幸せになる番(ごちうさ×Charlotte) 作:森永文太郎
「へえ~そんなことあったのね」
「まあ、有宇くんすごいわね」
ある日の午後、ココアは有宇がマヤを助けた話を、ラビットハウスに遊びに来ていたシャロと千夜に話聞かせた。
「でしょ!有宇くん結構やるでしょ。だからシャロちゃんも有宇くんのこと許して欲しいな」
「なっ、べっ別に怒ってなんかないわよ!私だって初めて会った時は助けてもらったし……でもリゼ先輩に対してのあの発言は撤回してほしいっていうか……」
「まあ、確かに有宇くん口悪い所あるからね〜。でもリゼちゃん気にしてなさそうだったよ」
「リゼ先輩が気にしてなくても私は気にするの!」
すると千夜がからかうように言う。
「あらっ、私はてっきり有宇くんに、リゼちゃんが好きだってことばらされちゃったことを……」
「いうなバカァァァァァァ!!」
◆◆◆◆◆
「ということで、シャロちゃんは大変お怒りです」
有宇がバイト後の片付けを手伝っていた時だった。バイトを終えたココアに、バイト中の出来事を聞かさせたのだ。
「いや、そんな事言われても僕にどうしろってんだよ」
ていうかお怒りって、怒らせたのはどっちかというと僕じゃなくて千夜じゃないのか?
「やっぱ素直に謝ったほうがいいと思うの。元々有宇くんの言った言葉が原因だし」
「はっ、どうして僕が謝らなくちゃならないんだ。僕は事実を言ったまでだ」
「確かに私たち普通じゃないかもしれないけど、シャロちゃんは傷ついたんだからちゃんと謝らなきゃだめだよ」
普通じゃないって自覚あったのかよ……ってそういや前にも自分で言ってたな……。
「とにかく僕は謝らないぞ。女に頭を下げるなんてまっぴらゴメンだ」
「う〜んチノちゃん、有宇くん強情だよ〜!」
「ちょっ、ココアさん離れてください!仕事の片付けしてるんですから邪魔しないでください。ていうかココアさんも手伝ってください」
「うぇ〜ん、チノちゃん冷たいよ〜!」
いつものように素っ気なくチノにあしらわれるココア。この光景もここに来てから何度目だろうか?
仮にも自称姉のくせに年下に泣きつくって……こいつには年上としてのプライドはないのか?
「ですが、お二人の仲が悪いままなのは私も嫌ですね。乙坂さんはこのままでもいいんですか?」
すると、チノもまたココアのようにシャロとの関係改善について言われると、有宇は少し冷静になって考えてみることにした。
ココア達とシャロが友人なのは言わずと知れている。当然この先店に来たりするだろうし、街中で会うことだってあるかもしれない。その度にいちいちあの女に睨まれたり、突っかかってこられるのは確かにかなり面倒ではある。
「……確かにこのままじゃまずいな」
しかしかといって素直に頭下げるのも癪だしな……。
するとココアが「そういえば……」と言って有宇に尋ねる。
「有宇くん今日からコーヒーも作ってるんだよね?」
「ん、ああそうだけど?」
ここに来てもう半月ぐらいだろうか。
今まで開店までの空き時間や客からの注文がない時間を使ってマスターからコーヒーの作り方を教えてもらっていた。そして今日、初めて客に自分の作ったコーヒーを出させてもらった。
「で、それがどうした」
「明日……はシャロちゃんバイトだからえ〜と、じゃあ明後日にシャロちゃんをコーヒーでおもてなししようよ!それでシャロちゃんにご機嫌取ってもらうの!」
まぁココアにしては悪くない意見だ。要は美味い物で機嫌を取ってもらおうってことか。だがその作戦には一つ大きな問題がある。
チノもそれがわかったようで、ココアにその問題を指摘する。
「ココアさん、シャロさんはコーヒー飲めませんよ」
「あっそうだったね。えっと……じゃあジュースとかかな?」
「うちのメニューにジュースはありませんよ。作るとしたらホットココアとかでしょうか?」
そう、シャロはなんでもコーヒーを飲むとカフェインで酔ってしまうらしい。シャロ自身、そうならないようにコーヒーを飲むことを避けてるらしく、この案は使えない。いや、まてよ……。
