チートでポケモンのトレーナーらしい   作:楯樰

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新居らしい

懐かしいBGMを頭の中で思い出しながらただ歩く。

場所はハジツゲ。

カイナで確認したけどもコンテスト会場があった。

バトルテントじゃない所を見るとまだバトルフロンティアは出来ていないみたい。

 

桟橋を渡ってマユミさんのお家へ。

お供には二人。

研究室でも比較的ノーマルの奴らを連れてきた。

……ちなみにあの四人はポケセンで留守番である。

 

「しんどい……」

「室長、元気出して! ほら、見えました」

「うん……疲れたぁ…」

主にあの四人組の対応に。

思い出しただけでもSAN値がガリガリ削られる。

……身投げしたくなってきた。

「あい、きゃんふらーいっ!」

「しつちょぉおおおお!」

「ちょ、止めてくださいってぇ!」

「HA☆NA☆SE!」

「ダメですってぇ!」

二人に止められた。

「……もうやだ、お家帰る」

「幼児退行したっ!? 室長、正気に戻ってくださいよぉ!」

「帰るお家遠いですよ。背負いましょうか?」

「……うん」

「いいんだ!? それなら私が背負いますって!」

「……うん」

「いや、私が背負うんです!」

「…………うん」

……もうお前等好きにして。

俺、帰ったらナツメちゃんと結婚するんだ……。

 

 

トウカ十歳。

死亡フラグを建てつつ、やっぱりこいつ等もか、と絶望しかけた曇り空だった。

 

 

研究員二人がギャーギャー言いながら、いつの間にか着いていたマユミさんの家。

「ごめんなさい狭いですね。……どうぞ、粗茶です」

「……有り難う、マユミお姉さん」

「頂きます…」

「何かすみません……家の前で喚いてしまって」

「いえ、お気になさらず」

お盆を持つ彼女は十分美人。

しかし、家の中が散乱している。

家に上げた途端百年の恋も……さめるかさめないかは人それぞれか。

 

現状はマサキのように食事の後が散らかってるというわけではない。

それでも人ひとり通れるか通れないかの瀬戸際までパソコン差し迫り、資料が積み重なっている。

正直、よくこの家に住んでいれるな、と言うくらいだ。

「さっそくでアレなんですけど……」

「あ、そうだった。……はい、アイツからのお届け物です。この中に大本のデータは入っているらしいですよ」

「そうですか……さっそくとりかかりますね。後はデータどおりにカスタマイズするだけなんで二、三日位で出来上がると思います」

「はぁ、さいで」

 

結構彼女は凄いのだろう。

それにマサキと同じで、この人も大概ポケモンのこと好きなんだと思う。

時折資料の間からポケモンのイラストが見えたりしているのを考えると。

……結構上手いな。

 

「……それにしても狭くないんですか?」

研究員の一人が聞く。

聞いちゃダメな質問じゃないか、それ。

「あ、いや…………狭いです。でも家賃、此処しか払えないので」

「それは……要らぬ事を聞きました…」

まったくである。

……それにしても狭い気がする。

何か良い案がないかなぁ。

 

もうちょっとで出てきそうなんだけど。

 

「あ、そうだ室長。そう言えば拠点どうします? ……カイナでひみつのちから買わせてましたけど…」

「あ、うん。何処かに小さなくぼみが…………うん?」

……そうか。

そうだった。

確かこの周辺にはかなりあったはず。

「……どうかしました、室長?」

だから、ミュウに覚えさせて。

それから確か……ピカチュウ、ロコン、ガーディが覚えてた。

なら後はマユミさん次第。

 

「マユミさん、……引越ししませんか?」

「え?」

「こちらでの研究拠点を作るんです。……ただどうしてもずっとこの地方にいるわけじゃないので」

「……な、なるほど……」

「管理もキッチリしてくれるのなら俺達としてもありがたいんですが」

「そ、それで……ちなみに何処になるか聞かせてもらっても?」

「それは――」

 

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ひみつのちから。

 

ホウエン地方に存在する大きな木、草の中、岩壁に空いた小さなくぼみ等に使う事の出来る技。

使えばそこに秘密基地の入り口を作る事ができ、中を自由に飾る事が出来る。

予想では大きな木は木の上にそれなりの床を作り、草の中にはそのまま草の中に作る。

そして岩壁の小さなくぼみは、場所によるが大抵が壁の中。範囲と奥行きの狭い壁の場所は地中に出来た。

 

此処までがゲームに基づいた予測。

しかし現実はどうなのか。

正解は壁の中に出来た空間は、あなをほるを使って広げられる。

そのため小さな窪み群であるりゅうせいの滝周辺の秘密基地は繋げる事ができて、

 

