B 全権特使
「おおーー、すっげ。」
ロックブルズホールに足を踏み入れると、目をキラキラ輝かせるクレマンティーヌ。
レイナースは戦後処理で執務室へ。
ヘッケランはフォーサイトの戦果と留守の間の情報収集のため、町へ。
ロバーデイクはアルシェに記録の水晶を渡し、土産話をしに。
そして、割を食ったのがイミーナであった。
「お前は!もう自由の身なんだからとっとと法国へ帰れ!!」
何故か法国には帰らずここまで付いて来たクレマンティーヌのお目付け役。
「いいじゃんいいじゃん!何かすげーじゃん!ビンカさぁ、ここで歌うんだ!?」
「歌うよー。今日は久しぶりだから、ほら、もう昼間から待ちわびてる私のファンの子達が……。」
手を振ってくれる。
うれしいなぁ、やっぱここは私の故郷だ!
「帰りの道で聞いてたけど、上手いってレベルを超えてるわ。」
どういう意味で言ったのか、クレマンティーヌは目を細めて私を見てくる。
「ねえ、ビンカさぁ、あんたなんでしょ、レイナースやこいつ等にアイテムを作ってやったのって。」
「ぶほっ!」
イミーナは思わず口に入れていたすこんぶを吐き出した。
「何で……。」
「ねぇねぇ、私にも作ってよぉ。私も疲労しないアイテム欲しいなぁ…。」
言いながら私の耳に息を吹きかけてくるクレマンティーヌ。
「ちょっと!やめときなさい、レイナースに殺されるわよ!」
「えー、私そんなアイテム作れないよー。」
「ふふ。皆、アンタのこと大事にするよねー。歌だけ、とは思えないなー。」
なんて鋭い子だ。
「イミーナのボウガン。発射したのは見たこと無いけど、あれもマジックアイテムだよね?私もあんなの欲しいなー。」
作ってあげてもいいけど、それを人殺しに使われちゃぁなぁ……。
「大体アンタ、何で私達が疲労しないって思うのよ!?」
「兵士達が話してたじゃない?レイナースがガゼフと戦った話。」
「うん、話してたね。」
皆、レイナースがガゼフと同等の力があるって、それこそその話と私のコンサートの話で帰りの道中は全然話題に事欠かなかった。
「ガゼフとブレインの戦い、私は見たことあるんだけどさー、あん時の連中、相当ゼハゼハいってたよ。それと同等以上で、武技を10以上も連発して呼吸一つ乱さなかった…。そんなこといわれりゃマジックアイテムの存在を普通は疑うよねー。」
言ってクレマンティーヌはイミーナのピアスを撫でる。
「お前っ!」
「刻印。もしかして私が装備したら壊れたりして?」
わー、なんて危険な子だ。鋭すぎるよ。
そしてその危険さを逆に見せ付ける、これは自分の価値や人を見る目、それに相当自信があるということだろう。
「アンタ達もずっと見てたけど、ずっと同じ姿勢でいるのに伸びもしない、何をしても疲れた顔一つしない。ガゼフが5宝を装備していたときをホウフツさせるんだよねー……。」
「お前、本当、もう法国へ帰れ。冗談じゃ無くレイナースに殺されるぞ。」
「大丈夫だよー。アイツの前じゃ言わないから。」
「私がチクッたら同じことだろうが!」
「私、漆黒聖典だよぉ。アンタは少なくとも聞いたことあるでしょぉ?」
ちょっとしたホラー口調で言うクレマンティーヌにイミーナは表情をゆがめる。
「逆にこのまま帰しても良いのかなぁ?」
…………。
「この手かせ足かせだけどさ、多分私、法国に帰っても外すこと、できないよね?」
クレマンティーヌは普通の口調で話し始める。
「つなぎ目が無い。見たことも無い物質。金属か鉱石かも分からない。この小ささなのに凄まじい重さ。鉛だってこんな重さにはならない。」
手かせをガジガジかじるクレマンティーヌ。
「かった…。普通硬度の高い宝石とか削るとき、より硬い石を使うか、あるいは同じ硬度の鉱石を使う物なんだけど……。」
