笑顔は太陽のごとく… 《用務員・長門編 完結済》 作:バスクランサー
次からは再び動乱です。
まぁとりあえず、本編どうぞです。
ーーーある日。
私は休みを取った。
なぜかと言うと、今まで新しく着任した娘たちとは、艦種が同じの戦艦を中心にコミュニケーションを取ってきたが、逆に駆逐艦の娘たちとはなかなか話す機会がなかった。そんな時、たまたま廊下で会った高雄から、今度新入りの駆逐艦たちを連れて日帰り旅行をするということを聞いた。
これだ。
そう思った私は、高雄に旅のメンバーに加えてほしいと頼んだ。あっさりと了承され、そして今に至る。
「いない間のここは私たちにに任せてほしい。楽しんでくるんだぞ、みんな!」
「「「「「「「「はい!行ってきます!」」」」」」」」
私たちは元気に挨拶をして、鎮守府の外へ。
ちなみに今回のメンバーは、私と高雄、朝潮、大潮、霰、不知火、雪風、時津風の総勢8人だ。
鎮守府から街に出て、駅に向かう。最寄りの駅まではやや距離があるが、そこまで歩くこともワクワクを掻き立てるという高雄の言葉により、あえて提督には送ってもらわないことにした。
確かに、この時間もコミュニケーションを深める時間としては使えるな。
さて、まずはとりあえず話しかけることから…
「あの、長門さん!」
おおっ!?ちょうど話しかけようとしたタイミングで、朝潮が私に話しかけてきたので、少し驚いてしまった。
「あの、今日はどこまで行くんですか?高雄さん、お楽しみだとかで教えてくれないんですが…」
「えっと、どこに行くかって?」
…あ、そういえば。
「それが…私にも知らされてないんだ。」
「え、そうなんですか?うー、気になる…」
朝潮は考えこんでいるようだ。と、
「朝潮姉さん!行き先が分からくても、それはそれで楽しいと思うよ!」
と、いつも活発な大潮。
「ミステリーツアー…ふふ、楽しみだなぁ」
大潮とは正反対に物静かな霰も、このまだ分からない状況を楽しんでいるようだ。まだ駅にさえ着いてないが、想像を膨らませるのも楽しみの一つだろう。
「大潮、霰…うん、そうだね!でも、やっぱり気になるなぁ…不知火ちゃんたちはどこだと思う?」
いきなり話を振られ、戸惑う不知火。かなり鋭い眼をしているイメージがあるが…
「え、えと、不知火は…楽しいところならどこだっていいと思います」
あ、笑顔可愛い。
「雪風もです!同じ駆逐艦のみんなや、高雄さんに長門さん、全員で幸せな思い出を作りたいですー!」
「時津風も!特に長門さんとは今日初めて外出だから、楽しみ!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないかぁ!」
私は嬉しさに任せ時津風の頭を撫でまくる。高雄もにこやかにこちらを見ている。
「きゃあ〜!」
嬉しそうだ。可愛い。
「雪風も、雪風もー!」
「霰も、撫でて欲しい…」
と、この後結局駆逐艦全員をなでなですることになった。そして、全員をなでた頃…
「みんな、駅に着きました!ここからは特急に乗って行きます!」
「「「「「「おぉ〜!」」」」」」
すごいキラキラ状態だ、これ。特急とは、誰の心も高揚させるすごいものなのだなーーー
ーーー「わぁ〜、広い…」
駅のホームに滑り込んできた、流線型がおしゃれな特急車両に乗りこむ。通路を挟んで2列ずつ並んだ暖色系のリクライニングシートに全員が腰掛ける。車内には他の人はほとんどいない。
「ドアが閉まります、ご注意ください」
アナウンスの後ドアが閉まり、ゆっくりと電車は動き出した。
「おお〜!!」
大興奮の駆逐艦たち。それを見ていると、何とも微笑ましい気持ちになる。高雄の優しい笑みにも納得がいく。
「これに乗って、どこまで行くんでしょう…」
「この電車、速いですー!」
「このシートふかふか〜…」
(もちろん騒がしくない範囲で)はしゃぐ6人。電車は快調に速度を上げていき、やがて海から離れ、山あいの方へと入り始めた。車窓の景色も海の青から山の緑へとかわり、そのコントラストが美しく感じられる。
「なんかトンネルが多くなってきた…」
「だんだんと山の中に入ってるようですね」
すると唐突に高雄が立ち上がった。
「じゃあみんな、次の駅で降りるから、荷物の準備してね。」
「「「「「「はーい」」」」」」
次の駅か…一体どんなところだろうーーー
ーーー電車を降り、跨線橋を渡る。だが、改札を出る様子はなく、単なる乗り換えのようだ。
「高雄さん、これからどうするんですか?」
「もう少しで分かるわよ。」
そんな彼女の後に着いていき、ホームへの階段を降りると、そこには既に列車が一編成停まっていた。そしてその周りには、カメラを向ける人だかり。ん?んんっ!?
