幸せになる番(ごちうさ×Charlotte) 作:森永文太郎
「今週のラパン面白かったね〜」
「はい、謎の電撃超能力者に追い込まれた時はヒヤヒヤしましたが流石ラパンです。華麗に乗り越えてみせましたね」
夜、いつものようにチノの部屋でラパンを鑑賞していた。
今回はラパンを捕まえるために現れた超能力者とラパンが一戦交える話だった。
「でも超能力か〜。有宇くんだったらどんな能力が欲しい?」
「えっ……?」
ココアにそう聞かれ思わず戸惑う。
「有宇くん……?」
「あ、えっとそうだな……楽してなんでも出来るようになる能力とか?」
「え〜夢がないよ〜。私だったら、世界中のみんなを妹にできる能力とか〜」
「そんな能力あるわけないじゃないですか。本当ココアさんは妹にできれば誰でもいいんですね」
「チノちゃ〜ん怒らないでよ〜。一番は勿論チノちゃんだから〜」
言ってることが何股もかけてる男みたいだぞ。
にしても超能力か……。
あれから部屋に戻った後、番組に影響されたのか、有宇は自分の能力について考えていた。
今までは能力のことなど、どうせ僕一人しかいないのだからと気にしてこなかったが、この前のリゼに聞いた話のこともあるし、このまま関係ないと言い切ることが出来ない気がしてならない……。
僕には他人に乗り移る能力がある。
但したった五秒間、殆ど使い物にならない。
ただ使い道としてはカンニングや喧嘩程度には使えるというのが今のところわかっている。
そして、今まで超能力者は自分一人だけだと思っていたが、そうでないことがわかった。
リゼの父親が、超能力者だったのだ。
そしてリゼの話だと、この世にはガーディアンと呼ばれる組織があり、世界の裏で暗躍しているということ。
そして世界中に超能力者達がいて、ガーディアンは彼らをスカウトし、兵士として戦場に送り出すのだという。
一応世界の均衡を保つためみたいなことが目的らしいが、果たして本当にそれを鵜呑みにしてもいいのやら。
それにまだ僕の知らない真実があるようだし油断はできない。
それと能力について。
超能力はそれぞれ3つのタイプに別れるとかなんとか。
そして僕はそのどれでもないとか。
さらに能力者は能力者であるというだけで、常人より遥かに運動神経がいいのだとか。
だが僕自身は運動能力は平均並だ。
ガーディアン、そして超能力者達の中であっても異端な僕の能力、果たしてどんな真実が隠されているのか……。
───などと考えてみたが、やはりだから何なのだというのだ。
実際問題、僕はもう過去のカンニングの失敗から、能力はもう余程の事態の対処以外では使わないとそう決めたのだ。
要は使わなければ問題ないのだ。
使わなければ、ガーディアンだとか超能力だとかそんな世界とは関係なく普通に過ごせる筈だ。
リゼもそう言っていたわけだし、深く考える必要はない。
いつも通り、カフェのアルバイトとして過ごせばいい。
バイトして金を集めて、ちゃんとした職を探す。
能力だとかそういう問題の前にまずこっちを優先しろという話だ。
そうだ、やっぱり僕が能力なんかのことを改めて考える必要なんかないのだ。
おじさんなんかに頼らないで、それこそこの店にも頼らないで生きていけるようになれればそれでいい。
そして出来れば歩未とまた一緒に過ごせたらどんなにいいことか……。
次の日、いつも通りバイトに励む。
そして午後の二時過ぎ頃、そろそろチノ達も帰ってくるであろうというその時間に一人の客が店にやってくる。
「いらっしゃいませ」
いつも通り笑顔で客を出迎える。
やって来た客は女子高生、だがここいらじゃ見ない制服だ。
赤いセーラー服に黄色いリボン、やっぱりこの辺の制服じゃないよな……。
「あの〜席に案内してもらっていいですか?そんなに見つめられると流石に恥ずかしいんで」
つい制服が気になって、案内するのも忘れて女を見つめていたようだ。
ていうかこの声……なんかどっかで聞いたことあるような……まぁ、いいか。
「申し訳ございません。つい。この辺りじゃ見ない制服だったので」
「あぁ、そういう事ですか。これ、今の学校の制服なんです。実は来週この街に引っ越すんですよ。それで今日は下見にこの街に来て、たまたまこのカフェを見かけたので寄ってみたんです」
成る程、他の街から来たのか。
それで制服もこの辺の学校のやつじゃなかったのか。
「そうでしたか。ではこの街に来たときは是非うちの店をご贔屓に。っとすみません、お席に案内しますね」
いつも通り猫を被って接する。
相手が誰にせよ、女性客ならいいカモだ。
転校そうそう僕みたいなイケメンに出会ってさぞ喜んでいることだろう。
このまま僕に惚れさせて常連客にしてうちに金を落としてもらおうか。
女を席に案内すると、女はサンドイッチ、スパゲッティーとブレンドコーヒーを注文してきた。……結構がっつりいくな。
つか結構な値段になるけど払えんのか?
