える。

 

「俺が!俺達が!」

 

 相手を破壊する為ではない。

 

「お前を救い出す!」

 

 大切な人を助ける為に。

 

「必殺!」

 

 拳を構えて放つは必殺の一撃。

 

「ゲシュペンストパンチ!」

 

 亡霊の一撃がタイプRVの頭部のみを破壊し、動きを止める。

 

「チトセェェェェ!」

 

 同時に動きが止まったタイプRVを抱え込む。

 もう二度と離さないというように。

 

「ショ、ショウ……わ、私……」

「チトセ……」

 

 接触回線で写るチトセの姿。

 そこにはガーディムの服に身を包んだチトセが写るが、その目にはしっかりとした光を取り戻していた。

 ショウはそれを見て安心したように呟く。取り戻せたのだと核心しながら。

 

「そ、そんな……こんな……」

 

 二人の様子を目の当たりにしたジェイミーが呆然とした姿を見せる。

 

「俺達の勝ちだ!ガーディム!」

 

 それを見て勝ち鬨の声を上げる。

 チトセは取り戻した。

 スピード狂のグーリーは倒された。

 相手がつぎ込んだ戦力はほぼ全て殲滅した。

 残るは少数の敵機と指揮官のジェイミーのみである。

 相手の戦力がどれだけあるかは分からないが、これ以上の戦闘は不可能と判断するだろう。

 

「ああ……なんて事……」

 

 呆然したままのジェイミー。

 ならば、と彼女を捕まえる為に動き出す。

 未だに全容が見えないガーディムの情報を聞き出す為だ。

 近くにいた舞人達がジェイミーを拘束しようと動き出した時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなにも思う通りに進むなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 誰の声が聞こえたのかは分からない。

 しかし、彼等は見た。

 

「……え?」

 

 チトセの乗るゲシュペンスト・タイプRVが。

 

「どう……して……?」

 

 ショウの乗るゲシュペンスト・タイプSを。

 

「なんで……!?」

 

 その手に持つメガ・プラズマカッターで。

 

「……馬鹿な」

 

 コックピットを貫いているなんて。

 

「え、あ……どう……して?」

 

 呆然とコックピット内で呟くチトセ。

 目を手に向けてみれば、しっかりと機体を操作している姿が映った。

 それは、つまり。

 

「わ、私が……」

「ええ、そう」

「ジェイミー!?」

 

 先程まで呆然としていたジェイミーの機体がタイプRVの真上に現れていた。

 いつの間にと驚く暇もない。

 

「貴女がやったの」

「……あ……ああ……」

「駄目だ!」

「そいつの声を聞いては!」

 

 それは毒を含んだ声色だ。

 それに気づいたバナージと刹那が止めようと動き出すが、あまりにも遅すぎた。

 

「貴女がタカサカ・ショウを殺したのよ」

 

 決定的な一言であった。

 毒が呆然したチトセに染み込んだ瞬間。

 

「あ、あああああああああああああああ!!」

 

 どうしようもない悲しみを含んだ悲鳴を上げるチトセ。

 

「駄目だ、彼女の心が……!」

 

 あまりの衝撃にチトセの心が罅割れる。

 いや、それはもう壊れると言っていいかもしれない。

 

「……」

「あら、もう終わり。なら」

 

 全ての心が失われたようにチトセの動きが止まると同時に、いつの間にか現れたプラーマグ達によって回収されていく。

 同時にタイプRVに組み付いていたタイプSが振り払われ、地面に倒れ伏す。

 

「逃がすか!」

「残念」

 

 チトセを連れて行かれてたまるかと、近くにいた真・ゲッターが攻撃を仕掛けるが、もうチトセ達の姿はそこにはなかった。

 

「空間転移か!くそがぁ!」

 

 再び連れ去られた怒りを今度はジェイミーに向ける。

 だがジェイミーは先程の余裕のない姿などではない、余裕に満ちた姿をこちらに見せ付けてくる。

 そして刹那とバナージはようやく理解した。

 この女が仕込んだ事を。

 

「貴様が全て操っていたのか!」

 

 それは単純な話ではない。

 

「全て……ショウ達の声で反応する事も、次第に心を取り戻していく事も……全て貴女が!」

「ええ、そうよ」

 

 そう。

 ショウ達の声でチトセが反応する事。

 少しずつ洗脳から解かれていく事。

 ソレ全てがジェイミーの掌の上で行われた事だったのだ。

 

「だってチトセったら、いつまでも抵抗するんだもの。なら自分の拠り所を自分の手で壊してくれればいいでしょう」

 

 だから一芝居打ったのだ。

 

「ええ、おかげでチトセは立派なガーディムの人間になれそうよ。ああ、そのゴミにも感謝をしないとね」

 

 地面に転がったタイプSに目を向けると同時にビーム砲で攻撃を加える。

 主を失った機体は抵抗する事もなくボロボロになっていく。

 

