弓塚さつき(憑)の箱庭生活【完結】   作:ホワイダニット

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四話目です。
お気に入り112人と作者目を疑ってしまいました!
文字数の割に遅れた理由は仕事で少し鬱になりそうなことがあったという。
作者本気でメンタルマンボウ並みに弱いのに。



はい、お風呂は至高です。

ガルドは自分の屋敷で痛そうに頭を抱えていた。

 

(やっちまった・・・・黒ウサギを手に入れようとして取り返しのつかねえ事に・・・・!)

 

「くそ・・・・・くそくそくそドチクショウがぁ!!」

ガルドは近くにあった机を窓の外に放り出した。

 

「あの女・・・威圧感だけで死を連想させやがった。七桁に居ていい類いじゃねえ、勝てる気が全くしねえ」

頭を抱えているガルドに、割れた窓の向こうから凛とした女の声がかかる。

 

「━━ほう。箱庭第六六六外門に本拠を持つ魔王の配下が”名無し“風情に負けるのか。それはそれで楽しみだ」

 

「っ、誰だ⁉」

 

現れたのは華麗な金の髪を靡かせた女性だった。

 

「情けない。三桁の外門の配下がコレとは。こうも情けないと同情してしまうよ」

 

「テメェ・・・どこのどいつか知らねぇが、俺は今気が立っているんだ。牙を剥かねえうちにとっとと失せろ」

 

「ふふ。威勢がいいな、だが獣からの成り上がりが”鬼種“の純血である私に牙を剥くのか?」

 

「き、”鬼種“の純血だと・・・・!?馬鹿を言え、鬼種の純血と言えばほとんど神格じゃねえか!“名無し“の先兵か、なんのようだ!」

 

「まあ、待て虎よ昼間の事は聞き及んでいる。つまりだ、お前が明日のゲームに勝てば全ての問題は解決されるのであろう」

 

「勝てるわけねえだろうが!知ってんだろ!俺はあのガキどもに手も足も出なかったんだ‼」

 

「確かに今のお前では勝てないだろう、しかしお前が新たなギフトを・・・・“鬼種“のギフトを手にいれたらどうする?勝ち目も出てくるのではないか?」

 

「・・・・・。俺に”六百六十六の獣“を裏切れと?」

 

「結果的にはそうなるな」

 

「・・・一つ聞きたい 。あんたのコミュニティはどこだ?」

 

「それは言えん。私は月の出ているうちに帰る」

 

「チッ。選択肢はねえか・・いいぜ。けど時間がない。種族そのものを変質させるにはどれくらいかかる?」

 

「なに、一分もかからんよ」

 

金髪の女はガルドの胸倉を掴むと首筋を食い破った。

 

(ヴァ、ヴァンパイアの純血━━”箱庭の騎士“だと⁉この女、まさか!)

 

「先に断るが騙してはいないぞ。私は確かに鬼種のギフトを与えたのだからな」

 

そう言うと女は窓から姿を消した。

 

夜の箱庭を飛びながら女は思い出したように

 

「そう言えば”ノーネーム“側も吸血鬼だということを伝えていなかったな。うっかりしていた。まあ結果は変わらないだろう・・・・しかしブリュンスタッドの縁者か、さてどれ程のものか楽しみだ」

 

***

 

 

ーー”ノーネーム“・住居区画、水門前。

 

 

六人と一匹は廃墟を抜け、貯水池に向かう。貯水池には先客の子供たちが清掃道具を持って水路を掃除していた。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

 

「強いの!?かっこいい⁉」

 

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!」

 

二十人前後の子供たちが集まって来る。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

 

(じ、実際に目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

 

(・・・・。私、子供嫌いなのに大丈夫かな?)

 

(今のコミュニティの惨状でこの子たち誰も目が死んでないなんて。この子達とても真っ直ぐなのね)

 

(・・・・・・・・・)

 

五人はそれぞれ違う感想を心の中で呟く。一人は無言ではあったが。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、弓塚さつきさん、レンさんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるギフトプレイヤーです。」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

キーン、と耳鳴りがするほどの大声で二十人前後の子供達が叫ぶ。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

 

「そ、そうね」

 

「やっぱり子供は元気が一番ね」

 

(・・・・。本当にやっていけるかな、私)

 

ヤハハと笑う十六夜、子供達に慈愛の眼差しを向け始める吸血鬼なさつき(子持ち)、さつきの後ろに隠れるレン、飛鳥と耀はなんとも言えない複雑な表情をしてはいたが。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので十六夜さんはギフトカードから出してくれますか?」

 

「あいよ」

 

「それでは苗の紐を解いて根を張ります!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

 

「あいよ」

 

十六夜は貯水池に下りて水門を開ける。黒ウサギが苗の紐を解くと、根を包んでいた布から大波のような水が溢れ返り、激流となって貯水池を埋めていった。

 

「ちょ、少しはマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくねえぞオイ!」

 

水門の鍵を開けていた十六夜があわてて石垣まで跳躍する。

 

その後も十六夜とジンが言い争いをしたりしていたが概ね平和的?に解決したようだ。

 

 

****

 

 

