チートでポケモンのトレーナーらしい   作:楯樰

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タイトル通り。
超拙作注意!


夢……らしい

ハジツゲタウン。

ハジツゲの広い道。

道すがら一組の若い男女が話していた。

 

「うーん……少し前からかな」

 

ナツメが聞いた、超能力が何時から使えたか。

――記憶が正しければ、自分と初めて会ったとき。あの時はまだ使えていなかった筈。

トウカ君は確かに特殊な能力をあの頃から持っていた。しかし自分と同じ『超』能力では無かったと、トウカ君自身が言っていた。

いや、確かあの時トウカ君は超能力の方が便利だと言っていた。

なら超能力が使えるか試して、そして偶々その才能が開花したんだ。

 

そう思考したが、しかし一つ分からない事ナツメにはあった。

 

「……なんで私に心が読めなくしたの?」

(トウカ君は私に好きって言ってくれたのに)

 

あの時“会えない事”にしたために要求された“約束”の変わりに教えてくれた、ナツメの吐露に対するトウカの気持ち。

それは長く切なかった六年近くの時間を甘く溶かすような答え。

トウカの考える事は何でも知りたい。共有したい。分かち合いたかった。

それなのに、とナツメは疑問に思う。

 

「ほら、うん……俺にも色々とあってね」

「……そっか」

 

トウカは照れながら手を繋いだ方とは逆の手で頬を掻く。

――ナツメの知らない彼の心の内。実際は思わず思ってしまう彼女への好意の感情を隠すため。そして自身の知る知識を無闇矢鱈に、いくら好き好んでいるナツメには聞かせれないから、という酷く利己的で個人的な悩み故に読めなくした理由は話せなかった。

 

 

しかし、そんな意思は伝わらない。

 

 

心を読み、その人を信じられるか信じられないかで決めていたナツメには疑念しか生まない。

 

 

…………なんで隠す必要があるの?

…………私に知られたらまずい事なの?

…………知られたらまずい事ってナニ?

 

 

――ナツメの心には墨色の水が流れてきたようだった。

 

-------------------------

 

俯いているナツメを元気付けようと、トウカは今いるハジツゲを巡って、一つのガラス細工を購入した。

 

「……はい、これ」

「……? なに、これ」

「開けてみてよ。ナツメちゃん」

 

渡された小さな袋。

旅行の帰りに、友達にお土産を渡すために貰うような小さい袋だった。

 

「……これ」

「付けてみて。多分サイズは合ってると思うけど……」

 

袋の中見は細かい装飾の施されたガラスの指輪。

自然と落ち込んでいた表情には笑みがこぼれていた。

 

「えっと…………トウカ君、付けてくれる?」

「え……う、うん」

 

躊躇いながらも頷き、袋の中から取り出した指輪をトウカはナツメの指に通した。……右手の薬指に。

 

「……なんで?」

「いや、だって左手の薬指にしてたら要らぬ誤解受けるでしょ? それにナツメちゃんのお父さんやお母さんに何言われるか分かったもんじゃないし」

 

恥ずかしげにトウカは言う。

彼なりに頑張ったつもりなのだろう。

一概に神さまから貰った能力のお陰で有るが、目で見ただけで彼女の指のサイズにあった指輪を買ってこれるわけが無い。

 

「……そうだね」

 

しかしナツメは落胆した。

……なんで左手の薬指に付けてくれないの。私の事が好きなんじゃないの、と。

(ならこんな形だけの物よりもアナタの本当の心が知りたい)

右手の薬指にあるソレを見ながら、ナツメは思った。

 

――ねぇ、トウカ君。アナタはホントは私の事を――。

 

 

それからというもの、ナツメの気分は優れず。

目に見えて元気の無い表情のナツメに戸惑うトウカは、彼女を連れて拠点へと戻った。

ナツメは現在リビングとも言える食堂から離れ落ち込んでおり、トウカはというと年長者のマユミに相談していた。

 