「高雄?この列車は機関車牽引なのか?それに、後ろの車両の窓がないんだが…」
「長門さん、着眼点がいいですね!そう、これからこのトロッコ列車に乗って目的地へ向かいます!一度乗ってみたかったんですよ!」
「「「「「「おおおおおーーー!!」」」」」」
歓声を上げる駆逐艦たち。無理もない、高雄曰くプラチナチケットのトロッコ列車に乗れるのだ。そういう私も興奮しっぱなしだ。
時間に余裕があったので、周囲の人の一人に声をかけて、先頭の機関車をバックに8人の写真を撮ってもらうことにした。
「じゃあ皆さん!はい、チーズ!」
笑顔の写真を撮ってもらったら、いざ車内に乗り込む。発車時間になり、駅のホームにベルが鳴り響く。
「行ってらっしゃい!」
「楽しんでこいよ〜!」
手を振るホームの人たちに、窓のない車両から全員で手を振り返す。
「行ってきま〜す!」
「じゃあね〜!」
雪風や時津風も返す。車内は定員満員で、和やかムードが漂っているーーー
ーーー「おおー!」
名所を知らせるアナウンスが、ところどころで車内に流れる。
「あの川…きれいですね、橋が高いからすごく小さく見えます!」
「おわっ!動物さんがこんな近くに!」
「風が気持ちいいのもトロッコ列車ならではね」
景色に興奮する朝潮と大潮、高雄。そこへ…
「車内販売がありました。」
「美味しい湧き水を使ったサイダー…んちゃ」
不知火、霰が全員分のサイダーを持ってきてくれた。昔ながらの王冠蓋の瓶入りだな。ん?あれがないじゃないか。
「2人とも、栓抜きはどこに?」
その問に答えたのは、高雄だった。
「長門さん、それから皆さん、ここですよ!」
彼女が指さしたのは、固定式ボックスシートの中央、窓下にある小さな出っ張り。
「これが、栓抜き…!?」
近くにある、年季を感じさせる使い方の書かれたプレートのとおりにすると、
パカッ
あ、すごい。栓抜きだこれ。
「高雄さん物知りー!」
「なんで知ってたんですか?」
「ああ、今私たちが乗ってるこの客車、国鉄時代のものをトロッコ仕様に改造したものなの。国鉄時代はまだペットボトルなんてなかなかなかったから、これみたいに瓶入りの飲み物が主流で、そのためにここに固定式の栓抜きが設けられているのよ。」
さすが高雄、鉄子だ…!
教えられた栓抜きを使って栓を抜き、サイダーを飲む。うん!口の中のシュワシュワと絶妙な甘さがたまらん…!
他にも列車内で、他にも景色を楽しんだり、高雄の鉄道豆知識話に耳を傾けたりして楽しんだ。そうしているうちに、いつの間にか列車は、山を降りた盆地にある、とある駅へ滑り込んでいたーーー
ーーー駅を出た地点で、時刻はヒトサンサンマル。
「ここで遅めの昼食と、自然公園で遊んで、そして特急で帰ります。」
「やったぁ!ご飯だぁ!」
「高雄さん、ここでは何を食べるんですか?」
「特産品の山菜を使った、山菜うどんです!」
「おうどん!」
「うどん、楽しみ…!」
「時間も多分お昼ご飯ピークは過ぎているでしょうし、駅から近い店なので、早速行ってみましょう!」
「「「「「「「おぉー!」」」」」」」ーーー
ーーーその後。
入った店で山菜うどんを堪能。山菜のサクサクしたかき揚げと、コシのあるうどんのマッチがたまらなかった…。
お腹いっぱいになったところで、自然公園へ。山中で海こそないが、ここも、我々の鎮守府のある街と同様自然が豊かな場所だ。色々な野生の植物や、野鳥観察も楽しめた。また、公園を歩いている最中も、駆逐艦の娘たちとたくさん、鎮守府のことや趣味のこと、この旅の思い出の事などたくさん会話をすることが出来た。本当に楽しかったーーー
ーーー帰りの特急では、高雄と私以外は爆睡。鎮守府の最寄り駅に近づいて起こすのが若干大変だったりしたのも、笑える思い出になった。
そしてお土産をたくさん抱え、鎮守府に無事に帰還した。少し疲れはしたが、とても充実した一日を過ごすことが出来たーーー
ーーーその夜 港
「ハァ、ハァ、ハァ…」
既に人気もない漁船の待機場所。
そこに、海の中から這いずるように陸に上がる、黒い一つの影。
「やっと…やっと着いた…やっと…着…い…」
うわ言のように「やっと着いた」を繰り返したそれは、幾度目かで力尽きたのか、気を失って地に倒れたーーー
というわけで今回もありがとうございました!
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ではまた次回。