笑顔は太陽のごとく… 《用務員・長門編 完結済》   作:バスクランサー

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お久しぶりです、バスクランサーです。
結構続編とかの要望もあり(自分でも書きたかった)、書かせていただきます。
またこれからもよろしくお願いします。

それでは、本編どうぞ!


用務員長門さん、誕生

 私の名は長門。戦艦の艦娘だ。

 第35鎮守府に在籍している。

 私の日々の使命は、出撃し、深海棲艦と呼ばれる敵を仲間達と倒し、暁の水平線に、勝利を刻むことーーー

 

 ーーーではない。

 というのも、私の身体では、出撃など到底できない。

 艦娘性超記憶障害とかなんとかいう、艦娘特有の奇病を患っているためだ。大本営で建造された時、私は挨拶の言葉を言ってーーーすぐに、倒れた。

 艦時代の私の最期ーーー水爆実験の標的艦として沈んだ時のあの光が、その時に強烈な痛みとともに襲ってきたのだ。熱い、痛い、苦しい、その感覚に脳が支配された。人間には、自殺頭痛とも呼ばれる、群発頭痛なるものがあるというが、恐らくそれよりも辛いものだろうと思った。確信。

 話を戻すと、私が倒れた時、周りの大本営の人間たちがものすごく忙しそうにしていた。薄れる意識の中、あれよあれよと担架に乗せられ、治療室送りとなった。

 そこで一旦記憶は途切れている。次に目を覚ました時言われたセリフは、今でも脳内に焼き付いている。

 

「目覚めたか、よかった。とりあえず、こちらでできる限りの全ての治療はしたからな…ふぅ」

 

 彼らの話によると、私は数週間にわたって、艦娘性超記憶障害の治療をされていたらしい。ちなみにこの病名を聞いたのもその時だ。そして、しばらく大本営にいた後、今の鎮守府ーーー第35鎮守府へと異動した。

 病の方は、大本営での治療により、命の危機は脱したらしい。しかし、今も続く発作や、水爆実験の放射能による脱毛症などは治療しきれなかったようだ。発作の方は今も、放置しておくと命に関わるらしいが、大本営が薬を開発してくれたらしい。

 ともかく、私は同時期に建造された姉妹艦の陸奥と、ここで過ごしていた。

 

 最初のうちは本当に、理想と現実のギャップに苦しみ、自暴自棄になっていた。仲間にも、陸奥にさえも当たる日々が続いた。

 そんなある日、ここに1人の提督と、その相棒みたいなポジションの響が着任した。

 彼は、とにかくすごかった。ここにいる艦娘は、心に傷や闇を抱えた者達が多かった。そんな彼女たちを、提督はどんどんと立ち直らせていった。

 さらに、私の人生を変えてくれた存在もやってきた。特型駆逐艦の吹雪。私に着任当初からよくついてきて、助けようとしてくれた。

 だが私は自分の存在意義を失うと恐れ、彼女に心無い言葉をかけてしまった。今思うと、本当に彼女には申し訳ないことをしたと思う。なのに、そんな私を、彼女は助けてくれた。嵐の街中、その路地裏で発作を起こし、気を失いかけていた私を見つけてくれたのは、彼女だったのだ。

 本当に嬉しかった。さらに、その夜に彼女にそれまでのことを謝った時、彼女は私を咎めないばかりか、とてもいい言葉を私に教えてくれたのだ。

 

「ーーー優しさを失わないでくれ。

 

 ーーー弱い者をいたわり、互いに助け合い、

 どこの国の人たちとも

 友達になろうとする気持ちを

 忘れないでくれ。

 

 ーーーたとえその気持ちが、

 何百回裏切られようと。

 

 ーそれが私の最後の願いだーーー」

 

 かつて地球を守った戦士の1人、ウルトラマンエースが、地球を去る時に残した言葉だという。そして私はその言葉を胸に、今日も鎮守府で、笑顔で自分に出来ることをしようと務めているのだ。

 ちなみに私のいつもの格好は、間宮みたいな割烹着、それから頭にはバンダナを巻いている。自分で言うのもなんだが、なかなかシャレオツ。だよな。

 

 ーーーある日 ヒトヒトゴマル

 第35鎮守府廊下

「ふぅ…」

 私は日課である掃除を、いつもと変わらずしていた。ここの艦娘たちの心の傷が癒えたことで、もうすぐ新しい仲間達が来ることになっているので、掃除一箇所にもより力を入れる。この前、提督のしていた着任関係の書類整理を手伝ったが、見る限りきっと、個性的なメンバーなのであろう。うむ、胸が熱いな。

 

 というかまずここに今いるメンバーもかなり個性的だ。提督の相棒である響はスポコン漫画にドハマリした影響で何故か珍しくボクっ娘だ。たまに私も、数冊を借りて見せてもらったりしている。

 メシマ…いや、その…料理があまり得意ではないイメージが定着している比叡は、金剛に教えてもらったとかで、料理の腕がいい意味で並外れている。食堂でたまに鳳翔や間宮を手伝っているほどだ。特に彼女のカレーは絶品だ。ちなみに私は甘口派である。

 高雄は、療養として提督と旅行に行って以来、ぶらり旅、さらに何故か鉄道に目覚めたらしく、毎月雑誌を取り寄せてはプランを立てて、休みの度に、時には1人、時には複数人で旅行をしている。休みの前日に彼女を出撃させた時は、そのせいかMVP総なめにするとか。