言ってクレマンティーヌは両手の枷をガンガンぶつけ合わせる。
「傷一つつかない。」
言ってニッと笑う。何だかこんな笑顔が似合う子だ。
「もしかしてこれ、ガゼフの剣すら防ぐような硬度だったりしてね。」
まあレイナースの盾を壊せなかったんだから、斬れないだろうね。同じ物質って訳じゃないけど。
「これはもう、マジックアイテムの一種だよねぇ。それも相当高位階の…。」
「私がそれの外し方教えてあげるわ。」
「ほう。」
「先ず手を切る。外した後、回復魔法で手を付け直す。」
ニヤッと笑うイミーナ。クレマンティーヌは笑顔のまま、頭に怒りマークを浮かべている。
「まあ確かに、そうすれば法国は得がたい金属か鉱石を得ることができる。そうされる可能性は120%だよねぇ。」
「じゃあ、安心して帰れ。」
「安心できるか!痛ぇよ!!」
「そのぐらい何よ!左右逆に付けられないだけありがたいと思いなさいよ!」
「あー、何かそれ、やられそうだわ。」
「ゲラゲラ…!」
「ゲラゲラ言ってんじゃねえ!」
「それに、何より、私、ビンカのこと好きになっちゃったんだよねー。歌うまいし。私歌好きだし。」
「何ですと!?」
「ちょ、ビンカ!こいつの口からでまかせだから!」
「性格も私と合うと思うわよ。ね?」
言って抱きついてくる。結構かわいい。
「分かった。いいよ。ここにいても…。ただし……。」
「人は殺さないよ。」
先回りされた。
「ケンカは売られたら買うけど……、殺しはしない。半殺しにする。」
「っと、それじゃ…。」
「もちろん第6位階を超える魔法が使えるだろうことも誰にも言わない。」
アルシェは既に第9位階が使えることも知ってるんだけど…。
「ってことだけど、イミーナ?」
「待って、レイナースと相談しないと、私の一存じゃ……。」
言ってイミーナはクレマンティーヌの首根っこをつかんで引きずって行った。
私は先ず手かせ足かせの付加質量を消した。
「お?」
今まで20キロ近い重みを両手足に掛けられていたが、それがゼロになる。
ブンブン手足を振り回すクレマンティーヌ。
「すげー。まったく重さを感じね。」
「でもイタズラしたときは、レイナース。」
レイナースがパチンと親指にはめた指輪を弾くと、
「どわっ!!」
ひざまずいてしまうクレマンティーヌ。
「ちょ、何これ?腕、折れる…。」
もう一度レイナースが指輪を弾くと重さが元に戻る。
「まあ、ヘタなガントレットより防御力は上だから、普段は防具として使いなよ。」
「つまり、レイナースに頭が上がらなくなるって事か?」
「おい!誰がキサマに私のファーストネームを呼ばせる事を許した?!」
「えー、ロックブルズ閣下って呼べって?やだよ長ったらしい。」
「はぁ、…まあ良い。」
「で、ねえ、ビーンちゃん、私にも疲労しないマジックアイテムちょうだいよぉ。」
ビーンちゃん?
「お前、国宝レベルのアイテムをタダでくれ等、良く言えるものだな……。」
あきれたような口調で言うレイナース。
「じゃあ、私の処女あげるから。」
「ぶっ!」
「ふざけんなぁ!お前、処女じゃないだろうが!!」
「和姦したことないから、法国の教義上、処女ですー。何度も犯されてるから膜は無いけど。」
「まじめな顔して馬鹿なこと言うな!仮にそうだとしてお前のじゃ二束三文だ!!この△×○▽□☆!!!」
ちょ、レイナース……。お下品。
「△×○▽□☆はお前だ!このピーーーーーー、のピーの、ピーーーーが!!」
あー、やっぱりお下品対決ならクレマンティーヌのほうが上だね。
「分かった、分かった。良い子にしてたら作ってあげるよ。」
「ちょっとビンカ!」
「ビーンちゃん、私、良い子だよ。」
猫なで声で私の太ももに頭を乗せてくるクレマンティーヌ。
うん、良い子猫だねっ!
