「うおぉおおおお!」
「やれぇえええええ!」
暴れているソレに向かっていく勇者達。
だが、それも目の前の敵には敵わず、振り払われまっすぐ壁に叩きつけられる。
しかし彼等はあきらめない。
何度でも立ちあがり、何でも向かって行った。
ある者は膝を付いている。
ある者は地に伏している。
それでも彼等の目には宿っていた。
――――やらなければ終わる。
――コレは俺達がやらなければならない。
そんな激情と意志が。
……で。
なんでこの研究員達こんなに熱いんだよ。
「やってるな。頑張れよーッ!」
「「「はいっ!」」」
あぁ、なるほど。
大体把握した。
つまりすべての元凶は貴様か、
「カツラさん」
「なんだ坊主! ……おっと、飛んで来たぞ! 避けろ!」
「へ?」
間抜けな声を上げて彼等のほうを見ると、目前に飛んでくる人の影。
頭が反応する前に身体が反応していた。
「ぬおぉおおお!」
自分の反射的行動で、痛みに悲鳴を上げる。
きっと今、俺の背中はイナバウアーもめじゃない背中の反り具合になっているだろう。
飛んできた研究員はまだ空いていたドアからでて、廊下の壁にぶつかる。
ふと思う。
ヘルニアならないと良いな、と。
それにしてもこんな状態でこんな事を考えれるとは。
中々に自分は冷静なようだ。
『違うぞご主人。あまりの痛みに現実を見ていないだけだ』
あぁそういえば背中の痛みが……って痛い痛い!
急に戻ってきたぁあああ!
「だ、大丈夫かトウカッ!」
「いだだだだ……」
お爺ちゃんが心配して声を掛けてくれる。
よ、避けられたけど……これなら避けなかったほうが。
……いや、避けなかったらあの研究員と壁でサンドイッチ状態だった。
「だ、大丈夫……」
「そ、そうか…。おい、カツラ! お前のとこの研究員になんて指導してんだ!」
「なんだ! 文句あるのか! このオレの全力全開☆熱血方針に!」
「問題ありまくりじゃ、ボケナス!」
「いたっ!」
ペチコーンと乾いた音が部屋に響く。
お爺ちゃんがカツラの頭を叩いていた。
思わず目を丸くしてしまう。
……こんな性格だったけ、ウチのお爺様??
『あるじー、さっきこの禿げた人が悪友って言ってたし、それなりの仲なんじゃない?』
おっと、ガーディはお目覚めだったようで。
船酔い酷かったもんな。
『うん。それでロコン起きた?』
まだ寝てるよ。
『ふーん。じゃ、もう一回寝る』
はいはいお休み。
……最近この二匹はよく寝る。成長期だろうか。
「……ったく。お主は昔っから変わらんな!」
「なんだ!? オレはまだまだ若いぞ!」
「ちっ……忌々しい」
オーキド博士は嫌味を込めて言うが、カツラ研究者には軽くあしらわれる。
ピカチュウ先生、本当に今日はお爺ちゃんの口調が荒いです。なんでですか?
『私に振るな。……その、苦手なんじゃないか?』
おぉ、なるほど。
流石ピカ先生、頼りになる。
私に振るな、とかいいつつ答えてくれる辺りがやっさすぅい~。
『知るか馬鹿。……でアレ、なんなんだ?』
ちょっと照れてるので、話題を変えたいのだろう。
……これ以上弄ると身の危険を感じるので、真面目に目の前の巨大なポケモンを見る。
アーマルドの手とオムスターの触手や殻。
そして背中?に見えるあれは……トリデプスの盾だろうか。
ほかにもラムパルドの頭部とか、アーケオスの羽根だとかに見えない事も無い部分がちらほら。
でもいくつか解らない部位もある。
『――! ――ッ!』
残念ながら意志の疎通は出来そうも無い。
どうやら研究員と同じく興奮状態らしい。
とりあえず研究員には落ち着けと言いながら、鎮静剤を打ち込みたい。
また飛んできて貰ったら敵わん。
……ふむ。
古代のポケモンの個性を取り押さえたポケモン。
さて、何かあったか……。
考えた限りではいないと思う。
……逆に考えようか。
何であんなにポケモンが混ざったような姿なんだ?
いや、なんであんな色んなポケモンが混ざったような姿だ?
…………うん?
「ねぇ、お爺ちゃん」
「……どうした、トウカ」
「あのポケモンって何から復元したの?」
「それは「琥珀から復元した!」喋らせろ、バカたれ!」
「いたぁっ!」
なんかジャレあってる二人は放って置こう。
とりあえず不定形の、琥珀の中に含まれていた蚊が吸った血からか、何かの細胞片から復元されたらしい。
だから大まかなポケモンの種類は不明。
……なら、可能性もなくも無い。
『どうした、ご主人。……悪い顔になってるぞ』
おそらくアイツ、どのポケモンにでもなれるんだ。
……古代にいたとすると?
