ザ・ウォーキング・デッド in Japan   作:永遠の二番煎じ

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性と死。


寺院参

 

土蔵からゾンビが流出した夜から空親は神聖な像が祀られている部屋で篭もり、写経を

している。

いつも剃っている顎には無精髭が生え、二日間ずっと筆で経典を写し続けている。

青井・生田・森下、最言の言霊すらも無視をして執り付かれたように筆を上から下に動かす。

 

そんな空親は青井の言葉に突如写経をやめる時が来たる。

神聖な部屋に入り、祀られた像に一礼してから、

青井「最言が昨日から見当たらないんです、空親僧侶は知ってますか?」

 

それを耳に入れ、空親は二日間動かし続けた筆を真っ黒な中皿に休める。

空親「それは真ですか?」

平静を保てず質問返し。

青井「は、はい。」

質問返しに頷く。

 

照りつける朝の日光、グォググ。と地面と木材が擦れる音とともに門の開く音がする。

縁側に老いた僧侶とは思えない足の速さで下駄を履いて最言に近寄る。

最言はスニーカーを履いていたが、縁側から空親が引きずり込むように神聖な像の部屋に連れて行く。

森下「あれは、角生えてるな。」

生田「まあ、文ちゃん助けたし大丈夫でしょ。」

 

青井「反撃に行ったのか・・・」

昨日昼下がりに、森下・生田・最言が同時に居なくなったのは久保を助けるためだと謎が解ける。

生田「和成・・・」

青井は疑り深い目で生田を睨む。

 

眉間にしわを寄せて目を吊り上げる。

青井とすれ違いざまに、

森下「悪かったな、ダマして・・・」

何も言わず門を開けっ放しで森の方に消えていく青井。

 

井戸についた蛇口で斉藤が水を少し出しながら服を洗っていると生田が皿を井戸の近くの洗面台に置く。

ゴシゴシとキュッキュッの擬音だけが2人の間に響く。

斉藤「殺したんですよね?」

生田「加奈ちゃんの言う通り、全員殺したよ。」

斉藤「ならよかったです・・・」

 

どこか悲しげな斉藤。

追加の皿を持ってこようと縁側から近道して母屋に上がる。

周りには誰もいない、生田と斉藤だけの空間。

生田は反吐が出そうになる気分だ。

 

本能のままにホルスターから拳銃を抜いて、井戸の軒下で選択している斉藤に標準を合わせる。

洗っている服が和成のものだったからなのか、自分のいない夜に青井と斉藤の2人で淫らな行動を想像してしまったからなのか、はたまた自分より女子力が高いからなのか・・・

 

森下「おい?」

目を真ん丸にして呼びかける。

 

拳銃をホルスターに収め、一息溜めてから、

生田「うんん、ゾンビがいるかと思って。」

咳払いをした後、言い訳する。

 

森下「皿はあと俺が洗うから。」

右手に大皿を何枚も重ねて持っていた森下。

生田「ありがとう、森下さん。」

 

生田は縁側から引き戸の土間に向かう。

森下はじっと井戸の斉藤を見つめる。

 

空親が最言に説教しているのがたまたま耳に入る、盗み聞いて障子に耳を傾ける久保。

空親「まさか、信仰に背くようなことをしたのですか?」

最言「・・・いいえ、私は人助けがしたかっただけなんです。」

空親「ならなぜこんなものが最言僧侶、あなたの懐に。」

空親はかすかに血の付いたオートマティックの拳銃を写経の横に置く。

 

最言「・・・」

空親「今は末法な世の中、最言僧侶もうつけ者になろうとお思いなのですか?」

 

脹らまし過ぎた風船が割れるかのように感情を爆発させる。

最言「確かに人を殺しかけた、いや殺しました。だがそうしないと僕が死んでいたんです!!!」

心からのサケビというか本音が吐露。

 

最言「私は信仰に守られないのですか?」

空親「例え・・・死が訪れようともそれは受け入れなければなりません。・・・それが平安教の教えです。」

最言は障子を全開にして神聖な部屋から走り出る。

 

廃車が多く残る道路で夕日を前に一心不乱にゾンビを始末する青井。

顎の下から脳天まで突き刺したり、側頭部から逆に刃先が出るほどの力でゾンビを倒す。

対照的に頭の中で考えることは森下と生田がデキていることだ。

 

性と死。

 

その光景を見物する斉藤は横転したバスの側面に足をぶら下げて座っていた。

斉藤「青井さん、まだですかー?日が落ちますよー。」

と声を大にするがそれが負のスパイラルのごとくゾンビを呼び寄せる。

ため息をついた後、青井に近づいてくるゾンビの頭に矢を射ぬきながら、

斉藤「ちょっと、青井さん・・・」

と呼びかけが終わる前に倒されて首を絞められる。

 

青井「この野郎!!!」

力いっぱい喉を閉める。

斉藤「げげげっほ・・・」

気が遠くなっていく・・・青井の顔が度数のあわないコンタクトレンズをしているかのように見える。

 

青井「も・・・」

一心不乱にすべてを抹殺するというスイッチが頭に入っている。

 

すると誰かが青井のうなじを棍棒のようなもので殴った。

誰かが声を掛けるのが聞こえる。

ひざまずいているジャージの坊主?と久保だろうか。

最言「だ・・・だい・・・大丈・・・」

斉藤は意識が帰ってくる。

 

最言「大丈夫ですか?」

視力が戻りすぐに自力で倒れている上体を起こす。

横でうつむいて青井がのびている。

 

久保「仕方なく殴ってしまいましたが・・・何があったんですか?」

事情を聴こうとする最言と青井を怖がり近づこうとしない久保。

 

斉藤「なんでもない・・・」

と今はとりあえず呑み込む。

最言「歩けますか?青井さん運ばないと。」

と心臓の鼓動を仰向けにしてチェックしてから青井を背中でおんぶする。

 

夕闇が森を包もうとするころ、

並列して歩く最言と久保。

後方から斉藤はゾンビに警戒する。

 

久保「助けにきてくれてありがとう。」

最言「大事な人の助けが僕の信仰だから。」

と言われ普通の思春期の男子なら照れるが、表情を変えずに言う。

 

門を閉じて、燈籠を灯す。

最言「部屋まで運びます。」

斉藤「ありがとう、最言くん。」

 

燈籠一つだけが和室を照らす部屋、机を挟んで向かい合い、

森下「ありがとう。」

生田「何が?」

森下「瑠璃を助けに行ってくれたことだ。」

生田「当然、当然。妹みたいなもんだし。」

森下「そういえば、ここに来る前から生田は反撃派だったな。」

 

久保はまだ学校から助けてもらったお礼を言っていなかったので言おうと森下と生田を探すと、

普段使われていない離れに、赤い障子に照らされたL字型の薄黒い陰を見つける。

赤ん坊の小指くらいの障子の穴から森下の赤い裸の背中越しに男のうなじに腕を絡め、上下に動く女体が見える。

 

一瞬目を背ける・・・見てはいけないものを見ている気分であったがそれとは逆に好奇心が湧いてくる。

気づいたら廊下から顔が障子に張り付くくらい熱心に男女の営みを見ていた。

それに気づいた生田は灯篭の灯りをさりげなく消す。

 




読んでいただきありがとうございました。
これからもゾンビのように投稿し続けます。

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