ザ・ウォーキング・デッド in Japan   作:永遠の二番煎じ

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寺院弐

 

空が茜色に染まるころ。

生田と斉藤は軽自動車で待機していた。

生田「遅いね、大丈夫かな。」

斉藤「・・・」

 

コンコンと窓ガラスを叩く。

運転席に座る生田が手動で窓ガラスを下げる。

生田「文ちゃん見つかった?」

青井「うん、もうすぐ夜だから日が沈む前に移動するぞ。久保もそこにいる。」

 

斉藤「森下さんは?」

右手だけを使い、森の中で一人銃が入ったバックを埋める。

青井「心配ない、それより荷物持って行くぞ。」

生田と斉藤はリュックを背負い軽自動車をあとにする。

 

夕日が沈み、蒼黒い空の中、

寺院の門の前で青井は扉に付属している鉄の輪をカンカンと鳴らす。

すると内側から門が開く。

黒い袈裟をまといし老いた僧侶が出迎える。

空親「ようこそ、いらっしゃいました。外は危険です、お入りください。」

合掌して一礼する、それに対して青井・生田・斉藤も浅くお辞儀する。

 

空親「リュックは私が預かります。」

生田「え?」

青井「約束したんだ、ナイフも預けろ。ここの規則らしい。」

強めに語気を荒めて言う。

 

空親に案内され、木の引き戸から土間に入り、スリッパに履きかえる。

縁側を少し歩き、畳の和室に案内される。

すでに久保と森下が座っていた。

生田「文ちゃん。」

と感動の再会で久保に抱きつく。

 

四隅の灯篭が和室を時代劇の夜部屋のように紅葉色に染め上げる。

森下「みんな、疲れただろ。ここならゆっくり休めるぞ。」

青井「俺はお坊さんに包帯をもらってくる。」

斉藤「私はもう少ししたら寝る。」

と意味深な感じで告げる。

 

森下「そうか、じゃあ生田、文香先に就寝するぞ。」

三人は押し入れから布団を出して、障子を挟んで男女で部屋を別れて寝る。

 

青井と斉藤は灯篭を持って、部屋を出る。

星が煌めく夜空の下の縁側を平行して歩きながら、

青井「斉藤、塀の外壁を見たか?」

斉藤「いえ、暗くて見えなかった。」

青井「塀の軒下の無数の黒い手形があったんだが、その前で何事もなく坊さんは向かい入れた・・・」

 

合いの手を入れ頷きつつも、

斉藤「よく見る光景じゃないですか?」

青井「確かにそうだけど、何か勘ぐってしまう。」

廊下がT字に分かれている。

 

斉藤「私はこちらに行きます。」

青井「分かった、まだ油断するなよ。」

二人は分かれて用事を済ましに行く。

 

漆黒の廊下を灯篭で照らしながら進むと、経典を唱える老いた声が木霊す。

青井「怖いな・・・」

神聖な像が祀られている部屋にこっそり入る。

経典を読み終わり、空親は正座したままゆっくりと後ろの青井に振り向く。

青井「和尚さん、ありがとうございます。向かい入れていただき感謝しています。」

と正座を組み、頭を下げながらお礼を言う。

 

空親「いえいえ、私の信仰している宗教では人を助けるのが大前提でございます、助け合い。」

坊主頭を下げる。

青井「あと、良ければ包帯もらえますか?」

 

その頃斉藤は灯篭を置いて、ある畳の部屋で正座して膝の上で両手の指先をあわせて瞑想する。

半眼で瞑想している時、茶色の袈裟姿の僧侶が横目に入る。

斉藤「あなたも坊さん?」

坊主の少年は足を崩さず、

最言「はい、祖父の孫の最言と申します。」

斉藤「あなた、最言さんは気配を消すのが上手ね。そうやって生き延びてきたの?」

最言「・・・いえ、信仰を信じたから生かされたのかもしれません。」

 

斉藤は最言と話した後みんなのいる和室に戻ろうとしたとき、ドンドンと音が近くから聞こえる。

縁側からスリッパから草履に履き替えて音のする方に行く。

灯篭を照らすと白い土壁が見え、高窓には鉄格子が見える。

周りを歩いて分かったことは正方形に近い土蔵のようだ。

木造の扉には固く和錠が何重にもしてあり、外から薄板で張り付けている。

ドンドンドンドンと高窓から灯篭の光が漏れたのか、活発に聞こえる。

 

