ザ・ウォーキング・デッド in Japan 作:永遠の二番煎じ
目を開くと緑の天井が見えた、そして横を向く。
背中は柔らかい素材の何かが負担をしてくれている。
「あなたは弓矢の女兵士さん。」
少女はマットに横たわり、意外にも冷静でパニックは起こさなかった。
「私どうなるんですか?」
「大丈夫よ。」
「私もここで目覚めた時すぐにナイフを持ちたい気持ちになったわ。」
「あなたは誰ですか?」
「斉藤加奈よ、よろしくね、久保文香さん。」
久保文香、年齢15歳、今迄どこにも属さず家族だけで生き延びてきた。
生田から聞いたのはそれだけであった。
「ごめんね、殺そうとして。」
「あなたは私を助けてくれた、それに今は不思議じゃありませんよ。初対面の人を殺すのは・・・生きるためですから。」
テントの中に森下が入ってくる。
「交代だ。」
「ええ、森下さん後は任せますよ。」
すると久保は斉藤の手首をつかむ。
「行かないで・・・」
久保は不安そうな顔をする。
「大丈夫、この人はあなたに危害を加えない。加えたら私が許さないから。」
優しそうな顔で久保を励ます。
「おお、言うじゃないか。初めて会った時は保護してほしいなんて言ってたのになあ。」
斉藤は森下と目を合わさず出て行く。
久保は怯える。
左肘から下はナイフ、顔は厳格そうな性格を主張しているような印象を与える。
「久保文香、自称15歳、最近両親を失った・・・」
「・・・」
「両親が死ぬ瞬間はどうだった?」
「・・・」
久保は顔を森下から背ける。
「まあ、話すことはおろか思い出したくもないだろう。」
「ジジイ。」
と小声でつぶやく。
「家族が死ぬのが見れただけでもマシだと考えられないか?俺にはあんたと同じ年くらいの娘と妻がいたが・・・生きているかもしれない・・・いや死んでるかもしれない、生きて再開出来たならこんなにうれしいことはない、だが死んでるかもしれない。だからまだお前はマシなんだ。」
「・・・」
「まあ、当分は無口でも大丈夫だ。ここならしばらく安全だろう。ゆっくり休め。」
場面は堀に変わる。
「面倒だ・・・」
堀の中にゾンビが這いつくばっている。
「優香、援護頼むぞ。」
「はーい。」
生田は鍬を外側で構える。
和成は飛び降り、這いつくばっているゾンビの頭頂部にナイフを刺す。
いつものように外側で死体を焼く。
「最近数が増えてるな。しばらくは大きな音は控えた方がいいいかもしれない。」
「最初は二人だったのに・・・」
「ああ、確かに食料に余裕が無くなってきた・・・だが、斉藤がいなければ俺は盗賊に殺されていたし少女も死んでいた。まあ盗賊は死なせたくなかったが・・・」
和成のもっともな主張に口を紡ぐ。
「お前は何か勘違いしている、一番大事なのはお前だよ。」
和成は生田を抱き寄せる。
「・・・うん、ありがとう。和成。」
生田も和成を強く抱きしめ返す。
俺は本当に彼女を愛しているのだろうか、今の状況を乗り切るための気休めにしかすぎないだろうなのか。
「じゃあ、約束してくれ。」
「何?」
生田は和成の微妙な愛情を感じたのか上機嫌だ。
「もう仲間を傷つけないと・・・」
「・・・分かった。和成の落ち込んでる顔見たくないから。」
「じゃあ・・・約束のくちづけするね。」
生田は目をつぶり待つ。
二人は焼死体の前で優しく唇を重ねる。
夕方ごろ四人は新しく黄色のテントを建てて食卓を囲む。
「森下さん、久保さんの様子どうでした?」
「少なくとも自分で命を絶つことはないだろう、俺の勝手な推測だが。」
「それはよかった・・・」
和成はホッと息をつく。
「久保さんが出て行きたいと言い出したらどうするんですか?」
「その時は俺の元警察官時代のスキルが試されるな。」
半笑いで答える。
生田は黄色のテントの中にご飯を持ってくる。
トマトとキュウリと缶詰いつもの組み合わせだ。
スイス製ナイフで缶詰を開ける。
斉藤は和成のスイス製ナイフを見て罪悪感がひしめく。
和成は斉藤の目線に気づき、
「貸してほしいのか?」
「はい、そのナイフ開けやすそうですね。」
斉藤は平気で顔に出さず嘘をつく。
「うん、爪切りにもなるよ。」
森下は缶詰の側面を見て、
「俺のツナだ・・・和成、そのチキンと交換してくれ。」
「私も欲しいです。」
「じゃあ公平に三人で自分のを分け合おう。」
森下と斉藤の拒絶の反応が飛び交う。
久保は人の足音で目を開ける。
「ごめん、起こした?」
近くの収納机に食器トレーを置く。
「いえ、癖なんです。車の中で生活してましたから・・・」
「あの時いきなり殺そうとしてゴメンね。」
生田はにこりと笑う。
