幸せになる番(ごちうさ×Charlotte)   作:森永文太郎

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第26話、二度目の邂逅

クソッまさか本当に強盗犯がうちに来るとは……。

強盗の登場に流石の有宇も焦っていた。

本当に強盗犯がうちにくるなんて思ってもいなかったのだ。

それにまだ強盗犯のことを知ってから昨日の今日だぞ、対策なんかまるで出来ていない。

防犯カメラの取り付けも、まだリゼがリゼの親父と掛け合ってる段階で、当然まだ店には付いていない。

しかもその事を話し合うために、マスターも今店を空けてしまっている。

そして店にいる客達が「キャー!!」と叫び声を上げる。

 

「静かにしろ!ぶっ殺されてぇのか!」

 

強盗が客に威嚇する。

すると客達もピタリと声を上げるのを止める。

だがみんな恐怖に怯えている様子だ。

 

「なになに、なんの騒ぎ?」

 

すると奥でパンを焼き上げていたココアがホールに顔を出す。

 

「ばか!来るな!」

 

「え?」

 

すると強盗はココアにナイフを向ける。

 

「そこの女、両手を後ろに回せ。他の連中もだ。早くしろ!」

 

「えっ、強盗!?うそっ!?」

 

クソッ、犯人は奥にいたココアに気づいていなかったから、ココアが奥にそのままいてくれたら警察に電話することが出来ただろうに……。

しかしそれを今更言っても仕方がない。

取り敢えずその場にいた客を含め、僕ら全員、犯人の指示通り、頭の後ろに手を回した。

おそらく犯人は携帯などで写真を撮られることを恐れているのだろう。

手を上に上げさせておけば、写真を撮るような動作をした瞬間すぐバレるからな。

これは普通に考えたら打つ手なしだな。

するとチノがリゼにコソコソなにか話をしているのが見える。

 

(リゼさん、いつもの銃で犯人を撃てないんですか?)

 

(私の銃はモデルガンだ。致命傷には出来ない。それに、それで犯人を下手に刺激すると客にも被害が出る可能性がある)

 

(そんな……!)

 

顔つきからして、おそらく打開策はないといったところだろうか。

それにこの犯人がリゼのいう通り汚染系の能力者であった場合、能力とは別に身体能力が常人の10倍はあるということになる。

なので不良数人を相手取れるリゼであっても、流石にこの男を倒すのは無理があるだろう。

仮に汚染系能力者じゃなかったとしても可能性としてある以上、下手な行動は取れないだろうしな。

すると犯人は再び有宇にナイフを向ける。

 

「おいお前、レジの金をこの袋に詰めろ。早くやれ!」

 

そう言うと犯人は自分のバックからそこそこの大きさの袋を取り出し有宇に渡す。

このまま金を渡せば今までの事件からして、おそらくこいつはこのまま店を出てくれるだろう。

そうなればひとまず僕らは助かる……だが、取られたお金はもう戻ってこないだろう。

手がないわけじゃない……だが、ここでその手を使うのはリスクが高い。

 

 

 

 

 

打開策というのは当然僕の能力のことだ。

僕の持つ超能力を使ってこの男に乗り移れれば、おそらくこの状況を打開できるはずだ。

しかしそうすると、この店のどこかにある盗聴器からここの状況を盗み聞きしてるリゼの親父達ガーディアンに、僕が能力者であることがバレる可能性が非常に高い。

そうなれば僕は兵士にされるか、記憶を消されるか、数年に渡って監視されるか、いや、もし本当にガーディアンが友利達のいう科学者であるなら人体実験用のモルモットにされるかもしれない。

 

更に以前、僕の能力をリゼの親父に使ったとき、僕の能力はリゼの親父には効かなかった。

もしかしたら能力者には、僕の能力は効かないのかもしれない。

そうなると当然、目の前の男にも僕の能力が通用しない可能性がある。

 

つまり能力を使うにしても効かない可能性があり、尚且つリスクが高いということだ。

どうする……店の為に能力を使うか、それとも……自分が助かるために店の金を素直に渡すか……。

有宇は頭を悩ませた。どちらが最善の選択なのかを。

いや、何を迷ってるんだ僕は!

自分の命の方が大事に決まってるだろうが!

ここで金を渡したって、流石にこの状況で僕を責める奴はいないだろ。

なら別に金を渡したって……。

その瞬間、有宇の頭に、ここ最近の出来事が走馬灯の如く駆け巡った─────

 

 

 

 

 

店を繁盛させるためにココア達と案を出し合ったこと、学割サービスの開始、ホームページ作成、PV作成、そして苦労して実現した念願の甘兎とのコラボ。

その苦労の日々が有宇の頭の中を駆け巡った。

今日だってそのおかげもあってか、客入りも以前より良くなっている。

だが、そうして僕達が苦労して積み上げた物を一瞬で、しかもこんな奴に奪われるのか?

それが仕方ないだと……ふざけるな!

