B 時のまにまに
「………つかちゃん?」
彼女を見た瞬間、私は目の前の防弾ガラスに突撃してしまった。
手にしていたグラスが床に落ちて高級じゅうたんに大きなシミを作る。
私はサイドテーブルに置いていた呼び鈴を鳴らす。
程なくして一人のメイドが現れた。この子は私を見るたびにびくびくして怖がっているのが分かって嫌だ。
「あの子を連れてきて。」
「………あの子、でございますか?」
貴賓席とは名ばかりの私の軟禁部屋の一つ。そこからはロックブルズ第一ホールの全貌が見渡せる。逆に向こう側からは何も見えない作りになっている。
メイドは背伸びをしてガラス張りの向こうを覗き込み、舞台に居る数十名の中の誰だろうかと顔を青くして私と舞台を交互に見る。
「エントリーナンバー68ってあるわ。」
200mも離れていれば普通の人間の目には見えないだろう。私はスキル・ホークアイで目的の子がつけているナンバープレートを告げた。
「はい、ただいま………。」
メイドが出て言ってしばらくして今度は執事が現れた。
「カ・ラ・ビンカ様、何か御用でしょうか?」
これだ。
何かあるごとにメイドに説明して執事に説明して、そして担当役人が2~3人入れ替わりで来る。めんどくさいったら………。
私は先程メイドにした同じ説明を繰り返す。
既に今回のバレエコンクールの出場者は退場してしまっている。偶然通りかかったのは奇跡だったが、演目は全て終わっていたらしい。
「早くしないと帰っちゃうでしょうが!」
だからつい、声を荒げてしまう…。
「はい、直ちに………。」
顔色を青くするのではあるが………。
しばらくして………。
「カ・ラ・ビンカ様、今回はどのようなご用向きでしょうか?」
彼等のマニュアルらしいのだが、私を怒らせるためのマニュアルなのか?!一体………。
「もう良い!!」
毎回こんな感じだ。いい加減うんざりしていたのだが、今回はそれどころではない。
「外に出られては困ります!衛兵!!」
「衛兵?看守の間違いだろうが!」
私はドレスの裾を切り裂くと、パンプスを脱いで走り出した。
私は50~100と書かれた控室に飛び込んだ。
「つかちゃん!!」
突然女が飛び込んで叫んだ事で、全員がギョっとこちらを見ている。
「居ない……。68番の子は何処?!」
帰ってきた反応は無し。
私は巨大なロックブルズホールエントランスを出て走り回った。424年前はまだ中規模レベルの施設だったが、今や10km四方内に100近くのホールがひしめく巨大施設になっている。
そこで一人の子を探し出すのはそれこそ奇跡でも起きない限り………。
「居た!!こんな奇跡を起こすなんてやっぱりつかちゃんだ!!」
私は女の子の前に回り込んで肩を掴む。
「つかちゃん!!つかちゃん!!」
私は感極まって抱き着いた。
間違いない!
200年前にひっそりと居なくなった、…最後に会ったそのままの姿で彼女はそこに居た。いや、少し若返ってるか?
ただ、泣いていたのか、目を真っ赤にしている。
「どなたでしょうか?誰かとお間違いになっているのでは?」
「声まで同じでそれは無いでしょう!悪ふざけは止めて!私の耳をなめないでよ!!」
「ご、ごめんなさい。本当に分からないんです。僕の名前はチェチーリア・プリセツカヤって言います。」
「……は?」
「ね?人違いでしょう?」
無理矢理笑顔を作るチェチーリア。
「しゃべり方まで同じで、別人と思えっての?!」
ただ、ちょっと性格が違ってはいるような……。
いや、心に壁があるときはこんな感じだったか?何しろもう数百年も前の事だから……。
「ごめんなさい。僕、今日はちょっと、他人に気を遣えるような精神的余裕が無いんです。」
チェチーリアの両の瞳から大粒の涙があふれ出る。
「さよなら。」
言ってチェチーリアは私の手を振り切って走り出した。
「待って!!」
後を追おうとした私の腕をつかむ衛兵達。
私でも彼等を振り切る位は出来るが………。
私は軟禁部屋の一つに戻ると、役人に、チェチーリア・プリセツカヤの書類を届けさせた。
祖父と孫娘であるチェチーリアの二人暮らし。年金生活で余裕がある生活とは言い難い。自身もアルバイトをしながら質素な暮らしぶり。その中で唯一のわがままがバレエだったらしい。端末からさらに詳しく調べるとまあ、絵に描いたような不遇の人生がつづられていた。私だったら一発でドロップアウトしそうな事を片手に余るくらいは経験している。
私はコンクールの映像を持ってこさせ、一通り見てみた。
「何でよ?何でこの子が入賞しないの?」
私はバレエは専門家ではない。しかし、明らかにレベルからして違う。異彩すら放っている。
担当者の手記を見た時、私はめまいがした。
曰く、有名校に通っていないから。曰く、コネが無いから。曰く、金が無いから………。
「いつの間に……この劇場はこんなに腐ってたんだ……。」
孫、玄孫と代替わりを続けて、いつの間に夢を追う施設から儲ける為だけの伏魔殿になってしまったんだ?
