魔女に襲われ、記憶喪失になってしまった少女『鹿目まどか』。そんな彼女を保護した魔法少女『暁美ほむら』は、つい魔が差してしまい彼女を拉致監禁してしまう。これはそんな彼女達の日常を描いた一コマのお話。







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【問】目の前に記憶喪失のまどかが倒れています。どうしますか?

①取り合えず治療のため、ぺろぺろする。
②怪我がないか確かめるため、脱がせてくんかくんかする。
③まどかのパンツは私の物。とりあえずまどかのパンツを被る。
④御託はいらない。ほむホームへお持ち帰りする。←【決定】

 そんな世界線のほむほむのお話。


幸福な円環に導かれて

◇◆◇◆◇

 

 

 

 放課後のチャイムが鳴り、待ち望んでいた時間がやってくる。

 私は早速鞄を手に席を立つと、そのまま教室を後にする。

 

「あら、暁美さん。さようなら」

「ええ、さようなら」

 

 擦れ違い様に何人かのクラスメイト達が別れの挨拶をしてくれる。

 私も社交辞令として微笑みを浮かべて、さも親しげに小さく手を振って応える。中にはこのまま遊びにいかないかと誘ってくれる子もいたが、私の返事は申し訳ないが決まっていた。

 

「ごめんなさい」

 

 その後に続く言葉は臨機応変に。多少の嘘も円滑に過ごす為には仕方のない事だろう。もしも私が正直に言ってしまえば、言われた彼女達もきっと困ってしまうだろうから。それに彼女達も転校生が珍しいだけで、そのうち諦めてくれるはずだ。

 

 ――突然だが私、暁美ほむらは時間遡行者である。

 

 同じ時間軸を延々と繰り返してきた<魔法少女>だ。

 そう、魔法少女。そんなファンタジーな存在になってしまったが故に、時間遡行なんて非常識を延々と繰り返す事が可能になった。

 

 全ては私の最愛の人、鹿目まどか。

 彼女を救う――その為だけに私は、この永遠にも等しい時の迷路を彷徨い続けている。

 

 ……そのはず、だった。

 

「おかえりっ、ほむらちゃん!」

「……ただいま。<まどか>」

 

 家に帰ると、玄関先でエプロン姿の少女が満面の笑顔で出迎えてくれた。

 明るい桃色の髪に無垢な笑顔が眩しい。初対面の者であろうとも彼女が善の人であることを疑いはしないだろう。

 私が彼女の可愛らしさを語ろうものなら、恐らく周りの者がドン引く位に語れる自信がある。

 

 幼さの残る顔立ちに初々しい雰囲気を纏う今の彼女は、さながら幼妻といった所だろうか。

 未だに慣れないこの新婚のようなシチュエーションに、私の頬が少しばかり熱を持ってしまうのを自覚する。

 

「今日の晩御飯はね、シチューにしたんだよ? レシピを見て頑張って作ったんだけど、ほむらちゃんの口に合うかちょっと心配。あ、味見はちゃんとしたんだよ? でもでも、初挑戦だからちょっと自信ないかも……」

「まどかの料理なら、世界一美味しいに決まってるわ」

「も、もうっ、ほむらちゃんってばまた……いつもおいしいって言ってくれるのは嬉しいよ? 嬉しいんだけど……私はほむらちゃんのホントの気持ちが知りたいの」

 

 不安そうな瞳で私を見上げるまどか。

 そんな彼女が愛おしくて堪らない。

 

「まどかの愛情たっぷりの料理なら、不味いわけがないじゃない。もしまどかがお店を開いたらきっと私、毎食通ってしまうわ。だから自信を持って」

 

 そしてまどかに近付く害虫共を片っ端から駆除するのだ。

 まどかの手料理を他の有象無象に分け与えるなど冗談ではない。

 そうなればいっそ、店ごと買い取ってしまうに違いなかった。

 

「えへへっ、それじゃあ今とあんまり変わらないね!」

「ええ、そうね」

 

 お互いに微笑み合いながら、私達はリビングに向かう。

 まどかと繋いだ手が掛け替えのない温もりを伝えてくれる。

 

「あ、そうだ。お食事の前にお風呂にする? それとも」「まどかで」

 

 例え他にどんな選択肢(ミライ)があろうとも、私はたった一つだけの真実(まどか)を選び続ける。

 そんな私の食い気味の答えに、まどかはきょとんとした顔を浮かべたものの直ぐに笑顔を浮かべてくれた。

 

「……それじゃ、私と一緒に遊んでくれる?」

 