おまけに今タカヒロさんが用事でいないので、全部一人で作らなければならないので大変だった。
「お待たせしました」
トレーいっぱいに乗せたそれらの料理を女の座る席に並べる。
「わぁ!美味しそうですね!」
女が携帯で写メを取るところを見て、The 今時の女子高生だなと思った。
まぁ、食べる量はあれだが……。
「よく食べますね……」
女が食べている横で、思わず心の声が漏れる。
そう言うと客はしゅんとしおらしくなってしまった。
「はい、朝食べてこなかったのでお腹がすいちゃって……こんなに食べるなんて女らしくないっすよね……」
しまった、今のは失言だったな。
「いえ、たくさん食べるのはいいことだと思いますよ。最近はダイエットとかで食べない女性もいますが、僕はやっぱり美味しそうに食べてる女性の方が好きですから」
「マジっすか!えへへ、でもそんな気を使わなくてもいいっすよ別に。お兄さん優しいっすね〜」
一応なんとか失言は修正出来たが、なんかキャラ変わってね?この女。
そして一通り食べ終わると、女が有宇に言う。
「ふ〜美味しかった。これ全部お兄さんが作ってるんですよね〜」
「はい、そうです。喜んでもらえて恐縮です」
「いや〜料理できる男の人って憧れるな〜。お兄さん彼女とかいないんですか?」
なんだこの女、もう僕の虜になったか?
まぁ無理もない、僕はカッコイイからな。
「はい、彼女はいませんよ。でもまぁ今はちょっと忙しいので、彼女と遊ぶような時間もないんですけどね、はは」
彼女いないアピールをしつつ、それでいて客側から告白されたりするのを避ける。
我ながらナイステクニックだ!
流石に告白などされると、こちらも断らざるを得なくなり、そうなるとその客はもうこの店に来なくなってしまうので、悪魔でまだ自分にはチャンスがあると思わせるのが重要なのである。
そうすればバカな女性客はいくらでも僕に会いに店に足を運ぶからな。
しかしこの女はそうはいかなかった。
「そうなんですね〜。あ、でもこの後お時間空いてたりしますか?私この街のことまだ知らないので、お店終わってからでもいいんで案内してほしいんですけど〜。頼れる人も他にいなくて〜だめですか?」
成る程、この女……やるな。
会ったばかりの男をストレートにデートに誘うなんて真似すれば、当然断られる可能性が高い。
だからこの女はあえて街の案内をして欲しいと言って、遠回しにデートに誘ったのだ。
しかも自分がこの街に来たばかりという状況を利用して、他に頼りになる者がおらず、頼れるのは貴方だけという状況を作り出し、断りづらくしたのだ。
正直女はビジュアル的には上玉だ。
だが今話した感じ、ちょっとギャルっぽくて頭悪そうだし、僕の趣味じゃないな。
それに僕は普通な女子なんぞに興味はない。
僕に合うのは才色兼備な女性!それ以外は僕の相手として相応しくない!
故に断る!