そもそも私が居ると、後進が育たないというから隠居したというのに………。
リアルで、私が世界に絶望した理由と同じだ。
つかちゃんとの最後の会話は200年経った今でも鮮明に覚えている。
「皆さん、ごめんなさい。僕、死んじゃいました。」
私とアインズさんがちょうど一緒に居た時にそんなメッセージが入った。
「何を言ってるんだ?笑えない冗談だぞ。」
私は口に物を入れていたので、アインズさんだけが反応する。
「このメッセージは録音テープみたいなもので、一方通行なのでご容赦を。」
「「おい!」」
また何とか人形ってやつか?
「大学、研究機関で重力子とヒッグス粒子も見つかった。僕がこの世界に来た最後に残った理由も、もう達成されました。これで遠くない将来、時間のメカニズムも解明されるでしょう。」
以前からつかちゃんは自分がここに来たのはこの世界の人にこれらを発見させることなんだと言っていた。
私にはそれが何かどころか、どんなすごい物かすらも分からない。けれど去年、確かにカルネ大学のユリアン・ヴァイセルフ名誉教授がこれらを発見したことでニュースになった。
「モラルも僕が思ってた以上に定着している。」
そう、この頃は人の心は本当に澄んでいた。今は見るも無残ではあるのだが……。
「もう僕がやる事はなくなりました。……それじゃ皆さん、お世話になりました。」
簡単な……。本当に簡単なあっけらかんとした別れの挨拶だった。実は1週間後に、『なんちゃってー!』とか言って現れるんじゃないかと思ってすら居た。
私は定期的に遊びに来てくれるアインズさんに件の映像を見させた。
はじめから見させ、エントリーナンバー30番を数える頃にはアインズさんは飽きてきたのか携帯端末をいじり始める。
まあ、私も『良いから見てて。』しか言わないからそれも仕方が無いが……。
「これは……。」
やがてエントリーナンバー61番から70番までの番が回ってきた時、チラッと画面を見たアインズさんが固まる。
何も言わずに画面に食い入るアインズさん。
「つかさ………なのか?」
「………………………。」
「ビンカさん!!」
「本人は違うって言ってるの。」
「しかし、こんな……他人の空似ってレベルじゃないぞ!クセまで一緒だ!」
「バイオロイド・コッペリアは私も創るのを手がけた子。だから私の紋章が入ってる。でも紋章がある場所に、それが無かった。」
こんなそっくりでも、仕草や反応や声や、そのほとんどが同じでも、たった一つ違いがあると、『違うのでは?』と言う疑念は浮かび上がってくる。
「何処に居るんだ?会って直接確かめる!」
「まだ止めた方が良いよ。彼女、コンクールに落選して相当落ち込んでたから……。」
「はあ?!これだけの演技をして、落選!?あ、いや、俺は専門家じゃないから何かダメなところがあるのかも分からんが……、少なくとも彼女の演技には背景やら情景やら光景が透かし見えたぞ!」
私はアインズさんに書類を見せる。
「………何だこれは……?」
「彼女が落選した理由。はは…。私、すっごく身につまされるわ。」
「最近、民衆の心が荒み始めていたのは知ってはいたが………。」
「ねえ、アインズさん。この世界、滅ぼしちゃおうか………。」
……………。
私は半世紀近く幽閉、軟禁されてきた。大好きな歌も披露できず、暗澹と日々暮らしてきた。その結果がコレ……。
アインズさんはいつでもここから助け出してやるとは言ってたんだけど、私は私の子孫達を信じたかった…。その結果がコレ…。
