カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第26話

A 掛け違い

 

 

幕間

 

「あ、アインズ様~~!!」

 執務室にアルベドは転げ込んできた。

「あ、あお、その、………か、か、……。」

「落ち着け。何事だ?」

 持っていた報告書を侍っていたエントマに渡すと、アインズはアルベドに向き直る。

「トブの森林、ぎ、い、ニ、ニグレド姉さん…見張って……。」

「落ち着け。」

 

「エントマ。水を。」

「はい。」

 エントマがアルベドに水を差し出す。

 ごくごくとアルベドは一気に飲み干す。

「カ・ラ・ビンカ様です!カ・ラ・ビンカ様そっくりの女性が、トブの大森林、アインズ様とシャルティアが戦った場所に座っています。」

「……………………。」

「しかし、本人であるか調べた結果、ステータスが全然こちらのデータと違っているのです!ステータスUPしているなら分かるのですが、ことごとくダウンしているんです。LVも10強しかありません!」

「……………偽者、と言うことか?」

「はい、あ、いえ…、わかりません。」

「デスペナによるレベルダウンの可能性は?」

「……分かりかねます。しかし、それだけ殺されたというなら、猜疑心の塊になるのが普通です。そんな危険なところへのこのこ何の対処も無く出てくるでしょうか?」

「………そうだな。」

 

「アインズ様を…呼んでいるのかも知れませんが、罠かもしれません……。いえ、この状況は罠と考えるとしっくり行き過ぎるのです……。ただ……。」

「メッセージ!ニグレド!…ニグレド!!」

「は、はい。」

「今、アルベドから連絡を受けた。こちらに映像を出せるか?!」

「はい。」

「ビンカさんなら神器級(ゴッズ)アイテムを3つ持っているはずだが……。」

「ただの一つも持っていない。トライデントを持っていないのは理解できるが、鎧を着ているのに、神器級(ゴッズ)の羽衣とティアラを装備していないのは何故だ?反抗する意思が無い表明とするなら中途半端すぎる。つまり、神器級(ゴッズ)を持っていないということか……?もし隠して装備しているなら……罠確定だ。」

「ステータスを見せてくれ!」

「はい。」

「何だ、このステータスの低さ……。まるでゴミではないか…。ニグレド!ジャミングしている可能性は?」

「ジャミングはされていません。むしろ見てくださいと言ってるような状況で……。」

「何だそれは……?」

「逆にこれがフェイクであるなら……。」

 

「後ろにはべっているのは誰だ?貫頭衣が邪魔だ…。」

「直ぐに調査を……。」

「いや、一人は見覚えあるぞ……。クレマンティーヌ、とか言ったか?どういうことだ?奴は初めから彼女の部下だったということか?だとしたら……ビンカさんの性格上ありえない……。死者の軍勢(アンデスアーミー)等、最も嫌がるはずだ。」

 

「は、………、は、………はは、………。」

「アインズ様?」

「偽者だ……。プレイヤーが関わっている。アインズ・ウール・ゴウンの名を知っているプレイヤーが関わっている。二重の影(ドッペルゲンガー)か、高位の幻術か………。」

 

「何処まで………何処までこの私を…おちょくって……はぁ…。」

「ううっ……、アインズ様…。」

 凄まじい圧迫感と絶望のオーラで膝を突いてしまうアルベド。

「もし、これが尊敬するたっちさんや親友ペロロンチーノさんであっても、謝れば、まだ10回殺すくらいで許してやる。」

「失礼ですがアインズ様、会話をナザリック全員に共有したいと存じます。……姉さん、この会話をナザリックの全員に送って!」

「わかったわ。」

「………でもあの人はダメだ。あの人だけはダメだ!!」

 震える両手を目の前に、幽鬼の様に言う。

「カ・ラ・ビンカ様に一体何が……。」

 

「カ・ラ・ビンカさん。あの人は恐らく最も、…誰よりも、そう、この私より、このナザリックを愛していた人なんだ!」

「し、しかし、カ・ラ・ビンカ様は2年程前からここに来られなくなった………。」

「そう、来られない。来られるはずが無いんだ!」

 

「私は、彼女が死亡、いや、消滅していくところを見ている。」

「消滅………。」

「そう、消滅。ユグドラシルにおける死亡では無いリアルでの死亡、つまりは消滅。ビンカさんがここに来れなくなったのは消滅させられたからだ。」

「誰に、でございますか?」

「そうだな、社会、と言うものに抹殺された。」

 