気がつけば有宇はキッと強盗犯を睨みつけていた。

 

「あ゛っ?どうした。さっさと袋に金を入れろよ。殺されてぇのか?」

 

強盗犯はいつまでも金を詰めようとしない有宇に、再び金を詰めるよう要求する。

だがもう有宇に、そんな事をするつもりは毛頭なかった。

一か八かだ、これでダメなら諦めて大人しくレジの金をこいつに渡す。

そして仮に成功してこの先ガーディアンか科学者に見つかるようなことになったなら、リゼでも友利でも頼れるものに頼りまくって逃げきってやればいいさ。

そして有宇は遂に強盗犯に能力を使った。

 

(よし、成功だ!)

 

見事、強盗犯に乗り移ることに成功したようだ。

 

「有宇くん!?」

 

「お兄さん!?」

 

するとココアとチノが突然声を上げた。

なんてことは無い、能力を使って無防備になった僕の体が床に倒れただけだった。

そういえばココアとチノは僕が能力を使うのを見るのは初めてだっけ。

しかしココアはそうとも知らずに僕の体に駆け寄り、必死に僕の体に声をかけ続けていた。

 

「どうしたの有宇くん!?もしかして刺されたの!?ねぇ、しっかりして有宇くん!!ねぇってば!!」

 

少し悪いことをした気もするが、この状況だし説明してる暇はない。

五秒しかないし、とっととやることだけやっておこう。

このまま太ももにナイフを思い切り刺すのも悪くないが、それは周りから見ても不自然過ぎる行動だ。

ガーディアンにバレないためにも、自然な感じで犯人を無力化する必要がある。

そこで有宇は乗り移ったまま思いっきり叫び声を上げる。

 

「うるせぇよ!!いいからさっさと金出せよぉぉぉぉぉ!!」

 

そして思い切りナイフを振り回す。

勿論周りに当たらないように慎重にだ。

そして振り回したナイフがあたかもすっぽ抜けたかのように、誰にも当たらないようにナイフを放り投げる。

そしてそこで五秒が経過し、意識が自分の体に戻った。

体に意識が戻ると有宇は倒れた自分の体を起こし、犯人の様子を見る。

 

「あれ?なんか今意識が……ってええ!!俺のナイフはどこに!?」

 

犯人も戸惑っている。

捕まえるなら今だ!

すると突然、ココアが思い切り抱きついてきた。

 

「有宇くん……!目が覚めて良かった!本当に良かったよ!」

 

「ぐえっ!……ぐ、ぐるしい……!離れろ……」

 

「あ、ごめんね」

 

そしてココアは有宇を解放する。

するとその隙に犯人が、脅す手段を失ってそのまま逃げようとする。

 

「くそっ、逃げられる!リゼ!」

 

「あぁ、任せろ!」

 

リゼに声をかけると、リゼはポケットからいつもの銃を取り出し、犯人に向けて数発撃つ。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

 

見事全弾犯人に命中するものの、犯人は痛みをこらえてそのまま店の外まで逃げてしまった。

 

「仕方ない……リゼ、僕と一緒に来い!ココア、チノ、お前らは警察に連絡を!」

 

「あぁ、わかった」

 

「う、うん」

 

「わ、わかりました」

 

そして有宇とリゼは、犯人を追いかけに走って外に出た。

有宇達が店を出て行くと、チノの頭の上にいたティッピーもチノの頭から飛び上がる。

 

『ワシも行くぞ!どりゃぁぁぁぁぁ!』

 

「お祖父ちゃん!?」

 

そしてそのままティッピーも店の外へ出ていってしまった。

 

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……クソッ、足速えなあいつ」

 

「そうだな、でもそれにしたってお前、体力ないよな」

 

「うっせぇ……」

 

外に出た有宇達は犯人の後を追っているのだが、中々足が早く追いつけない。

既に犯人との距離はそれなりに離れていた。

そして遠くの方で曲がり角を曲がっていくのが見えた。

僕達もその曲がり角を曲がった。

しかしそこは道幅の広い路地で人も多く、もう犯人の姿は見えなかった。

 

「クソッ、見失ったか!」

 

「諦めるのはまだ早い。まだ私達にあいつの記憶が残っているうちは探してみよう」

 

「あ、あぁ……」

 

あぁ、そういえばまだ強盗犯の記憶消えてないな。

能力を使えば逃げ切れるはずなのに、なんで使わないんだ?

 

 

 

 

 

「それじゃあ有宇はまだこの辺りを捜索してくれ。まだ奴が潜伏してる可能性がある。私はもっと遠くの方に行ってみる」

 

「あぁ、わかった」

 

広範囲の捜索のため、ここは二人で手分けして強盗犯を探すことにした。

 

「そうだ、これを渡しておこう」

 

そういってリゼは、僕にモデルガンを渡してきた。

 

「撃つときは脇を締めて両手で構えろよ」

 

いつもだったら断るところだが、今回に至っては使えそうなので素直に借りておく。

 

「あぁ、サンキュー」

 

「よし、じゃあお互い、健闘を祈る」

 

そう言い残してリゼは走り去っていった。

さて、僕も捜索するか……しかしなんか妙だよな。

有宇にはあることが引っかかっていた。

確かに犯人と僕達とでは、それなりに距離は離れていたとはいえ、こうも簡単に見失うものか?

