カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第12話

A カルネ村

 

 

 

 僕は孤児となった子供達を連れ、一路カルネ村を目指した。

 中途半端なヴァンパイアとはいえ普通の人間よりは耐久力も持久力も上、子供を抱えながらでも何とか15kmの距離を歩くことはできた。

 おそらくフードを深く被り過ぎると吸血鬼とまた疑われるだろう。僕はポンチョを子供のリーダー、ビッキーに預けると、ゆっくり村人に近づいていく。

「あの、失礼……。ここはカルネ村で合ってますか?」

「んー、お前さんは?」

 対応してくれたのは優しそうなおじいさんだ。

「旅のものです。ここから南に4時間ほど歩くと村がある事をご存知ですか?」

「ああ、知ってるよ。」

「実はその村が野盗に襲われて、全滅してしまったようなのです。」

「何だって?」

 細かった目を見開くおじいさん。

「大人たちが何とか子供達だけは逃がしたようなので、彼等をここで保護して欲しいのです。」

「それは災難だったねぇ。ちょっと村長に話をしてくるからその木の下で待ってな。」

 

 やがておじいさんは村長と、あろうことか神官を連れてきた。

 …何で?孤児院を運営するのは神職ということだからなのか?

「やばい。神官じゃ確実に見破られる……。」

 逃げようか?

 しかし僕は子供達の不安そうな顔を見ると足が動かなかった。

 しばし、神官と目が合う。

「村長!大変です!!アレはヴァンパイアです!!」

「待ってください!僕は人々を襲うつもりはありません!どうか、この子達だけでも保護をお願いします。」

 神官の大声に多くの人々が集まってきた。手にはそれぞれフォークやらクワやらを持っている。

「信用できるか!その子らもヴァンパイアに血を吸われてヴァンパイアかゾンビになっているのだろうが!!」

 石を投げられた。子供達に当たれば大怪我をさせてしまう。僕は懐にいる乳児を庇いつつ話を続ける。

「確かに僕は吸血鬼ですが、人を襲ったことはありません。お願いします、信じてください。」

「ヴァンパイアなんぞを信用できるか!!人をだますのはヴァンパイアの常套手段だ!!」

 僕は乳児を片手に、空いてる手を上げる。

「話を聞いてください。必要なら拘束して頂いても結構ですから。」

「………………。」

 僕は後ろ手にかなりキツク拘束された。

「先ずこの子達が吸血鬼で無い事を証明します。」

 僕は無限の背負い袋(インフィニティハヴァザック)から出していた聖水を村人の前に出す。

「神官様ならそれが何か分かるはず。」

「聖水だな。」

「はい。子供達にそれを振りかけてみてください。」

 言われたとおり、神官ははじから子供達に聖水を振り掛ける。

「……本当に、ただの人間の子供のようです。」

「いや、その聖水にトリックでもあるんじゃないか?」

「ならば…。」

 と、神官は僕の腕に聖水を振りかけた。

 ジュウゥ……。

 ポーションが硫酸ならこれはまるで塩酸だ。

「あうっ……、っぐ、くううぅぅ………。」

「どうやら本物の聖水のようだ。」

 鬼………。あなたホントに人を導く神官ですか?!声も出やしない…。

 こんな人に子供達預けて大丈夫か?

「止めろ!!姉ちゃんは盗賊から俺達を助けてくれたんだぞ!!」

「どうします?村長、神官様?」

 子供達が殴りかかるが村人に片腕であしらわれてしまう。

 これは様子を見る必要があるな。

 もし僕が預けたせいでこの子達が売り飛ばされる事になって、何処かの奴隷商人の前で再会なんて事になったら寝覚めが悪すぎる。

「分かりました。それなら僕を人質にすれば良いでしょう。僕をこの樹にでも縛り付けて2~3日様子見をしていただければ。」

「どうします?」

「良いだろう。ただしヴァンパイアの中には変身能力がある奴がいると聞く。縄抜け位お手の物かもしれん。」

「だったら俺が人質になる!!一体姉ちゃんが何したって言うんだ?!」

 ビッキーが僕の前に手を広げて立つ。

「ヴァンパイアが何かをした後では既に遅いんだ。」

「だったら私達、ここにお世話になるのは止めます!エ・ランテルへ行ってそこで物乞いでもしてあいつ等に復讐するために生きて行きます!お姉ちゃんを解き放ってください!!」

 10歳くらいの女の子のその絶叫に、村の中から同じ年くらいの女の子が出てきた。

 

「ちょ、ネム!そっち行っちゃダメ!!」

 悲鳴のような声は15歳くらいの女の子。多分お姉さんだろう。

「私、ネム。お姉ちゃんは?」

「つかさ。」

 話の分かる人が10歳前後の女の子ってこの村何なの?