「とりあえず、彼女に会ってみよう。昨日の今日で彼女には酷かも知れないが………。」
この部屋は転移魔法が封じられているので、私達は正面突破で建物を出、
チェチーリアは牧場でアルバイトしていた。
厩舎の掃除をしていたチェチーリアに私達は声を掛ける。
「「こんにちわ。」」
「…こんにちわ。どちら様…。」
どうやら直ぐに私に気付いたようだ。
「昨日は失礼しました。」
頭を下げた少女に私は慌てて頭を上げさせる。
「あの…、あの後も考えたのですが、やはり人違いと………。」
私が声を掛ける前に、アインズさんはチェチーリアを抱きしめていた。
「………ええー、…あのあの…。」
現在のアインズさんの姿はオーバーロードの姿ではある。しかし種族の壁は徐々に消え去って、今や混血も当たり前に居る時代だ。若い女の子に抱きつけば生殖能力無くても普通に訴えられるぞ。
「……すまない。」
名残惜しそうにチェチーリアから離れるアインズさん。もう逃がさないとばかりに肩を掴んだままでは有るが。
「そなたがつかさであるか否か、簡単に確かめる方法がある。」
言ってアインズさんは
「着てみてくれないか?」
アインズさんはグリーンシークレットハウスを取り出し、彼女を中に入れた。
やがて……。
「着ましたけど……。」
ただでさえ、
しかし、ああ、懐かしい。
「ピッタリだな。それを着れるという事はそなたはつかさに間違いない。」
「………あの、僕……。」
「いや、そなたがウソを言っているとかではない。多分、そなたはつかさの転生体なのだろう。」
うん。確かそんなスキルも持ってたはず………。
「ねえ、つかちゃん、私達の家に帰ろ?また私達と冒険に行こ?」
私の言葉に脅えた表情になるチェチーリア。
「僕にはお爺…、家で祖父が待っているんです。変な所へ連れて行かないでください!それに僕の名前はチェチーリア・プリセツカヤです。」
「変なところじゃないよ。200年間誰も使ってないけど、ちゃんと掃除すれば使えるはずだよ。」
チェチーリアは脅えたように首を振る。
これは長くなりそうだと思った私達は牧場主に話をつけ、彼女の身柄を借りることにした。初めは渋った牧場主であったが、金貨1枚を渡すと手のひらを返したようにチェチーリアを送り出した。
首都、カルネ市へ移動し、高級レストランに入ると、チェチーリアは目を白黒させる。
どうやらこういうところは不慣れみたいだ。何というか初々しい。
私の子孫達はかしずかれるのが当たり前と思っている連中ばかりでほとほと呆れるのだが………。アインズさんも表情には出ないがホンワカしているようだ。
「あの、最初に私から一言いいかな?」
私の言葉にアインズさんはどうぞと、手のひらで促す。
「チェチーリアちゃん、ごめんね。」
私はチェチーリアの前に膝をついて頭を下げた。
「……え?何を、何のことですか?」
「昨日のコンクール。あれは全くの出来レースだったの。」
ジワッとチェチーリアの目に涙が浮かぶ。
「本当にごめんなさい。」
「貴女は審査員長か何かなのですか?」
私の謝罪にチェチーリアは鼻声で答える。
「………。」
「いや、彼女は審査には全く関わっていない。」
言葉に詰まる私の代わりにアインズさんが答えた。
「では謝られる意味が分かりません。」
チェチーリアは下を向いて握りこぶしを固めている。
言葉からは怒りといった感情は感じられない。むしろ悔しさを思い出したというところか?