有宇はあることを思いつく。
「いや、コーヒーでいこう」
「「ええっ!?」」
「ノンカフェインのコーヒーを作ればいいんじゃないか?それならシャロでも飲めるだろ」
最近カフェインゼロコーヒーみたいなのが流行ってるらしいし、その方が意外性もあるだろうしいいんじゃないだろうか?まぁ僕自身は飲んだことないし、よく知らないんだがな。
「おお、流石有宇くん!頭冴えてるね〜」
ココアは有宇の意見に賛成の様子だ。しかしその一方、チノの方は納得のいかない様子だった。
「なんだよチノ、なんか問題でもあるのか?」
「いえ、いいとは思うのですがノンカフェインコーヒーは普通のコーヒーより味が物足りないところがありますので……」
「要はまずいってことか?」
「不味いと言う程ではないのですが、普通の物よりは劣ると思います。シャロさんはお茶に詳しい方ですし満足はされないかと」
「そうか……」
つまり不味くてもノンカフェインコーヒーにするか、他の飲み物にするか、ということか。
「……まぁ後で考えてみる。それよりさっさと片付けるぞ。マスターがバーの準備出来なくなるしな」
「そうだね」
取り敢えずシャロの問題は後回しにして、店の後片付けを優先した。
「さて、どうするか……」
片付けを終えた後、夕食の準備はココア達に任せて、ノンカフェインコーヒーについて、部屋にあった本で調べてみることにした。
調べてみると、どうやらカフェインを抜く方法は3つあるらしい。
その内の一つは薬で抜く方法。使われてる薬は結構やばいやつのようだが、海外ではこれが主流らしい。
最も日本ではこの手の薬は禁止されているらしく、輸入もされてないため出回ってないらしい。なので日本で手に入るカフェインレスコーヒーは水、または二酸化炭素を使う方法を取っているらしい。
だがやはりこういったノンカフェインコーヒーは、主に妊婦とかのカフェインを取りすぎてはならない人でもコーヒーが飲めるようにしたものであり、カフェインを抜く過程で味が落ちてしまうのは致し方ないようだ。
まぁそこまで味にこだわらない人が飲んでも大差ないようなのだが、シャロは自分でハーブティーを育てたりする程お茶には詳しいらしい。
そういえば以前行ったフルールとかいう店もハーブティーの店だったしな。もてなす以上、やはり味で手を抜くわけにはいかない……。
それならば初めからカフェインを元から含まないコーヒーはないのかと思い探してみたが、ノンカフェインコーヒーノキを育てようという試みはあるらしいが、まだ販売には至っていないそうだ。
一応リロイと呼ばれるカフェインの量が普通のコーヒーの半分程しかないコーヒーがあるらしい。リロイは味もあのブルーマウンテンより美味いらしく、これだ!と思ったのだが、値段を調べたら百グラム一万円近くするらしく、とても居候身分の僕が手を出せるような
結局その後も打開策は見つからず、夕食の席で調べた事を二人に話した。
「そっか、でもコーヒーって本当に奥が深いんだね」
ココアは呑気に答えるが、チノは少し心配そうに有宇に問いかける。
「それで結局どうするんですか?明後日なら早く決めたほうがいいと思いますが」
「そうだな……。もうコーヒーは諦めて適当なもので誤魔化すか」
無理にノンカフェインでいくより、他に適当に作って出した方が良さそうだしな。
すると、ここでココアが目くじら立てて抗議する。
「えー!おもてなしするならちゃんとやんなきゃ駄目だよ!」
「んな事言ってもどうしようもないだろ。何か他の案でもあればいいが……」
「あ、お料理はどう?有宇くんも朝食とか夕飯作るようになってから大分お料理上手になったし、いいんじゃないかな?」
「あのなあ、確かに全く作れなかった以前と比べれば作れるようにはなったが、店のメニューとか今まで作ったような簡単なのしか作れないぞ。寧ろ普段からずっと料理してるシャロの方が上手いだろ」
「そっか……う~ん……」
