笑顔は太陽のごとく… 《用務員・長門編 完結済》 作:バスクランサー
薬自体というより水で腹が膨らむのが一番つらいっす。
すみません本編どうぞ。
乱の再来の予感
ーーー旅行翌日。
朝から鎮守府は騒がしかった。私の起きたマルナナマルマル、自室を出ると提督や響、大淀、その他にも数人の艦娘たちが忙しそうに動き回っていた。気になるのは、その誰もが、緊迫感に満ちた顔をしていること。
とにかく、私も身支度を整え、通りかかった提督に事情を聞く。
「どうしたんだ提督、そんなに忙しく…」
「長門、大変なことが起こった」
大変なこと…?
「なんだ、それは…?」
「落ち着いて聞いてくれ。
…この町の、ここからほど近い漁港の漁船停泊所に、今朝、深海棲艦が一体打ち上げられていると地元民から通報があった。…人型だそうだ。」
「なっ…!?」
ーーー深海棲艦。
突如海底から出現し、人類からいとも容易く制海権を奪った、正体不明の謎多き敵である。その人型、となれば比較的大型の艦で、強力な部類に入る。それが打ち上げられているのだ。ここまで慌ただしくなるのも無理もない。
「とりあえず準備ができ次第、現場に急行する。…長門、君も一応来るか?」
「いいのか?」
「仲間は多い方がいい。」
…これは行くしかなさそうだな。
「…ああ、行かせてもらう。」
「よし。」ーーー
ーーー数分後。
提督の愛車の1台、ジオアラミスに乗り込んだのは、提督、響、大淀、明石、夕張、そして私。
「一気に飛ばすぞっ!」
提督の宣言通り、車はわずか数分で港に着いた。既にたくさんの野次馬が集まっており、現場の中心は町の警察によって規制が張られている。
「すみません、第35鎮守府の提督です」
「はっ!お待ちしておりました、こちらです!」
人混みをかき分け、黄色いテープをくぐり、そこには住民の通報通り、白い肌に黒い服、ずぶ濡れで傷だらけのそれがいた。その見た目は間違いなく深海棲艦だった。
私たちは深海棲艦に近寄り、そしてそのものを改めて近くで見た途端、私を含め全員の顔が引きつった。
「こいつは…レ級!?」
レ級とは深海棲艦の一種。戦艦の部類に入るが、砲撃戦はもちろん、艦載機発艦、雷撃までこなす、恐怖のオールラウンダーだ。
「…なぜレ級が…!?」
「とにかくそれを調べよう。」
ブルーシートの上にレ級らしきものを横たえ、色々と調べてみる。しばらく調べていると、明石が声を上げた。
「…えっ…?」
「どうした?」
「おかしいんです…。このレ級、艤装がないんです」
「艤装が、ない?」
「はい。」
「しかし、これ程手負いということは、どこかにぶつけて取れてしまったりしたとかではないのか?」
「いえ、そう思ったんですが…全く、それは有り得ないんです…!」
明石?有り得ない、だと?
「何と言うのでしょう、艤装をつける身体のスペースそのものが存在しないんです。例えば、本来レ級は尻尾の方にも艤装がありますが、ここにはありません。本来艤装が衝撃で取れたのだとしたら、それは余程のものでないといけません。しかし…」
明石は隣にいた響に、スマホを見せられて確信したようだった。
「今響ちゃんに気象情報を見せてもらったのですが、昨日のここら辺の海は極めて穏やか、強い衝撃を生み出せるなど到底考えられません。更に、背部の服ですが、本来のレ級の尻尾が付いているであろう場所を見たところ…服の形からして、尻尾は付いていません…恐らく、元からこの通りの形だったと…」
「つまり、どういうことだ?」
提督の問に、明石は
「恐らく、元々レ級ではない、何か、私たちが普段戦っている深海棲艦とは、何か別の存在かと…しかし、それが何までかは流石に…」
改めてそのレ級らしき存在を見てみる。体は傷だらけ、意識はないようだ。ただ、明石曰く、脈らしきものがあるので、命はあるらしい。
「…そうだ。長門、アラミスからジオデバイザーを持ってきてくれ。命さえあれば、ガオディクションでこいつの心理状態を調べられる。」
「デバイザー…カーナビみたいなポジションに置かれていたあれか。分かった。」
言われた通り、私は車にデバイザーを取りに戻ることに。すると…
「ここを通してくれ!」
「駄目です!関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
「協力出来ることがあるかもしれないんだ!TACの隊員証もある!」
「TACだかなんだかそんなもん知りませんが、とにかくダメです!」
テープをはさみ、若い警官と男性がいざこざ状態になっている。
「どうしたんですか?」
答えたのは、若い警官だった。
「この人が入ろうとして来るんだ!」
すると、男性が言い返した。
「私は元TACの隊員だ、協力させてくれ!」
と言いつつ、カードのようなものを見せる男性。…ん?この人、どこかで見た気が…
…あっ!この間阿武隈たちと立ち寄った、移動販売のパン屋の主人だ!