「凄く落ち込んでるんですけど……どうしたら良いですか」

「うーん……まぁ理由が分からないんじゃ私もアドバイスのしようがないし……」

「そうですよねぇ…………何か悪い事したかなぁ」

「何かしたの? 何もして無いんだったら……何か勘違いがあるのかも知れないし、ちゃんと話してみれば?」

「はぁ。……ありがとうございました、マユミさん」

「えぇ。どう致しまして」

 

ナツメに影響され暗くなっていたトウカも少し余裕が出てきたのか、笑顔で礼を言う。

……端から見て、楽しそうに会話している様子は、二人の声を聞こえ覗いていたナツメに、誤解を与えるには十分だった。

 

――……あぁ、その女の人が。トウカ君の本当に好――。

 

ナツメの目の前は真っ黒になった。

 

-------------------------

 

トウカに別れを告げ、家に帰ったとトウカが思っていたナツメは、どこかへ消えた。

ナツメの家族からは捜索願いが警察のジュンサーの元に。

トウカの両親は、トウカが『ナツメちゃんが旅から帰ってきたら此処へ電話して貰えますか』という意図を持って教えていた電話番号に掛かってきた、自宅の電話によってナツメの両親から娘が居なくなった事を告げられ。

 

そして両親から遠距離電話を通じてトウカへと知らされた。

 

ナツメが居なくなった事を聞いたトウカは焦燥に駆られる。

――なんでナツメちゃんが居なくなった? もしかして帰る時に座標を間違えた? 土の中? 壁の中? どうして居なくなっちゃったんだよ。俺が悪い事したから? なんで、どうして……――と。

 

そして最悪の可能性ばかりが彼の頭の中を巡り始めた。

 

もしかして年々減らないポケモンを使った犯罪に巻き込まれてるんじゃないか。

既に何処かへ売り飛ばされているんじゃないか。

または、殺されて臓器売買に使われたんじゃ……。

 

もしくは超能力を研究する外道の科学者に捕まったんじゃないか、と様々な光景が浮かんで、そうして『もしかして』の可能性に恐怖していた。

 

――それが、一人止まらぬ最悪の光景を想像してガタガタとベットの上で過ごしていた、半年間の研究遠征から帰りさらに三年後の秋だった。

トウカの手持ちのポケモン達も皆、彼を心配したが悪い想像を止められないものは止められない。

遠征から帰ってからの三年間。

何時だったか知らされたホウエン地方の預かりボックスの管理者が突然の失踪を遂げたこともあってか、健康状態、精神状態全てが悪くなって行き、大学へ通う事も侭ならなくなり彼は部屋へと引き篭もるようになっていた。

 

……そしてその内、見舞いにくる研究員も足が途絶え、トウカ自身がナツメが死んだと思うようになり無気力になっていた翌年の春。

いつものように目が醒め、鳴らない目覚まし時計を見て時間を確認しようとした。

が、いつもの位置に時計は無い。

キョロキョロと確認してみるが、辺りにはない。

何処へ行ったのだろうか、とベットから起き上がりトウカはベットの下に行ったのだろうと覗いた。

 

……かなり埃が積もっている。二年前から掃除して居なかったので当たり前と言えば当たり前か、とひとりごちて再び目を凝らす。

しかし見えない。ベットの下は暗かった。

 

電気もつけず窓のカーテンも閉めたままだったので、ベットの下は途方も無い暗闇に見え、様子が分からなかった。

彼は仕方なく立ち上がり、電気をつけ確認しようと再度(かが)む。

 

しかし、ベットの下から出てきた手に手を掴まれて叶わない。

懐かしいテレポートの感覚でトウカは部屋から姿を消した。

 

-------------------------

 

トウカは再び目を覚ました。

洞窟のようだった。

何故か首しか動かない体に疑問に思いながら、何処だろう、と首を回し周りを見る。

髪の長い長身の女性が椅子に座って何か書いている。

 

「だれ……?」

「あ、起きたんだね。おはよう」

 

トウカの声に気づき、椅子から立ち上がり近づいてくる。

丁度それ以上トウカの頭が上がらず、顔が分からない位置に長身の女性の顔はあった。

 