「ねえつかさお姉ちゃん、お姉ちゃんヴァンパイアって事は血を吸うの?」

「吸わないよ。」

「じゃあ、何を食べて生きてるの?」

「普通に家畜の肉とか、穀物とか、魚とか。人間と変わらないものだよ。」

「変身とかできる?」

「したこと無いけど、多分狼とか、コウモリとかに変身できると思う。」

「脱出しちゃう?」

「しない。と、信じてもらうしかない。」

「ねえ、神官様、神官様はいつも人を信じるように、って言ってるよね。」

「それは……、しかしこいつは人間じゃないんだ。」

「ちょっとネム!ダメって言ってるでしょう。」

 ネムのお姉さんなのだろう少女がネムの肩を押さえる。

「ねえ、つかさお姉ちゃんが脱出できない方法、ネム思いついちゃった!」

「何?」

 全員がネムを見る。

「神官様、さっきの聖水残ってる?」

「あ、……ああ。半分以上残っているよ。」

「かして。」

 ネムは聖水のビンのフタを逆さにして口を塞ぎ、僕の頭の上に置いた。

「……………。」

 ちょ、怖いこの子。なんて事思いつくの?

 見た目の幼さと違って……、いや、幼いからこその残酷さか?

 変身が一瞬で行われなければたぶん僕は頭から聖水をかぶるだろう。

 ってーか、くしゃみ一発で僕、昇天じゃない?

 

 大人達はそれで納得したのか、見張りを二人置くことでとりあえず様子を見るということになった。

 

 

 夜、ネムが見張りに酒と食べ物を持ってくると、僕と話をさせて欲しいと言ってきた。

 見張りの大人は酒に手を伸ばすと、簡単にそれを許した。

「お姉ちゃんごめんね。こうでもしないと本当に殺されちゃうと思っちゃったから。」

 言ってネムは僕の頭から聖水を取ってくれた。

「姉ちゃん大丈夫か?」

 ビッキーが心配になって見に来てくれたようだ。水を僕の口に入れてくれる。

「何とか、ね。」

 正直ものすごい疲れた。

「皆は?」

「疲れて寝たよ。」

「ビッキーも早く寝なさい。」

「俺は姉ちゃんを守る義務がある。」

 あらまあ、なんてかわいらしい。ショタ属性のある女だったら間違いなくお持ち帰りな子だ。

「それにしても、ネムちゃん、君の機転はすごいね。あのままだったら僕、石打の刑とか最悪白木の杭を打ち込まれる事態になったかもしれないしね。お礼を言うよ。」

 半分皮肉も入ってるけど。

 

「ねえ、つかさお姉ちゃんはどうして人間に優しいの?」

「僕はもともと人間だからね。」

「え?そうなの?じゃあ、どうしてヴァンパイアになっちゃったの?」

「ヴァンパイアに血を吸われた人間はヴァンパイアになる。聞いたことある?」

「え?お姉ちゃんヴァンパイアに血を吸われちゃったの?」

 子供とはいえ、この子はかなりIQが高そうだ。慎重に本当の事と織り交ぜていかないと見抜かれそうだ。そしてだまされたと思われるとこの子は味方を止めてしまうだろう。僕の味方は今、滅びた村の子供8人と、ネムだけだ。

「僕はね、たくさんの宝とお金を溜め込んでいる大魔王の神殿に千五百人の勇者達とともに攻め入ったんだ。」

「え?!じゃあお姉ちゃん勇者様?」

「今となっては“だった”、だね。仲間達と共に最終防衛線まで乗り込んだところで僕達は大魔王の最終奥義を浴びてしまった。すごかったよ。ほとんどの人は蒸発した。でもそこで死ねたほうが幸せだったかもしれないと、今なら思うよ。」

「死ねたほうが幸せなんて無いよ!!姉ちゃんがそんなこと言うな!!」

 ビッキーの涙声に僕は頭を下げる。

「そうだね、ごめんね。」

 手は拘束されているので頭を撫でてあげることはできない。

「……それから僕は体中ぼろぼろになりながらも逃げたんだけど……。最強最悪の真祖(トゥルーヴァンパイア)に出会ってしまった。本当なら魅了されて血を吸われるのだけれど、彼女はかなりのサディストでね、僕の絶望する顔を見たかったみたいだ……。」