「いいえ。私のせいなの。私が何もしなかったから、あの夢の殿堂をあんな伏魔殿に貶めてしまった。」
「……貴女は一体、どういう方なんですか?」
「彼女の名はカ・ラ・ビンカと言う。聞いたことくらいあるだろう?そして私はアインズ・ウール・ゴウンだ。」
見る見る間に、顔を上げたチェチーリアの顔色が青くなっていく。
「し、失礼しました!僕、知らなくて!その、殺さないでください!僕にはお爺ちゃんが……。」
床に土下座するチェチーリア。
ああ、この姿も久しぶりに見る。そしてこんな謝り方をする人はつかちゃん以外ありえない……。
「そんな事はせんよ。そう心配するな。……逆に傷つくぞ。」
ごめんなさいごめんなさいと繰り返すチェチーリアの肩を抱いて椅子に座らせるアインズさん。
「貴女の踊り、魅せて貰ったよ。私達の中では間違いなく、最優秀賞だよ。」
チェチーリアは顔を伏せると腕で目を隠す。
「ああ。確かに私達は専門家では無い。だが、我等…、特にビンカさんの感性は世界一だ。芸術の神に認められた事、誇るが良い。」
「ありがとうございます。…そのお言葉だけで報われました。僕は……。」
その後は言葉にならなかった。
「この世界ではそなたのようなホンモノを理解してくれる人は少ない。どうだ?ナザリックに来ないか?もちろん、そなたの祖父を連れてきてかまわん。」
アインズさんの言葉に涙に濡れた顔を上げるチェチーリア。
しかし、しばらく考えた後、首を横に振った。
「僕は聖地に迎えられる程の人物ではありません。」
ホント、つかちゃんだ。
何というか筋の通らない事をすごく嫌がる。
多分、バレエでプリマとして何年も活躍したら、ナザリックに来ることも辞さないだろう。ナザリックと言うのはそういう所だから。
しかし近年、ナザリックに呼ばれる人は一人も居なくなっていた……。つまり、優秀な人材が発掘されなくなってきたということだ。
彼女は今のままではプリマどころかバレエ団に入団することすら出来ない。
けれど、私達が裏で手回ししたりすれば多分激怒するだろう。
それを分かるから私とアインズさんは困ってしまう。
「前世のそなたには我々は非常に世話になったのだ。その恩返しと言うことでどうだ?」
首を横に振るチェチーリア。
「僕には覚えが無いことです。」
全く、自分は私達を散々に操り倒したクセに、自分は頑として譲らない。まったく今も昔も……。
「もし望むなら私がバレエ団を紹介……。」
私の言葉を最後まで聞く前につかちゃんは首を横に振った。
「僕は実力で……。」
「今の時代は実力がカネやコネに勝てない時代なの!このままでは宝石が輝きを放つ前に埋もれてしまう!」
「それなら仕方の無いことです。僕は受け入れます。」
私達はため息をついてしまう。
「ならば覚えておいて欲しい。そなたが望めばいつでも、我々は門戸を開いて待っている。」
チェチーリアは深く深く頭を下げた。
「そなたの境遇、少し調べさせてもらった。ずいぶん辛い人生を歩ませてしまったようだな。建国者の一人としてわびさせてくれ。すまなかった。」
私も一緒に頭を下げる。
「ちょ、お止めください!!」
悲鳴を上げるチェチーリア。結果、頭を下げるアインズさんの膝下に行く形になる。
「コンクール、次回も受けに来てくれるんでしょ?」
「………はい。………でも……。」
「分かってる。ひいきはしない。いいえ、何の力も働かせない!」
私の怒りを感じ取ったのか、脅えた表情を見せるチェチーリア。
ちょっと無理に笑顔を作ると、チェチーリアの表情も少し和らぐ。
「…ありがとうございます。」
「お礼を言わなければいけないのは私の方だよ。ありがとう、チェチーリアちゃん。私達の止まった時間を動かしてくれて。」
「そうだな。我々は隠居して口出しを避けてきたが………。そなたはそんな我等の尻を叩きに生まれ変わってきたのかも知れんな。」
「そんな………。」
「それにしても君は相変わらず強いね。そして脇目も振らず突っ走る事が出来る。」
涙を目に貯め、横に首を振るチェチーリア。
ちょっと調べただけでも片手に余る窮地と不幸を彼女は経験してきている。
「そうだな。そなたは頑張ってきた。普通の人間の何倍も頑張ってきた。そろそろ報われて良いだろう。」
チェチーリアの大きな目に涙があふれてくる。
そんな人生で真っ直ぐに歩める。…私じゃそうは行かないだろう。
「今度は我々が頑張る番だ。友達として、そのくらい頑張っても許してくれるだろう?」
アインズさんが優しく抱きしめてやると、チェチーリアは徐々に声を上げて泣き始めた。
「う、わぁぁぁ………。」