下手に親密になったと勘違いして告白なんてされたらカモにならなくなるからな。
それにこの女、まだまだ甘い。
確かに理由なしに断るのはきついが、こちらに相応の理由があれば切り抜けることが出来るのだ。
だったら「ごめんなさい、案内して差し上げたいのですがまだバイトが……」と返せばいいだけだ。
さっき忙しいと予め言っておいたし、これならこちらにも都合があり、不親切な人間という烙印を押されずに断ることができるのだ。
そしてそう返そうと思ったその時、店のドアが開く。
「ただいま。お兄さん、お疲れ様です」
学校からチノが帰ってきた。
「お、おかえりチノ」
「待っててください、すぐに着替えますので。もう上がる準備をしてもらって大丈夫ですよ」
あ、バカ、余計なこと言わなくていいんだよ。
そしてチノはそう言うと、奥の更衣室に行ってしまった。
まずい、今のでさっき考えた言い訳が使えなくなった。
それからチラッと女を見る。
女はニコッと笑顔を返す。
……どうやら僕の負けのようだな。
「行ってくる」
「はい、行ってらっしゃ……デートですか?」
僕の横にいる女を見てチノが言う。
「……ただの街案内だ」
「?そうですか」
そして女はニコニコしながら有宇に言う。
「よろしくお願いします、お兄さん♪」
結局女に街案内をする羽目になった。
有宇は気づかれない程度に軽くため息を吐いた。
店を出ると、女が有宇に話しかける。
「いや〜お兄さんみたいなカッコいい人と街を歩けて嬉しいッス!」
「そう?僕も君みたいな子と一緒に入れて嬉しいよ」
「マジっすか!やったー嬉しい!」
しまった、今のは言い過ぎか?
下手に勘違いされたら面倒だなぁ。
すると女が有宇に聞いてくる。
「そういえばお兄さん、お名前なんていうんですか?」
「乙坂有宇といいます。君は?」
「私、友利奈緒っていいます」
「奈緒……いい名前だね」
別にいい名前とか思ってはいないが、立て前上そう言っておく。
それからしばらく街を案内して回った。
あそこにあれがあるとか、あっちにはあれがあるだとか説明しながら二人で歩いた。
「で、ここが君が今度通う学校だ」
そして彼女が通うと言っていた学校の前についた。
まぁココアと千夜が通う学校なんだが……。
もし万が一ココアとかと仲良くなったら面倒なことになりそうだし、そうなるのだけは頼むからやめてくれ……。
ていうかココアで気づいたけど、この女の声、なんかどことなくココアに似てるな。
もしココアと友達にでもなったりしたら、二人して同じ声で僕に絡んで来るのか……マジで勘弁してくれ。
すると友利は特に反応を示すでもなく、無言でいる。
「えっと……どうかした?」
「……ねぇ乙坂さん、次は人気が無い場所に行きたいな……二人っきりで」
「……え?」
二人っきり?
それに人気のない場所?
それってつまり……。
つまりの先を考えて、思わず顔が赤くなる。
いやいやいや、まさかそんな……なぁ?
ていうかそれ、告白とかもう色々飛び越えすぎだろ!
どうする……人気のない場所に行ってこの女と一線超えるか、ここで強く突っぱねるか。
有宇は考えに考えて、結論を出した。
「着いたよ。ここならそんな人気はないと思うよ」
結局人気のない公園につれてきた。
だがこの公園は本当に何もない所だ。
だからその……もし一線を超えるような事をしようにも、隠れられる場所がない。
それにここは人通りは少ないとはいえ、全く人通りがないわけじゃない。
故に条件に合う場所には連れてきたが、この女がおそらくやろうとしていることは出来ない場所に連れて来たということだ。
流石にこの女と深い関係になるつもりはないし、そんな事は出来ない……まぁ、心揺さぶられたのは確かだが。
友利は何も言わずに公園の方へと数歩進んでいく。
「そうですね……まぁここでいっか」
そう呟くと、有宇の方に振り向いた。
「ようやく二人っきりになれましたね。乙坂さん。これから話すことはあまり人に聞かれたくない話ですのでわざわざこんなところまで案内していただきました」
「……え?」
話?何の?
ていうかさっきまでと雰囲気が違う……。
「は、話って何をするのかな?」
一応まだ猫をかぶったままそう聞く。
すると友利はこう答えた。
「あなたの───超能力についてです」
「な!?」
超能力!?
今この女、超能力って……確かにそう言ったよな?