心臓に悪い緊張が走る。

 

翌朝おじさんの鼾がうるさくて眉間にしわをよせる。

障子から朝日が差し込んできて、まぶしさに起きる。

森下はちょうど影の部分でまだ心地よく寝ている。

部屋を出て、全身に日光を当て頭を無理やりにでも目覚めさせる。

畑では楽しそうに久保と最言が土を耕している。

最言は袈裟姿でなく紺色上下のジャージで、久保も桃色上下ジャージのペアルックだ。

 

空親に挨拶しようと神聖な像が祀られた部屋に向かって廊下を歩いていると、井戸近くで優香を見つける。

土間から出て、優香に声をかける。

青井「おはよう、朝から洗濯か?」

生田「和成、おはよう。」

朝からはきはきしていて青井も元気が伝染する。

乾ききった血がこびりついた服を一生懸命手でこすっている。

 

青井「手伝うよ。」

包帯を取り、真水で手を洗って生田の横で一緒に洗濯し始めた。

生田「久しぶりにやさしいね。」

青井「そうか、この洗濯の量は手洗いで一人じゃあきついよ。」

生田は青井の頬にくちづけをする。

二人は黙々と洗濯する。

 

空親が日課のように朝、経典を音読している。

その後ろで袴姿の斉藤が手を合わし、目をつぶる。

いつもの髪ゴムでなく、かんざしでつむじの上に長い髪を団子結びにしてうなじが見える。

経典を読み終わり、斉藤に気づく。

 

空親「おやおや、孫息子の最言のごとく忍び足で入って来られたのですか。」

傍から見れば面白くもないが空親は笑いながら斉藤に言う。

斉藤「何があったんですか?」

と真剣に斉藤は聞く。

 

すると空親の顔も引き締まる。

空親「・・・分かりました、斉藤さん。俗世のことは分かりません、しかしここで起きたことを話しましょう。」

空親は話し始めた。

 

ZDAY数日後・・・

和やかな朝の太陽が僧侶の頭をぴかぴかさせる。

かつてこの寺院には30人もの平安宗僧が信仰のために修行や人々を助けていた。

畑を耕し、経典を音読し、貧困の人々に手を差し伸べていた。

 

突然末法がやってくる、近くの公道で無数のクラクションが鳴り響く、と同時に凄まじいブレーキ音が響いた。

聞いたことのない爆音がして、大地が揺れるほどの大事故が起きた。

 

空親「最言、決して外には出るんじゃないですよ。」

最言を部屋中から施錠できる部屋に避難させる。

 

空親「どうしたのですか?」

僧侶「大変です、血だらけの人々がこちらに向かってきます。」

空親「とりあえず、受け入れなさい。」

俗世から身を置いた僧侶たちは知る由もない。

 

負傷者を入れて数十人を受け入れている最中だ。

門で驚愕の光景を目の当たりにする。

森の方で僧侶が人々にほね付き肉のように喰われている。

空親「じ、地獄だ。」

その光景は現世で忘れることはないだろう。

「門を閉めてくれ、頼む、お坊さん。」

と悲鳴のように耳に入る。

 

恐怖におののいた修行僧が門を閉ざす。

門の外にいた僧侶や俗世の人々の最後の顔は今でも夢に見る。

絶望、恐怖、発狂。

全てが塀をまたいで聞こえてくる。

それは月が暗闇の中で浮かんでもまで続いた。

 

翌朝外の無数のうめき声で寝ることができなかった。

大部屋で負傷した人々は次々と疫病で転化した。

そしてたちまち寺院でも混乱は起きた。

転化した人々によってもたらした理性の崩壊は大きかった。

土蔵に感染者と発症者を無理やり押し込んだ。

無理な説法と屁理屈を盾にして、

「君たちは絶対治る・・・」

この言葉を信じ込ませた罪は大きいのかもしれない。

 

生き残った者はしばらく寺院で暮らしていた。

血で汚れた建物や敷地は他人同士で力を合わせて終末前の状態に戻した。

最言にこの悲惨な状況を見せるのは若すぎる。

だが最言はすべて見ていた、人々が転化してかつて家族だったものを襲ったり、土蔵に地獄の使いを閉じ込めたのも。

 

そしてその最言のいた場所からは塀を挟んで外の人々の慈悲の目も見えたのであった。

 

今日に至る・・・

空親「そして転化した彼らを私たちはうつけ者と呼ぶようになったのです。」

斉藤「・・・」

 


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