「この世界は美しい。前世のそなたが我等に教えてくれた世界。今度は我々が見せてやろう。」
久しぶりに私は歌った。周りの人間を巻き込むが知ったことじゃない。
眠って、目が覚めたら、またいつもの日常。
でも、今度は未来が待ってる。
だから、もう少しだけ、頑張って。
チェチーリアを家に送り届け、事の顛末を祖父に聞かせると、祖父は大きく頭を下げて礼を述べた。
孫娘を真っ直ぐに育てた祖父だけあって、彼も中々の人格者だった。しかし、と言うかだからなのか、金も権力も持っていない。
ホント、何で正直者が馬鹿を見る世界になったのか………。
「それにしてもあの娘、何か、活き活きしてたよね。私達と違って……。」
しばらく歩いて、私はアインズさんに話しかける。
「不幸の中にあっても……、健気に咲いてるって、…そんな感じ?」
「…………………。」
アインズさんはただ黙々と歩いている。
「私も転生したら、昔みたいになれるのかな?」
「…って、今度は俺を置いて逝かないでくれよ?」
「………ああ、……うん。」
ちょっと話題が微妙だったか、会話が途切れてしまった。
………………。
「ねえ、何を黙り込んじゃってるの?まさか……。」
「ん?ああ、いや。……チェチーリア。……可愛かったな。前世にはあの可愛さは無かった。」
私とは全く違う事を考えていた。でもその意見には賛成。
「ね。時折、こ憎たらしい子だったのに……。」
「抱いたとき、心臓あったらバクバクいってたぞ。久しぶりの感覚だよ。」
「ちょっと!あの子まだ13~4だよ。」
「でもさー、チェチーリアが抱きついて泣いてきた時、スッゲー、ズッキュキュンって来たんだよ。アッチの身体だったらやばかった!」
「……憲兵さーん!!」
「まあ、冗談はさておき…。」
とっても冗談には聞こえなかったよ。
「メッセージ……。アルベド、聞こえるか。」
「はっ!」
「今から作戦ソドムとゴモラの作戦会議を始める。用意せよ!」
……!!!!!
「はっ!!」
メッセージの向こう側では息を呑む気配。
アルベドはナザリックの指導者となった自分の息子にアドバイスをする立場だが、やはり第一はアインズさんだ。
そのアインズさんが百年以上の時を経て立つ。
湧き上がる感情がこちらにも伝わってくるほどだ。
通信が終わり、しばらくして、私は声を上げる。
「………そっか、やるか。でも、あの子は許してくれるかな?」
「あの子、いや、アイツはもともと戦争絶対反対と言うスタンスではない。……死ぬべきでない人間が殺されるのは全力で阻止するだろうがな。」
「そうだったね。『無人兵器同士の戦争ならむしろ経済を活性化してくれるよ。』とか言いそう。」
後は環境破壊しない事、かな?
さて、次のコンクールまで半年。それまでに大掃除だ。
「私達は少し甘やかしすぎたのかもしれない。」
「ああ。だから改悛する猶予も機会も与えよう。何の上に栄華を享受しているか思い出させる事も必要だろう。」
「でも…、自分の子孫をお仕置きしなくちゃいけないなんて……。」
レイナースは100年姿を変えずに生きてきて、自分の子供が先に老死するのを見るたびに、心を病んでいった。アルシェも同じだった。二人は老化無効のアイテムを棄て、やがて安らかに死んでいった。クレマンティーヌはつかちゃんみたいにある日突然ふらっと居なくなって二度と帰って来なかった。
そんな彼女達が残した大切な子孫達。私は深い愛情を与え続けていたはずなのに……。
「………どうしてこうなった?!」
自信が無くなる……。
でも、これはやらなくちゃいけない。
「チェチーリア・プリセツカヤ。そなたと同じ不遇の子供達はこの国にもごまんといる。今こそ、私達はそなたらを祖として導いてやろう。」
「つかちゃんなら、私達のやろうとしている事、理解はしてくれるでしょ?皆が皆、貴女みたいに物分かりのいい子ばかりじゃないんだよ。」
「罰なら受けよう……。」
「「…だから。」」
エピローグ
「おばあちゃん!お話聴きにきたよ!」
5人の子供達は目を輝かせて縁側でうたた寝をしていたおばあちゃんをたたき起こした。
「はいよー。前回は何の話をしたかね?」
「あの話!3柱の神様がこの世界に来る頃からの話!」
「昔々、いずこかに神様の世界があったそうな。神様の世界は度重なる戦争や騙し合いで何もかもが荒れておった。その世界を儚み、3柱の神がその世界に見切りをつけて、この世界にお渡りになられた。
さて、その神様とは?」
おばあちゃんが耳に手を当てて子供達にその答えをたずねる。
「支配と力と生命の神様!アインズ・ウール・ゴウン様!」
「芸能と歌と財福の神様!