「なんだなんだ?」
「長門、どうした?」
そこへ、提督、更にベテランっぽい別の警官がやって来た。2人に同様のことを説明する若い警官。しかし…
「TACだと…!?それは本当か!?」
「隊員証を見せてくれますか?」
男性は2人にカードを見せる。「北斗星司」という名前の書かれたそのカードには、なんと本物のTACのエンブレムが。TACと言えば、かつてヤプール人が送り込んできた超獣と戦った防衛チーム。我が鎮守府で使われている戦闘機のうち、タックアローやタックスペースなどは、このチームの物だったのだ。
そして、カードを見た2人は…
「うちの部下の失礼をお詫び申し上げます、申し訳ない」
「入って、どうぞ。ぜひご協力をお願いします」
なんとOKサイン。戸惑う若い警官は、ベテラン警官に何やら説教っぽくTACについての説明を受けていた。
私はとりあえず提督に男性を頼み、デバイザーを取って来た。にしても、あの店主がTACの者だったとは…ーーー
ーーー「ガオディクション、開始」
店主ーーー北斗さんが来たのを確かめ、提督はデバイザーを深海棲艦へかざす。先程提督が言っていたとおり、ガオディクションは対象の生命体の心理状態を調べられる技術だ。
「結果が出た。…ん?疲労…使命感、恐怖…?」
「ど、どういうことなんだ?なんでそんな、使命感とか、恐怖、とか…」
すると、口を開いたのは北斗さんだった。
「一応、仮説を立てるとすれば…。」
「なんでもいい。聞かせてください」
頼み込むように言う提督。
「ああ。こいつは恐らく、何かに迫害を受け、追われていて、我々に助けを求めようと陸に来たんじゃないか?」
「「「「「「!!」」」」」」
全員の顔…私を含めて、電流が走ったかのようになる。
「恐らくこいつには、同族か仲間か何かがいて、それごと迫害を受け、ここに来る途中で、迫害している側から攻撃を受けたとしたら、辻褄が合う。まあ仮説は仮説に過ぎないが…」
「いや」
北斗さんの言葉を遮るように言ったのは、提督だった。
「仮説に過ぎないとしても、これは最有力説となるでしょう。仮に今の仮説の中で、迫害されている側をこいつらの仲間、迫害している側を普段俺達が戦っている深海棲艦だとしたら…?」
「なるほど!」
確かにそうだ!
「でも…仮にそうだとして、何が深海棲艦の目的なのかな…。」
響が呟く。
「侵略?ですかね、一番考えられるのは…」
と夕張。しかし提督はこう返した。
「確かにそれの可能性は高いな。
だが、仮に深海棲艦がこいつらの住処を侵略しようとして、何故同時並行でこっちも攻めてくる?あいつらには艦隊を考えて組むだけの頭脳もある。深海棲艦と人類はファーストコンタクトから戦争だ。結果的に効かなかったとはいえ、人類の兵器が深海棲艦に効果を発揮した可能性もある。そうなれば必然的に自分たちが逆襲にあうのは目に見えているだろう。なぜリスクを犯すか、それがわからない。」
「…確かに。」
みんなが悩む。
しかしいつまでもここにいる訳にもいかないので、とりあえず、鎮守府の方にこのレ級らしき存在を移送することになり、私達はジオアラミスに乗り込んだ。ちなみに北斗さんも一緒だ。
車の窓の外では、住民たちが不安げにこちらをずっと見つめていたーーー
ーーー鎮守府
「やつの容態は?」
用務員としての仕事中、通りかかった夕張に聞く。
「とりあえず一応の治療は済ませました。今は北斗さんが様子を見てくれていますが、まだ意識は戻っていません…。」
「そうか…あいつは一体…」
「私にもわかりません…提督や響ちゃん、北斗さんは色々と考えているようですが、やはりあの子の容態が戻らない限り、何も進まないと…」
「そうか…ありがとう。」
「いえいえ。」
そう言って夕張は、私の元を去ろうとした、が…。
「…あーっ!」
「うわっ!ど、どうした!?」
「長門さん、頼まれていたあれが出来たので、後で工廠へ来てください!」
「お、おう!」
夕張はそう言うと、今度こそ駆け足で去って行った。そうか、あれが出来たかーーー
ーーーその夜遅く。
夕張が言っていたとおり、頼んでおいたあれの説明書を一通り読み終わった頃、私の部屋の内線が鳴った。提督からだった。
あのレ級らしき存在が目を覚ましそうだと言う。私はすぐに、医務室に急行した。
既に、午前中現場に赴いたメンバーが集まっていた…響を除いて。
「響は?」
「迫害している側が攻めてくるかもしれないからって、自ら夜間の警戒任務に出ていった。天龍や吹雪たちも一緒だ。」
「そうか。それで、容態は?」
と、
「…ここは…どこ…?私は、陸に、上がって、それで…」
というわけで今回も読んでくれてありがとうございましたm(_ _)m
いよいよ長門さん編もこれが最終章です!
お楽しみに!
評価や感想も待ってます!
ではまた!