「な、なんのこと……?僕にはさっぱり……」
「あぁ、もう面倒なので隠さなくていいですよ。こっちはもう全部知ってますし。あともう素に戻ってもらって構いません。こっちも今の猫かぶったあなたとは話しづらいんで」
能力だけでなく、僕の素顔まで知っているようだった。
「……お前、何者だ」
「では改めて。はじめまして、星ノ海学園生徒会長の友利奈緒です。よろしくお願いします、カンニング魔の乙坂有宇くん」
「……貴様」
カンニングのことまで……。
一体なんなんだこいつ……僕のことを、どこまで知ってる。
「それで、どこぞの学校の生徒会長様が一体僕になんの用だ」
「単刀直入に言いましょう。あなたの持つ能力をこれから先使わないで欲しいんです。絶対に」
能力を使うな……だと?
どういうことだ?
なぜ?なんの為に?
取り敢えず目的がわからない以上、素直に話を飲むわけにはいかない。
「……嫌だと言ったら?」
「これはあなたの為でもあるんですよ」
「なに?」
「いいんですか?能力がバレて科学者のモルモットにされても」
「モ、モルモットだと!?」
どういうことだ!?
いや待て、きっとでたらめだ。
脅して僕を騙そうとしているに違いない。
「そんな話があるわけ……」
「あるんです。一度バレたら人生おしまい。死ぬまで科学者の実験台にされます」
友利はこちらの反論を遮り断言する。
「ありえない!そんな馬鹿な話信じられるわけないだろ!」
「ではこれでどうでしょう」
友利がそう言った次の瞬間、僕の目の前から一瞬で友利が消えた。
「うわぁ!?」
そしてすぐにまた僕の目の前に現れた。
「どうでしょうか、これで少しは信じていただけるかと」
こいつも能力者だったのか……。
「今のは?まさか……透明人間になれる能力……!?」
「いえ、私の能力は一人の対象から視認されなくなる能力です。ここに第三者がいればその人の目には私の姿が映ってるかと」
不完全な能力……僕と一緒だ。
さっきの話、リゼから聞いた情報と違ったために信じられなかったが、リゼの話と違い僕と重なる部分がある。
まさか本当に………。
「その……科学者の話を具体的に聞かせてほしい」
「いいでしょう。と言っても先程言ったら通りです。能力者であることがバレたら捕まる。そして実験台にされます。それだけです」
「警察は!?警察に訴えればそれで……」
「その警察もグルなんすよ。というか国家が敵と言っても過言ではないかと」
「マジかよ……」
なんてこった……。
以前リゼから聞いた話よりもやばい。
兵士になるどころじゃない、命すら危ういじゃないか!!
ていうかそうだ、ガーディアン!!
もしかしてこれも奴らがもしかして関わってるのか!?
リゼのスカウトの話と似てるし、可能性としては否定できない!!
でもそうしたらリゼは……僕の敵?
……聞いてみる価値はあるか。
「なぁ、その科学者っていうのはもしかして……ガーディアンなのか?」
喉をごくりと鳴らし、友利の反応を待つ。
「ガーデ……なに?なんですそれ?」
「あ、いやえっと……何でもない」
「?そうですか」
どうやらガーディアンじゃないようだ。
リゼはひとまず敵ではないということだな。
取り敢えず安心した……っとそうだ、一番聞かなきゃいけないことを忘れていた。
「で、結局お前は一体何なんだ?生徒会長とか言ってたが……」
「私のいる星ノ海学園はある人物がそんな能力者達を守るために建てた学校です。そして生徒会は、彼らを守るための特別な任務を任されています」
「……具体的には?」
「あなたのように野放しになっている能力者を誰よりも先に確保して守るか、力を使わないように脅します」
成る程、確かに能力なんて使わなければバレないしな……。
だが一見完璧に見えるが、それだと問題がまだ残るんじゃないか?
「学校を卒業した後はどうする。どの道社会に出た後に捕まったら意味ないじゃないか」
そう、能力者を守る施設が学校というなら、当然卒業もするわけだが、そうなったら一体誰が能力者を守ってくれるというのだろうか。
「ご安心を。能力は思春期を過ぎるぐらいの時期……具体的には高校卒業する時ぐらいには大体消えてますので問題ありません」
「え?」
「どうかしました?」
「いや……本当に消えるのか?」
「はい、少なくとも今までの例ですと、どんなに長くても二十歳になる前には消えていますので。それが何か?」
「いや……何でもない」
リゼの話と違いすぎる。
だってリゼの父親は能力者だぞ。
まさかあのおっさんが20にも満たない年齢だとは思えないし、何がどうなっている?