「その灰も私は見ている!」

「そんな………。」

「死に逝く最期までナザリックの自室で苦しんでいた。苦しんでいたというのに最期まで服毒しなかったそうだ。ずっとナザリックの自室でうめいていた……。それでも最期までここに居続けたかったのだろう……。ナザリックを、皆を感じて居たかったのだろう。」

 

「私には、俺には何もできなかった。」

 

「最後はこんな、小さな壷に……………。」

 言って手のひらを合わせたくらいの空間を作る。

 

 色々な場所でナザリックのシモベ達は涙を流していた。

 

 アルベドはその場で自らの口を押さえて。エントマは擬態の顔が崩れていた。

 シャルティアは自室で両手で顔を覆っていた。

 デミウルゴスは第7階層で壁に向かって顔を隠し。

 コキュートスは涙こそ見せていないが全身を震わせていた。

 アウラとマーレは第6階層で抱き合って号泣していた。

 パンドラズアクターは誰も居ない宝物殿で帽子で顔を隠していた。

 セバスとソリュシャンはリ・エスティーゼの屋敷で床にくずおれていた。

 シズはギミックの前で全ての機能を停止したかのように微動だにせず。

 ユリとルプスレギナは控え室の机に突っ伏して肩を震わせて。

 ニグレドは氷結牢獄で膝を抱えて。

 ナーベラルは黄金の輝亭で膝を抱えて頭を埋めて。

 …………。

 

「これは至高の41人以外は知らないことだ。だから、ビンカさんに擬装するなど……許せない。最も許せない。」

 

「誰かは知らんが……愚かな事をした。絶対許さん……。」

 シモベ達の目に殺意の光が宿る。

「ニグレドは直ぐに周囲10km以内のLV20を超える戦力を探れ。」

「はい。」

「アルベドは戦闘準備だ。ヴィクティム、ガルガンチュアを除く全階層守護者を招集せよ。」

「はい。ワールドアイテム対策は如何致しましょう?」

「全ての階層守護者にワールドアイテムを1つづつ持たせる。パンドラズアクターに言って、宝物殿から持ってこさせよ。」

「はっ。」

「デミウルゴスとアウラをナザリックに詰め、何かあったら山河社稷図で封じ込めよ。ワールドアイテムは絶対持ち逃げされてはいかん。」

「はっ。」

「ニグレドの索敵が終わり次第、出撃するぞ。全員準備せよ!」

「はっ。」

 

 

「しかし、何故カ・ラ・ビンカ様なのでしょう?」

 戦闘準備の手は止めず、アインズにたずねるアルベド。

「最も考えられるのは二重の影(ドッペルゲンガー)を使った偽装。我々はプレイヤーとは数多く戦っている。中には二重の影(ドッペルゲンガー)の敵も居た。ビンカさんは抵抗が弱いから、コピーするのが容易だ。その割に生産とか、支援に特化していたから、重宝はする。また、水中に特化したビルドをしたプレイヤーは少なかったから、2年間、消さずに居ても納得できる。」

「しかし、何故この場に?あの方は戦いには最も向いておられぬ方でした。」

「いや、ビンカさんの真骨頂は集団戦。特に集団にリジェネレートを掛けたり、高位支援魔法を歌に乗せて、万単位の支援ができた。彼女はいつも自分は弱い弱いと卑下していたが、そんな事は無い。ぷにっと萌えさんとちゃんと相談してビルドしていたんだから。」

 

「そうそう、ビンカさんはビルドとかが苦手でな、自分のNPCを作らなかった。けれど…、いや、だからか、お前達の事はかなり、かわいがっていたと思う。覚えがあるものもいるのでは無いか?」

 シモベ達はそれぞれ思い当たる節があるのだろう。

 懐かしむように虚空に視線を送る。

 

「美声を、歌を、聞かせて頂きました。」

 代表して答えるアルベド。

「そうだな。あの人の歌は天下一品だった。毎日のように劇場で歌っていた。良く茶釜さんと張り合ってたな。」

「はい。」

「声は茶釜さん、歌はビンカさんで我々の評価は一致していた。声は作り物です、なんて言ってたけど、フフ…。」

「不遜ながら、我等もそう、思っていました。」

「以前茶釜さんに聞いた事がある。彼女が声優の世界で歌が1、2に上手いと言われるようになったのは、ビンカさんからテクニックを伝授されたからだと…。感謝していると……。」