「あとはー……。」
子供達は顔を見合わせる。
「最後の神様はいたかどうかも分からない。子供も名前も残っていない神様。姿形も色々な言い伝えがあって、人形だった、雪女だった、吸血鬼だった、ゴーレムだった、オートマトンだった、そして人間の姿をしていたとも言われておった。」
「でも、この神様に導かれた使徒がお二方います。さあ誰かなー?」
同じように子供達にたずねるおばあちゃん。
「聖ニグン・ルーイン様!」
「聖ラキュース・アインドラ様!」
「そうだね。そしてこの神様の司るものは文明と徳と知識。さて、ところで、皆の宗派は何かな?」
「僕ン家、アルスタ教ルーイン派!」
「私はアルスタ教アインドラ派。」
子供達はそれぞれの宗派名を上げていく。
「そうだね。このお二方の主張はことごとく対立したと言うのだけど、神は双方の主張を肯定したそうじゃ。なので二つの宗派が出来てしまったという。彼等の存在がこの神が居ったと言うあかしだという話だね。」
ルーイン派は穏健で現実的な宗教。アインドラ派は戒律の厳しい自力救済を掲げる宗派。こんな話を簡単に説明するおばあちゃん。
「そして何より、それ以前の1000年間、科学文明の発達がほとんど無かったのだけれど、この時期以降、急激に発展を遂げる。医、物理、化学、文学、経済、全てが同時期に、じゃ。
これこそ神の恩恵と言うものも居れば、生活の余裕が学問の発展につながったという学者も居る。皆はどう思うかの?」
子供達はそれぞれに意見を出していく。中にはニグンやラキュースが神様から天啓を受けたと言う発想をする子供も居た。
それを嬉しそうに聞くおばあちゃん。
「さて、普段、仲の良い神々だったが、ある日、
「絶対アインズ様!!」
やんちゃな子供は皆、軍神アインズ様が大好きだ。
「そうだね。アインズ様は力の神、その力は絶大。このお方に敵う方は神の世界にしか居らんかったと言う話じゃ。結局
しかし全ての娘達を蘇らせても、
困ったアインズ様は一柱の神を頼った。それが、もう一柱の神様だね。だからこの神は縁結びの神としても知られとる。
その神は
「へえ。じゃあその神様のおかげで俺達復活祭にプレゼントもらえんのか?」
焼けた肌を掻きながらニカッと白い歯を見せる少年。
「そういうことだね。で、再び仲良くなった御方々はそれぞれに国を作り始めた。さて、その国の名は?」
再び子供達にたずねるおばあちゃん。
「アインズ様はナザリック魔道国!世界最小にして最強の国。」
「
「そう、そしてその娘の御三家は神の血を引く家として今も存続しているのう。」
言っておばあちゃんはお茶を飲む。
「俺、クインティア家の傍系だってかあちゃん言ってた!」
それはすごいねとおばあちゃんは少年の頭を撫でる。
「あと、カルネ公爵家のカルネ公国。」
「そう。そしてそれらの国を纏め上げて造られたのがカルネ連邦共和国。」
「さて、それまで魔法に頼って発展していなかった生産業。これが機関の発明で魔法とエンジン、モーターの併用での生産力が爆発的に向上し始めたのじゃ。そして魔法を使える者と使えない者、力のある者と無い者との格差がこれで急激に無くなっていく。カルネ連邦共和国は余った品を周りの国々へ売り、材料を仕入れ、取引の量が爆発的に増え始めた。10年で100倍以上の経済規模…まあ、お金持ちになったということじゃな。」
「僕、知ってる!産業革命だ!」
おばあちゃんは聡明そうな少年の頭を撫でる。
「ご名答。しかし、ここで学者達が不思議に思うことがおこる。何だと思う?」
「大量消費時代に向けて、自然破壊問題と、リサイクルの大切さが前もって予知されていたこと?」
女の子の言葉におばあちゃんは細い目を見開く。
「難しい事を知っとるな。
そう、こういった事は普通、問題が大きくなって初めて分かるものじゃ。でも、カルネ連邦共和国では公害の発生が無い。もしくは発生した時の対応が過敏なまでに早い。他国では何度も取り返しのつかない大きな問題になっている事がカルネ連邦共和国では一件も発生しておらん。真っ先に発展しているのに関わらず、これは一体どうしたこと、とな。」
「やっぱり名無しの神様のおかげじゃないかな?」
「どうしてそう思うかや?」
