暗い部屋の中。
入ってまず目に付くのは五つのオレンジ色の塗装が施された電化製品だった。
しかし、とりあえず物色。
盗まれたらしい古ぼけた日記を一冊、ここのトップである冥王星さんの研究レポートが一つ。
あと『あかいくさり』に関する資料が二、三あったのでゲット。
やってることが犯罪者より犯罪者らしいけど、そこは「目には目を、歯には歯を」の精神で罪悪感とかは吹っ切れた。
「よし、貰うもん貰ったし帰ろう」
『……あ、ちょっとまてご主人』
「……なにさ」
『……いい事思いついた』
わっるいー顔したピカチュウの姐さん。
ぴょんぴょんと備え付けられてたパソコンのところまで走って行った。
……一体何をすると言うのか。
『なに、簡単な事。ちょっと政府だとかギンガ団本部とかに態と足がつくようハッキングして、色々と情報を盗ませてもらうだけさ』
「……だからお前ホントに違う人中に入ってるだろう?」
『イ○テル入ってる』
「インストールしたの!? マジで!?」
『んなわけないじゃないか。馬鹿だなぁ、ご主人』
……あぁ、びっくりした。
だよねー。
流石に生物の域を超えてるっての。
『……よし、完了。二、三十分したらばれる。あの女を連れて撤退するぞ』
「了解。モーターも手に入ったし、万事オッケーか」
――ドガン、と目の前に天井が落ちてきた。
「ほんっとにありえないってシロナさん!」
「ひゃっ! ご、ごめん!」
さて、ガブリアスと共に落ちてきたシロナさんはもうすでに機嫌は治ったようで。
……というか、何階から落ちてきたのよ。
吹き抜けになってるんですが。
「……機材壊すだけで良かったのに」
「ごめんね。やりすぎちゃった……てへ」
「可愛くしてもやっていい事と悪い事があるでしょうが。子供か、あんたは」
「……まだ十八歳だもん」
もん、って。もん、て……。
「あぁ、もう! ……さっさと退散しないとまずいんでっ! 後で説教ですからねシロナさんっ!」
『……ご主人、なんだかオカンみたいになってるぞ』
「うるさい、ピカチュウ!」
「……やっぱりトウカ君はポケモンと」
ぎゃーぎゃーと言いながら、ギンガ団ビルから飛び出た。
……三十分後、ジュンサーさんらが調査しているのが見え、ギンガ団の冥王星さんがお縄に掛かっていたのが見られた。
そうして翌日。
表向き有限会社であるギンガ団の社長が頭を下げている姿が朝刊のトップを飾る。
『我が社における重役の一人、プルートという者が社内における地位を利用し利己的な研究を行っていた。研究中に政府のシステムにハッキング。そして何らかの事故を起こし、団員を危険にさらしたということ。社員親族の方々には申し訳ない事をしてしまった。何者かに襲撃されたという見方も無い事も無いが、証拠が出ない以上、やはり前々から怪しい言動のあったプルートの犯行で間違いない。今後は健全で安全に宇宙エネルギーの開発に力を注ぎたい』
と未だ年若い社長、アカギは述べている。
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館で振り分けた部屋の一室。
つまりシロナさんの部屋。
「まぁ、俺にも責任があるにはありますから……そこまで言いませんけど」
「……はい」
「誤魔化したくてであの惨事はない。……秘密裏に片付けようと思っていたのに」
「ごめんね……」
「……はぁ」
帰ってきて早々、シロナさんを正座させて説教をした。
……あの場にいた何人かはわかっているだろうが、やはりやりすぎた。
パトカーが4、5台止まってたもの。おっかねぇ。
……いや、パトカーはピカチュウのせいだった。
「まぁ、終わったことだし特にねちねちとは言いませんが。……もうちょっと加減をしてくださいね」
「……はい」
「さ、ご飯にしましょう。お腹減りましたから……」
「……うん」
なんでもう、こんなにしおらしいかな。
『いやいや。ご主人のせいだろう?』
いや、そう……だけどさ。
『……慰めて上げたらどうですか? 流石になんだか可愛そうですよマスター…』
ウインディの件をチクってなんか色々と叱ってきたらしいキュウコンにも言われた。
……仕方ない、のかな?