 その表情と台詞の破壊力に思わず鼻血が吹き出しそうになったが、まどかを私の血で汚すわけにはいかないので気合で抑えた。

 それに私だって同じ過ちを繰り返すほど愚かではない。まどかのこのお誘いは、夕食の前の空いた時間にちょっとだけゲームでもして遊ばないかという意味だ。

 

 つまりいやらしい意味は一切ないのだ。

 ちょっぴりエッチな期待をさせておいてお預けだとか、私の女神様がそんな小悪魔なわけがないのだから。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ほむらちゃん、はいあーん」「あ、あーん……」

 

 まどかから差し出されたスプーンをかぷりと咥える。

 何だか餌付けされる雛になった気分だ。

 

「えへへ、ほむらちゃん可愛い」

「か!? ……っ、可愛いのは、まどかでしょ? 私はそんな可愛いってキャラじゃないわ」

 

 実際可愛いとか、まどか以外に言われたことなんかないし。

 私ってば所詮その程度の女なのよ、と自嘲気味に髪をふぁさっと掻き上げる。

 

「あ、照れてる?」「照れてない」「やっぱり照れてる! ほむらちゃんかーわいー!」

 

 からかわれるのは苦手なんだけど、まどかが相手だと嬉し恥ずかしというか、こう……もみょもみょとした笑みが浮かんでしまう。

 

 今の私、絶対顔が赤くなってる。

 ごほんと咳払いとして態勢を立て直す。

 

「ほら、今度はこちらの番よ。覚悟しなさい……あ、あーん」

「もうほむらちゃんってば……あ、んっ」

 

 なに、なんなのこの娘。

 メチャクチャ可愛いんですけどっ。

 

 まどかの唇の感触がスプーン越しに伝わってくるようだ。

 もういっその事、私がスプーンになりたい。

 

「ん、なんだか自分で食べるのとは違う感じだよね。こっちの方がおいしい気がする」

 

 それを錯覚だと言うのは容易いが、私も同じ気持ちだったので頷いた。

 

「そうね、でもこのままじゃ時間が掛かるわね……どうしましょうか?」

 

 ちなみに諦めて普通に食べるという選択肢はない。

 そんな詰まらない選択は、因果律そのものに対する叛逆だと言ってもいい。

 

 課題は如何に時間を掛けず、かつ満足度の高い食事方法の模索だ。

 普遍的な因果性に対する自由の問題であり、二律背反も良い所の命題である。

 

 簡単に答えなど出せるわけもなく、諦めて普通に食べるべきかと悩んでいると、頬を染めたまどかが意を決したように告げる。

 

「じゃあ、口移し――とか?」

 

 た、食べ物を口移し!? ちょ、ちょっとそれは私達にはまだレベルが高過ぎる気がするのだけど!?

 

 正直天才かと驚愕したが、理論と実践は違うのだ。

 何よりも心の準備とかが全く足りてなかった。

 

「や、やめてまどか、ちょっと落ち着いて話しあいま」「むちゅー」「むにぅん!?」

 

 私の必死の抵抗は、いともあっさりと塞がれてしまった。

 

 ――拝啓、天国にいるかも知れないお父様、お母様。

 あなた方の不肖の娘である私、ほむらは今日、穢されてしまいました。

 いえ、その事自体は本望でもあるのですが……なんかこう、微妙に違う気がしてなりません。

 

 その後、一緒にお風呂に入ったり、歯を磨き合いっこしたり。

 傍目からはバカップルと思えるような行為も、私達は熱に浮かされたように没頭した。

 

 これは夢なのだろうか。

 刹那的な享楽を永遠に繰り返すような、麻薬染みた多幸感に満ちた夢。

 だけど醒めない夢ならば、それは最早現実に等しい。

 

 ……私達はいつからこんな関係になったのだろう?

 私はともかく、まどかは最初の内は普通だったと思う。

 

 それが私と一緒に生活し、私と過ごす内に段々と距離が縮まり、今日のように私ですらびっくりするような事をしたりもする。

 

 私が彼女を捕らえたのか。

 あるいは私こそが彼女に囚われてしまったのか。

 鎖に繋がれているのは、果たしてどちらなのか。

 

「ねえ、今日もおまじないしてもいい?」

「ええ、いいわよ」

 

 パジャマ姿になった私達は、眠る前にささやかな祈りを行う。

 

 部屋の明かりを消すと、星の光だけが窓から差し込む。

 床に女の子座りをするまどかに、ベッドのシーツをケープのように被せた。

 

 ウェディングドレスを模したおままごとでも、星明りに照らされたまどかの姿は天使の様に可愛らしい。

 そして二人の声が重なる。

 