「・・・あなたの選択は間違ってなかったと思います。私があなたなら同じことをしました。」
「そうかもね、だから私を後悔させないでね。文香ちゃん・・・」
それは15歳の少女には分からない意味深な発言であった。
生田は黄色のテントに遅れて入った。
「どうだった、優香。」
「元気そうよ。」
その会話のやり取りに斉藤と森下は安堵する。
その夜農園の外側で和成と森下がパトカーの中で今後の計画を話し合う。
「俺は久保に生き方を教える、しばらくは生田と斉藤を頼む。」
「・・・森下、あんたがいて助かったよ。」
サイドガラスからかすかであるがふらふら歩くゾンビが外側から堀に落ちていく姿が見える。
「俺一人じゃあとても抱えきれなかった・・・」
「和成、お前こそまだ若いのによく仕切ってるよ。」
おそらく森下が和成を誉めるのは初めてだろう。
「俺たちは仲間が死んだから生きてこられた。」
「同感だ、だから命は大事にしないとな、こんなに軽い世の中なんだからな。」
一か月後。
「さあ、殺すんだ。」
森下は久保に竹槍を渡してゾンビの殺し方を教えていた。
堀にハマったゾンビがこちらを向いてうめき声をあげている。
森下はしゃがんで膝をついて、左肘のナイフを使わず右手だけでバールを持ちゾンビの顔を突き刺す。
「文香、お前は両手があるんだ出来るだろ?」
堀にハマっているゾンビは衣服が泥で汚れ、ボロボロで腐臭がただよっている。
だが久保の目にはかつて人間であったころの姿が幻覚として映る。
そしてうめき声が「助けて、助けて。」と空耳で聞こえる。
久保はゾンビの堀に吸い込まれそうになる。
ふらっと堀に落ちかけた・・・
森下は右手で後ろから久保のお腹を抱えて後ろに尻餅をつく。
「まだ無理か?」
「ごめんなさい。森下さん。」
「気にするな、時間だけはある。」
農園ではキュウリとトマトに加えて新たに調達したネギ・ジャガイモ・ピーマン・ニラ・さつまいもと合計7種類の野菜を育てている、さらに鶏5羽と豚2匹を奇跡的に見つけて園内で育てている。
生田は鶏や豚にエサの虫を食べさせる。
虫を畜産スペースにばらまき豚や鶏が寄ってくる。
遅れて和成が来る。
「ごめん、日課を忘れてた。」
「大丈夫だよ、昔は虫も触れなかったけど今は人を殺すぐらいの覚悟があるから。」
「どうだ、鶏は卵産んだか?」
「いえ、今日は産んでない。」
和成は緑のテントに戻り、
「斉藤、俺と優香で調達に行ってくる。」
斉藤は弓と矢の手入れをしている。
「分かりました、あと水が残り少ないんでゾンビがいなければ川から水を汲んでもらってもいいですか?」
「了解した。」
生田と和成は軽トラに乗って街を目指す。
「和成、こうやって二人きりになるの久々だね。」
「そうだな、一週間ぶりくらいだな。」
「最近は森下さんと調達いってたもんね。」
「今日は洋服を見つけよう。タオルにも火燃料にもなるからな。」
いつも物資調達している町は通り越し、郊外に来た。
この郊外の町はゾンビは少なく無視しても問題なかった。
洋服店が並んでいたが、盗賊が入った後であった。
「最近は物資が手に入らないな。」
「そうね、家電はたくさんあちこちにあるのにね。」
二人は落胆してそのまま引き返す。
夜中緑のテントで生田・斉藤・久保、黄色のテントで青井と森下が寝ていた。
するとテント近くで打ち上げ花火のような爆音が鳴り、地面が轟く。
「なんだ。」
驚愕して拳銃をすぐに手にする。
森下が急いで左ひじにナイフを装着し始めた。
「拳銃は使うな。場所がばれる。」
緑のテントから三人が非常事態に気づいて出てくる。
テント近くの生田は見覚えのない中型トラックに発砲する。
次の瞬間緑のテントが爆発した。
和成と森下もテントを出ると周りはゾンビだらけであった。
そして女性陣が寝ているテントが燃えていた。
和成と森下は絶句。
こちらに誰か走ってくる。
我に返り和成と森下は拳銃を構える。
走って来たのは久保だった。
「生田さんが・・・」
名字を聞いて、正気ではいられなかった。
大量のゾンビの中で燃えゆくテントに向かう和成。
「おい、待て和成。」
その声に反応して無数のゾンビが森下の方を向く。
「文香、外側に走るんだ。いつもゾンビを殺す練習をしている場所だ。」
久保は頷き、走って行く。
森下は時間を稼ぐためにゾンビを出来るだけ多く倒した。
斉藤が生田を担ごうとしていた。
「優香!」
「大丈夫です、優香さんは生きてます。」
「分かった、援護頼む。」
バチバチという音とともにうめき声がこちらに向かってくる。
代わりに和成が生田を担いで、立ちはだかるゾンビに対して斉藤はタックルやナイフで殺して道をつくる。