だとしたらまだこの辺りに潜伏しているのか?

いや、でもこんな夏の日にグラサンとマスクなんてしてる奴がいたら普通気づくはず……いや、待てよ。

有宇は何かに気づいた。

そうか……そういうことか。

 

 

 

 

 

はぁ……はぁ……なんなんだよあの店は……。

強盗犯の少年は今非常に焦っていた。

いつの間にかナイフがなくなって、能力使って逃げようとしたら何故か能力使えないし、何がどうなってるんだ。

まぁ、でもなんとか撒けたようだし、取り敢えずは……。

すると後ろから見知った男が現れた。

うっ嘘だろ……。

 

「見つけたぞ、強盗」

 

そこにいたのは、先程強盗に失敗した店の店員だった。

 

 

 

 

 

「ご、強盗?なんのことかなぁ……」

 

目の前にいる男は、白い半袖Tシャツを着て、スポーツバックを持つごく普通の高校生といった感じで、ぱっと見、強盗をするようには見えない。

だがこの男が強盗犯なのは間違いない。

 

「とぼけても無駄だ。パーカーの下の服も、そしてグラサンとマスクで隠した素顔を僕らは知らない。だから撒けるとでも思ったんだろうがそうはいくか。例え格好を誤魔化せてもそのバッグは隠せないからなぁ」

 

「なっ!?」

 

グラサン、マスク、黒パーカーという格好をしていたのは、おそらく念には念を入れてのことだろう。

いざという時には逃走の途中でグラサンとマスクを外し、パーカーを脱いでやり過ごすつもりだったのだろう。

どこまでも用意周到なことだ。

だがまだ爪が甘い。

ナイフや金を入れる袋、そして黒パーカーを入れるスポーツバッグは隠すことは出来ないからな。

バッグには色々と証拠になるもんが入ってるし、何処かに置いておくわけにもいかない。

だから犯人は絶対にバッグを持ち歩いているはずと思い、同じバッグを持ってる人間を探したのだ。

 

「大人しく観念しろ。どの道お前はもう逃げられないぞ」

 

しかし、強盗はまだ観念するつもりがないらしく、また走って逃げ出した。

 

「待て!」

 

そして再び強盗との追いかけっこが始まる。

どこまでも諦めの悪い奴だ。

 

「くそっ……なんでこんな事に……能力さえ使えたらこんな事には……」

 

強盗が何かぶつぶつ呟いているが、よく聞こえない。

すると左の方に小さい細い路地が見えた。

確かあそこの先は行き止まりのはずだ。

あそこに追い込めれば、今度こそ捕まえられるはず……ならば!

有宇は再び犯人に能力を使う。

そして犯人に乗り移ると、そのまま小さい路地に入る。

体に意識が戻ると、僕もすぐにその路地に入っていく。

路地に入ると、行き止まりの前で犯人が立ち往生していた。

 

「ここまでだ、大人しくしろ」

 

そして犯人がこちらを振り向く。

 

「お前……なんなんだよ……一体何なんだよぉ!」

 

すると突然、強盗は有宇に掴みかかってくる。

しかしこの程度であれば、能力を使うまでもない。

有宇はポケットからリゼから借りたモデルガンを取り出し、犯人に向け容赦なく撃つ。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

さっき見たときもそうだが、モデルガンとはいえ大分改造されてるなこれ。

多分相当痛いだろうな。

そしてそのまま犯人の後ろに回り、そのまま押し倒し取り押さえる。

 

「くそっ!くそっ!」

 

だが犯人は体を取り押さえられてるこの状況においても未だに諦める気がないのか、暴れてこの状況から抜け出そうとする。

 

「くそっ、これじゃあ警察が呼べないじゃないか」

 

両手で抑えないと今にも逃げ出しそうで、片手を離す余裕がない。

これじゃあ電話がかけられない。

するとその時、向こうから白いフワフワした物がやって来るのが見えた。

それがだんだん近づいてくる。

目を凝らして見てみると、何かと思えばうちで飼ってるあの毛玉うさぎだった。

 

「毛玉!?お前なんでここに……?」

 

すると毛玉うさぎは暴れる犯人の頭の上に乗っかり、ドスンドスンと飛び跳ね始めた。

 

「ぐわっ!何だこのうさぎ!くそっ……」

 

毛玉うさぎが暴れてるせいか、犯人の方も暴れられないでいる。

なんだかよくわからんが、ナイスだ毛玉!

よし、今のうちに電話を……。

 

「おや、こんな所にいたんですか。探しましたよ」

 

すると突然、女の声がした。

一瞬その声を聞いてココアかと思い顔を上げてみたのだが、そこにいたのはココアではなかった。

 

「お前……友利!?なんでここに!?」

 

「どうも、お久しぶりです。なんでと言われると、以前そちらのお店で見かけたうさぎがいたので、届けてあげようと思ってうさぎの後を付いて行ったら、ここに導かれたので」

 

友利奈緒───星ノ海学園の生徒会長。

能力者を保護する活動をしており、それで以前僕に接触してきた女だ。

というか、僕が聞きたいのはそういうことではなく、どうしてまたこの街に……?

