ザ・ウォーキング・デッド in Japan   作:永遠の二番煎じ

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サバイバル2

必死に森を駆け抜ける少女、地面を踏む音で周りから人でも獣でもないうめき声が徐々に近づいてくるのが分かる。

走っても走っても奴らはなぜかそこらじゅうにいる。

整備された道が見え、走って逃げるのに少し足への負担はマシになるだろう。

 

道路に出て、

「あれ・・・」

足が軽くなると意識が遠くなる。

走りすぎて酸素が脳に追いつかなくなり、その場で倒れる。

ゾンビが少女の前で四つん這いになった瞬間、銃声が響く。

 

森下は銃声が聞こえ、

「瑠璃!!!」

と大声を叫ぶ。

森の中でやまびこのように跳ね返ってその声が自分の耳に帰ってくる頃にやるべきことを思い出す。

地面の小さな靴の足跡を追跡する。

 

不覚にも銃声につられなかったゾンビが大声を出した森下に寄ってくる。

「足あと、足あと・・・」

ほとんど赤から黒に染まった左腕のナイフを振り回す。

 

ゾンビのまとったぼろ雑巾のような服の胸元を掴んでは引き寄せてナイフに頭部を突き刺す、の繰り返し。

それを地道にやっていくと森を抜けた先に道路が見える。

 

道路に出ると死体が4体仲良く転がっている。

かつて警察だった時の立ち回りと推理を自然にやっていた。

 

死体はゾンビに転化して一年は経つ、だが頭にはきれいに一発ずつ銃弾が命中している。

頭から出ている微量の血はまだ固まっていない。

つまり誰か銃の扱える者がついさっきいたのだろう。

 

青井か、それとも襲撃者か。

おそらくこの二択・・・刑事の勘ってやつ。

 

タイヤ痕があり、地平線の向こうに続いている。

 

強い日差しで気が付く。

揺れている、心地が良くない。

下には青いビニールシートが引いてあり、布の毛布がかぶせてあった。

周りをよく見るとトラックの荷台で寝ていた。

どおりで寝心地が悪いわけだ。

 

張りつめた緊張が走る。

「気が付いたか?」

前の方の右隅と左隅に中年の男がもたれて座っている。

二人とも胸に拳銃がホルスターに刺さっている。

 

左隅であぐらをかいている男は煙草を蒸かし、右隅の男は眼鏡をかけてペンを持ち、正座で地図を見ている。

「名前なんて言うんだ?」

煙草を蒸かしながら、すこし低めの声で質問。

 

「久保・・・ふみかです。」

がたがたがたがたと道路を走る音だけが聞こえる。

 

煙草を道路に捨てた後、

「そうか、久保ちゃんね、こいつね、全然しゃべんねーんだよ。」

「はい・・・」

 

緊張をほぐすのが得意なのか、急に軽快に話しだした、

「はは、まあそんな萎縮すんなよ。俺久保哲郎、この眼鏡北斗栄治。んーで運転してんのが前橋トオル。」

「同じ久保ですね。」

と苦笑いしながら状況が把握できないために、なんとか場を取り繕う。

 

「そうだな、おいメガネ、お前ロリコンなんだからしゃべれよ。」

「そんなことよりこの先に薬局がある、寄って帰ろう。」

北斗は久保の軽い話にはいつも乗らない。

 

北斗はペンで地図に印をした後、運転席側を叩く。

そして地図を裏側にして運転席後部ガラスに押し付ける。

車は一旦止まるがその後また動き出す。

どうやら北斗と前橋の合図のやり取りらしい。

 

「な、一言も俺と会話しない、一言も。息が詰まるだろ?」

と笑いながらまた煙草を吸い始める。

 

「あの・・・」

この人たちなら青井さんや斉藤さんと分かり合えるかもしれない。

そう文香は直感で感じた。

 

哲郎「そういえば探索班は農園を襲撃したらしいな。敵なのか?」

北斗「仲間の足跡が5人あの辺りで消えたらしいから間違いないだろう。」

哲郎「お!!!初めてまともに会話したじゃん。」

 

煙草を蒸かしながら文香に、

「そうそう、最近谷深くで仲間が消えたんだよ。そしたら若者2、3人?・・・だっけ、情けねーよな。俺なら一人で相手できるぜ、なんで物資班に配属されたのかねー。なんか言った?」

 

「いえ。」

文香は一気に顔が真っ白になる。

絶対自分たちの事だと確信する、そうとなればあの場にいたことは是が非でも隠さなければ。

 

「そういえば、文香ちゃん若いね。」

急に荷台に緊張がまた戻ってくる。

その発言に北斗も、

「確かに、もし君がそうだったら僕たちのルールには守られないね。」

 

哲郎「なーんて、嘘、嘘。」

と煙草をまた道に捨てる。

 

地図を見ながら北斗は、

「確かに、君はゾンビも殺せない女の子だから。」

哲郎「そうそう、俺がいなければとっくに奴らと一緒に彷徨ってたよな。」

 

そして車が止まる。

 

運転席から前橋が降りる。

前橋「目を覚ましたのか、大丈夫?」

 

「はい。」

ざっくり言ってイケメンだ。可愛い系の男のモデル雑誌に出てそうな顔立ち、そして甘いマスク。

思わず返事しちゃうよね。

 