有宇の言葉にココアは釈然としない様子だった。
「なんだよ」
「えっとね、本当にうまく作る必要あるのかな?って思って」
「はぁ!?あのなぁ僕が何のためにこんな事してると思ってんだよ。大体ちゃんともてなせって言ったのお前だろ」
「それは有宇くんが適当に誤魔化すなんて言うからだよ。それに仲直りするためにシャロちゃんに喜んでもらいたいんでしょ?だったら別に上手くなくたっていいんじゃないかなって。有宇くんが一生懸命誠意を込めて作った物なら、きっとシャロちゃんだって喜んでくれるはずだよ」
ココアらしいといえばココアらしい綺麗事だが、自分に敵意を持ってる相手にその理論は通じないだろう。それが通じるのは元から親交がある人間に限られる。
敵意を持たれている僕がやってもシャロには手抜きとしか思われないダロウな。
「あのなぁ、お前は単純だからそれでいいだろうけどなぁ、シャロがお前と同じように喜ぶとは限らな……」
いや待てよ?確かに要はシャロを喜ばせばいいんだよな……。
「……ああいや、確かにその通りだな」
「有宇くん?」
「乙坂さん?」
この時、有宇にはある考えが浮かんだ。
◆◆◆◆◆
「もうなんなのよ。私この後バイトなんだけど」
それから二日後、シャロを予定通り店に呼んだ。
しかしどうやらココアの勘違いでこの日もバイトがあったらしい。一応まだ少し時間もあるようなので、責任もってココアにシャロを呼びに行かせた。
「まぁまぁ、リゼちゃんがシャロちゃんにどうしても飲んでもらいたいコーヒーがあるんだって」
「えっリゼ先輩が!?……なら仕方ないわね」
そしてリゼの名に釣られてラビットハウスに行くと、ココアとシャロの二人をリゼが出迎える。
「お、来たな。シャロ、時間大丈夫か?」
「は、はい、まだ大丈夫です」
「そうか、ならよかった。待ってろすぐ作るからな」
リゼはそう言うとさっそくサイフォンの準備を始めた。
しかしそこでシャロが自分の体質のことを思い出して、リゼを呼び止め申し訳なさそうに言う。
「あっ、あのリゼ先輩、私その……この後バイトなので酔ったままだとまずいので全部は飲めないかもしれないんですけど……」
それを聞くとリゼはニコッと笑う。
「大丈夫、これならシャロも飲めるはずだから」
大丈夫?どういうことかしら……。
リゼの言葉にそんな疑問を浮かべたシャロだったが、リゼがそう言うならと、リゼを信じて大人しくコーヒーが出来上がるのを待つことにした。
しばらくしてコーヒーが出来上がる。しかし、それをカップに注いで出すのかと思えば、リゼはグラスを持ってきてその中に大量の氷を入れ、そこにコーヒーを注いだ。
更にそこにミルクとチョコシロップを加えてかき混ぜて、その上にホイップクリームを乗せて、チョコチップとココアパウダーをまぶして、最後にバナナを二切れグラスに刺して完成した。
「出来たぞ」
そう言ってリゼはシャロの前にそれを置いた。
「アイスカフェモカだ。飲んでみてくれ」
「は、はい、それでは……」
カフェモカ───コーヒー(本来であればエスプレッソを使うのが好ましい)とミルク、そしてチョコレートを混ぜた飲み物である。場合によってはチョコとミルクの代わりにココアを使う事もある。アメリカ生まれのアレンジコーヒーであり、最近だとどのチェーン店にも置いてある定番メニューである。
リゼの作るカフェモカを前に、シャロも美味しそう……とツバを飲む。しかし、やはり混ぜてあるとはいえコーヒーなので、手を付けるには抵抗感があった。
どんなにミルクやチョコシロップが入っててもコーヒーはコーヒだし……でもリゼ先輩が淹れてくれたものだし……。
シャロはカフェインへの抵抗を若干見せるも、リゼが作った物だからと覚悟を決めて口をつける。すると───
「……美味しい!それにチョコとかクリームとか入ってる割には意外に結構スッキリした味わいですし、冷たくて飲みやすいです!」
「そうか、喜んでもらえてよかったよ。最近は暑くなってきたし、冷たい飲み物がいいと思ってな。ところで体の調子は大丈夫かシャロ?」