「ところで!!」
レイナースはどうやら強引に話を変えようとしてきた。
「お前、漆黒聖典らしいな。」
「元、ね。」
「本来の仕事はどうした?」
「飛び出てきちゃったからその後の事は知らね。」
「飛び出てきた?漆黒聖典の連中は追って来ないのか?」
「追っ手は差し向けられてたよ。その追っ手を撒こうと色々やってた結果、エルダーリッチに見つかってボコボコにされたんだって。」
「色々ね……。何をした?」
「んー、人をさらってイケニエにして、
「
「…さあ?」
「あー、うん、まずたくさんのアンデッドを作り出して、そのアンデッドに触発されて死体がアンデッドになったり、霊が集まってきたり、さらにアンデッドが殺していく生者をアンデッドに変えてくって、そんな事が延々繰り返される代表的負の魔法だね。」
…………。
「ビンカ、こいつ、やっぱり殺しておこう。」
「ちょ、待って待って、反省した、反省してるから…。」
………。
「てかさ、アンタだってビーンちゃん第一なんだろ?」
「それは、その通りだ。」
「民衆が全滅しようが、ビーンちゃんを助けるだろ?」
「その通りだ。」
迷いなく言うレイナース。
「私は自分が第一だったんだよ。」
…………。
「だからほら、今後は私もビーンちゃんは大切にするよ。だって色々アイテムを作ってくれるっしょ。」
「大切に……?」
「するするぅ!他の連中には触らせもしないよー。ほら、ウィンウィンの関係。」
「まったく、口ばっかり達者で……。」
「あとの、問題は漆黒聖典の追っ手だな。法国は時々ここにもスパイを送ってくる。お前、顔を隠す仮面とか着けて置けよ。」
「面倒だな……。いっそスパイを全員殺しちゃえば良いんじゃない?」
「殺してもいいぞ。スパイは皇帝からも送られてくるが……。こそこそ探るなら…かまわん。殺せ。」
「ちょっとレイナース、物騒だよ。」
「ビンカ、機密を探るスパイは立派な犯罪行為だわ。だからそれを殺されたからと文句を言ってくる事は無い。機密を奪われると言うのは時に数万の命を失わせることもある。スパイはそれを承知で探りに来る。野放しにしておく方が罪深いわ。」
「そうそう。スパイは捕まえて吐かせて、いじめて、利用できるなら利用して、いじめて、それから、んー、いぢめて……まあ、人間扱いしなくていいんだよ。」
「お前はちっとはSっ気を無くせ!せめて隠せ!」
「えー…。」
「それから、お前のその格好、何とかならんか?色々な意味でビンカのそばに置いておきたくない。」
「変かな?」
「変だ。変態だ。目立つ。」
私達はクレマンティーヌのコーディネイトを始めた。
先ず髪。ちょっと長めのウィッグを付けさせ、髪をふわっと外側に向けさせるように変えた。これから自然に伸ばさせよう。
顔にはとりあえずメガネを掛けさせ、うっすらと化粧を施し、理知的な雰囲気を出させる。
露出過多だったビキニアーマーの上にジャケットを羽織らせる。スカートは長いと暴れるのに邪魔だと嫌がるので、普段歩く分には露出が少なくなるスリット入りタイトスカートにした。普段はスリットにピンをつけておけばちょっと見、秘書的な装いだ。ヘソは出てるけど…。
足元はピンヒールにしたかったが、やはり動きづらいとの事で、黒皮のロングブーツを履かせた。
ぱっと見、別人のようだ。
「ふふ、似合う?」
「かわいいよ。」
やっぱりクレマンティーヌも女の子だ。鏡の前でクルクル回るその姿は歳相応の女の子に見える。
「ありがとう、ビーンちゃん。」
「とりあえずお前はこの辺りを好き勝手見回り、スパイを探せ。給料は払ってやる。」
「殺して良いんだよね?」
「間違えても一般人やら公使やらを殺してくれるなよ!」
「間違えないよ。蛇の道は蛇って言うだろ。私には臭いで分かる。」
そりゃ、ある意味天職だ。
「スパイが何か探ってたら情報を聞き出してくれるとありがたい。つど報酬は出そう。」
「おう、ボーナス付なら、張り切っちゃうよ。」
出ていくその足取りは昨日までのクレマンティーヌではなかった。
「あのー、こちらにレイナース・ロックブルズ様がいらっしゃると言われて、しんしょを届けにきました、私、ネム・エモットです。」
朝、市場に出かけようとして、10歳前後の娘にそんな事を言われて私は面食らってしまった。
「し、親書?元首の?」
とりあえず私はこの子を連れてレイナースの私室に向かった。
「し、しつれーします。」
緊張しているのか、頭を扉にぶつけながらレイナースの部屋へ入っていくネム・エモット。
左手には10歳の女の子らしく、かわいい人形が抱かれている。しかし、誰だ、こんないたいけな幼女を使者に仕立てるなんて…。
「し、しんしょを。えっと、届けに来ました。」
「そうか。何処からの親書だ?」
「えっと、カルネ村の、村長エンリ・エモット……。」
「カルネ村?!」
「エンリ・エモット?!」
前回のカッツェ会戦で大戦果を挙げていた……?
