ばっさばっさとリザードンに乗って向かった先はタマムシ大学。
何気にヤマブキシティとは距離があるタマムシシティはヤマブキと並ぶ一大都市。
大学のためにデパート等の大型量販店があると行ってもおかしくない。
そして今現在。世間を騒がせているロケット団と名乗る悪の組織は。
己の認識では悪の組織(笑)としか思っていなかったが、その活動は幅広く。
ありとあらゆる分野で悪事を働く警察の手にも余る存在だ。
そしてその基地が此処タマムシにあるとは誰も思わないし、誰も信じない。
ましてや皆が夢をかけるあのカジノの下、そこに入り口があると言う事も。
後数年、いとこのグリーンや少し顔を見た事のあるレッド君に壊滅させられると言う事を知っている身としては、彼等二人で本当になんとか出来るのか少々不安だ。
『……おーい、ご主人ー。前見ろー』
「あ? いったッ!!」
「……ちょ、大丈夫かっ!」
「――!」
前後不覚。
壁にぶち当たり、顔面をぶつけた。
少々うずくまり、爺ちゃんに心配された。
「あ、オーキド博士!」
「『あ』、じゃないわい! お前さん、 早く救急箱持って来い!」
「は、はいぃー!」
ぐぬぬ……遺憾であるぞ。まっこと遺憾でござるぅッ!
『自業自得だろう、それ……』
うるさい。
ピカチュウも酷いじゃないか、注意してくれないだなんて。
『いや、私はしたからな? 4,5回くらい。考え事してたご主人が悪いんじゃないか』
まじか。
『マジだ』
「……博士ー持ってきましたー!」
「遅いぞ! 早く持ってこんか!」
「エェー…」
どうしよう。顔を上げたら凄いてんぱってるじっちゃんがいた。
「あの、爺ちゃん? 大丈夫、もう平気だから……」
「……本当か? 痛い所あったらおじいちゃんに言うんだぞ?」
「…………うん」
凄い心配性です、ウチのお爺。
過保護になって無いだろうか?
『大方、孫が自分と同じような道に進んでくれてるから嬉しいんだろう』
……なるほど。納得した。
さっすがピカチュウ。IQ300は伊達じゃないな。
『よせ、照れる……』
腰に付けたボールがプルプルと震える。
照れてる照れてる。
苦笑いしながら過保護なお爺ちゃんに顔を向ける。
「……ほっんとに大丈夫か? 病院行っても……」
まだ言ってますよ、このおじい。
白衣一人、ちみっ子一人。
それ以外誰もいない、タマムシ大学の廊下で世界的権威は慌てふためいていた。
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しょうがなく、廊下で連続前方倒立回転跳びやって見せてさっさと大学の中を案内して貰う。
『おい、ご主人! あんなのテレビ以外で初めて見たぞ!』
え? 連続前方倒立回転跳び?
トレーナーたるもの、あれくらい出来ないと死ぬんだよ?
さっきだって爺ちゃんが「さすが儂の孫じゃのぅ」って言ってたし。
きっとあの老いぼれた身体も昔は地上十メートルから飛び降りてもぴんぴんしてたんだよ、きっと。
(※違います。普通のトレーナーはそんな事出来なくてもやっていけます)
『……凄いな、トレーナーの世界とは』
凄いよな。でもTOPP○も最後までチョコ「着いたぞ。此処が儂の研究室!」……。
目の前の爺ちゃんに着いて入る。
『……Don't mind! ご主人っ!』
やけに発音の良い英語が聞こえた。
それは慰めているようで……笑っていた。
……ちくしょー!
「ど、どうしたんじゃ? 急に床なんて叩きだして」
「……世の中の理不尽さに少し」
「…………そうか。それで本題なんじゃが……」
なんと言うスルースキル。
きっと今の間でめんどくさいとか思ったに違いない。
……凄く、泣きたいですッ…!
『明日があるよ、ご主人』
「……本来、子供が来るような所じゃない……というのが此処じゃ」
お前のせいなんですけどね? 判ってますか? そこんとこ。
『判ってる判ってる』
すばらしく判っていない。
素晴らしい生返事。
……晩飯抜きね。
『』
ピカチュウの時間が停止する。
さながら「時よ止まれ――ザ・ワールドッッ!」とされたかのよう。
「それでこれからオーキド研究所……マサラタウンの方に行って大学の研究を手伝って貰おうと思う」
「……はい?」
拝啓、父上、母上。
ピカチュウと話していたらトントン拍子で話が進んでいました。
どうやらとんでもない話になっていたようです。
『……ざまぁみろ、ご主人』
PS.ピカチュウは明日の朝飯も抜きです。
『…………』
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再び時が止まったピカチュウはすぐさま復活。
勝手にボールから出てこようと静電気をバリバリと鳴らし、ボールを帯電させていた。
バチバチじゃない。バリバリダ―!
「……そのピカチュウ、強いようじゃな……」
「うん……ちょっと」
ちょっとどころか、種族値的に恐ろしいですお爺様。
だってでんきだま持たずに本来の攻撃・特攻二倍の火力。
まだ試した事無いけど二つ目が持てて倍化したら目も当てられない。
後で詳しい種族値はあの「ポケモンのすべて」と言う名の神さま印のアカシックレコードから調べるとして。
確かピカチュウ自体の攻撃・特攻は五十前後だったはず。
それが四倍だから……ね?
……あとは言わない。
『ご主人、今度でんきだま取りにいこう?』
頭に響く声でわかる。
あ、あざといぞピカチュウッ…!
きっと今、ボールの中で首をかしげながら上目遣いをしているに違いない。
さぞかし女子供を骨抜きにする愛らしさなのだろう……。
だがな、分かっているんだ……ピカチュウ。
でんきだまをやると真っ先に俺が痛い目を見るとなぁッ!
『……ちっ』
こら、舌打ちすんな!
「……大丈夫か? プルプルと震えているようじゃけど…」
「だ、大丈夫。ちょっと静電気で痺れただけだから」
くっそぅ……。
今、猛烈に叫びたい!
「……む、そうか。……そろそろお主のピカチュウ、出してやればいいんじゃなかろうか? どうやらずっと中にいてストレス溜まっているようじゃし」
『出せ。ちょっとご主人とO☆HA☆NA☆SIしたい』
「いやだっ! 絶対ヤダ!」
「……いかん。自分のパートナーにストレスを溜め込ませるのはいかんぞ? トレーナーとして最低限そういう事はわかってやらねば」
『だそうだぞ、ご主人? ……いいから私をだせぇー!』
つい叫んだらお爺ちゃんから外堀埋められた。
出したら死ぬ。
出さなかったら爺に批難される。
……積んでる。
『年貢の……納め時だな。ご主人?』
ニヤニヤと笑うピカチュウ。
……お前絶対Sだよな。
さて、いつかは通るべき道。
避けて通れない。
だからせめて。
「……出すの、外でも良いかな?」
「いいぞ。そのピカチュウも広い所の方が良いだろうしの…」
そう言って博士は部屋から出る。
向かうは中庭と言う名の戦場。
絶望への片道切符を手に、俺はお爺ちゃんに着いて行った。
前回よりかは長い。
質は悪い。