笑顔は太陽のごとく… 《用務員・長門編 完結済》 作:バスクランサー
はい、報告それだけです。
ごめんなさい本編どうぞ。
※独自設定入ります。
こいつ、目を覚ました!驚く一同。
それは、キョロキョロと目を動かして周りを見渡す。今までずっと気を失っていたせいで分からなかったが、エリートだのフラッグシップなどの階級を見分ける目の輝きはなく、ただ目に透明なビー玉が嵌っているような、そんな瞳だった。
「あ、あの、ここは?私は何故、こんな所に…寝かされて…?」
起き上がったそれは、こちらを不思議そうに見つめている。
「大丈夫、ここは鎮守府だ。君にここを荒らす意思がないなら、我々も誓って手荒な真似はしない。」
提督が優しい笑顔で、それに語りかける。
「荒らす、意思は、ない…。約束する」
「そうか、よかった。ありがとう」
提督はそう言って、それの頭を撫でる。するとそれは、怯えがおさまりきっていない表情から、少しだけ安堵したような顔になる。
しばらく提督はそれを撫で続けると、
「さて、少し君に質問をしたい。いいかな?」
「…うん」
これまでの様子を見て、どうやら我々の言語は通じるようだ。
「君は何故、傷だらけになってまで、陸に上がって来たんだい?君の普段住んでいるところは、海の中のはずじゃ?」
「…」
提督の質問に、それは俯いた。
「…何かあったんだね。」
コクリ、とうなずく。
「もしよかったら、話してくれないか?」
それは、
「…今は…少し、怖いです…」
「そうか。無理はしなくて大丈夫だから、もし話せる時には、話して欲しい。」
「は、はい。ありがとうございます…」
「…長門、大淀。」
唐突に提督からのご指名。
「…近海で最近確認された、深海棲艦の写真を少し持ってきてくれないか?」
「あ、あぁ…」
私は大淀とともに、作戦会議室にそれを取りに行った。そして戻ると、提督はそれを私と大淀から受け取り、そして…
「少し君にとって、辛い質問になるかもしれないが、また聞いてもいいか?」
覚悟を決めたようにうなずくそれ。
「…これに、見覚えはあるかい?」
提督はそう言って、私と大淀のとってきた深海棲艦の写真を見せる。
「!!」
目を見開き、じっと写真を凝視するそれ。そして、口をゆっくりと開いた。
「私の…仲間です。正確には、仲間だった、と言うべきでしょうか…」
「仲間、だった…?」
気になる言い方。
「…はい。」
「それが、さっきの質問の鍵でもあるんだよね?」
そっと尋ねる提督に、暗い顔でうなずくそれ。
「本当は答えたいんですけど、やっぱり怖くて…」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと落ち着いてからで大丈夫だから。」
すると、
「はーい、少し失礼するぞ〜」
ドアをそっと開けて入ってきたのは…北斗さんだった。手には皿、その上には数個のほかほかで美味しそうな、焼きたてのバターロールが。
「君に何があったか、私も知らないけど…疲れているし、腹は減っているだろう?」
「あ、はい…」
「これ、食べられるかい?」
「あっ…いいん、ですか?」
「もちろんだよ。さあ」
温かな笑顔で、パンを差し出す北斗さん。ゆっくりと手を伸ばし、それはパンを頬張る。
「はむっ…はむっ…美味しい…!」
「そうかい、それはよかった。」
だいぶリラックスしてるようだ…。と、
「少し、落ち着けました…。あなた方を、信じて、大丈夫ですか?」
「ああ。決して君を裏切らない。」
「分かりました…その、今から話すことは、私の…トラウマ?のようなことです。だから、どなたか、手を握っていてくれませんか?」
「じゃあ」
名乗り出たのは明石。彼女の生の右手と、機械仕掛けの義手の左手が、それの手を握る。
「ごめんね、色々あって片方が義手だけど…」
「いえ、その…とても、有難いです」
そう言って、それは語り始めた。
ーーー私たちは…太古の昔から、この地球という星によって生み出され、この星の、深い深い海の中、あなた方も知らない所にに生きてきました。あなた方とコンタクトをとったと言われる深海生命体リナールよりも深い、あなた方にとって未知の世界です。人類が地上で文明を作り出すよりも前に、私たちは文明を作ったそうです。
私たちは、母なる地球から与えられた使命に基づき、地上世界の争いなどには一切干渉はしません。なので、太平洋で起きて、ここにいる艦娘の元となった艦が戦った海戦のことも、あなた方の知っているであろう、地球原人ノンマルトの海底都市に関する事件や、地球が人類への警告として送った伝説深海怪獣コダラー、海底に沈んだ超古代の文明、また根源的破滅招来体、それに対して地球が産んだウルトラマンのことも、それを地球を通じて聞いたりしただけで、私たちに直接的な関わりはありませんでした。
私たちの役目、それは地球の意思に従い、海底に広がる地球の様々なエネルギーや、龍脈などのバランスを整え、星として地球を維持できるようにすることなのです。先程言った事件の数々でも、少なからず地球のバランスが崩れかけ、それも修正してきました。とにかく、私たちはずっと、地球バランスを整えながら、深海の自分たちの文明で平和に暮らしていたのです。