「久しぶりだね、トウカ君。……いや、私はずっと見てたから久しぶりって程じゃないけど」

「ずっとみてた……?」

「うん三年間」

 

その声はトウカにとって懐かしいものだった。でも彼は思い出せずにいた。

彼の知り合いの女性と言えば、母に研究員の何名か。それからマユミにミズキ、ショウロだったが誰しもトウカ君と呼ぶ人間は居なかった。

……女の子であればナツメが当てはまるが彼女は死んでいる。有り得ない、と纏まらぬ思考で判断を下す。

 

「ふーん……ミズキにショウロ、ね。はぁ……それにしても酷いなぁ。私、殺されちゃってたんだ」

「……え?」

 

トウカは自分の考えを読まれていた。

自分以上に強い超能力者でないと心は読まれないはず。なのにどうして、とトウカは混乱する。

 

「はぁ……私は三年間、いや違う。十年の間片時もトウカ君のこと忘れなかったんだけどなぁ……酷いよ。 ……でもトウカ君の疑問に答えると、あなたと別れてから三年間で私の超能力は成長したし、トウカ君は全然使って無かったみたいだから衰えてた。だから私はアナタの心が読めているの」

「ちょうのうりょくしゃ……」

 

体力も何も無い。

止まらぬ思考を無理やりにもやめ、頭の回転も遅くなったトウカには分からなかった。

この人が誰なのか。三年前からみられていた事。自分に殺されていた。

と、前の彼ならばこの人物、この女性の予想がついたが混乱のせいもあるのか、それもわからなくなっていた。

 

「……だれ、なんだ?」

「もう、仕方ないんだから」

 

彼女はしゃがみ、トウカと目を合わせる。

 

「え……ああ、あぁ、あ」

「改めて久しぶり、大好きなトウカくん。私の顔は覚えてるよね?」

「な、なつ……なつめちゃ、ん……」

 

生きていた。彼女が生きていた。良かった、とトウカは涙を流して彼女の名前を呼びながら喜ぶ。

手も足も胴体も。体の動き全てを封じるために、頭以外をテレポートによって壁に埋められていたトウカは泣き始め、しばらくナツメに頭を撫でられていた。

 

……トウカは気づかない。

ナツメの優しさを感じさせる笑みの裏に狂気がある事に。

自分が逃げられぬようにと壁に埋められていたという異常性に。

首にかけられたかつてナツメが使っていた超能力を抑圧する道具があった事にも。

唯一つ。ナツメしか見えていない虚ろな彼は何一つ気づかなかった。

 

 

 

 

――そうして二人は堕落していく。

世界への出口は塞がれていた。

あるとすれば甘美な口付けと愛するヒトへの甘い囁き。

 

狂愛に満ちた女は何よりも愛している人に。

偏愛に堕ちた男は何よりも愛する人に。

 

何もかもを置き去りに、二人の世界は廻る廻る。

 

女の左手の薬指には古いガラスの指輪が。

男の左手の薬指には二度と外れぬガラスの指輪が。

 

そこには二人の幸福しかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――うぅっ! ゆ、め? ……はぁ、はぁ……」

「うぅん……どうしたの、とーかくん」

「……あぁ、ごめんナツメちゃん。起こしちゃった……なんだか嫌な夢を見た」

「そっかぁ……おやすみぃ」

「うん……おやすみ」

 

悪い夢。

現実のような虚実。

――でもあれも一つの幸せの形であったのだろう。

考えつつもトウカは彼女の手を握ってガラスの指輪が無いのを確認し、その良くない考えを振り払う。

 

 

眠る二人の指には何もない。

あるとすれば、小指の視えない赤い糸。

カントーへ向かう、夜の船の出来事だった。

 

 




色々とやっちゃった感が凄まじいヤンデレ夢話でした。
実は一番自殺し掛ける程心病んでたのは主人公っていう罠。
ヤンデレちゃった二人のした事はご想像にお任せします。

ちなみに、マユミさんの行方も三年間どうやってナツメちゃんが過ごしてたかも全部テレポート。
……テレポート万能説ェ……。

夢ゆえに御都合要素たっぷりでした。

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