 

 他にも、空母艦娘が使う艦載機がめちゃめちゃかっこいいフォルムでかつ超高性能だったり、島風が通常海戦に加え格闘戦も得意だったり、天龍や龍田が日々新技を開発していたり…数えだしたらキリがない。だが、こういうのもありだ。むしろ雰囲気が心地いい。

 

 お、向こうから誰か来たようだ。

 白い軍服姿…うむ、提督だな。

 それにその隣には大淀もいる。確か、今日は響が遠征に行っているから秘書艦を務めることになったとか、昨日言っていたな。

 向こうもこちらに気づいたようだ。

 

「おー、長門。」

「提督、それに大淀か。執務お疲れ様、だな」

「そっちこそ、いつも色々ありがとう。ちょうどこれから、食堂で昼ごはんを食べようかとね。もう昼時だし、長門もどうだい?」

「…ふむ、確かにそうだな。私もご同行願おう。」

「ふふ、賑やかになりそうですね」

 にこやかに微笑む大淀。前は、疲れ果てた顔ばかりで、こんな彼女の笑顔など見られなかった。私も嬉しいーーー

 

 ーーー食堂

「いらっしゃいませ〜」

 迎えるのは鳳翔と間宮。空いている席へと案内された。

「えーっと…じゃあ、俺はカレーかな、いつも通り。」

「私は…じゃあ、日替わり定食で。長門さんは?」

「ふむ…では、唐揚げ丼の特盛りと行こうか。すまん、注文を頼みたい」

「あ、はーい!」ーーー

 

 ーーー美味い。やはり美味い!

 なんだこの幸福感は!この食堂の料理ははっきり言って美味い!それしか言えん!

「喜んでんなー、長門」

「この前もそうでしたね…」

 当然だろう。美味いのだから。

「ん?ちょっとすまん」

 提督?あぁ、通信か。おそらくは遠征中の響だろうな。席を外した提督の声が聞こえてくる。

 

  「…あぁ、あぁ。…おお、到着まであと約1時間か、ありがとう、お疲れ様。…よし、了解した、交信終了。」

 通信を切った提督が戻ってくる。

「すまん、食事中に。響たちから連絡があってな、遠征で予定以上の資源を獲得したそうで、もうすぐ帰るそうだ」

「ほう、それはよかったな。帰ったら褒美をやらんとな。」

「はは、その通りだな。じゃあ間宮さん、特別アイス六つ分を、1時間後に帰ってくる遠征艦隊に出してくれないか?」

「はい!かしこまりました!」

 ちなみに近頃この食堂は有料制になるらしい。やはり艦娘の数が増えることと、今までの無料制度は心の傷を負った艦娘たちのことを考えてだったのだろう。

「タダで食えるうちに、たくさん食っておかないとだな」

「ちゃんと有料制になっても、来てくださいよ?」

「わかってるよ。むしろこっちからどんどん行くからな」

「ふふ、ありがとうございます」

 提督と鳳翔、間宮のほのぼのとした会話である。いいものだ。深海棲艦を殲滅させ、本当に平和な日々が来れば、こんな会話も増えることだろうな。

 提督は笑顔で頭を下げ、廊下へと歩みを進めていく。

 そうだ、この際頼みたかったことを提督に頼んでおこうかーーー

 

 ーーー「あ、そうだ、提督」

 廊下に出た提督に、私は声をかけた。

「?どうした、長門」

「その…もうすぐほら、新しい仲間達もここに来るし…一応私の登録肩書きは、戦艦、となっているだろう?」

「ああ、そうだな」

「ただ、それはあくまでも肩書き。私はこの身体だから、戦えはしない…だから、私の肩書きを、用務員に変えてほしいのだが…」

 何日も迷って、ようやく出した結論だった。

 が。

「…お前はどうしたい」

「…は?いや、その私は用務員として…」

 しかし、提督は私に近づいて言った。

「実際のとこ、まだ迷ってるだろう?」

「…提督は何でもお見通し、か。流石だな」

「ここの艦娘たちのことは、よく見ているつもりではいるからね。今の長門は…さしづめ、戦艦としての自分と今のポジションのギャップ、それが恐らく迷いを生み出している。そしてそれを消そうとして、用務員になろうとしている…って感じかな?」

 …流石は提督だ。ここの艦娘たちの笑顔を取り戻しただけあるな…。

「…ご名答、といったところだ」

 ふぅ。と大きく息をつき、提督は言った。

「迷うならとことん迷えばいい。ここに新たな仲間達が来るからって、結論を急ぐ必要は何も無いんだから。な?」

 提督の微笑み。自然と優しい気持ちになれる、私の一番好きな提督の顔だ。

「…ふふ、ありがとう。分かった、提督の言う通り、ゆっくり考えておこう。答えが決まったら、また聞いてくれると嬉しい」

「もちろんだ。君の決断が決まるまで、待っているよ」ーーー

 

 ーーーそして。

 新たな仲間達の着任一週間前、私は執務室のドアをノックした。

「長門だ。今、大丈夫か?」

「ああ。入りなさい。」ーーー

 

 ーーー私は用務員として働くことを決めた。何度も話し合い、決めた結論だ。提督、そして秘書艦の響も、私を励ましてくれた。

 うむ、胸が熱いな。

 これから頑張っていこう、改めてそう思えた日だったーーー




というわけで読んでくれてありがとうございました!

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これからも頑張ります!

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