しかし…
数年前、突然仲間が急激に少なくなった時期がありました。私たちは地球のあらゆる所にたくさんの仲間達が暮らしているのですが、その全ての海域で、大幅に仲間が減りました。私たちは地球の意思によって自在に生み出されますが、それと入れ替わり…いいえ、それを上回るペースで、仲間の減少は続きました。
そしてそれからしばらく経ち、仲間達が住処に帰ってきました。しかし、元の姿とは程遠い、いくつもの禍々しい砲を携え、次々と我々の住処へと侵略を開始したのです…。こんなことを予想することもなかった私たちに反撃の術はなく、次々と各地の住処が崩落していったそうです。私の住処も、襲撃を受けました。
更にその変わり果てた仲間…あなた方の言葉で深海棲艦というそれは、ご存知の通り人類から制海権を奪い、世界中の海域を支配していった、ということを地球から聞きました。何がどうなっているのか、地球そのものもわかっていませんでしたが、何か良くないことが起こっているのは確かでした。
そこで地球は、大戦で沈んだ幾多の艦を媒体として、艦娘、そして妖精さんとあなた方が呼ぶ存在を生み出し、深海棲艦に対抗する切り札を遣わしたといいます。
しかし、未だ我々に対する深海棲艦の侵略は進み、今では残り少ない住処に、難民のような定義にあたる私たちの仲間が、たくさん集まっている状況です。
私が何故陸に上がろうとしたかと言うと、先程言った通り、私の元の住処にも深海棲艦が攻めてきて、そこが壊滅してしまったからです。襲われてから、仲間達と他の住処へと移りましたが、その時に数人が消息不明になりました。なので、地上世界の人間や艦娘にこのことを知ってもらうため、私は単身陸に上がることを試みたのです。
その際に深海棲艦に数度見つかり、傷つきました。傷だらけだったのはこれのせいです。
あなた方の直面している問題も、重々承知しているつもりです。でも…もし出来るなら…私たちの危機も救ってほしいんです。どうか、お願いしますーーー
こいつにこんな過去があったとは…。言い終えた後にそいつも泣いていた。よほど辛かったのだろう…。私は無意識に、それの頭を撫でていた。
「ありがとう、ございます…」
それはとても安心していた。明石の手を握るその手は手汗でべったりだったことから、相当力を込めて握っていたくらい、怖かったのだろう。しかし、私が撫でていると、次第にほんわかした、こいつ本来の笑顔であろう顔を見せてくれた。よかった…
その時、ふと私の脳に一つの疑問がよぎった。
「…そういえば」
「はい?」
「お前、名前何ていうんだ?と言うか、名前はあるのか?」
「いや…深海で暮らしていた頃は、互いの名前など呼び合わず、実際に言葉を発することもありましたが、コミュニケーションはテレパシーで行うことが多かったので…とにかく、自分も、仲間達も、名前と呼べるものはないんです…」
「そうなのか…もしよかったら、私たちで名前を付けていいか?」
「え…?」
大きく目を開くそれ。周りの提督や明石、夕張に北斗さんもニコニコしている。
「…ぜひ、お願いします」
少し微笑んで、それは了承してくれた。
「…じゃあ、なんて付けようか…」
夕張のその一言をきっかけに、考える一同。とその時。
「話は聞かせてもらったよ!」
ドアを開けて部屋に入ってきたのは、響だった。
「おっ、響!おかえり。ていうか、いつからいたんだ?」
「ひどいよ司令官…そうだな、だいたいこの子が話を始めた時からかな」
「結構前からだな」
「入るのも悪いと思ったから」
「気遣いありがとな」
「いえいえ。」
響はベッドに近寄り、それを見つめる。
「それで、この子の名前、だよね?」
「ああ。」
「レ級に似てるから…
レイ、なんてどうかな?」
ーーー翌日。
「ヘーイ長門!Good morningデース!それで、こちらのgirlは、確か昨日のあの子では?」
「ああ、おはよう金剛。とりあえずここでしばらく、用務員の私の手伝い役として働くことになってね。名前はレイに決まった。」
「Oh!goodなnameデース!レイ、頑張るデース!」
去っていく金剛。
結局こいつの名前は、響の案が採用されて、「レイ」となった。結構響きもよく、呼びやすいので、名案と言ったところだろう。
「長門さん。これから、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくな、レイ」
笑顔を見せる回数も増えてきたレイ。
しかし、私には一つだけ不安要素があった。
それは来る明日。
提督がこの町の住民たちに、このことについての説明会を開くことである。
極東支部の長官とは古くから築き上げた信頼が、「保護を全面的に容認、さらにこちらでも調査をしてみる」という答えをもらえたが…。
いくら優しいとはいえ、この町の人が、我々を信じてくれるかーーー
というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!
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また次回!