 

「索敵、終了しました!敵勢力、全員で12名。LV82が1名、LV90が1名、後は全員雑魚。要注意は二人のみです。」

「よし。準備は?!」

「既に万端整いました。」

「よし!ではでるぞ!」

 

「お待ちください、アインズ様。」

「どうした、パンドラズアクター?」

 いつの間にか、パンドラズアクターが執務室に来ていた。いつものオーバーアクションもなりを潜めている。

「今回のアインズ様はアインズ様らしくありません。」

 

「何だと?」

 一段声が低くなるアインズ。

「いつもであればもっと慎重に事を運ぶはず。どんな罠であるか更なる調査を……。」

「必要ない。罠などここにいる全員で掛かれば事足りる。」

「しかし、もし……。」

「くどい。」

「は、失礼しました。」

 

 アルベドとすれ違うとき、パンドラズアクターは彼女に声を掛けた。

「アルベド殿、貴女も、今回はアルベド殿らしくありませんよ。」

 美しいかんばせをゆがめるアルベド。

「何が言いたいの?」

「貴女はアインズ様をいさめるのが仕事。今回はいささか後押しをしているように感じてならないのです。」

「いさめるのが仕事なのではないわ。正しい事を後押しするのも私の仕事。」

「今の状況が正しいと?」

「今までの事、聞いていなかったの?!あ奴は事もあろうに、至高の御方に泥を塗るような事をしたのよ!」

「焦っておいでなのでは?」

「何を言うの?」

「シャルティア殿が、失敗と成功を繰り返して、失敗の分、成果が際立って……。」

「黙りなさい!私がそんな狭い了見で動いてると?侮辱も大概になさい!」

 

「………ならばせめて、貴女だけは感情的にならず、常に一歩引いた視線で、見てください。」

「言われるまでも無い。」

 吐き棄てるように言うと、アルベドはアインズの作ったゲートをくぐって第6階層、階層守護者が集まる場所へ移動した。

「…………………。」

 

_____________________________________

 

 

「つかさ。私と一緒に死んでくれませんか?」

 初めての我が家訪問で発したパンドラズアクターの第一声がそれだった。

 ……………………………。

 

「………は?」

 心中?え?何?何でそんな思いつめちゃってるの?

 僕と君ってそんな違う意味での深い仲だったっけ?

 君の事は好きだけど、禁じられた恋……え?

 

「これから私は一命を掛けて、アインズ様をいさめようと思うのです。ですが、今のアインズ様では私の声は届かず、無駄死にする可能性が高い。例え死ぬにしても、それに意味を持たせたいじゃないですか。」

 うっわー、何だ、ビックリした……。

 でも……、

「何があったの?順を追って説明して。」

 

 ……………。

「ふぅん。……でも、2年も前に死んだ人なんでしょ?だったらやっぱり別人なんじゃない?」

「つかさは今、何故自分がここに居ると、説明できますか?2年の時って何です?ユグドラシルの時系列と、この世界の時系列って同じなんですか?」

「えぇ?でも、僕が聞いた情報じゃ、転移が異なる場合、100年単位でズレがあるものって推測してるんだけど……。」

「それだって、100年前にカ・ラ・ビンカ様が転移してきて、不老の状態で生き残っている可能性だってあるわけじゃないですか。目立ちたくないから、経験値消費スキルなど無駄撃ちしてわざとLVを下げた可能性だって無いとは言い切れないでしょう……。」

「……うーん。僕、そのカ・ラ・ビンカさんて会ったこと無いしなー。1500人で攻め込んだとき、第8階層の罠で、歌で過半数を二重の意味で痺れさせたというビックリな事をしてたなー、って位だよ。」

 

「もし、私の取り越し苦労であったなら、それが一番良いのです。心置きなく私は死ねます。ただ…。」

「でも、聞いた話じゃどんなLVが低くても、至高の41人の気配は分かるって……。」

「確かに。そして私も映像でちょっと見た感じですがあの方には至高の御方のオーラは感じません。」

「だったら……。いや、そうだね。推測だけでは後で後悔するかもしれないし……、とりあえずニグレドさんの所に行こうか。」

 僕は赤ん坊の人形を一体手に取る。

「おお、ありがとう!生まれ変わったら私の妻にしてあげますよ。」

「止めてよ!縁起でもないし、人聞きの悪い。」

 

 ここに来るのは嫌なんだよなーー。

 ホラー、苦手だし。ニグレドさんとはメッセージで話すのが一番だ。イイ声だし。

「ごめんくださーい。」

「わたしのこ……。」

 始まった!