いや、それよりも今は警察だ。

この女の相手をしてる暇はない。

 

「悪いが用があるなら後にしてくれ。今はそれどころじゃない」

 

「いえ、今回は貴方に用があって来た訳じゃありません」

 

「なに!?」

 

僕に用がないだと?

なら一体こいつは何しに……。

 

「まぁ、ですが貴方にもたった今用ができました」

 

「……どういう意味だ?」

 

「単刀直入に言いましょう。今貴方が取り押さえているその男をこちらに引き渡してください」

 

「なに!?」

 

「その男は特殊能力者です。他人の自分に関する記憶を消せる能力を彼は保有しています。もっとも、一度能力を使った相手には効かないようですが……。ですので、彼を我々の学園で保護します」

 

つまり、今回友利はこの男を保護しにこの街に来たというわけか。

不完全な能力から察するに、この強盗犯はリゼの言う汚染系の能力者などではなく、初めから僕の見立て通り、僕や友利と同じタイプの能力者だったみたいだな。

だから僕同様、この男も友利たち星ノ海学園の保護対象であり、保護しに来たということか。

しかし、今回に限っては大人しく「はいそうですか」と引き下がるつもりはない。

 

「断る!こいつは犯罪者だぞ!こんな奴を保護する必要がどこにある!科学者に捕まろうがどうなろうが、こいつの自業自得じゃないか!」

 

そう、こいつは今まで色んな店を襲って金を巻き上げた正真正銘のクズ野郎だ。

こいつのせいで酷い目にあった人間がどれだけいると思う。

こんな奴を守る必要がどこにあるというんだ。

すると友利は少し目を細め、冷ややかな声で言う。

 

「それを貴方が言うんですか。元カンニング魔である貴方が」

 

その言葉に有宇は動揺する。

 

「それは……」

 

何も言い返せなかった。

法に違反していないとはいえ、カンニングだって褒められた行為じゃない。

考えてみればこの男と僕とでは、行った行為の程度の差があるだけで、能力を悪用したと言う意味では僕もこいつも同じ悪人なのだから。

有宇が黙り込んでしまうと、友利も有宇が何を考えてるのかを察した様で、有宇の意見を踏まえた上で話を続ける。

 

「まぁ、確かに貴方の言う通り彼は犯罪者です。本来であれば警察に捕まって然るべき罰を受けるのが当然です。ですが、彼がこのまま捕まってしまうと、彼は科学者の実験体にされてしまいます。そうなると、彼は不当に重い罰を受けてしまうことになります。ですので、我々は彼を保護しなくてはならないんです」

 

この男がこのまま捕まれば、この男は本来受ける刑罰より重い罰を受けることになるということか。

科学者に捕まればほぼ死刑みたいなもんだろうし、重い罰といえなくもないだろう。

つまり、本来受けるであろう刑罰ではなく、化学者による人体実験という不当な裁きを受けさせないよう、その為に友利達はこの男を保護するというのだ。

納得はできないが、僕自身も同じ立場の人間として否定することは出来なかった。

 

「勿論彼にはうちに来た後、特別な更生プログラムを受けてもらいます。自由も他の生徒より制限されることになります。ですので、彼の身柄をどうか我々に預けてはくれませんかね?」

 

「……わかったよ。お前らに任せる」

 

そして有宇は男から手を離し、男の体から退いた。

男はあまりよくわかっていない様子だが、逃げれると思ったのか、そのまま立ち上がり笑顔を浮かべていた。

正直悔しい……。

僕達の苦労を踏みにじろうとしたこの男を捕まえられないなんて……。

 

「クソッ……能力を使う危険まで犯して捕まえたというのに……」

 

すると、それを聞いた友利は深刻そうな表情を浮かべる。

 

「今なんて……?能力を使ったんですか!?」

 

しまった、そういえば能力を使わないよう厳命されていたんだった。

つい悔しさのあまり、吐露してしまった……。

だがあの状況は危機的状況ともいえる状況だったし、仕方ないだろう。

 

「あぁ、そうだよ。お前との約束を破ってこいつに乗り移った。でも仕方なかっただろ?ナイフ向けられてたし……あのままじゃ下手すりゃ僕の命も危なかったし……だから……」

 

「そうですか……」

 

すると友利は有宇の言い訳に対して怒るでもなく、何かを考え始めた。

そして強盗犯の方を一瞥すると、男を有宇の方に軽く突き飛ばした。

 

「何しやがる!てめぇ、俺を守ってくれるんじゃなかったのか!」

 

「事情が変わりました。貴方を保護する必要はもうなくなりました。ですので、大人しく警察に投降してください」

 

「は!?どういうことだよ!なぁ、おい!」

 

「それでは乙坂さん、あとは頼みます」

 

「え?」

 

なんだ突然?

警察に突き出していいのか?

すると強盗犯は激昂した。

 

「ふ……ふざけんなぁ!この女ぁ!」

 

男は背を向けた友利に襲いかかる。

 

「危ない!」

 

すると友利は横にすっと避けた。

だがそれぐらいじゃ犯人の攻撃はかわせないはず!