「何紳士ぶってんだよ、この世界じゃあゾンビから女を守れるやつがモテんだよ。」

哲郎が一喝する。

 

「メガネ、見張っとけよ。」

前橋と哲郎は拳銃を構えて、薬局に入って行く。

 

北斗「もう少しでコミュニティーに着くから。」

「はい、助けていただきありがとうございます。」

北斗「ああ、いいよ、いいよ、俺銃の扱い下手だからトラックに運んだだけだけど。」

「なんか、いいグループですね・・・」

襲撃者はゾンビより怖い吸血鬼のような心を持った人間だと思っていたが、複雑な思いになる。

 

北斗「はは、意外と俺二人だったら話すから、ここだけの話あまり哲とは話合わなくてさ。」

 

このグループなら青井さんや斉藤さんに会えなくてもなんとかやっていけるかも。

悪い人には見えないし、真実を話そう、うん。

「実は・・・」

と打ち明けようとしたとき。

 

トラックのフロントからコツ、コツっと鉄筋音が聞こえる。

北斗は銃をガンホルスターから出して構える。

その手は震えている。

「ま、待っててね・・・」

不安そうに荷台から降り、忍び足でトラック前方を確認しに行く。

 

音は止むがそれでも北斗は神経質な性格なので安全を確認するまでは気が済まない。

荷台からは死角になっていたトラック前方に銃口を向けると後ろから腕で首を絞められる。

「だ・・・」

声帯ごと閉められ声を出すことはなかった。

 

文香は口を押さえられる。

「俺だ、森下だ。」

と小声で知らされる。

 

「森下さん、無事だったんですね。」

安堵と疲れが同時に出る。

 

「ああ、瑠璃こそ、死んだらお父さん泣いちゃうよ。」

「るり?」

森下は文香に拳銃を渡す。

「これはさっきの男から取った、ゾンビが来たら発砲して知らせろ。お父さん、すぐに助けてやるから。」

「お父さん・・・」

 

まるで3分クッキングのような合理的な行動で薬局に入って行く。

 

薬局ではすでに右手に拳銃、左手に籠を提げて左手で懐中電灯を持って歩く前橋と先導する哲郎。

中は真っ暗だが意外にも商品はほとんど残っている。

 

哲郎「この薬局当たりじゃん。やっぱり田舎はいいな、基地に戻ったら上野さんに報告だな。」

前橋「ああ、それに人も見つけた。」

哲郎「・・・で、何が必要なんだ?」

前橋「・・・はは、北斗さんに必要なもの聞いてくるよ。」

 

後方の前橋が来た通路を戻ろうとした瞬間、ドスドスドスと重い足音が聞こえた。

前橋は反射的に発砲する。

 

哲郎「なんだ!!!」

前橋「い、今、何かいたんだ!それは感染者と違って殺気だった何かが・・・」

前橋は声を震え上がらせる。

 

哲郎「そんな、震え声じゃあイケメンが台無しだぜ。」

と言いつつ心の中で焦り、周りを手当たり次第照らす。

 

哲郎「うわ!!!」

ドン、ドンと銃声を鳴らす。

チュウチュウと言いながらネズミが銃弾で穴の開いた電気配管工から出てくる。

 

哲郎「なんだ・・・ネズミかよ。」

と笑いながら前橋を見ると首がない。

 

哲郎「ま・・・前橋!!!」

と叫んだ瞬間には腹から鋭利な何かが突き出ていた。

哲郎は息が出来なくなり口からよだれのように血を出す。

 

耳元で

「上野の指示かもしれないが俺の娘を誘拐した罪は重い。」

背中から抜き出し、左から右にナイフを横に思いっきり振り斬る。

 

哲郎の上唇から頭が暗い地面に落ちる。

 

文香は心配して、トラック荷台から降りる。

両手に拳銃のグリップを握りしめて暗い薬局の入り口に向かう。

すると、北斗が近寄る。

 

北斗「そっちは入っちゃだめだよ。」

文香「北斗さん、来ないでください。」

北斗「僕と一緒に父さんや母さんに会いに行こう。」

 

文香は拳銃を構えながら、

文香「こ、来ないで。」

北斗はゆっくりと歩く。

 

文香は北斗の顔に照準を合わせる。

距離は軽自動車一台分。

引き金に指を当て引く。

北斗の右肩を弾丸は貫通する。

何もなかったかのように北斗はゆっくりと定速で近づく。

 

北斗「そんなもの使ってもこの悪夢からは逃れられないよ。」

文香「確かにそうかもしれない、でも父と母の分まで私は生きる!!!何を利用しても!!!」

距離人一人分。

 

目をつぶって引き金を引く、そして奇跡的に頭に命中する。

 

外の銃声を聞いて血まみれの森下が薬局から出てくる。

「瑠璃!!!」

「・・・」

 

森下は抱きつく。

「良かった、本当に良かった・・・」

「森下さん・・・」

かつて一緒に生活していた娘と重ねているのだろうか、いや狂ってしまっているのかもしれない。

しかし、文香にとっても森下には父親に似ている所がある。

それは一番に守ってくれたこと、そして私の一番の味方だった父親に。

 




タイヤ痕、哲郎の吸いたての煙草の吸殻によって追跡したらたまたま再会みたいな感じです(小並感

移動は走りです、走れメロスぐらい走ったと思ってください(適当

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