本当にもう何を信じればいいのやら……。
「まぁとにかく、今のでわかったでしょう。能力は使わないでください。いいですか」
「あ、あぁ……わかった」
なんだかとんでもない事になったな。
まぁ要は使わなきゃいいっていうのは変わらないけど、今ので事の重大さが大きく上がったぞ。
元々カンニングのせいで退学して以来、能力を使う気はなかったけど、実際それからも度々マヤの時計取り返す時とか、リゼを助ける時とかに使ってたしな。
今後は使用をこれまで以上に控えた方が、ていうかもう本当に命の危険を回避するぐらいの時以外には使わないようにしよう……。
「まぁ、話は以上です。しかし驚きましたよ。まさかこんな遠くにいるなんて。あなたを見つけて身辺を調べて、よし捕まえるぞと思った次の日には街から姿を消してるんですもん。あなたの所在をまた掴むのに一ヶ月も要してしまいましたよ」
「僕の身辺を調べたって……。つかお前、どうやって能力者を見つけてるんだ?」
「能力者を見つける能力を持つ協力者がいるんです。ただ範囲が限られるみたいなので、流石にここまで遠くに来られるとお手上げですね。ですのであなたの目撃情報や、駅の監視カメラなどの情報からようやくここまでたどり着いたってわけです」
成る程、そういう能力者もいるのか。
じゃあもしあの日家出しなかったら、次の日にはこいつに捕まってたのか。
「にしてもわざわざここで話す必要あったのか?どうせ他に誰もいなかったんだから店でも……」
「いえ、お腹がすいてたのは本当ですから。それに、盗聴器があったようなのであそこで話すのは危険かと思い連れ出した所存です」
こいつ……店の盗聴器に気づいてたのか。
ずっと住んでるチノやココアも知らないのに。
僕だってリゼに聞くまで知らなかったのに一発で気づいたのか。
どんだけだよ……。
「それでわざわざ猫かぶって近づいたのか」
「猫かぶってたのはお互い様でしょ。あっ、そういえば人気のないところって言ったとき、なんか様子変じゃありませんでしたか、あなた」
「なっ!!べ、別に何もない……!!」
「え〜本当ですか〜」
こいつ、わかっててやったな……クソッ舐めやがって。
そうして一通り有宇をからかうと、友利が公園の出口に向かう。
「じゃあ私は帰るとしますか……本当だったらあなたにうちの生徒会に入って欲しかったんですが仕方ありませんね……」
ん?今なんて言った。
そういやさっきも保護するとか言ってたよな。
それって、星の海学園に入れるってことだよな。
星ノ海学園は一応学校ではあるみたいだし、もし保護されるとなれば……また高校生に戻れるってことか!?
「ま、待ってくれ!」
思わず背中を向け、帰る友利を呼び止めていた。
「なんです?まだ聞きたいことでも」
「ぼ、僕も連れて行ってほしい!」
「はぁ?」
「超能力を保護するのがお前らの仕事なんだろ?なら僕も保護してくれよ!なんならその生徒会とやらにも協力してやる!頼む!」
今僕は高校の学歴ぐらいは取ろうと高卒認定の勉強をしている。
が、如何せんとも全然頭に入らない。
まぁ、中学入ってすぐの頃に能力を手に入れて、それからずっとカンニングしてたから無理もない。
だが、ここで高校に入って無事卒業できれば楽して高校卒業資格が手に入るということだ。
だが、友利の答えは僕の期待したものではなかった。
「……確かに、生徒会としてもあなたの能力は使えますので是非とも星の海学園の生徒として生徒会に入っていただきたい。……ですが、それでもあなたを我が校に迎えることは出来ません」
「な、どうして!?」
「親御さんの……あなたの親権を持つ方からの了承が得られません。うちも悪魔で学校法人ですので、親権者の了承が得られないのに迎えることができないんですよ。うちは全寮制ですし、親御さんからの援助は不可欠です。ですので、あなたを我が校に迎えることは出来ません」
「そんな……」
クソッ、折角の大チャンスだったのに!
