笑顔は太陽のごとく… 《用務員・長門編 完結済》 作:バスクランサー
本編、どうぞー。
ーーー「では提督、行ってくるぞ。」
「私も行ってきます!頑張っちゃいます!」
「はは、まあそんな気負わず、気をつけて無事に帰ってきてくれさえすればそれでいいからな。」
「了解した!では用務員長門、抜錨する!」
「吹雪も出ます!」ーーー
ーーーもちろん出撃ではない。いや、ある意味出撃だろうか。
今日は買い出しの日だ。商店街で安売りの日で、なおかつ新艦娘たちの歓迎会も行うことになっているため、普段より多くの食材などを購入、さらに料理する必要が出てきた。
そこで、間宮と鳳翔には厨房仕事に専念してもらい、私、そして今日休みの吹雪で買い出しを引き受けた次第である。
「うふふ!長門さんと買い物〜!」
「そんなに楽しみか?吹雪よ」
「もちろんですよ!
…あれ、長門さん、どうして苦笑いなのですか?ひょっとして、楽しみじゃなかったですか…?」
「いやいやいやいや!そういう訳じゃない!寧ろとても楽しみだ!ただ…」
「ただ…?」
「…行けばわかる。」ーーー
ーーー私はそうとしか答えられなかった。
実は買い出しに行くのは、吹雪は初めてだが私はそうではない。買い出しの手伝いとして、間宮とよく商店街に行っている。そしてそれがたまに、不定期で行われる商店街全体の安売りデーと被ることがあり、その時の間宮はと言うと…まさにフンスフンスという表現が似合うような、そんな表情だった。
「ここが私の真の戦場です!」
とか言って彼女が飛び込んでいったのは、セールの人混みの渦中である。そして数分後、戻ってきた彼女の服はヨレヨレで、かなり体力を消耗しているように見えた。
「やりました…!」
…そのセリフ、加賀のではないか?とツッコミたくなるのをなんとか抑えて彼女を見ると、しっかりと安売りの目玉の品がエコバッグに入っていた。
…要するに、こういうわけか。安売り品をめぐる戦争…わからなくもない。うん。
「長門さんも飛び込んでみますか?…でも、はっきり言ってあれはやばいですよ。」
間宮は息を切らしつつ、若干キャラが崩壊していた。周りには、同じように息を切らした主婦の群れ。充実した顔の者もいれば、悔し顔の者もいた。
「まあその…お疲れ様だった」
さすがの私も間宮の顔に気圧され、それしか返せなかったーーー
ーーーその後、私も何度かその「戦場」に実際に飛び込むのを経験した。本当に見ていても凄いものだったが、それを直に体験して改めてその凄さを知った。
この街の人々はみんな優しい。付近の高校の学生も、商店街のスタッフさんたちも、すれ違う買い物の主婦たちも。だが。
その主婦が、この商店街全体安売りデーだけ敵に変わるのだ。互いに睨み合い、タイムセール開始と同時に売り場の台になだれ込む。普段優しい彼女たちをあそこまで変えてしまうとは…安売りとは恐ろしいものだーーー
ーーーおっと、前置きが長くなってしまった。そう、今日がまさにその安売りデーなのだ。目当ての品が午後からタイムセールになる。前もって、初めての吹雪には警告しておこう。
「吹雪、今日の商店街は戦場だ。」
「え、深海棲艦でも襲ってくるんですか…!?」
「いや、そうじゃなくてだな…まあ、見ればわかるさ。」
実際私もそうだったし。
「見ればわかる…商店街が戦場…あっ…」
察したようだな。まあ察したところで後戻りは不可能だーーー
ーーー商店街に着いた。まずは魚屋だ。焼き魚などは私も好物なので、これは確保せねばならん。
「ふぅ…行くか。」
魚屋の入り口には多くの主婦たち。無論、全員顔見知りである。
「それでは!1時間限定、全品詰め放題1袋750円均一セール、開始します!」
若い男店員の号令で、一斉に私…正確には私たち、は店内へ突進したーーー
ーーーやったぜ。
そう思わず言った。無性に言いたくなったから言った。目標量よりわずかながら多くの戦利品をゲットした。やったぜ。
「長門さん…やっぱりこういうことだったんですね。」
「ああ。よし次は米屋だ。あそこは力仕事になるぞ…」
「ま、まだ行くんですか…!?」
「当たり前だぞ?今日はまだまだたくさん買うからな!」
「は、はいー!」