するとどうしたことか、男の拳は友利ではなく、友利が元いた場所の空を切った。

外した!?でも何故!?

すると友利は男の腹を思いっ切り回し蹴りした。

 

「ガハッ!」

 

そして最後に男の顎を思い切り蹴り上げた。

 

「グッ……!」

 

そして男は地面に突っ伏して倒れた。

すげぇ……こいつ強いな……。

にしてもなんで男は一方的に友利に殴られていたんだろう。

さっきのパンチだって、別にそんな急に友利が避けたわけじゃなかったし、当てようと思えば当てられたはずだが……。

そこで有宇は思い出す。

そうか……透明化か。

友利の能力は一人の対象から見えなくなる能力。

つまり、男には友利が殴る直前から見えておらず、第三者である僕からは見えていたということか。

有宇が感心していると、友利が声をかけてくる。

 

「それでは乙坂さん、後は任せます」

 

「あ、あぁ……」

 

そして友利はそのまま立ち去ってしまった。

一体何なんだったんだあいつは……。

 

 

 

 

 

友利が立ち去った後、僕は警察に電話し、縛るものもなかったので、男を取り押さえた状態で毛玉うさぎと警察が来るまで待機していた。

するとその間、男が嗚咽を漏らしていた。

 

「クソッ……俺はただ……この特別な力を利用して何か出来ないかと思っただけなのに……!」

 

それを聞いてなんともいえない気持ちになった。

僕も同じだった。

僕も最初、この身に宿った力を何かに利用できないかと思い色々と模索した。

当然それは他人のためなどではなく自分のため。

そしてそれらは到底褒められた使い方じゃなかった。

カンニングに使う前は女の下着を覗いたり、ムカついた奴に乗り移って憂さ晴らしをしたり……どれも碌な使い道じゃない。

もし、僕に宿った力が五秒しか乗り移れないこんなしょぼい能力じゃなく、この男みたいに犯罪に使える力だったら……間違いなく僕は犯罪に手を染めていただろう。

そして僕もこの男のように……最後は誰かに取り押さえられながら泣くことになっていたのかもしれない────

 

 

 

 

 

数分後、警察が駆けつけ男の身柄を引き渡した。

にしてもこれで、こいつは科学者のモルモットになるのか……。

そう考えると自業自得とはいえ、流石に可哀想になってきたな。

かといって僕には何もできないし……。

友利は何故、急に男を保護するのをやめたんだろうか……?

それから警察に事情聴取され、事件が起きたときはまだ昼だったのに、警察から解放された頃にはもう日が暮れていた。

そしてラビットハウスに帰るため毛玉うさぎを抱えながら歩いていると、ポストの前でココアと出会った。

 

「あ、有宇くん!無事だったんだね!ティッピーも無事みたいで良かったよ!」

 

「あぁ……まぁな。お前は何してんだ?」

 

「有宇くん警察で事情聴取されてるっていうから、代わりに買い物。あとついでにお姉ちゃんに手紙出してたの。有宇くんがやって来てからそういえばまだ一度も出してなかったなって思って」

 

「……そうか」

 

「あれ?なんか元気ない?」

 

「いや、何でもない……」

 

「そう?なんかあったら言ってね。お姉ちゃん相談に乗るから」

 

「……あぁ」

 

気持ちはありがたいが、相談は出来ない。

ココアには、能力のことは話せないから……。

 

「よし、じゃあ帰ろっか!みんな有宇くんのこと待ってるよ!」

 

そしてココアと共にラビットハウスへ帰ることとなった。

 

 

 

 

 

店に帰ると、チノとリゼが出迎えてくれた。

 

「おっ、噂をすれば、おかえり有宇!」

 

「お兄さん、お帰りなさい」

 

「……あぁ、ただいま」

 

そして店には何故かチノとリゼだけでなく、千夜とシャロ、マヤとメグもいた。

 

「お帰りなさい、有宇くん凄いわね〜」

 

「本当、強盗を捕まえるなんて大したものね」

 

「さっすが有宇にぃ!有宇にぃの催眠術は本物だね!」

 

「私もお兄さんの活躍見てみたかったな〜」

 

どうやらみんな強盗に入られたことを聞いてやって来たみたいだな。

そしてみんな、強盗を捕まえた僕のことを賞賛してくれていた。

そして一緒に帰ってきたココアも言う。

 

「本当有宇くんは凄いね!やっぱお姉ちゃんの自慢の弟だよ!」

 

「ココアさんも少しは自慢できる姉になってください」

 

「ガーン!あ、でもお姉ちゃんとしては見てくれてるんだね♪」

 

「ち、違います……!別にそんなんじゃありません!」

 

「もう、照れなくていいのに〜」

 

するとみんながココアとチノの様子を見て笑い声を上げる。

いつもの日常、いつものラビットハウス……もし能力を使わなかったらここを守ることは出来なかっただろう。

だから能力を使ったことに対して後悔は特にない。

けど、僕はたまたまあの強盗犯のように犯罪に使える能力じゃなかったから、ただのチンケなカンニング魔程度で留まっている。

もし僕があの強盗犯と同じ力を持っていたら、ここに押し入ってきたのはあの男じゃなくて僕だったかもしれない。

そう考えたら、そんな僕がこいつらから賞賛されてもいいのかという違和感を感じざるには得なかった。

 