「「誓いの言葉」」

 

 紡がれるのは、神聖なる誓約。

 

「健やかなるときも、病めるときも」

「よろこびのときも、かなしみのときも」

 

 私が唱え、まどかが唱える。

 交互に紡がれていく詠唱は、私達の幸せを約束する魔法の呪文。

 

「富めるときも」「まずしいときも」

 

 誓う。

 どんな時でも。

 

「これを愛し」「これをうやまい」

「これを慰め」「これをたすけ」

 

 祈る。

 あなたの傍に居たいと。

 

「「その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」」

 

 私はまどかの瞳を覗き込む。

 瞳の中の私は、愛おしそうな微笑みを浮かべていた。

 

「私は永劫(ずっと)、鹿目まどかを愛することを誓います」

「わたしは永遠に(どんな時も)、ほむらちゃんが大好きなことを誓います」

 

 私は、<鹿目まどか>という少女を幸せにしてあげたかった。

 だけどあの子は、自分よりも他人の幸せを優先する子だった。

 

 そんな永劫に思えた回帰の果て。

 私はまどかが魔女に襲われ、記憶喪失になっている現場に遭遇した。

 

 ――その瞬間、私の心に魔が差した。

 

【今なら、誰にも邪魔されず<まどか>を手に入れられる】

 

 魔法の使者を騙るインキュベーターに捕捉されるよりも早く、他の邪魔者達による干渉も一切ない。まるで悪魔にお膳立てされたかのような出来過ぎた状況。

 今ならば、誰にも気付かれずにまどかを浚ってしまえる。千載一遇の好機なのだ。こんな機会はもう二度とないかもしれないほどの。

 

 勿論、悩みがなかったと言えば嘘になる。

 私とは違ってまどかには優しい両親や可愛い弟がいるし、私の選択はきっと彼らにとって許しがたい悪行となるだろう。

 だけど私は……他の何を犠牲にしたとしても、まどかを救いたかった。

 

 もう嫌なのだ。彼女が絶望の果てに死んでしまうのは。

 彼女が魔法少女の契約を結び、魔女へと変わり果てた姿を見るのは。

 

 だからこれは好機なのだ。

 あの子にとって私が唯一の存在になってしまえば、あの子が誰かの為に自分を犠牲にする事もなくなる。

 

 記憶を失ったまどかを保護した私はその後、自身の魔法で決して壊れない箱庭を作った。

 地球外生命体だろうが問答無用で排除する、私の長年の執念が築き上げた多重魔法結界。

 私自身の固有魔法である『時間操作魔法』の粋を凝らして作り上げた難攻不落の要塞だ。

 

 私にはきっと、魔法少女としての才能はなかった。

 特殊過ぎる固有魔法を除いてしまえば、私の知るどんな魔法少女よりも私は弱かった。

 

 巴マミの様な才は欠片もなく、

 美樹さやかの様に勇敢でもなく、

 佐倉杏子の様に物分かりも良くなく、

 

 私の憧れた鹿目まどかの様な<魔法少女>にはなれなかった。

 

 だけど私は諦めなかった。

 魔女に堕ちる事を拒絶し、魔法少女として生きる事を諦めず、まどかを救うという希望を捨てたりはしなかった。

 その結果辿り着いた境地は、もう決して誰かに劣る物ではなくなっていた。

 

 この閉ざされた箱庭の中を、私とあなたの幸福で満たしてしまいましょう。

 誰にも邪魔されない、二人だけの銀の箱庭。

 

 私はきっと悪魔と呼ばれる存在なのだろう。

 この天使のような少女を陽の当たる世界から奪い、この箱庭の楽園に閉じ込めてしまったのだから。

 

 だからどうかお願い、私の宝物を奪わないで。

 私はもう、誰一人として犠牲にしたくないのだから。

 

 

 巴マミも、美樹さやかも、佐倉杏子も。

 

 ――気付かなければきっと、友達にだってなれたのに。

 

 私達の邪魔さえしなければ、それだけで良かったのに。

 

 

「…………本当に、残念だわ」

 

 

 ワルプルギスの夜が全てを滅ぼしても、私達は永遠を繰り返す。

 

 私達の幸福の円環(Happy Circulation)は決して終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 まど監禁エンド。
 最初は中編予定だったんだけど短編で良いんじゃね? と気付いたのでそうした。
 正直ほむまど描いて見たかったダケー。
 漫画の『ハッピーシュガーライフ』が最近のお気に入り。ヤンデレ監禁良いよね。


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