「パンドラ、後お願い。はい、人形。」

 

 ………………。

「つかさの人形は本当にリアルで……。嬉しいわ。」

 そりゃ人形師(エンチャンター)ですから。って、……。

「ねえ、何かその子、動いてんですけど!僕、その子に魂、吹き込んでいないはずなんですけど!!」

「おぎゃーー、んぎゃーー!」

「ねえ、泣いてんですけど!!僕その子に魂吹き込んでないんですけど!!」

「おお、よしよし。おっぱいあげまちゅからねー。」

「こわーーー!!」

 

「……それで、交渉の場面を見たいと?」

「はい。僕の遠視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)じゃ反撃食らって瀕死になるの必至ですから。」

「瀕死、必至って韻を踏んでて良いわね。ねー園子ちゃん。」

 言ってゆりかごを揺するニグレド。

「きゃっきゃ……。」

「やめてー、ホント、やめてー。」

「ほら。」

 手軽な感じでニグレドは僕達の正面に映像を映し出してくれた。

 

 ナザリック勢と、カ・ラ・ビンカの会話が聞こえてきた。

 

 

「はじめまして。」

「……その姿で言うな!…お前は誰だ?」

「既にお見通し、ね。」

 目の前にいたビンカが、白と黒の髪が真ん中から左右に分かれているという特徴的な少女になる。

 ナザリック勢全員が驚いてアインズの前に防御の形を取った。

 それまでゴミと思っていた戦力が数倍に跳ね上がったのだから。

 

「これは、幻術?」

「現地に居ないと私には皆目。」

 パンドラズアクターは無表情ではあるが、驚いた様子ではある。

「ニグレドさん?」

「そんな……、私の情報収集能力の裏をかくことができるの?」

「だとしたら、侮れない相手、と言うこと?」

「そうですね。法国には相手の魔法の威力をアップさせる巫女が何人も居るという話です。もし法国に第10位階を操る魔法詠唱者(マジックキャスター)、プレイヤーが何人もいたなら、もしかしたら、ルベド殿を起動させなければいけなくなるかも……。」

「かわいくない方の妹…。そんな事言ってる場合じゃない!直ぐに再スキャンしないと……、他にも潜んでる可能性が……。」

 ニグレドは慌てて端末の一つに飛びついた。

「何これ?!LV100が十人になってる!」

 あまりの事態に、驚愕し動揺するが、パンドラズアクターは事態を予想していたのか、落ち着いてニグレドに指示を送る。

「ニグレド殿、落ち着いてスキャンしなおしてください。それからアルベド殿に直ぐに警戒を呼びかけてください!」

「わ、わかったわ。」

 

 

「見たことも無い幻術だな。法国お得意のオーバーマジックと言う奴か?」

「失礼しました。先ずは交渉させていただきたく……。」

 後ろの貫頭衣を被っていた一人が前に出る。漆黒聖典の隊長と言う事はどうやら僕以外全員の知るところらしい。

「交渉?これだけの無礼を働いておいて、交渉?」

 ヘルメス・トリスメギストスを着たアルベドがバルディッシュを振るう。

「無礼はお互い様では?法国もゴキブリやらシャドーデーモンやら色々潜り込まされているのですから。シャドーデーモンだけならまだ倒せばいいだけですが、踏んでも潰れないゴキブリを何万も放たれるのはいただけない。それともそういうスパイ行為は神々の特権と仰るので?」

「ゴミどもが何を言うか!」

「ごみ共、こちらのぷれいやー様は皆その様な意見なのでしょうか?人間はゴミと?」

「落ち着け、アルベド……。」

「そう仰られるぷれいやー様が居られる事は知っていました。そう、我々は脆弱な人間です。ぷれいやー様の目から見たら本当にゴミクズでしょう。」

「………………。」

 

 

「分かったわ。これは虚偽の情報(フォールスステータス)が複雑に織り込まれている。こんな使い方をするなんて……、ユグドラシルのやり方ではありえない。」

 ニグレドは髪を掻き揚げる。相当イラついている様だ。

「それで、相手の戦力は?」

「分からない。全部LVが見えないようにされてる。と言う事は、少なくともLV100の情報系を操作できる魔法詠唱者(マジックキャスター)が居る可能性が高いわ。」

「いや、それこそ巫女の力で第10位階を最強化(マキシマイズ)しているのでは?」

 2人は慌しく端末を操作している。

 僕は部屋の隅でただそれを見てるしかできない。園子ちゃんが僕のジャケットを引っ張った。

 やーめーてーー!!