「お嬢さんは、ネム・エモットさん?」
「はい、おねーちゃんはエンリ・エモットです。」
どういうこと?
「とりあえず親書を拝見させてもらおう。」
「はい。」
ネムはうやうやしく、レイナースに親書を渡す。
「………………。」
「君はこの親書の内容を知っているのかな?」
「はい。お、しってます。私、ぜんけん、を、いにん、されてきました!」
「おいおい………。」
レイナースは私と視線を合わせる。
「とりあえず場所を移動しましょ。3階観覧席辺りがいいんじゃない?」
「そうね。」
いってレイナースは鈴を鳴らす。直ぐに侍従が現れた。
「3階観覧席に4人分フルコースの準備をしてくれ。それから、フルト銀行頭取を呼んできてくれ。」
「アルシェを?」
「通商が関わるかもしれない内容だから。」
アルシェは入ってくると私に抱きついてきた。
この子はホント、カワイイ。
「今まで挨拶にもこれなくて、ごめんなさい。」
「いいよ、忙しかったんでしょ?歌は聴いてくれてた?」
「うん。窓辺の席に座って計算しながら毎日聴いてたよ。」
「コホン。」
慌ててアルシェは開いてる席へ座った。
「さて、ネム、殿、とりあえず自分の流儀で良い。好きに食べて飲んでくれ。」
レイナースは一生懸命おめかししてきた、といった感じの村幼女がフルコースによだれを流さんばかりにそわそわしているのを苦笑しながら見ていたようだ。
ネムの前にはアルコールとジュースが置かれていた。
「……まずい。」
ワインを一口飲んでネムが言った一言がそれであった。
私達は思わず和んでしまう。
続いてリンゴジュースを手に取ると、顔を輝かせてごくごく飲み始める。
和むわーーー。
例えるなら…子ダヌキ?
レイナースもぽわぽわしてる。
ネムの食事が半分くらい進んだ頃、アルシェと私も親書を読み終えた。
「さて、ネム殿、先ず何故、我々にこの話を打診してきたか教えてもらえるかな?」
「だしん?」
「えーと、どうしてレイナースさんの領へ通商、売買、…お買い物の話を持ちかけてきたのか、教えて欲しいの。」
分かりやすく言いかえるアルシェ。
「うーんとねー、カルネ村はびんぼうでねー、余った小麦と、とうもろこしと、麻と、オリーブとかをお金持ちのレイナースさんに買って欲しいなーって…。それで、カルネ村にはお魚とか、貝とか、てっこうせき?とかを売って欲しいなって。」
「ふむ。それはエンリ殿が?」
「おねーちゃんはそういうこと、あまり良く分からないみたい。村に居る人達もつかちゃんとビッキー以外は良く分かってないみたいだし。」
これはネム本人も良く分かっていないのだろうな。
「君は全権委任、と言う意味は分かってるのかな?」
「えへへ、私の決めたことがおねーちゃんの決めたことになるってつかちゃん言ってた。」
「……そのつかちゃんと言うのは誰なのかな?」
「んーー、2ヶ月前くらいかなー、孤児を連れてふらっとやってきた旅の女の人。」
「女?」
「うん。すごいんだよー。どっかんばりばりーって、ゴーレムをごわーって。私達を助けてくれたの。」
「どうやら
「ええ。」
「もしかしてそのゴーレム、戦争にも連れてきた?」
確か、カルネ義勇軍はゴーレムを何体か使っていた…。
「うん。つかちゃんも戦争行ってた。」
「なるほどな…。もしかしてつかちゃんとはゴブリンメイジか?」