「有宇くん……?どうしたの?」

 

「……なんでもない。ちょっと部屋で休む」

 

そして有宇は一人、自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

夜、風呂を終えた僕はバルコニーに来ていた。

今日はなんだかあいつらも気を使ってくれたらしく、いつも風呂は僕が最後なのだが、今日は先に風呂に入らせてくれた。

あいつらなりに僕を気遣ってくれたのだろうか……。

 

『なんじゃ、何か悩み事か?』

 

「えっ……」

 

声がして振り返ると誰もいない。

今のは確かチノの腹話術の声だったはずだが……。

 

『こっちじゃこっち、下じゃ下』

 

そして声の言う通りに下を向くと、そこにいたのはうちで飼ってる毛玉うさぎだった。

 

『ようやく気づいたか』

 

「うわぁっ!!」

 

思わず驚いて腰を抜かしてしまう。

ていうか今……。

 

「しゃ……喋った?」

 

『驚くことでもないじゃろ。お主、大分前からワシを怪しんでおったではないか』

 

それは確かにそうだが……。

あのチノからあんな渋い声が出るなんて不自然だし、それに独り言も多かった。

だから怪しいと思ったことは何度もあるが、でもまさか本当にうさぎが喋るなんて思わないだろ普通。

 

「お前……毛玉なのか?」

 

『うむ、じゃがワシがティッピーかといえばそうではないがの』

 

そういえば毛玉って確かメスだもんな。

メスなのにジジイの声してるのは変だよな。

 

「じゃあ、お前は一体……」

 

『ワシはチノの祖父じゃ。この店のマスターじゃよ』

 

チノの祖父!?

チノの祖父ってことはつまり、この店を建てた先代マスターだよな……。

でもチノの祖父って確かココアが来る一年前……つまり僕が来る二年前に亡くなったはずだが……。

 

『それよりお主、悩みがあるようじゃの。ワシでよければ相談に乗ってやろう』

 

「えっ!?えっと……じゃあ」

 

そして何故か有宇は自分の悩みを毛玉うさぎに話していた。

 

 

 

 

 

「僕には……その、タカヒロさんと同じような特殊な力がある。視認した相手に五秒間乗り移れる力が。僕はその力を使って過去にカンニングを繰り返した」

 

『なるほど、お主がカンニングの方法を企業秘密だとか言ってたのはそういうことじゃったか』

 

「あぁ……。それでアンタも今日見てたならわかるだろうが、あの強盗犯にも特殊な力があった。その力を使って自分に関する記憶を消していたようだ。だから……もし僕に宿った力があの強盗犯と同じだったら、僕も同じことをしただろうって。そう考えたら、そんな僕があいつらに賞賛されるような立場じゃないだろって思って……」

 

『なるほどのぉ……お主なりに過去の過ちを反省してるといったところか。それはとてもいいことじゃ。しかしなぁ小僧、お主がどんなに反省しようとも、お主の罪が完全に償われる日なんぞ来やせんぞ』

 

「えっ……?」

 

『そもそもお主のカンニングなどの行為で被害を被った人間なんて何人いると思っとる。お主はその全てに頭でも下げに行く気か?』

 

「いや……それは……」

 

そんな事できない。

一番迷惑をかけたであろう白柳さんとかには、いずれ話し合わなければならない日が来るかもしれない。

けど、正直僕ですら把握できてないような被害者だっているはずだ。

それこそ以前タカヒロさんが言ったように、僕が陽野森の合格枠を取ったことで落ちた受験生やら、受験の関係者、カンニングをする為に乗り移った人間……それら全ての人間に頭を下げるなんてことはできない。

 

『ちょっとした悪事であってもなぁ小僧、それで実際に迷惑する人間はお主の思っとる以上にいる時だってあるんじゃ。じゃから、お主自身の中で折り合いを付けて、反省していかねばならん』

 

「けど、そんなのただ開き直ってるだけじゃないか!僕は、もうそういうのは……」

 

『開き直って何が悪い。それこそ、過去ばかりに固執し、前に進めぬ方がワシは問題だと思うんじゃがのぉ』

 

「けど……」

 

『ワシは別に、お主が犯した罪を忘れろとは言っておらん。ただお主が本当に心から十分反省し、同じ過ちを繰り返さぬとお主自身に誓えるなら、もう気にする必要はないというておる。過去に囚われずに自信を持て。そして好きなだけカッコつけていけばよい。男がプライドを失ったらお終いじゃぞ?お主はそういうのは得意のはずじゃが』

 

「得意って……そりゃ僕はカッコイイしイケてると思うが……それとこれとは……」

 

『少なくともワシも、そしてチノ達も、お主がまた同じ過ちを犯すなどとは思っておらん。お主は、また自分が同じ事をしない自信がないのか?』

 

「そんな事はない!もう……あんな事はしない……」

 

カンニングがバレてから本当に酷い目にあった。

今まで築き上げてきた信頼は崩れ、歩未と離れ離れになり、家すらも失い……運良く居候先が見つかったとはいえ、もうあんな事になるのはゴメンだ。

 