てか親権を持つ方って……まさか、おじさんのことか!?
「そこまでして僕の邪魔をするのか……クソッ!」
「何でも今のあなたを学校に通わせたところでまた同じ過ちを犯すだろうということです。こちらも再三お願いしたんですが駄目でした」
同じ過ちだと?
ハッ、そんな事知るか!
どうせ僕らのことなんか邪魔者程度にしか思ってないくせに、いっちょ前に親ヅラしてんじゃねぇよ!!
「ははっ別にいいさ、別にあんたなんかに頼らなくたって一人で生きてやるよ。ここにだって一人で来たんだしなぁ!!」
そう言うと、友利は意外そうに有宇に言う。
「あれ?まさかあなた、一人で今の生活ができてるって思ってるんですか?」
「なに?どういう事だ?」
「高校生が親の同意書無しで……いやまぁ、この店みたいな個人経営のところならワンチャン無しでもいける気はしますが、同意書無しで働けるとでも?それも住み込みで」
「だが僕は現に……」
「それはあなたのおじさんに、この店のマスターの方が了承を得たからです。普通家出人と知って雇うバカはそうそういませんよ」
「……本当なのか?」
「はい。本当はあなたには黙っておくはずでしたが、やはり心配だったそうで。そうそう忘れてました。これをどうぞ」
そう言って友利がポケットから出したのは、僕が以前使っていた携帯だった。
「これ……」
「あなたのおじさん曰く、近頃のあなたの事をここのマスターから聞いて、そろそろ明かしてもいいだろうということらしいです。それで携帯がないと不便だろうということで、あなたに会いに行く私に預けられたということです。あっ、ただ携帯代は自分で出せとの事です」
「なに!?」
ふざけるな!別に僕は携帯をもってこいだなんて言ってないぞ!
ていうよりマスターめ……全部知ってたのか……!!
それを聞くと有宇は公園を出ようとする。
「どこに行くんです?」
「店に戻る。もう帰っていいぞ」
「そうですか、では」
そう言って友利は公園を出ていった。
有宇も公園を足早に去った。
「ふう、疲れた」
リゼはそう言うと、う〜んと背を伸ばしていた。
学校で推薦対策の小論文の添削を先生にしてもらった帰りで疲れていた。
まぁ、これも先生になるという夢のため、手は抜いてられない。
そんな帰り道、向こうから見知った顔が歩いてきた。
「お〜い有宇」
だが、有宇は特に返事を返すでもなく、無言ですれ違って行った。
「どうしたんだあいつ?なんか険しい顔してたけど……」
まぁいつも不機嫌そうな奴ではあるけど……それにしたっていつもと様子が違う気がするような……。
カラン
ラビットハウスの店のドアにかけられた鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ〜って有宇くんか」
ラビットハウスに帰ってきた有宇をココアとチノが迎える。
「おかえりなさい、お兄さん」
「ねぇねぇチノちゃんから聞いたよ?可愛い女の子とデートしてたんだって?流石有宇くん、モテモテだね〜」
ココアがそう茶化すが、有宇は特に反応を示すまでもなく店の奥に言ってしまう。
「……あれ?」
「ほら、ココアさんが茶化すからお兄さん怒っちゃいましたよ」
「……有宇くん、なんか思い詰めた顔してなかった?」
「ココアさんが茶化したから怒ったんじゃないんですか?」
「そうじゃなくて!それにそれだったらいつもみたいにほっぺ引っ張ったりしてくるのに……なんか今の有宇くん、初めて素の有宇くんに会った時と同じ雰囲気だった」
ココアがなんか言ってたが、耳に入らなかった。
それにしても、結局おじさんの手の上で踊らされていたのか、僕は……。
有宇の心はそんなおじや、それを黙っていたマスターに対する怒りで満ちていた。
そして階段を登り二階にあるマスターの部屋の前に来た。
僕はおじさんの力を借りずに生きるんだ。
その為にも今日限りで僕は────
──────僕はこの店を辞める。