「ううん。綺麗な女の子だよ。おっぱいもボイーンて。レイナースさんとかそこの女の人とかとどっちが綺麗かなーってくらいキレイ。」
うーん、そんな目立つ子なら私のホークアイで見えてないはずは無いんだけど……。
「わ、私は?」
「おねえちゃんはまだ子供でしょ?ネムとそんな変わんないじゃない。」
あらー、アルシェ落ち込んじゃった。まあ今まで栄養不足もあって歳相応の女の子より3歳は若く見えてしまうから……。
「先ず疑問があるのだが、カルネ村は王国領だ。」
「うん。」
「政府は通商を許しているのか?」
「領主のストロノーフ様には話が行ってて、売り上げの1割を領主へ納める決まりを守ってくれれば問題ないって…。」
「ガゼフの領なのか?!」
「うん。今まで性悪貴族が支配してたんだけど、ストロノーフ様が見かねて性悪貴族を追い払ってくれたの。」
「ほう。」
「ねえ、ネムちゃん、敵国との通商は色々問題があるの、分かってる?」
アルシェの言葉にネムは首を傾げる。
「つかちゃんは竜王国を介せば問題ないって言ってたけど……。」
「中継ぎ貿易か……。」
「でも、実際は竜王国に物は送らないで、税関を通した形だけにするって言ってた。竜王国は何もしないのにカルネ村とロックブルズ領との通商の3%の関税を得られれば嫌な顔はしないだろうって。あの国もビーストマンとの戦いで金はいくらあっても足りないだろうからって……。」
「そのつかちゃんとやら、ずいぶん悪知恵の回る奴だな。カッツェ会戦の時のいやらしい作戦を考えたのも奴か?」
「頭は良いと思うよ。私達に勉強教えてくれるし。色んな事知ってるし。……修道女だって。」
「なるほど、修道女なのか……。」
「しかし、そこまでして我々との通商を求める理由は何だ?」
「えっとね、相場を調べたところ、一番ワリの好い相手がレイナースさんなんだって。王国の貴族は大体レイナースさんの半分位。」
それは相場として成り立つんだろうか?
「他の人は通商するには遠いか、信用できないか……。」
「私は信用するのか?」
「つかちゃんだけじゃなくておねーちゃんも信用できるって言ってた。」
「敵をか?」
「つかちゃんとおねーちゃんの評価は“騎士の中の騎士”だって。」
少し面食らうレイナース。
「ネムもぜんけん、とくし、として信用するよ。レイナースさんはいい人。」
言ってネムは味噌っ歯を見せてニカッと笑う。
「もうダメ……。」
私は今まで我慢していたのだが……。
「このコお持ち帰りしたい……。」
「止めて。特使を監禁したなんて変な前例作らないで。」
「撫でくりまわしても良いよね?」
「……ほどほどにね。」
「分かった。特使殿、こちらからもお願いしよう。我々の欲しい物品は小麦、オリーブ、トウモロコシ、野菜類、果物だ。こちらから提供できるのは魚介類、貿易で手に入る各種鉱石や石炭等だ。価格表は明日、用意させよう。」
「ありがとうございます。これで胸を張ってカルネ村に帰れます。」
「ご苦労様。遠いのに大変だったろう?」
「あ、あの、一つ、お願いが……。」
「何だ?言ってみなさい。」
「これ、おねーちゃんにも食べさせてあげたくて……。包んでいって良いですか?」
ぽわぽわぽわぽわ………。
「もー、なんていじらしい子なの!好きなだけ持っていきなさい。
つかちゃんとやら、ここまで読んでこの子を送ってきたのだとしたら…。
なんて恐ろしい子。
もうレイナース陣営は完全陥落だわ。
続く