リゼにそう言われて、シャロもハッと気が付いた。
「先輩、私酔ってません!」
「ああ、今回使ったコーヒーはデカフェナート、つまりカフェインを抜く処理をした豆を使って淹れたんだ。だけどデカフェはカフェインを抜くから風味が薄っぺらくなってしまう難点もある。けどカフェモカにすることでチョコやクリームが加わって、少しでもデカフェの味の薄っぺらさが目立たないようにしたんだ。あと今回はデカフェだからあまり関係ないけど、バナナはカフェインによる体調不良を防ぐ効果もあって、コーヒーとの飲み合わせも抜群なんだ。これならシャロも美味しいコーヒーを楽しめるし、私もシャロにコーヒーを飲んでもらえるだろ」
「先輩……!」
シャロはリゼの自分を思って作ってくれたその一杯が嬉しくて、思わず涙ぐむ。
するとリゼがシャロに言う。
「それでさシャロ、有宇のことなんだけど、許してやってくれないか?」
「え……?」
「いや、シャロが有宇と仲が良くないみたいなこと聞いたからさ」
「それは……だってあいつ、リゼ先輩に失礼なこと……」
「ありがとう、でも私は別に気にしてないよ。それにあいつ口は悪いけど根はそんなに悪いやつでもないみたいだしさ、多めに見てやってくれないか?」
「はい……リゼ先輩がそう言うなら……」
リゼに言われ一応頷くものの、シャロはまだどこか腑に落ちない様子だった。
すると、そんなシャロにリゼが続けて言う。
「実はなシャロ、今日作ったカフェモカ、あれ考えたの有宇なんだ」
「えっ?」
「だろ、有宇」
リゼにそう言われると、店の奥から有宇が姿を現した。
そしてシャロも有宇の方を向く。有宇もジッとシャロの方を見て、それから口を開く。
「……正直、今でもお前らが普通だと思えないし、僕がお前らに言ったことが間違いだったとは思わない」
「なっ!」
「けど、言い方は悪かったと少しは思う。だからその……悪かった」
有宇が謝罪を口にすると、シャロも「はぁ……」とため息を吐きながらしょうがないという風に答える。
「別に怒ってないわよ。ただリゼ先輩への態度が気になってたけど、リゼ先輩が許したならもういいわ。でも今後はリゼ先輩への言動には気をつけなさいよね」
そう言うと席を立ち戸口へと向かう。
「それじゃあ私もうバイトだから。リゼ先輩ごちそうさまでした」
ドアの前でリゼに頭をペコリと下げ、店の外へと出て行く。すると、ドアを閉める直前、有宇の方を振り返る。
「有宇、アイスカフェモカ美味しかったわ、ありがと。気を使ったつもりなんでしょうけど、今度はあんたの手で作ったやつをごちそうして頂戴」
そう言ってシャロは店を去って行った。
「有宇くん大成功だったね!」
シャロが去った後、ココアが大はしゃぎで声をかけてきた。
「アイスカフェモカとても良かったと思います」
チノもそう言って喜んでいた。
こいつら自分の事でもないのに何をそんなに喜んでいるんだ?まぁ色々協力してもらったのでその辺は感謝している。
「そうそう、あれ有宇が考えたんだよな?」
リゼがそんな事を聞いてきた。
リゼは今日この作戦の事を聞かされたばかりなので、信じられないのは当然だ。
「別に、メニューのアレンジメニューのとこ見てて、これならミルクやシロップでコーヒーの風味の落ち度を上手く誤魔化せるんじゃってないかって思っただけだ。それでマスターに色々聞いたからそれを参考にして、元々メニューにあったカフェモカに手を加えただけだ」
元々メニューにあったカフェモカは、エスプレッソとチョコシロップを混ぜ、そこにフォームドミルクを加えた地味なこの店らしいあまり飾り気のないものだった。
これはこれでコーヒーの風味が楽しめていいのだが、今回はデカフェの普通の物より劣る風味を誤魔化したかったので、このままでは使えなかった。
なのでマスターのアドバイスを基にメニューをアレンジしたのだ。