「貴様ぁ!」

「あんたは!」

 

 その姿を見て、堪忍袋の尾が切れたとヴェルトとロッティが同時に攻撃を仕掛ける。

 この外道に満ちた女を斬る為に。

 だが。

 

「遅いわ」

「がはっ!?」

「きゃああぁ!」

「ヴェルト!ロッティ!?」

 

 同時に襲い掛かったヒュッケバインとグルンガストをゴミを払うように一蹴するジェイミー。

 その動きは先程まで竜馬達に追い詰められていた奴とは思えない程であった。

 

「テメェ!さっきまで三味線を弾いてやがったな!」

「だってそっちの方が雰囲気が出るでしょう」

 

 何処までも馬鹿にした様子を見せる。

 ここに来て全員の怒りが頂点に達しようとしていた。

 

「今日はここまでね」

「逃がすと……思ってるの……!!」

 

 もはや慈悲はないといった怒りを滲み出すアンジュ。

 

「思っていないわ。でも欲しい物は手に入ったしね」

「え、なっ!?」

 

 突然、ヤマトの一区画が爆発する。

 なんとそこから複数のプラーマグが飛び出してきたのだ。

 そしてそこはナインが見覚えがある場所であった。

 

「あそこは……!」

 

 そして何処までも相手の方が一枚上手であった。

 

「それじゃあさようなら。次はそのAIを頂くわ」

「ま、待て!」

 

 瞬時に姿を消すジェイミー達、ガーディムの機体。

 先程と同じように空間転移で離脱したのだろう。

 

「くそ……くそぉ……!」

 

 燃え上がる森。

 噴出す黒煙。

 撃墜した敵機の残骸。

 そして、ズタボロになったゲシュペンスト・タイプS。

 紛れもない……彼等の敗北であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ショウは」

「……」

 

 戦闘後、回収されたゲシュペンスト・タイプS。

 パイロットの行方を聞くも答えは無情なものであった。

 

「サーベルの直撃だ。……遺体も何も残っていなかったよ」

「……」

 

 ソウジにだって分かっていた事だ。

 だが聞かずにはいられなかったのだ。

 高坂翔は死んだ。

 彼が守りたいと願った女性、如月千歳の手によって。

 そして被害はそれだけではなかった。

 

「まさか新型も狙われているとはな……」

 

 ヤマトの格納庫に置かれたナインが開発していた三機の新型機。

 一機はソウジのグランヴァングであったのだが。

 残った二機。

 チトセ用に作られていた高機動機、ヴァングネクス。

 ショウ用に作られていた格闘機、ヴァングセイバー。

 この二機は無残に破壊されていたのだ。

 いや、正確に言えば。

 

「破壊されたのはセイバーだけだな。ネクスの方は奪われたらしい」

「ネクスだけをか?」

「ああ。それに武器や追加装備なんかはそのままだ」

 

 アストナージとウリバタケは残った残骸の様子からそう判断する。

 

「……姉さん、ショウさん」

 

 二人の新しい剣は砕かれ、奪われた。

 そしてショウの事を考えるだけでナインは胸が苦しくなっていく。

 出来ればここにはいたくなかった。

 格納庫から去って行くナインと入れ替わるようにヴェルトがやってくると、その足はまっすぐに作業を進めていたアストナージとウリバタケの方へ向かって行く。

 

「……ウリバタケさん、アストナージさん」

「ヴェルトか。怪我は大丈夫か?」

「ええ、僕もロッティも軽症です。ですが今はお願いが」

「ん……?」

 

 ヴェルトが手に持つのは一枚のデータディスク。

 それに見覚えがあった。

 

「そいつはショウのディスクか」

「ええ。そしてこれを」

 

 モニターに映し出された二枚の設計図。

 

「こいつは……」

「僕とショウで作っていたヒュッケバインとグルンガストの改良型です」

 

 二体の機体。

 いなくった彼と共に作り上げていたもの。

 

「今回で二機ともダメージを受けました。ですがただ修理するよりも」

「なるほど」

 

 ヒュッケバインもグルンガストもジェイミーの手によってかなりのダメージを受けていた。

 それを単純に修理するよりも思い切ってパワーアップさせたいという事なのだろう。

 

「僕は奴等を許さない。ですが今のままでは力不足です。だから……」

 

 助けられなかった。

 その悔しさが今の彼の原動力なのだろう。

 だがその想いは整備班も一緒だ。

 二人が頷く。

 次は負けやしないと。

 そんな想いを込めて。

 

「ガーディム……!」

 

 誰が呟いたか分からない言葉。

 怒りに満ち溢れたものである。

 ショウとチトセの事。

 こんな目にあわせた奴等を許しはしないと。

 誰もが思っていた。

 

 

 

 

 

 それにあわせるように、ナニカクロイものが小さく蠢いた。




スパロボVで頑張る、完。










嘘です。
もうちっとだけ続くんじゃ

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