マサラタウンで生活し始めて早数日。
無口ながらもグリーンと遊ぶ姿が見られるレッド君が居た。
俺はオーキド博士の研究所の窓からその様子を見ている。
ぶっちゃけ現実逃避。
今やっているのは、永年の課題『ギャラドス』についてなのだが……どう立証したものか。
まさか、コイキングからギャラドスになるなんて事を一般大衆が知るわけも無く。
故にトレーナーでも、極稀にレベルの高いコイキングを釣り上げた「釣り人」しか持っていない。
いや、あのロケット団のボスだとか、一部のドラゴン使いなどは知っているとは思うが。
うーん。
「捕まえてきてもらうかな、ギャラドス」
……ピカチュウに。
なんせ海だとかで、『すごいつりざお』使ったら入れ食いだもんな、カントー地方って。
レベル15だとか、そんなありえない感じのが。
ちなみに研究員が、何言ってんだこの人、みたいな目をしてる。つらい。
「……はぁ」
現在、ピカチュウはガーディと一緒に森の中で修行している。
ガーディがロコンを守るために、ピカチュウの姐御に頼み込んだらしい。
……で、ロコンはそれをコッソリと見に行っている。
あいつら大丈夫かな。
ロケット団とかに連れ浚われたりして無いだろうか。
……いやいや、ピカチュウいるから大丈夫か。
そういえばナツメちゃん、元気にしてるだろうか。
……友達、出来てたらいいんだけどな。
…………大丈夫かな。
あー、駄目だ、身が入らない。
しょうがない、休憩しよう。
ちょっと高い椅子から跳び降りて、休憩室に向かった。
途中で研究所のお姉さんに頭撫でられた。
よく分からんが、なんか癒されるらしい。
……勘弁してもらいたい。
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――「ギャラドス」のまとめ。
鯉の滝登り。
鯉は滝を昇りきると竜になることから、立身出世することの例え。
――以上。
「……なんだ、これは?」
怪訝な表情でお爺ちゃんは俺のレポートを見た。
そりゃそうなる。
こんな所に諺と意味が書いてあるのだから、仕方が無い。
「そのままの意味です」
でもコレは事実。
鯉(コイキング)は竜(ギャラドス)になる。
こんなことは公に出来ない……故にこの暗喩。
「証明するものがない。あったとしても世間は信じん。……よってこの課題については保留じゃの」
「はい」
我がグランドファーザーは笑顔で言う。
流石、初代カントー地方チャンピオン。
真実は既に知っていたようだ。
弱小から兇悪になるなんて誰が信じようか。
否、誰も信じない。
そのためにこのギャラドスについての研究は発表されなかったし、研究されたとしても闇に葬り去られた。
それが「永年の課題」の真実。
それを解いてやろうと思ったけど。
……「解明」と言う結果を、社会一般を掲示することは出来ないものの、何故「永年の課題」とされているか、というのは分かった。
触れてはいけない禁忌。一つのタブーであると。
うむ、すっきり。
「じゃ、そうじゃの。お前さんの研究も一段落したようじゃし……ちょっと待っておれ」
がさごぞと、何処にやったかの、とか言いつつお爺ちゃんは引き出しを捜す。
何かくれるらしい。
「……これじゃ。どうやらピカチュウに持たせると強くなるらしいのじゃが…」
取り出したのは静電気を帯びている黄色い玉。
「一応、学会で決まった名前が『でんきだま』というんじゃが……ま、百聞は一見に如かず。丁度お前さんもピカチュウを持っておる事じゃし……ちと早い誕生日プレゼントじゃと思ってくれ」
今はピカチュウは居ない。
例の如くガーディの特訓だ。
バレたら……四倍だ。
赤い3倍どころの話じゃない。
「ありがとう、お爺ちゃん!」
……まぁ、貰うけど。
必要な時になったら渡そう。
「うむ。……それで、どうじゃ? 次は何を研究する?」
「えっと……どうしよう」
うーん、カントーのポケモンで調べる事って……もう無いと思うんだけど。
いや、あるけどさ。
イーブイの進化系の調査だとか。
化石からポケモンを復元させる技術とか。
あとは……ミュウとか? ……いやいや。
ない、それはない。
「ミュウを調べるだなんて……無い無い」
「……お主、今なんて…」
「ミュウ調べる……って…」
うん?
……あれ?
お爺ちゃんが凄い険しい顔してる。
「……もしかして…」
「……グレン島のポケモン屋敷にしか資料は残ってないはず……お前さん、ミュウの存在を何処で知ったんじゃ!?」
そーか。
そーなるよね。
……やっちまったぁ…。
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言い訳に困った俺は仕方が無く、それを見せた。
「ふむ……俄かには信じられんが、確かに書いてある。お前さんの字じゃないしの」
「……はい。ちなみにこの本返して……くれる?」
「うむ……そうしよう。それ以外にはこの本には書いてなさそうじゃし。……いいか? 絶対誰にも悟られんように」
「はい……」
実際バレたら拙い内容とか沢山詰まっているけど。
そこに全国図鑑越える内容書いてあったりするんですけどっ!
『こんの、馬鹿ご主人ッ!』
『……無いですよ、ほんと』
『アホ』
……はい、面目ないです。
しばらく、事情聴取をされていた俺の元にはピカチュウが帰ってきており、勿論他二匹もボールの中に納まっている。
ピカチュウは俺に対して説教。
ロコンは割りと普通に呆れてる。
ガーディはただただ罵倒……。
『酷いわ、主。うん、マジ酷い』
はい、すんませんガーディさん。
つい気が抜けてたんです。
『……はぁ。これがオーキド博士じゃなかったら今頃どうなってたと思ってるんです?』
……はい。
『まったく。私が居ないとすぐコレか。ウチのご主人は』
ええ、すみません。
ピカチュウの姐さんが居ないと俺こんなんなんですぅ…。
『……ったく』
悪態をつきながらも、仕方ない、と溜め息をピカチュウは吐いた。
「……それでトウカよ。お主、ミュウの事調べないと言っておったが……どうする? 来月、ギアナ奥地へ二度目の調査隊が出るのじゃが…」
「…………どういう意味ですか?」
「やけに、しおらしくなったの…。ま、お主も秘密を知る人間。それにミュウに興味があるようじゃし……どうじゃ? 行ってみんか?」
「……」
あー……この爺さんは今なんと?
『ギアナか……遠いな』
「――ほ、ホントにぃッ!?」
「ぅ……耳が痛くなったぞ…」
あーいかんいかん。
驚きで叫んでしまった。
ピカチュウも聞いたようだ。
幻聴じゃないのね。
あ、あははは……。
……やだ、国外行きたくない。