好きって言いたい   作:お金の無駄使い

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ようやく03です。

感想に寄せられた指摘を確認した結果、私がミスってたので直しました。


03

 * * *

 

 

 

「…お待たせしました」

 

 丁度そのタイミングで、店主がウチに声をかける。

 …今更だけど、この人店主なのかな…。

 って、そんなどうでもいい疑問はさておいて、どうやら淹れ終わったコーヒーを持ってきたみたいだ。

 

「……………」

「……………」

 

 一本…二本…三本…四本。

 …目の前に座っている比企谷が、無言でシュガースティックを入れていく。…そんなに砂糖入れてるのに何でそんな細い身体なのよ…。

 何時の間にか視線が比企谷の身体に向いていたのを修正し、ウチもウチでコーヒーを飲み始める。

 

「…で?どういう事なんだよ」

「…だって…多分ウチ、比企谷に悪い事したから…」

「…多分って……。…だったら別にいいぞ。それにな、相模が何をどう勘違いしてんのか知らねーけど、俺は迷惑なんか被ってないし、ぼっちなのは元からだ。相模が気にする事はどこにも無いし、そもそも気にする事自体がおかしい」

「……………」

「寧ろあの場で悪かったのは俺の方で、それは葉山とお前の親友二人が証拠人だし、俺自身もそう思ってる。…ここまでの中におかしいとこあったか?」

 

 …おかしい…ところ?

 迷惑を被ってない…とか?…でもコイツならそれもあるかも…。

 ウチも今ぼっちだから、何となくだけど分かる。

 ──周りがどうでも良くなるから、騒がれたところでなんとも思わない。

 

 …じゃあ、本当にウチの勘違いなの?

 比企谷はただウチを貶して、それで終わったわけ?…えっ?

 

 …さっき、ウチはなんて解釈した?

 

 ──比企谷が“ただウチを貶して(・・・・・・・・)”…?

 

「…嘘」

「あ?…何がだよ」

 

 …周りが──小田原さんと津久井さんが言っていた意味の、そのつかみの部分がようやく分かった。

 ぼっちな比企谷がただ単に悪口を言う?…そんな筈ない。そんな事があるなら、日常生活でもっと口に出してる筈だ。

 今のウチで例えるならば、ウチが三浦さんに突然悪口を言うようなもの。──そんな事、自らやるわけがない。

 だったら、やらないといけない別の何かがあったんだ。…それが能動的な理由にせよ、受動的な理由にせよ。

 

「ねぇ、比企谷…」

「あん?…今度はなんだよ」

「…比企谷ってさ、グループ作ってる人たちの中心人物にわざわざ声かけてまで悪口言ったりする?」

「んな事する訳あるか。死ぬわ」

「…じゃあ何で、ウチには言ったの?」

「……なんだっていいだろ」

 

 比企谷はそう言いながらコップをくいっと上に傾け、残り少ないコーヒーを飲み干す。

 さっきの比企谷は、確実に動揺していた。つまりこれが正解なんだ。

 

 ──でも、まだ結びつかない。…分からない。

 何でウチがぼっちになったのか。

 どうして比企谷が悪口を言ったのか。

 …そもそも何で比企谷だったのか。

 

 

 

 

 * * *

 

 ──比企谷八幡サイド──

 

 

 

 

「…ねぇ、比企谷さ……もしウチが居なかったら、…委員長に立候補してなかったら…文化祭ってどうなってたと思う?」

「…どういう意味だ?……まぁ、…別に何もなく…普通に始まって普通に終わったんじゃねーの?」

「…じゃあさ、ウチが奉仕部に依頼しに行った時…比企谷はウチの話を聞いて…どう、しようと思ったの?」

「それは──」

 