『なら胸を張れ!いつまでも過去の過ちやもしもの事なんぞにうじうじするでない鬱陶しい!だから、あの娘達の信頼を素直に受け取ってやらんか』

 

「……あぁ」

 

気に……し過ぎていたのか、僕は。

そうだな……僕らしくもない。

シャロにも言われたじゃないか、僕から自信を取り除いたら何が残るんだって。

勿論、僕がしてきた事と向き合わなければならない場面はこれから先もあるだろう。

でもそれで不安になって、周りに心配かけるようじゃ本末転倒というものだろう。

なら、今は少し開き直らせて貰おうか……。

 

「えっと……ありがとう、爺さん」

 

『なに、年寄りのお節介じゃ。気にするでない』

 

そういや青山さんも昔、この爺さんに相談に乗ってもらったりしてたんだっけ。

今まで聞いた話からだと、へんつくなジジイとしか思っていなかったけど、今なら青山さんがこの爺さんを慕う気持ちもわからんでもない。

 

『それより小僧、ちょっと聞きたいんじゃが』

 

「なんだ?」

 

『……あの星ノ海学園とはなんじゃ。お主はあ奴らとどういう関係じゃ』

 

「……なるほど、初めからそれを聞きたかったってわけか」

 

『で、どうなんじゃ?』

 

今日爺さんには友利とのやり取りを見られている。

あのやり取りで能力者に関わる組織というのはわかってるだろう。

そして爺さんは、かつて自分の息子───タカヒロさんを同じ能力者の組織、ガーディアンに徴兵されたことがある。

だからもし星ノ海学園がガーディアンと同じような組織で、僕がそこの人間だったら、今の生活が壊れることになると思ったのだろう。

そうなればココアやチノにも危険が及ぶと思ったから。だから今になって秘密を明かすことを覚悟して僕に接触してきたのだろう。

まぁ、だがおそらくここは素直に話してもいいだろう。

この人は少なくともガーディアンの味方ではないはずだから。

 

「あいつらは能力者を保護する組織なんだ。それでずっと前に僕に接触してきた。別に怪しい組織じゃない。僕も全容を知ってるわけじゃないが、少なくともガーディアンのような営利組織ではないはずだ」

 

そう簡単には信じえもらえないか……?と思ったが、爺さんはこう答えた。

 

『ふむ……そうか。まぁ、そういうことならいいじゃろ』

 

意外にも案外素直に信じてくれた。

わざわざ正体明かしてまで聞いてくるぐらいだからもう少し用心深いものかと思ってたんだが……。

 

「信じるのか?」

 

『今のお主が嘘をつくとは思えぬ。それにワシもあの場にいたしのぅ。あの友利とかいう小娘が能力者を保護するというのはちゃんと聞いていた。だが万が一のために一応お主に聞いてみただけじゃ』

 

あぁ、そりゃそうか。

あの場にいたなら、あの強盗犯を保護する云々の話も聞いていたわけダモンな。

なんにせよ、疑われないに超したことはない。

信じてもらえたならそれでいいか。

 

『にしてもお主、あまりガーディアンの名を口に出すんではないぞ。あ奴らはお主の思っとる以上に危険な連中じゃ……』

 

「あぁ、そんなのわかって……しまった!」

 

そうだ、盗聴器!

確かこの店に仕掛けられてるとかなんとか。

不味い!普通に能力のこととか話してしまった!

 

『盗聴器の心配ならいらんぞ。あんな物、もうとっくに外されておる』

 

「えっ?いやでもリゼが……」

 

『やはりリゼから情報を得ていたか……まぁよい。で、盗聴器のことじゃが、あれはタカヒロが組織を抜けてから数年で監視が解けて外されておる。じゃから安心せい』

 

「そうだったのか?でもならなんでリゼは……」

 

『天々座の小僧がそのうちこの店でリゼを働かせたいと言うてのぉ。それで、娘が心配じゃから店部分の盗聴器を一つ残してあるんじゃ。その一つもリゼのいるバイト時間の間しか作動せん。ほんと、親バカじゃのぅ』

 

あぁ、それでリゼの親父は娘にバレないように、まだタカヒロさんの監視が続いてることにしてるのか。

なんだよ、心配して損した……。

そして、今度は有宇の方からチノの祖父に聞きたいことを聞いてみることにした。

 

「なぁ、爺さんはなんでうさぎになったんだ?」

 

一番気になるところである。

何がどうなったらうさぎなんかになるのだろう。

それに、チノの爺さんは確か亡くなったはず……。

さっきは聞きそびれたが、やはり気になる。

 

『うむ、といってものぉ……ワシにもわからんのじゃよ。ワシは確かに二年前、病院のベッドの上で死んだはずじゃ。しかし、目が覚めたらワシはうちで飼っておったうさぎのティッピーになっていたんじゃ。じゃから、ワシがなぜこうなったかは誰にもわからないんじゃ』

 

「じゃあ爺さんは幽霊みたいなものなのか?」

 

