ナツメちゃんに案内されて彼女の部屋に着いた。
お邪魔します、といって部屋の中に入る。
うーん……女の子らしい部屋だ。
それにしても途中、ステテコに腹巻きという格好をした男の人がいた気がするけど……
「……まったくお父さんあんな格好で」
そう言いながらナツメちゃんは苦笑する。
……ってまた読まれてたし。
「……ゴメンね? あと二年位したら無意識に人の心、読めなくなるようにできると思うから」
「いや、気にしてないから。……でもあと二年したら普通に生活できるようになるんだ」
「うん……でも、やっぱり迷惑じゃない? 勝手に人の心読むなんて……」
……いいんじゃないかな? 別に読めても。
「え?」
「だってさ、」
こうして直接相手に話し掛けなくても考えてる事が伝わるって凄いじゃん。
「え、あ……うん。……そうかな」
そうそう。だから、さ。そんなに思いつめる事無いと思うよ?
「そっか……えへへ、ありがとう」
そういって笑うナツメちゃんはやっぱり可愛かった。
泣いてる時よりもやっぱり笑ってる時の方が可愛い。
「ッそ、そうだ。け、ケーシィ出さないと。そのために来てくれたんだから……」
ナツメちゃんは顔を赤くしていそいそとモンスターボールを取りに部屋から出て行った。
……またやってしまったっぽい。気を付けないといかんな、うん。
さて、ナツメちゃんが行ったのでカーペットの上に座り、思考を始める
まずは自分の特殊能力で何ができるか整理しておこう。
トキワの能力が、
一つ、ポケモンの一時的なレベルの変動。
二つ、ポケモンの回復。
三つ、ポケモンに意思を伝える&聞き取る。
の、三点。
それから後は、なつき度とかポケモンのステータスだとか……自分の手持ちにポケモンがいないと意味が無いので今回は使えない。
だから目に見えてわかるのは……トキワの能力の内、意思を伝えるだろうか。
そうしよう、と考えていたらナツメちゃんが部屋に戻ってきた。
「お待たせ。おいでケーシィ」
ナツメちゃんはモンスターボールのスイッチを押す。
▶あ! ナツメ の ケーシィ が 飛び出してきた!
「……なに? それ」
「いや、うん。気にしないで。……やってみたかっただけだから」
「ふーん……あ、超能力」
はやくはやく! といった感じでナツメちゃんは急かしてくる。
いや、特殊能力なんだけど……ま、いっか。
じゃあ……『ケーシィ、ナツメちゃんの後ろにテレポートしてくれる?』
「……え?」
俺が念じるとケーシィは目の前から消え、ナツメちゃんの後ろにテレポートした。
ナツメちゃんは後ろを振り向く。後ろにテレポートしたケーシィは、舟を漕ぎながら眠っている。
「……ホントだ。今、ケーシィに命令しなかったよね?」
ナツメちゃんはケーシィを抱いて、床に座る。
「うん。心の中でお願いしただけ。指示を出す以外にも色々できるけどね」
「凄い……それで他には何ができるの?」
膝の上にいるケーシィの頭を撫でつつナツメちゃんは言う。
「ポケモンの体力の回復と、ポケモンの考えてる事を受け取る事くらい……かな」
「へー……ちょっと羨ましいな、ポケモンの考えてる事が分かるって。私の超能力は人の考えてる事は分かるけど、ポケモンの考えてる事は私、分からないから……」
残念そうに俯いてナツメちゃんは言った。
だから、と続けて顔を上げ、俺の目を見てナツメちゃんは言う。
「……トウカ君が羨ましい。超能力よりも便利で」
真摯に目を合わせて言ってくれるので少し、恥ずかしい。
だけど超能力もそれなりに便利だと思うんだけど。テレポート使えたり、自分で空を飛べたりしたら。
それにケーシィの考えてる事ならナツメちゃんにも分かると思うけど。
ナツメちゃんは驚いた顔をして、いよいよ首が落ちそうになってきたケーシィの方をみて笑う。
「『眠い』ってさ」
「だね」
ナツメちゃんが笑うのにつられて俺も笑い、ナツメちゃんはケーシィをボールに戻した。
……さて、と。そろそろ帰ろう。
そんな事を考えながら立ち上がる。
「…………帰っちゃうの?」
「うん。お昼の時間だし……どうかした?」
「う、ううん。なんでもない……玄関まで送るね」
「あ、うん」
ナツメちゃんも立ち上がり、部屋から出た。
玄関につき、靴を履いて扉に手をかける。
「それじゃ、帰るから」
「……また会えるかな」
「うん? 会えるんじゃない? 少なくともヤマブキシティにいて会えない事は無いだろうし」
「そう、だよね。なんだかもう当分会えないような気がするけど……気のせい、だよ……ね」
俯きがちに言うナツメちゃんの表情は少し暗かった。
そして超能力が使えるナツメちゃんが言うと、自分でもその通りになりそうな気がしてならなかった。
「じゃあ、約束しよう? 『また遊ぶ』って約束」
「うん……」
――ゆーびきりげんまん♪
――――うーそついたら♪
「……ねえ。ハリセンボンじゃなくて『どっちかの言う事を聞く』じゃ駄目かな」
「そりゃあ……うん。いいよ」
――一回いうこときーく♪
「「――ゆーびきったっ!」」
「じゃ、バイバイ。――またね」
「うん、またね」
ナツメちゃんに手を振り、外に出る。
お昼ごはんは何かな、とか、結局自分の事話せてないや、だとかを考えながら帰路についた。
…………未来予知がこの頃から使えていた彼女の『予言』。
まさか俺は約束が当分守れなくなるだなんて、帰路の道中思いもしなかった。