 

「と、すると、もしかして相手にはプレイヤーはいない?」

「いえ、いるからこそ、我等の情報網をかく乱できたのではないですか?相手に頭のいいプレイヤーがいると見て間違いないでしょう。」

「では退かせた方が良いのでは?」

「我々にそれを言う権限はありません。先ずはアルベド殿に報告してください。」

「はい。」

「それから、相手もするとこちらの戦力をスキャンしている事は想像できます。ニグレド殿、貴女の力を総動員して情報のかく乱を。」

「分かったわ。」

 

 

「人間は弱い。拷問をされれば悲鳴を上げ、嘆願を口にします。家族を我が子を殺すと脅迫されれば、それを守るためにも膝を折ります。でも、その意味をわからない人達には従いたくありません。」

「我々はここ数百年、色々な事を経験してきました。例え、服従の道を選んでも、そういう支配者は気軽に命を刈り取りました。決められた作物が凶作でも納められなかったから。足の骨が折れて使い物にならなくなったから。泥をはねたから。」

「だから我々、法国は、弱かろうが、盲従する道は選びません。座して死を待つ事はしません。黙って神に従え、家畜として生きよ、そう仰るのであれば、どんな悲惨な末路が待っていようが抗いたいと思うのです。」

「例えその日の命を保障されても、明日の命を恐れて脅えて生きる。それは生きているというのでしょうか?」

 

「参ったなぁ……。」

「つかさ?」

「うん。あの漆黒聖典隊長さん?言ってること僕には理解できちゃうんだ。」

「……。」

「ナザリック第一な君達に、分かる?」

「言いたい事は分かりますよ。もし立場が逆であれば、我等は死んででも、アインズ様に膝を屈させる事はしません。」

「では貴女はアインズ様が間違ってると言うの?」

 ちょっと、ハサミ持たないで……。

「そうも言わない。アインズさんだって自分の大切にしている子を踏みにじられたんだから激怒するのは当たり前。愛する二人を殺させあう、そんなひどい事をしてタダで済むとは思っていない。ましてや今回はアインズさんが最も触れられたくない人をダシに使われた。これは誰だって激怒するでしょ。」

 

「たださ、そんな事を法国は知ってやっていたってことじゃ無いわけじゃない。」

「悪意はなかったということですか……。」

「うん。だから、アインズさんが拙速だったとは思うよ。って、いってーー!!」

 僕の太ももにニグレドのハサミが刺さってた。

「うそうそ!ぐりぐりしないで!アインズ様、タイミングばっちり!」

 ズボ……。

「あうう……。ともかく、ニグレドさん、さっき法国に大量の斥候が潜入しているみたいな事、言ってたじゃない?それらの情報を集められる?僕とパンドラで直ぐに解析して法国がどの程度の事をして、何を目的としていたか、情報整理しよう。」

 

 ………………。

「もし、あなた方にその気持ちを理解する……、持っている方が一人でも居られるなら、交渉を切に、お願いしたいのです。」

 ……………。

「ふう。……それだけか?」

「………?」

「自分の言いたい事、都合ばかりペラペラと。私はどんな謝罪が聞けるか、そんなことばかりを予想していたのだがな。……驚きだった。」

「……………。」

「まあ良い。自分は悪くない。お前達はそう言いたいのだな。いや、何が自分達の咎か、気付いてすら居ないようだ……。」

「………どうやら交渉にもなりませんか……。」

「交渉と言うなら、何故戦力を伏せておく?はじめから臨戦態勢の上、どうやら情報戦は既に交戦中のようだ。それで交渉とは……。」

「我々は脆弱な人間ですから。交渉決裂の準備ですよ。」

 

「はじめから交渉など成立せん。お前らは私を怒らせた。」

 アルベドを先頭に、両サイドをシャルティア、コキュートスで挟み、マーレがアインズの後ろを固める。

 

「神々にも数多あって、話の通じない方々も我等文献にて知っております。あなた方はどうやらその部類と見ました。であるなら、我等の進む道は一つ。」

 漆黒聖典隊長他、3名はそれぞれ飛び退った。

 

 

 

続く

 


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