ザ・ウォーキング・デッド in Japan 作:永遠の二番煎じ
ナイフを何度も横の木製のテーブルに軽く突き刺さるように、トン、トンと一定のリズムを刻んで落とす。
目が鋭く、そのマナコはマットに横たわっている女に向けられる。
ナイフの音で女の目が覚める、慌ててナイフを腰に収納する。
目つきを緩めて、
「加奈ちゃん、おはよう。ぐっすり眠れた?」
「はい・・・生田さん。」
「優香ちゃんでいいよ。」
「じゃあ、優香さん・・・」
外で三人で食卓を囲む。
「ここに来て一週間、もう慣れたか?」
「はい・・・おかげさまで。」
「みんな辛い思いをして生き残った。ここで最初に再開した時過去について語り合おうと思ったが過去は水に流して協力しよう。」
昨日テントの外で・・・
「和成?あの女をここに置くの?」
「かつては仲間だったんだ、それに仲間は多い方がいい。」
「えっ!前は二人でもいいって言ってたじゃん。」
「大丈夫だ、お前の心配していることは分かってる。」
「そうよ、あなたが拳銃を隠し持っていたことより不愉快だわ。」
「別に俺は一夫多妻を築こうなんて思ってないし、そんな身構えるなよ。」
和成は夜空の下で優香を抱き寄せる。
だが彼女を許せなかった、和成のヒロインは私だけでいいのだ、私たちの愛の創世記を潰されるのは許せない。
そう確信したのは女を連れ帰って和成に見せてからであった。和成は女を知っているような顔とともに私にしかみせてほしくない顔をしていた。私の和成はこいつが居る限り必ず取られる、心も体も。
場面は朝の食卓に戻る、
「なあ、優香?」
「そうね、一人が病気しても二人いればシフトが回るもんね。」
「いえ、私は出て行きます。」
後押しするように、
「そうなんだ、まあ加奈ちゃんがそうしたいならそうすればいいと思うよ。」
「確かに、斉藤がそう決めたならいつ出て行っても・・・俺たちに口出しする権利はない。」
その日の昼、斉藤が倒れた場所に和成が送る。
和成は運転席、斉藤は助手席で、
「お前っぽいよな。」
「何がですか?」
「常に冷静だ・・・」
「はい、いつか生田さんに殺されそうですから。」
「気づいてたのか。」
「青井さんは助けないんですか?」
「助ける?」
「あれでは新鮮な肉を求めているゾンビと変わりませんよ。」
車を停車させた。
フロントガラスに見える前からゾンビが2体寄ってくる。
斉藤は素早く降りて一体には弓矢を放ち、一体には矢をそのまま頭に突き刺した。
矢が足に刺さって倒れてもがいているゾンビの脳天をナイフで突き刺した。
背後を振り向き、
「和成さ・・・」
と次の瞬間ゾンビが襲ってきた。
両手を掴まれ首を噛まれそうになるがなんとか耐える。
パクパクと口をしているゾンビの後頭部にナイフを刺す。
「大丈夫か?」
「助かりました。」
生田は和成の農作業袋から隠していた拳銃を見つける。
斉藤が戻ってきたら手っ取り早く始末できるように、また和成への見せしめとして他者との共存をあきらめさせるためでもある。
拳銃を後ろ腰に閉まった時であった。
「優香さん、何してるんですか?」
生田が声の方に拳銃を向けた時、斉藤は人一人分の距離で両手を挙げていた。
「あれ、和成は?」
「そっちこそ、なんで私に拳銃を?」
「質問に答えなさいよ。」
生田は感情的になる。
「死にました。」
死にました、死にました、死にました。
頭の中でエコーが響き渡り、何度もその言葉が駆け巡る。
涙を流しながら顎下に右手で銃口を突きつける。
引き金を引く瞬間、右手を叩かれ押し倒される、銃口の火花は顔の横で散る。
右耳にキーンという耳鳴りが。
斉藤は馬乗りになって眉間に矢じりを突きつける。
「さあ、殺しなさいよ。まさか盗賊を町で助けるなんて。」
そんな後悔よりも和成の最後に立ち会えなかったことに涙している。
「どうして・・・私を?」
「私を?・・・撃っても撃たなくても和成は生き返らないからよ。」
「でも、私を道ずれに出来た。」
「そんなことに意味はないの。さあ一思いに・・・」
生田は最後に目を閉じる。
「私も東岡くんや大島くんに坂下さん・・・多くの大切な人を失いました。」
「あなたの過去なんて死ぬ前に聞かされても意味ないわ。」
目を閉じても涙がぼろぼろ出てくる。
生田の頬に斉藤の涙の粒がしたたる。
「甘ったれ!大切な人が死んでその人の分まで生きようと思わないの!」
声を張り上げ、目を開く。
「悔しかったら、この矢を私に刺してみなさい。」
「ああああああ!」
斉藤をひっくり返して殴ろうとしたとき、
「ちょっと待てええええ。」
と男の声が。
この声は和成?
「和成・・・」
「お、おう・・・ダマして悪かったな・・・」
生田は立ち上がり和成に飛びついた。
斉藤は青井さんよかったですね的な笑顔を見せて一件落着した。
夜テントの中で三人夕ご飯を食べた。
「まあ、最初は私のほうが気があったんだけど和成も今は私以外興味ないって感じかな。」
「大丈夫ですよ、優香さん。それにしてもこのトマトとキュウリおいしいですね。」
「斉藤、お前も初めて会った時と比べてだいぶ話すようになったな。」
こうして三人で楽しく過ごした。
夜中マットの上で寝ている斉藤の眉間にナイフの先端を突きつけた。
斉藤の顔を見て思い出す・・・
『甘ったれ!大切な人が死んでその人の分まで生きようと思わないの!』
ナイフを腰に戻す。
まちがえないでね・・・もしあなたが和成とできたなら喜んで殺すね。