女の子の言葉に優しく問うおばあちゃん。
「知識の神様なんでしょ?やっぱり知っていたんじゃないかな?」
「そう、そしてその件も、名無し神様の存在説を後押しする事になっておる。」
「さて……大きく経済が発展して、各国の人口が1億人を超える時代になってくると、神様の話も徐々に聞かれなくなって行っての…。そして人心が乱れ始めた頃、大きな事件が起きる。
世界各地の火山が大噴火を起こして全世界が連日連夜真っ暗になり、全ての作物が枯れ果て、凄まじい大飢饉が起こったのじゃ。全世界で何千万と言う人、亜人、獣人が飢えて、僅かな食料や、互いを食肉とする為、仲間割れが起こり始めたのじゃ。」
「700年前以前の世界の資料がほとんど残っていないのはこのときに失われたからなんだよね!」
男の子の言葉に大きく頷くおばあちゃん。
「そう。これは神の御業と言われとる。しかし、原因が何であったかはいまだに解明…分かっていないのじゃ。一説では名無しの神様を殺したせいとか、ナザリック大墳墓に何千人もで攻め込んだためとか、そもそも神様は関わっておられんとも言われておる。しかし……。」
と、夕刻、5時を告げる音楽が田畑で埋まった農地に響き渡った。
「さーて、今日はこの辺にしておこうかね…。」
えー、と子供達が騒ぐが、おばあちゃんは笑顔でまた明日、となだめる。
そして全員に饅頭をひとつづつ持たせた。
おばあちゃんは子供達が見えなくなるまで見送ると、縁側に再び座った。
夜中、蛍や妖精の光が舞う。
目の前をイノシシよけのゴーレムが巡回していく。
逃げ散った妖精が再び戻って来て月夜に乱舞する。
そんな幻想的風景を見ながら、おばあちゃんは満足そうに微笑していた。
「美しい世界。」
終り
あとがき
以上、私が半年くらい前、夢で見た内容でした。3日位連続で、時に途中で目を覚ましながら見ました。
文章は仕事から帰って来てから眠い目をこすりながら、時に寝落ちしながら書きました。なので、途中、文章が乱れたりして読み辛かったところもあったと思います。済みませんでした。
また、寝落ちしたため、何を目的でこのシチュエーションを入れたんだっけ?等と言う事も結構ありました。例えばイミーナがアイシクルボウガンを借りパクした件、本当はギャンブルの借金の形に取るのだというのをスッパリ忘れてしまいました。無理矢理話を繋げてしまって、アレ?とか思われる方も居られたかと。重ねてお詫び申し上げます。
ここで書ききれなかった話とかはショートストーリーで補完しようと考えています。御興味のある方は是非またお付き合い下さい。
ただ、少し時間を下さい。現在残業等が増えてきており、また積みゲーも消化しておきたいので。
このサイトの使い方もまだよく分かっていないので、どのような形でSSを書くか決めていませんが、目立たない形で、と思っています。
最後に、ここで応援下さった皆様に御礼申し上げます。
途中、拒食症になってしまい、4日程寝込んでしまった時、温かいお言葉や励ましのお便りを下さった方々には心より御礼申し上げます。
大変恐縮なのですが、感想版ではトラウマを植えつけられてしまい、返信が一切出来なくなってしまいました。ただ、全てのご感想にメッセージで返信しております。まだ、ご覧になって居られない方も居られる様ですので、感想版にご投稿頂いた方はよろしければ、メッセージボックスを御確認下さい。
特に肥後蘇山様、色々お骨折り、ご心配り頂き、有難うございました。gi13様、 のふのん様、 アサシン.様、 Sufika様、 kasama様、励ましのお言葉、お心遣い、ありがとうございました。 aaa_様、 tete4013様、 メンテ様、 きのべ様、 マニュアルペンギン様、 べぇちゃん様、 肌水様、 じゅざむ様、 ほのぼのらいふ様、 総一朗様、 シロ(犬)様、
過分な評価、温かい応援を頂き、有難うございました。途中、心が折れかけましたが、ここまで来れたのはひとえに皆様のおかげでございます。
しばらくしたら、また何か書くつもりでおります。ちょっと昔の、誰も見向きもしなくなったような物語等。
それでは縁がございましたら、またお付き合い頂ければ幸いです。
夕叢霧香