屋敷に着いた頃には既に夜中になっていた。月明かりのシルエットで浮き彫りになる本拠はまるでホテルのような巨大さである。

 

「遠目から見てもかなり大きいけど・・・近づくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には序列を与え、上位から最上階に住む事になっております・・・・けど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

 

「・・・お風呂入りたい」

 

耀が呟く。

レンは喋れないので無言だったが他の四人は言い方は違うものの纏めると『今はともかく風呂に入りたい』と同調する、さつきとレンは違うが十六夜達三人は湖に落とされて一度ずぶ濡れにされている(十六夜は二度だが)ため早く風呂に入りたいのだ。

 

大浴場に着いた一行、黒ウサギが湯殿の扉を開ける。

黒ウサギがしばらく使われていなかった大浴場みて真っ青になり。

 

「一刻ほどお待ちください!すぐに綺麗にいたしますから!」

 

と叫んで掃除に取りかかった。それはもう凄惨な事になっていたのだろう。

 

「手伝いますよ黒ウサギ」

 

さつきが掃除の手伝いをかって出る。

 

「そんな!手伝っていただかなくてもここは黒ウサギが」

 

「一人より二人、早く終わればその分早くお風呂に入れるから、ね」

 

十六夜達三人は既に各自の部屋に行ったのか居なくなっていた。

 

***

 

 

 

黒ウサギとさつきのお風呂掃除とお湯張りも終り女性四人とレン+三毛猫は大浴場で体を洗い流し、湯に浸かってようやくといった感じで人心地ついたように寛いでいた。

 

「本当に長い一日でした。まさか新しい同士を呼ぶのがこんなに大変とは、想像もしておりませんでしたから」

 

「それは私達に対する当て付けかしら?」

 

「め、滅相もございません!」

 

慌てて否定する黒ウサギ。

 

「それにしても、これはちょっとした温泉気分ね。好きよ、こういうお風呂」

 

「ところで御三人様。こうして裸のお付き合いをしているのですし、良かったら黒ウサギも御三人様の事を聞いてもいいですか?ご趣味や故郷の事ナド」

 

「あら、そんなもの聞いてどうするの?」

 

「それはもう、黒ウサギの好奇心というやつでございますヨ!ずっとずっと待ち望んでいた所謂ガールズトークというやつです♪」

 

「・・・ガールズトーク」

 

飛鳥達三人は気が乗らないような顔をする。(耀は気が乗らないがガールズトークに多少揺れているようだ)

飛鳥と耀は『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と手紙に書かれていたためその捨ててきたものを今更顧みるような真似は、なるべくしたくない。

さつきは生きてきた年月もそうだがその内容も内容で一般人、例え多少ずれた人生を送っていたとしても理解の外にある人生を送っているために話す中身に気を遣わなければならない。(気を遣っても重い内容になりそうだが)

「けど、そうね。これから一緒に生活する仲だもの障りない程度なら構わないわよ」

 

「私はあまり話したくない。けど、質問はしたい。黒ウサギには興味ある。髪の色が桜色になるなんて、ちょっとカッコイイ」

 

「あやや、黒ウサギってばカッコイイですか?」

 

「それなら私も気になっていたところよ。ならお互いに情報交換、ということでいいかしら」

 

「それならまずは誰から情報提供する?別に私からでもいいけど」

 

「おや、さつきさんからですか?それではお願いします。それで?さつきさんは吸血鬼とのことですがどのような御生活を」

 

「生活、ね。私は最初は何処にでもいる唯の人間だったんだけど十七歳の時に死んだのよ」

 

「し、死んだ?でも弓塚さんは今生きてるのよね?」

 

(いきなり、重い内容になってしまったのですよ)

 

「生きてるよ、まあ死んだんだけど私には才能があったのか数時間で生き返ったの。だけどね法的には私は死んだことになったのよ」

 

「・・・もしかしてさつきさんは人間から吸血鬼になったのですか?」

 

「正解、吸血鬼になって日光を受けられなくなって日の射さない路地裏で生活してたら死んだことになってたの。だいたい三年ぐらいかな?一年目に私を殺した吸血鬼を消滅させて独立。二十歳の時に初恋の相手と非公式の結婚したの。戸籍上は私死んでるしね。その後は妊娠して出産して子育てして夫が死んで子供が家を出てからは世界を旅をしていたわ」

 

「さつきさんの世界では成り上がりの吸血鬼は繁殖することができるのですか?」

 

「できるけどする吸血鬼はほとんどいないわね。出産経験のある女性吸血鬼なんて一%切ってるんじゃないかな。もしかして箱庭の吸血鬼は成り上がりだと繁殖できない?」

 

いや、出来ないのは知ってるけど、確かマンダラだかマンドラだかが吸血鬼化して繁殖能力を失っただっけ?

 

「YES、その通りでございます。っと重い話は横に置いておいておきまして、さつきさんは日光を受けられなくなったとおっしゃいましたが今のさつきさんは日光を克服しているみたいですが何か理由でも?」

 

黒ウサギは聞きたかったことを聞いた。

 

「理由はね・・・・」

 

と女性四人でのガールズトーク?も盛り上がりかしましい入浴は過ぎていった。

 

 

 





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