「すごい。胸が、熱くなるな……」

「ヤバイ、自分の家より広い……」

「いいなぁ……私もここで住みたい」

マユミさんの家を訪れた翌朝。

寝ぼけ眼をこすりながら、研究員全員を遠足感覚でマユミさんの家まで連れてくる。

自分を除き、研究員総勢九人が来た時感嘆の声を漏らした。

 

一夜にして研究拠点兼マユミさんの新居は山一帯に広がった。

ちなみに地盤沈下、地滑りが怖いが、その辺はちゃんと確認して行っているので問題ない。

即ち超巨大秘密基地の完成である。

 

そう、此処に浪漫は相成ったのだ…!

 

研究室の男連中は狂気乱舞。

女子も少なからず嬉々としてお祭り騒ぎである。

秘密基地だから内部が豪邸並みに広くても問題ない。

後は引越し、模様替え、ライフラインくらいだけど……その辺りは此処に残る奴らに任せようか。

 

「ホントに良いの……?」

「俺達も使うんで。居住環境は……」

「いや、それくらいは自分でやります! ……にしても一晩でコレですか。凄いですね、トウカ君のポケモンさん達は」

「当たり前です。なんたってこいつ等なんですから……」

……特にピカチュウ。

一番古くて、一番信頼の出来る、一番のパートナー。

彼女も昨日は頑張ってくれた。

地盤のゆるい所は補強してくれたし。

部屋を繋げるのも彼女がやってくれたし。

マユミさんの借家と此処を繋げる作業もやってくれた。

そして何よりも、こんなダメなトレーナーのなり損ないについてきてくれる。

 

……なぁ、ピカチュウ。

『な、なんだご主人?』

本当にお前には助けられてばっかりだ。

してやれる事も無い。

それ以上に迷惑かけてばかりだ。

『……』

お前の今の状態にも気づいている。

……俺が悪いのも。

『……ごしゅじん』

ごめんな。

情けないこんな俺で。

『――今日の夜、毛づくろい頼めるか?』

あぁ。

幾らでもやってやる。

お前の気が済むまで。

『……うぅ…』

 

「……良いですね。とても」

「はい、俺の誇りですよ」

「フフフ……そうですか。マサキ君が君を来させたのも何だか納得です」

 

ピカチュウが声を押し殺しながら泣くのを頭に入れ、ピカチュウのボールを撫でる。

マユミさんがそんな俺を見て微笑んでいた。

 

 

秘密基地を整えた後。

遅めの昼食を取りにポケモンセンターに向かい、済ませ、借りていた部屋に行ってピカチュウに毛づくろいを施していた。

ピカチュウは少し目の周りが赤い。

マユミさんとの会話から、相当無理をしていたようでしばらくピカチュウ泣いていた。

 

「……そういえば捕まえた日、こうして毛づくろいしたっけ」

『――そうだな。思えばもう五年か……あっという間だった気がする』

「確かにあっという間だった。……なによりお前やガーディ達、ミュウにも出会えて楽しかったし」

『あぁ、充実していた』

「うん」

やけに今日は感傷に浸る。

もう俺が転生して十年。

始めの五年の頃は“俺”とは言えない“僕”だったけど。

それでも色々と楽しかった。

 

……

 

……ただ。

ただ俺には好きな子がいて、慕ってくれるポケモンがいる。

それが複雑だった。

ポケモンの意思が分からないのだったらこんなに頭を悩まさなくても良かったのかもしれない。

トキワの能力と孵す者、そしてありとあらゆる才能を努力で引き出せる力。

どれも無いものからしてみれば羨ましいと思うような神様が与えた異能だろう。

この能力があって厄介なことだと思うのは贅沢な悩みか。

ナツメちゃんが超能力を疎ましく思っていたのも今ならわかる気がする。

 

「侭為らんなぁ……」

『んー……どうしたマスター』

「なんでもない。……さて、そろそろ終わるよ?」

『うん。確かこの後の予定は買出しだったか?』

「おぅ。行った事無い所だけど大丈夫だろ。さて、ピカチュウ。こんなご主人だけど……一緒に行ってくれるか?」

『了解。――何処までもついて行くよご主人』

 

ピカチュウも元気が出たことだし。

あいつ等連れてミナモに行って道具買ってきますか。




ピカチュウさんを元気付けよう回。

ちょっと長めでした。
出来はいつもながらイマイチです。
そしてツッコミどころ満載。
でも山一帯が秘密基地とか……浪漫よね!

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