『……っ……あぁ、なるほど!』
まぁ違うならいいさ。所詮憶測の域を出ないんだし。
ただ本当なら……えらい事だ、これ。
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後ろの大人はいつの間にか大人気ない口論を始めちゃってるので、俺はコッソリあの研究員に混じって検証を行う事にする。
ピカチュウ、マジで頼むからアレンジ技とか出さないでね。
『了解。私も真面目にする時はするんだぞ?』
はいはい。
……と言うわけでピカチュウ、まず電磁波。
『……もし本当なら私が酷い目に遭うんだが?』
トキワの能力で治して上げますんでお願いします。
電磁波が効くか効かないかで変わるんで。
『仕方ない……』
ピカチュウはそれだけ言って、幽鬼のようにフラフラと喧騒の中に進んで行く。
が、その動きは時として消えたり現れたりを繰り返す。
そんな様子でついにはあのポケモンの下へとたどり着いた。
『……一撃必殺』
彼女がそのポケモンに触れ、ポケモンは動きを止める。
そして、ズドン、と大砲を打ち鳴らしたかのような音が響き、彼のポケモンは倒れた。
まさに一撃必殺。
周囲の人間は総じて動きを止め、沈黙がその場を支配していた。
そしてそんな中ゆったりと歩いてくる一匹。
『やったぞ、ご主人』
俺の前に来て良い笑顔でビシッ、とサムズアップをするピカチュウ。
それと同時に俺は周りの研究員達に胴上げをされた。
……あ、あっるぇ~。
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一悶着終わって、先程の研究所の一室。
あのポケモンと俺がその閉じきった部屋の中にいた。
騒動を収めたという訳で、「捕まえれるようなら捕まえても良いか」と、グレン島研究所の皆さんとオーキド博士に聞いたらお許しが貰えた。
今この場には勿論誰の監視もなく……いや、あるとすれば護身のために出ているピカチュウくらい。
ちなみに此度の化石から復元する実験は一応成功。
もう一回化石の復元を行い、そのポケモンの生態調査をする方向で帰結した。
そして現在俺の目の前にいるコイツ。
姿を変え、怯えて縮こまっているポケモン。
あの時の姿形は混沌とした姿ではあったが、今こそ可愛いらしい姿をしている。
話を聞こうとは思うが、どうにも怯えて意志の疎通が出来ない。
「……なぁ」
『――!(ビクッ』
……かれこれコレが二十分近く。
そろそろ本題に入りたいんだけども。
『いい加減怯えるの止めたらどうだ?』
『……(フリフリ』
いやいや、と言わんばかりに首を振る。
……まぁ、ピカチュウについては、電磁波を与えた張本人だから仕方ないけど。
『なにか問題でも?』
ある。アレンジ技使うなって言ったのに使うのが悪い。
『……真面目に私はやっただけだ』
真面目に使うバカが何処におるか、バカチン。
『ちぇ……』
なんでいじけるし。
〈……痛い事しない?〉
「おぉっう!」
『……なんだ、念話出来るのか』
ポケモンのほうを見ると、顔を上げてこっちを見ている。
さっきまでとは違い、少し目に好奇が浮かんで見える。
俺のやるポケモンとの会話とは違う感覚に少し驚いた。
やはりと言うべきか、中々に知能は高い様子。
うん……所で何で暴れたんだ?
〈……恐かった。最後に見た景色と違ったから〉
〈…………一杯何かされた〉
〈刺されそうになった〉
〈……逃げようとしたら捕まえられた〉
〈仕方が無いから戦った〉
たどたどしくも語ってくれる。
まぁそれも仕方ない。この時代の言葉もまだ覚えたばかりみたいだし。
これは時間が解決してくれるだろう。
じゃあまぁ、お約束のように提案しましょうか。
「……怖い事されるのもう嫌か?」
〈……うん〉
「なら、俺と一緒に……来る?」
俺はグレンタウンで買ったボールを出して見せる。
本能的な何かが拒否反応を示したのか、体はビクっと震える。
〈…………うん〉
それでも手のひらのボールに触れて、そのまま中に入った。
揺れる事も無く、部屋には一人と一匹。
『ゲットだぜ……か?』
……なんか此処まで心の痛む捕獲は後先考えても無い気がする。
『……だな』
どうにも釈然としない幻との邂逅だった。
はい、ヤツです。
「ギアナ行きフラグ建てた癖に」と感じる方が多々いるかと。
……でもありえん話じゃないよね?
ちなみにトウカ君はへんしんは特性までは変わらないと考えてました。
なのであんな意味不な検証を。
それでは。
誤字修正
レオパルド→ラムパルド
ホントよくある。