マスターのアドバイスによると、気候も大分暖かくなってきたし、アイスにした方がカフェモカのすっきりとした味わいにも合うとのことなので、ホットではなくアイスで出した。
マスターから貰ったこれらのアドバイス、そしてシアトル系カフェとかのメニューなどを参考にして、今回のアイスカフェモカは出来上がった。
するとココアが有宇に疑問を投げかけた。
「でも有宇くん、美味しいコーヒー出せたのになんでシャロちゃんに謝ったの?謝りたくないから頑張ってたんじゃないの?」
「僕はあくまで自分が全面的に悪いみたいになるのが嫌だっただけだ。それに、どんなに機嫌を取っても謝罪なしに打ち解けるのは無理だろうしな」
「でもそれだったらそのまま謝るのじゃダメなの?」
「いや、そのまま自分の非を認めないまま謝っても、そんなの逆に怒らせるだけだろ。それに人間、心理的に何か食べたり飲んだりしてる時が一番物を頼みやすかったり、謝罪を受け入れやすかったりすんだよ。だから美味いものである程度機嫌を取る必要があった」
「へ~。でもそれだったらなんで自分でやらずにリゼちゃんに作らせたの?」
「ああ、だってお前言ってただろ?気持ちが篭ってればシャロも喜ぶって。それを聞いて思ったんだ。要は喜ばせばいいんだって。だからシャロを喜ばすためには別に僕じゃなくてもいいんだって思ったんだ。シャロに許しを請うにも僕じゃ難しいだろうが、リゼが仲介してくれたら簡単だろうと思ってな」
だから敢えて僕ではなく、リゼにシャロをもてなさせた。その方があいつもリゼのコーヒーを飲めるって喜んで機嫌を良くするだろうしな。
かと言って流石に何もしないとまずいので、その分アイスカフェモカ作りに手を焼いた。まぁ手を焼いたと言っても、マスターに教わったアドバイスを基に色々試して、チノとココアに毒見させただけだけどな。
何はともあれこれでシャロとの問題は片付いたと見ていいだろう。
「私そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな……」
ココアは自分の意見を捻じ曲がった受け取り方をされた事が不服のようだ。
「相変わらず捻くれてるなお前……」
リゼもココアと同じく、呆れたように言う。
「ほっとけ」
別にこれで無事に済んだんだからいいだろ。
因みに「ところでなんで私が作るとシャロが喜ぶんだ?」とリゼがそんな疑問を口にしたが、それは流石にシャロのためにノーコメントとさせてもらった。
「まぁとにかくこれで済んだことだし仕事に戻るか」
「え〜私もアイスカフェモカ飲んでみた〜い」
「いや、お前とチノには昨日さんざん毒味で飲ませただろ」
「私もまた飲みたいです」
「チノまで!?」
「私も飲んでみたいな。まだ自分じゃ飲んでないし。手伝ってやったんだからいいだろ?」
「うっ……」
こいつもかよ。
しかし手伝わせた以上文句は言えないしな……。
その時、鈴の音と共にドアが開いた。
「ほら、客が来たし仕事に戻るぞ。いらっしゃいま……」
「有宇くんバリスタデビューしたって聞いて来ちゃった!」
「せ……」
来たのは客ではなく千夜だった。いや、客と言えば客ではあるのだが……。
有宇は思わず絶句する。
「あっ千夜ちゃんいらっしゃい!今から有宇くんがアイスカフェモカ作ってくれるんだけど千夜ちゃんもどう?」
「まぁ、最近少し暑くなってきたし調度いいわね。有宇くん、私にもアイスカフェモカくださいな」
「ココア、今日はシャロだけ呼ぶって言ったよな……」
「うん、呼んでないよ。ただ有宇くんがコーヒー作れるようになったよって言っただけだよ」
いや、そんな事言ったら来るだろ間違いなく。
「それより有宇くん、アイスカフェモカお願いね♪」
「……はぁ」
客も他にいないしまぁいいか。マスターに怒られるようならこいつらに無理やりやらされたって言えばいいか。
それに───
「ん〜美味しいね!」
「美味しいです」
「夏のメニューとして出していいかもな」
「美味しいわね〜」
自分で作った物を美味いと言われるのは、何というか悪い気はしないしな……。