「えっと……ごめんなさいシロナさん。……全部俺のせいですよね」
「え……」
「迂闊に傷つけるような事をもらした俺のせいです。……きっと出会うのが彼女よりも早ければ、シロナさんに応えることができてました。でももう彼女と約束してますから……」
「……うん、知ってる」
「……はい。だから」
……ぽんぽんと座っているシロナさんの頭を撫でる。
きっと不誠実なのだろう。俺はどうしようもなく、自分勝手だ。
「……これで、許してください。貴女の事は好きです。人としても女性としてもそれなりに。でももっとナツメちゃんの事は好きなんです」
……さ、これで変態さんも元気出してくれただろう。お腹も減ったし早く――。
「――トウカ君。でもね、私も我慢出来ないの……だって初めてだから。……うん。じゃあトウカ君は私に応えなくてもいい。だからせめて……私は貴方の事、好きでいてもいい?」
……酷いなぁ……なんだってそれ今言うのだろう。
折角もう話を切り上げてしまおうと……でも、本気なのだろうか。
「本気ですか?」
「うん」
「……俺は貴女に応えて上げれませんよ?」
「うん、知ってる」
「ナツメちゃんの事が好きです」
「……知ってる」
「きっと……こんな俺を好きでいても不幸になるだけです」
「それは私次第。不幸って思うか、幸せって思うかの違いよ」
「そんなの……誰も救われません」
「そうね」
……。
本気か、この人。
『……ご主人』
あぁ、うん。わかってる。
この人、絶対に折れない。あきらめてくれない。
……そんなの絶対良くないのに。
『……私は――もう、何も言えないからな。自分で決めろ……』
……ああ。
「……はぁ。大体俺はそんな器用な人間じゃない……例え並列思考が出来たとしても、例えアスリートとして研究者として、トレーナーとして大成しているとしても……俺には好きな人を二人ももつなんて器用な事は出来ない」
「だから私が勝手に好きで」
「――でもシロナさんの事は好きだった……自分の心にも誤魔化してきたけど…! 俺も、シロナさんの事知ってたから……なんで態と嫌われようとしてるのに、俺の気を引くようなことするんだっ! ……矛盾してるの見ててこっちが悲しくなるんだよ…ッ! だからせめて嫌いになってくれるように、俺は冷たくしてたってのに……っ……なんで好きだって言うんだよ……出来るだけ話題に出さないよう気をつけて……」
空気が重い。
辛い……どうしたら良いんだよ。
畜生、言わなきゃ良かった…っ!
「へ……あ、の」
「……ははは。あーあ言っちゃった。なんてナツメちゃんに謝ろうかな……」
どうしようか。あぁもうこの際二人まとめて責任取っちゃおうか。甲斐性はあるか自信ないけど――っ!?
「……ごめんね、トウカ君! 私、私――っ!」
シロナさんは抱きしめてきた。
泣いて、抱きしめていた。
「……なんで泣いてるんですか。……泣かないでくださいシロナさん。やったじゃないですか。両想いだったんですよ」
「私が馬鹿だったっ…! ごめんなさい! ……もう貴方よりもずっと大人なのに…っ! 子供みたいに我侭ばっかり言って……っ!」
「……もう。酷くないですか? そんな事言われたら……何も言えなくなってしまうじゃないですか」
「許して……駄目な私を許して……」
「誰も怒ってませんよ。……顔、上げてください。せっかく好きだって答えて上げたんですよ? そんな泣かれたら、悪い事したみたいじゃないですか。むしろ俺が謝るべきで」
「……そうかもだけど…っ! トウカ君、泣いてるんだものっ!」
「へ……あ、ホントだ。……なんでだろ?」
ナツメちゃんと約束守れなかったからかな。
会ったときが怖いな。……愛想つかされるんだろうか。
……嫌だなぁ……。
……あぁ、そうか。
こんな気持ちだったのか。
……ピカチュウ、ごめんな。
『……気にするなご主人。所詮、私とご主人は怪物と人だからな。……私はお前のそばにいれるだけで満足さ』
……ごめん。お前は強いよ、本当に。
それからシロナさんも俺も一緒になって泣いた。
何が正しいのかわからないまま、泣いた。
でも、わかる事が一つある。
俺は、約束一つ守れない悪い人間だったみたいだ。
……ごめん、ナツメちゃん。
△▼△▼△▼△
「……あ、ナツメ。そういえばずっと前から聞きたかったんですが……」
「ん? なに、エリカ」
「あの子、トウカくん? 野暮だとはわかっていますけど……どうなったか教えてください」
「えっと……言わなきゃ駄目?」
「駄目」
「えぇ~……じゃ、じゃあ……うん。えっとね、出て行くとき約束したんだ。『半年後にまた会うまで、お互いにずっと好きだって想い続ける』って。それでそれぞれ『目標を持って、それを達成しておく』って。そうしたら晴れて恋人になろう、って約束」
「……それで、ナツメはどのような目標を?」
「私の場合は超能力者が迫害されないエスパータイプのジムを作ってそのジムリーダーになること。……トウカ君は……無事に私のところへ帰ってくることって言ってて。……なんか恥ずかしいな」
「……ちっ」
「なんで舌打ちしたの!?」
「だってどう考えたってナツメのほうが難題じゃないですか。……でももうすぐ達成するというのだから……恋する乙女は強しということですね。それにしてもなんだってそんなナツメにばっかり無理させるような事言って……」
「……べ、別にそんなこと……」
「(はぁ……照れてるナツメ可愛いなーお持ち帰りしたいなーその胸の脂肪ちょっと分けて欲しいなー)」
「め、目が怖いよエリカ」
――拝啓トウカ君。お元気ですか?
私は貴方がなんだかとっても遠くに感じます。
つい最近まで、私の近くにいた貴方が離れていくような……気のせいですよね。
……あと、最近胸がまたおっきくなってきました。
そのせいかエリカの視線が怖いです。
――私、がんばってます。
早く帰ってきてください。
ずっと待ってます。
ミュウ's「最近空気な気がする」
最近四本足になった弾丸担当「同意」
シロナのタグは入れない。絶対に。
ではではまた次回。