 奉仕部の目的。

 それは、成功へ導くこと。

 つまり、あの時点──相模の依頼を受けると決めた時点での奉仕部の選択としては、相模を導くのが正解だ。

 それによって導かれる筈である結果は、文化祭の成功…ではなく、相模の成長。

 あくまで相模の依頼は文化祭の成功への助力だが、それを奉仕部の行動理念に当てはめるのならば、それはつまり文化祭の成功を直接支援する事ではなく、それを目指すのは相模本人で、奉仕部は相模本人を手助け…というか導くのが仕事だ。

 

 …だが、実際はどうだっただろうか。

 俺たちはそれが出来て居ただろうか。

 …まぁ、結果論的に言ってしまえば、失敗したのだから、出来て居なかったのだろう。

 

 失敗の原因は恐らく三つ。…か、それ以上。

 

 一つ目は、奉仕部の中で相模の一番近くに居て、現状がそれなりに理解できていた筈の俺が、全然機能しなかった事。

 

 二つ目は、奉仕部として依頼を受けなかった事。

 

 三つ目は、雪ノ下が…雪ノ下が暴走してしまった事。──それこそ、熱を出すくらい(オーバーヒートする程)に。…まぁこれに関しては、一概に雪ノ下のせいとは言い切れない面もある。あの場には、雪ノ下姉が居たのだから。

 

 俺ですら警戒しているあの人を、姉妹である雪ノ下が警戒していない訳がない。

 だが、恐らく陽乃さんはそれを知った上で尚、雪ノ下を煽り、そしてあの状況を引き起こした。

 

 これらを纏めれば、あの文化祭を成功へ導く事が出来たのは、恐らく俺一人だけだったのだろう。

 だが、問題の俺は動かなかった。動かなかったと言えば語弊があるが、動いた結果、意味が無かったのならばそれは動かなかったのと一緒だろう。──より正確に言えば、それすら陽乃さんの手のひらの上だったのだろうが。

 

 雪ノ下を戦力外にし、俺との一対一の状況を作り、その状況で俺の出方を見た。そういう風な解釈をしなければ、雪ノ下を先に潰した意味が分からない。あの人的には雪ノ下を残し、俺を潰した方が明らかに得そうなもんだが…あの時、俺に何の用があったのだろうか。

 …そして、その俺の反応を見てあの人はどう感じただろうか。…退屈だったのだろうか。…それとも、愉しかったのだろうか。

 それは俺には分からない。

 ただ再び結果論的にはなってしまうが、俺にはあの人は止められなかった。それは事実で、恐らくそこがあの文化祭の成功失敗の分水嶺だったのだろう。

 

 奉仕部として依頼を受けなかったが為に、雪ノ下はそれを全て一人で背負い込んだ。完璧超人な雪ノ下の事だ。恐らく背負い込んだ物に漏れはない。

 だが、故に彼女は、己が予想より早く破滅を迎えた。

 雪ノ下の事だから、助けを求められなかったのもあるだろう。もともと彼女はそう言う性格ではない。だがそれでも、自己の破滅を測りかねる様な人間ではない。

 

 陽乃さんが出て来て、相模が優勢を取り戻す前、彼女はほとんど完璧に人事を回していた。

 ──だから、それを利用する事はできた筈なのだ。

 相模の事など、雪ノ下が真っ向から一対一で対峙(むかえ)ば、簡単に折らせる事も出来るだろう。…なにせ、彼女はあの三浦さえも泣かしているのだから。

 そうすれば、相模の委員長という肩書きと、その【みんなの味方】という位置を利用して、前の状態に戻す事くらいは、例え陽乃さんが居たとしても可能な筈だ。

 

 ──だが、これらは全て想像で、机上の空論でしかない。

 全ては終わった事だし、今更何を悔やんでも何が変わるわけでもない。…だから、相模の事も、目を覚まさせなければならない。

 

「…悪かったな」

「……え?」

 

 質問に対する答えにはなっていない。

 だが、こう言うしか無いのだろう。

 