『そうじゃのぅ、死者であることには変わりないからそうなるじゃろうな』

 

幽霊か……。

にわかに信じ難いが、現に能力者なんてもんが存在してるぐらいだしな……それにこうして目の前でうさぎが喋ってるんだ。

信じるしかあるまい。

 

『それじゃあそろそろチノ達も風呂から上がることじゃろうし、ワシは戻る』

 

そういってうさぎの爺さんはバルコニーからぴょこぴょこと飛び跳ねながら出ていった。

すると最後にこちらにくるりと振り返った。

 

『あ、そうじゃ小僧!お主の使ってる部屋じゃが、あそこは元々ワシの部屋じゃ。今は特別に使わせてやるが、部屋を汚したり、部屋のもんを勝手に捨てたりしたら許さんぞ!』

 

「するか!いいからもう行けよ」

 

『ふん』

 

そして今度こそ、うさぎの爺さんはバルコニーから姿を消した。

するとその時、ポケットの携帯が鳴る。

そういえば、元々日に一回の歩未への電話をするためにここに来てたんだった。

 

「もしもし」

 

『もしもし有宇お兄ちゃん!あゆなのです〜!』

 

「歩未か、元気そうだな」

 

『これぐらい普通なのです!それより有宇お兄ちゃん、そっちはなにかありましたでしょうか?』

 

「あ……えっと、歩未の方はどうだ?」

 

『あゆの方はお変わりなく!あともうちょっとで夏休みなのが楽しみなぐらいです!』

 

「そうか……もう夏休みか……」

 

自分がもう学生ではないせいか、その響きが懐かしく感じた。

 

『それで、有宇お兄ちゃんは今日は何かありましたでしょうか?』

 

「ん?えっとそうだな……強盗に入られた?」

 

『え!?それは大分ショッキングな出来事なのです!』

 

しまった、つい本当のことを言ってしまった。

 

「えっと……安心しろ、リゼがCQCで瞬殺したから」

 

本当のことを言うわけにもいかず、それっぽい言い訳をする。

すまんリゼ!

 

『それって前言ってた軍人さん?それは凄いのです〜!』

 

「あぁ、まぁだからこっちは心配いらないから」

 

『そうなのですか。それで、結局強盗さんの特殊な力は見れたのでしょうか?』

 

そういや昨日、話の話題が特になかったから強盗のこと話したんだっけか。

実際本当に能力者ではあったが、これもまた本当のことは言えないし……。

 

「えっと……特にそういうのはなかったよ」

 

『そうでしたか。やっぱそんなスピリチュアルな事なんて起きないよね〜』

 

すると有宇はクスッと軽く微笑む。

 

『どうしたのです有宇お兄ちゃん?』

 

「いや、なんでもない」

 

歩未、お前が思ってる以上にずっと、世の中はスピリチュアルな事だらけなんだぞ……。

 

 

 

 

 

次の日、強盗に入られた翌日ではあったが、店は通常通り開店した。

すると驚いたのがそのお客の数だ。

 

「なんか今日は忙しいな」

 

「みんな強盗を捕まえた噂を聞きつけて来たみたいだね〜」

 

「なんにしても、お客さんがいっぱいいるのはいい事です」

 

「あぁ、そうだな」

 

まさかこんな効果を生むことになるとはな……。

強盗退治もやってみるもんだ。

 

「それより有宇くん、なんか昨日は元気なかったけど大丈夫?」

 

ココアが昨日の事を聞いてくる。

 

「あぁ、大丈夫だ。単に疲れただけだ」

 

有宇がそういうと、ココアはニコッと笑みを浮かべる。

 

「そっか、それなら良かったよ」

 

それから四人で忙しい一日を乗り切った。

 

 

 

 

 

営業終了後、店を出るリゼを呼び止める。

 

「リゼ、ちょっといいか?」

 

「なんだ?」

 

「ちょっと話があるんだが……」

 

有宇のただならぬ雰囲気を感じたリゼは、それを承諾した。

そして外の近くのベンチで二人で座る。

 

「あのさ……その……結局強盗の男はどうなったんだ?」

 

昨日からあの男の安否が気になっていた。

あの男が捕まるのは自業自得だが、もし科学者に捕まってモルモットにされるようなことがあるなら流石に後味が悪い。

するとリゼは驚きの答えを返す。

 

「それがな、おかしな事にあの男は能力者じゃなかったんだよ」

 

「えっ……?」

 

そんな馬鹿な……!

確かにあいつが能力を使うところは見てないが、友利だってあいつは能力者と言っていたし、能力者でないはずがない。

 

「男が捕まった後、親父達が警察に手を回して男を色々と検査したんだが、能力者らしい証拠は何も出なかったらしい。他に能力者の協力者がいた可能性も考えて男を嘘発見器にかけて調べたが、その線もないとのことだ。結局、今までの超常現象は全て偶然によるものということで片付けられたんだ。なんか納得行かないよな」

 

そんな馬鹿な……。

確かにあいつは能力者のはずなんだ。

能力が消えた?いや、そんなはずはない!

結局何故あの男から能力が消えたのか……それはわからないまま、有宇の中に後味の悪さだけが残った。


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