米屋でも、戦利品を多めにゲットした。間宮にコツを聞いておいてよかった。私は出撃こそできないが、だからといって鍛錬をしていない訳ではない。むしろしている方だと自負している。島風や天龍、龍田といったメンツと、よく室内トレーニングルームで顔を合わせるのだ。用務員として鎮守府で雑用をする以上、鍛える必要があるかと考えて自発的に通い始め、今はすっかり習慣になった。
そうして鍛えた私のこの筋肉に加え、間宮からもらったバーゲン必勝のコツがあれば、たとえ品が重い米屋だとしても頑張れる。
さらにこのあと、八百屋、肉屋でも戦場を繰り広げた。吹雪も私の帰還の度に、飲み物を補給してくれる。ありがたい。
そして私はその支えもあり、今日最後の、そして一番激しい戦場に着いた。
ーーー駄菓子屋だ。
やはり歓迎会には飯もいるが、菓子類も不可欠なのだ。そしてこの商店街の駄菓子屋は、駄菓子に加え、今どきのチョコやスナック、さらに昔懐かしいおもちゃなども売っている。何より、価格が安いのが一番いい。それがさらに安くなるのだから、なおいい。
しかし。
この駄菓子屋、言うまでもなく主なターゲット層が、今までの主婦ではなく、この時間ちょうど小学校が終わって買い物に来る、小学生たちなのだ。というか店側がその時間に合わせているのだが。
とにかく。何が言いたいかと言うと、小学生は主婦より強い。主婦は争いながらもルールや加減をわきまえているので、あれだけの戦場に関わらず、怪我人が出たと聞くことは無い。
しかし小学生となると話は別だ。こやつらは手加減という概念を知らない。一度買い物の時、彼らの訪れる時間帯と被ったのだが、嵐のように品物をとり、レジに長蛇の列を作り、店の品の大半は彼らが買い占めていくのだ。ガチ顔だった。恐ろしいが、歓迎会のためにも、ここは行かねばならぬな。
ちなみに、店の中で品をカゴに入れて待機し、号砲の瞬間レジにいく、と言うのは子供たちの間で暗黙の了解として禁止されているとか。
待っていると、私に気づいた小学生が声をかけてきた。
「あっ、長門お姉さんだー!」
「こんにちはー!」
それにしても、こんな私にも変わらず接してくれる子供たちには毎回感謝している。
「長門お姉さん、悪いけど今日は、頂いていくよ!」
「ここは譲れません!」
…しれっと加賀のセリフ言ったな。まあいい。すると、店の奥から老夫婦が出てきた。ということはーーー
「はーい、みんな来てくれてありがとうねぇ。じゃあ、安売り開始しちゃうよー!」
「うおおおおおあああああああ!!」ーーー
ーーー結果、惨敗。
やはり子供たちは強かった…!そのスピード、うちの島風よりも速いのではないか。と真面目に感じてしまったほどである。お菓子怖い。
「すまん、吹雪…あまり戦利品は手に入れられなかった…」
「大丈夫ですよ、長門さん。今度はまた、空いているときにゆっくり買い物を楽しみましょうよ!」
「…ふふ、優しいな。」
「いえいえ!そうだ、司令官が、時間余ったらたまにはどっかでくつろいで来いって、お金を余分に持たせてくれたんです!よかったら言ってみませんか?」
「お、いいな!その話乗った!」
吹雪よ、ありがとう。今猛烈に嬉しいーーー
ーーーその後。
商店街の古風なカフェで吹雪とのんびりと過ごし、鎮守府へ帰った。提督と響が出迎えてくれた。
「おかえり、長門、吹雪」
「ただいま、だ。お菓子はだめだったが、それ以外は目標以上を手に入れられた。」
「帰りにカフェによって、カフェオレも飲みました!美味しかったですよ!」
「そうか、よかったな、それからお疲れ様。とりあえず、お菓子に関してはまだ時間あるし、また買いに行けばいいさ。よし響、これから食材を貯蔵庫に運ぶのを手伝ってくれるか?」
「もちろんだ、司令官」
「なら、私も」
「私も行きます!」
「はは、みんなありがとう。よいしょっ!」
あと6日か。準備にも力を入れないとだな。この長門、用務員としてこれからバリバリ頑張っていくぞ!
…後、次こそは子供たちに勝てるように、トレーニングを強化しなければ…ーーー
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というわけでまた次回!