ザ・ウォーキング・デッド in Japan   作:永遠の二番煎じ

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寺院

五人は軽自動車で都市部を避けて、草むらに挟まれ塗装された二車線の道路を走る。

運転席に森下、助手席に青井、後部座席には右から生田・久保・斉藤が乗っている。

青井の目にドアやトランクの開いた車がたくさん停車しているのが遠くからでも分かる。

 

森下「両端にガードレールがしっかりあるな。」

青井「今度は無理だな。」

二車線にも関わらず、全車両が同じ方向を向いている、ZDAYから数日後の出来事だろう。

中央線を徐行するが大型バスが横転しており、見事に道路を塞いでいる。

 

森下はバックミラーを見ながら後進し始めると、

青井「待て、ちょうどゾンビもいないし給油しよう。」

森下「そうだな、みんな降りて物資を探そう。」

五人はそれぞれ廃車をあさる。

 

斉藤は荷台からポリタンクを出して、廃車に残っている車の給油口から手動ポンプでガソリンを吸い取る。

生田や久保は手分けして物資をあさる。

森下は車列が安全かどうか確認する。

 

青井は横転しているバスの先が気になり、バスをロッククライミングのように登る。

様子を見るために顔を出すとゾンビの群れが道路を歩いている。

青井の行動を見ながら給油している斉藤と目が合う。

斉藤は青井の焦った顔を見て察したようだ。

 

青井は横転したバスの割れた窓の中に体をひょいと潜り込ませる。

中腰になった斉藤は生田に近寄る。

生田「そんなエロい体勢でどうしたの?」

斉藤「ゾンビの群れです。」

と耳元でささやく。

生田はすぐに近くの車体の下に潜る。

斉藤はトランクに身を投げ入れる。

 

ゾンビはモーゼの十戒の海のように両端ガードレール沿いを歩く。

ガードレール外を歩いているゾンビに気づいた森下はミイラを盾にして地べたに伏す。

 

青井は静かにするので精一杯で気づかなかったがバス中で死んだゾンビが腹ばいで寄ってくる。

後ずさりするが気づけば一番後ろであった。

右腰に手を当てるがナイフがなかった、おそらく助手席で落としたのだろう。

左足を掴まれ、右足で蹴ちらすが、なかなかゾンビが手を離さない。

右手でガラス片をゾンビの頭に突き刺す。

 

斉藤はトランクから歩くゾンビの後ろ姿を見て状況を伺っていた。

青井はバス窓から首を出してゾンビの群れが通り過ぎたのを確認。

 

生田は車体の下から、斉藤はトランクから出る。

森下はミイラを体から離して起き上がる。

四人は横転したバス付近に集まる。

 

生田「和成、大丈夫?」

青井「ああ・・・」

森下「おい、お前右手から血が出てるぞ。」

青井は右手を見ると血がだらだらと出ている、生きることに必死でアドレナリンが出て傷のことを忘れていた。

 

生田「ま、まさか・・・」

青井は落ち着かせるように、

「これは窓硝子で切ったんだ。噛まれてない。」

生田は胸を撫で下ろす。

斉藤は青井の手のひらをぐるぐるときれいな布きれで巻く。

 

森下「そういえば、文香はどこだ?」

斉藤「私も見ていません。」

生田「え?誰も文ちゃんのこと見てなかったの?」

森下は血相書いて車列を調べ回る。

だが見つからなかった。

 

青井「・・・探そう。」

森下「何当たり前の事言ってるんだ?」

怒りと不安を抑えながらガードレール外の足跡を調べ始めた。

 

久保は小走りで草むらを抜けて森林に入る。

だがまだゾンビが追いかけてくる。

 

袈裟姿の少年が木の上からその様子を見ている。

久保はむき出しの木の根に気づかずに足をひっかけ転ぶ。

その時、

「うつけ者、うつけ者!!!」

と叫ぶ少年の声が。

 

ゾンビは声のする方に体が向く。

久保はゾンビが気を取られている間にまた逃げ走る。

森林を出ると大きな寺院が建っている。

 

白い土壁には銅黒い手形がたくさんついている、軒先があるから雨にさらされずに残っている。

門には和錠が掛かっている。

 

?「こんにちは。」

と茶色の袈裟をまとった坊主の少年が久保に挨拶する。

少年は合掌し、頭を下げて少しお辞儀する。

 

久保「いつの間にいたんですか。」

一瞬ナイフに手を添えるが両手を地面に向かって垂直にしてお辞儀する。

日本人に沁みついた作法だ。

 

?「私の名は鈴木最言と申します。」

丁寧な口調で自己紹介をする様は上品に見えるがその後ろの壁には銅黒い手形があり、奇妙な光景だ。

 

久保「わ、私は久保文香・・・」

思わず合掌でも頭は下げない。

 

最言「久保さん、あなたは私を信じますか?」

にっこりと問いかける。

 

久保「信じれば救われるんですか?」

と皮肉交じりに問い返す。

 

最言「信じなくても救います。」

と言って門の和錠を解く。

 

久保は聖域に足を入れる前に最言に

「この寺院では殺生する道具は預かります。」

と寺院の規則を言う。

 

久保「ここはそんなに安心なんですか?」

最言「信じなくても包丁はこちらで預かります。」

久保は素直に最言にナイフを渡す。

 

ナイフを大きな袖に収める最言は寺院を案内する。

井戸もあり畑もある、最低限生きる上では苦労しないだろう。

 

 

 

久保の足跡を追って生田と斉藤を残す、

森下「ここで転んだ跡がある。木の根に足を引っかけたんだろう。」

青井「足跡が3つから1つに減ってるぞ、そのまま向こうに続いている。」

そこにゾンビがやってくる。

青井は包帯を巻いた手でナイフでゾンビの頭を刺す。

 

森林を抜けると寺院がある、足跡はそこで消えている。

森下「この中か。」

青井は白壁の手形を気にする。

青井「何かあったのか?」

森下「それはどうだろうな。」

 

すると内から門が開く。

青井と森下は拳銃をホルスターから抜く。

?「ようこそ、いらっしゃいました。」

黒い袈裟姿の老いた僧侶が出迎える。

 

森下「なあ、あんた少女を見なかったか?」

左肘のナイフを地面から水平にして拳銃を添えて尋問する。

青井「まあ待て、森下、相手は無防備だ。」

二人は拳銃をホルスターに収める。

 

?「私の姓名は鈴木空親と申します。殺生物を木箱に入れてください。」

老いた僧侶は空の木箱を開く。

 

二人は言われた通り、銃とナイフを木箱に入れる。

空親「その左義手もお願いできますか?」

にっこりと穏やかに問う。

 

森下「ところで瑠璃はどこなんだ?」

義手を外して木箱に入れる。

 




鈴木空親(すずきそらちか)・・・平安宗という宗派の僧侶。
鈴木最言(すずきさいごん)・・・祖父空親の孫息子で修行僧。

※平安宗(平安教)・・・存在している宗教の侮辱を避けるために平安宗という名称にしました。おそらく平安教という単語は使わないでしょう(多分

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