「…あの文化祭、失敗を引き起こしたのは俺だ。俺が全部悪い。──その訳は、ちゃんと話す」

 

 相模が現状から脱出──というか、俺を気にかけるという異常事態を直すには、相模を納得させるのが一番早い。

 …何も印象操作が上手いのは、陽乃さんの特権ではないのだ。俺だって今まで何度もして来た。 

 

「…俺は、あの時どうすれば成功するか知っていた」

「……………」

「…だから、それを今から話す」

 

 いかに綺麗に、魅せつつ話せるか。

 それは俺の技量だ。

 

「まずあの文化祭、成功の鍵を握っていたのは、俺とお前、そしてあの時雪ノ下と対立したお前の味方を装った雪ノ下の姉、…最後は──平塚先生だ」

 

 

 

 * * *

 

 ──相模南サイド──

 

 

 

「…最後は──平塚先生だ」

「……は?」

 

 しばらく比企谷の話を聞いていて、急に出てきた名前に驚く。正直言って予想外だった。

 

「…その中で更に常に動ける状態で、尚且つ文化祭成功に助力する可能性のあるのは平塚先生だけだ。…だけど、その平塚先生は動かなかった。…俺が止めてたからな」

「……………ちょ、ちょっと待って」

 

 疑問点は幾つかある。

 

 比企谷が言ったキーマンの中に雪ノ下さんが居なかったこと、

 平塚先生が入っていること、

 ウチの味方を《装った》らしい雪ノ下さんの姉、

 そして、そのお姉さんが、成功の可能性を示す人の中に平塚先生と一緒に入っていない理由。

 

 そして…文化祭での、比企谷の行動の数々。

 

 これらの共通点が、一向に思い当たらない。

 

 今までにウチが聞いた事が、根底から覆されていくような感覚。

 …今までは、私が何もしてない──悪くないのに、彼が突然悪口を言った。…って、そうみんなが言ってたし、ウチ自身もそう思ってた節がある。

 でも、それは覆された。それは、ウチが彼と同じ立場になってようやっと分かったこと。 …いや、それ以前に、あの文化祭は始まりから間違っていたのは、あの屋上のとき痛感した。

 

 ウチは、奉仕部に行った時、確かこう言ったのだ。『みんなに迷惑かける方がマズい』と。

 あの時は確実に軽い気持ちで言っていたから、それを思い出したのも遅かったし、思い出したからと言って何が変わるわけでも、変えようと思った訳でもなかった。

 変えない事をどうとは思わなかったけど、それは全てその後に響く事になった。

 

 ──比企谷が、来たのだ。

 

 比企谷が来て、エンディングセレモニーに戻れと言い出して。

 それを言われたウチは、また雪ノ下さんに嫉妬した。…本当はああいう風になりたかったと。

 でも同時に、さっきまで考えていた矛盾が頭をよぎった。

 そして勝手に、結論を出してしまったのだ。

 

 ──ウチには無理だと。

 

 それを思った瞬間、一気に自分が惨めになって、どうしようもなくなった…筈だった。

 …でも、実際は違った。──葉山君が来たから。

 そしてウチは、もう一度考え直したのだ。本当に無理なのか。…今からでも行って、エンディングセレモニーを成功させて、時間稼いでくれた人たちに謝って──。

 

 ──でも、そんな夢も、比企谷が全て崩した。

 彼は、ウチを罪から逃さないと言わんばかりに、私に言葉を浴びせた。

 …そして、それが決定打だった様な気がする。

 

 終わったあとで、ゆっこと遥が比企谷さえ居なければと言っていたのに、共感した憶えがある。

 

「…ねぇ、比企谷…」

「……またか。…今度は何だよ…」

 

 比企谷が文化祭でどうしようとしていたのかはさっき聞いたから知っている。…それを知る為に、わざわざ『私が居なかったら』なんてほとんど無意味な質問をしたのだ。

 

 だから──今度は、もっと、深くを知る。


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