「彼女?さでぃすと?」

「ああ、その真祖(トゥルーヴァンパイア)は人間にすると14歳位の絶世の美少女でね、人間が絶望の表情になる事に興奮する変態だった。」

 まあ、モデルはあの方ですけど。眷属だから良いよね。でも彼女に知られたらぶっ飛ばされそうだ。

「僕はもうあきらめていたんだ。でもそこへ偶然助けに現れてくれた人がいた。だから僕は吸血鬼にされながらも、自我を失うことは無かったんだよ。」

「だってさ、皆!!」

「………は?」

 みれば糸電話の一つが僕の目の前に向けられていた。

 しばらくすると、家の影やら遠くの草むらの陰からたくさんの人が現れた。

「………へ?」

「だましてごめんなさい。でもほら、こうしたら村の皆、信じてくれたでしょ?」

 えへへー、と、輝く笑顔で言うネム。

「お、お前!俺までだましてたのか?!」

 と、ビッキー。

「ほら、敵をだますには先ず味方からって言うじゃない?」

 怖いわー。この子怖いわー。

 なんて末恐ろしい子だ……。

 IQ高いどころじゃないよ。あの一瞬でこの結末を考えたのか??!

 この子は凄まじい軍師になるかもしれない。

「悪かったな、お嬢ちゃん。しかしヴァンパイアの恐ろしさは勇者だったならお嬢ちゃんも知ってるだろう?俺等村人はどうしたってヴァンパイアの食料だからな。」

 草むらの影から現れたのはどうやらレンジャーだったようだ。10m位近くにいて僕が気配を感じなかった。

 何だろう、この村は唯の村じゃないんじゃないか?

 

 僕は縄を解かれ、ようやく水と食事を与えられた。

「ありがとうございます。」

「とりあえず、今日はゆっくり寝てくれ。」

 レンジャーらしき男が言う。

「そうだ!今晩からしばらく何人か村の前に見張りを置いたほうが良い。僕はここに来るまでに2箇所、襲われている村を見てきました。」

「何?近隣の村が襲われていたのか?」

「はい。1箇所は全滅でした。子供達はそこの生き残りです。」

「村長。」

「ああ、そうだな。」

 村長らしき初老の男が奥方のような人に指示を出す。

「とにかく、君は今日は神殿にある詰め所に泊まるといい。」

「はい。ありがとうございます。あと、ネムによろしく言っておいて下さい。」

「ああ、あの子ね。面食らったろう?」

「ええ。」

「あの子は頭が良い。時折話しているといつの間にか丸め込まれてるんだ。アレで10歳と言うのだから恐れ入るよ。」

「そうみたいですね。」

 僕は苦笑して神殿の詰め所に寝に行ったのだった。

 

 

 朝、馬の蹄の音で僕は目を覚ました。

「来た!」

 神殿から飛び出ると、まだ馬は500m程先に見える。既に見張りが大きくナベを叩いていた。

「よし、先ず奇襲は防いだ。」

「中位ゴーレム作成、アイアンゴーレム!中位人形作成、ガーデンノーム!」

 僕は防御(タンク)役のゴーレムと攻撃(アタッカー)役の人形を呼び出した。

「思ったとおり、前回と同じ20人。ならば守りきれる!」

 そしてあの時と同じフルプレートということは、スレイン法国の騎士のようだ。

 

 僕は村の入り口に行くと、騎馬に話しかける。

「あなた達はこの村へ何用ですか?」

「何者だキサマ?!」

 見た感じからゲスという言葉がピッタリな隊長だった。

 前回の隊長達が特別だったのだろうか、こいつが特別なのか。

「僕はこの村へ偶然立ち寄った魔法詠唱者(マジックキャスター)です。」

「隊長!あの女、変です。私の聖書があの女に反応します。」

 …聖書?

「分かりました!あの女、ヴァンパイアです。」

「くく、はっはっはっは……、これで大義名分ができた。ヴァンパイアを匿っていた。これでこの村は心置きなく焼き払える。」

 もとから心置きなんてなかったように見えたけど………。

「僕は単に一晩軒先を借りただけ。この村とは関係ない。」

「大した詭弁だ。この村は焼き払う。」

 …まったく。

「話し合いに応じる気はどうやら……。」

「わはははは、ヴァンパイアが話し合いとは恐れ入る。」

「ならば僕は一宿一飯の恩義を果たす!」

 弓矢で攻撃されるのをゴーレムで防ぎ、人形を突撃させる。前回の兵士達と同じレベルであればこれで十分だ。

 

 足止めをしている間に村人達はちゃんと避難を始めているようだ。

魔法の矢(マジックアロー)!」

 三つの魔力の弾が馬のくつわとあぶみを焼き切る。それで騎士達はぼとぼと落馬する。

「おい、このヴァンパイア結構強いぞ!19人全員で掛からないとこっちがやばい。」

 既に隊長は遠くで事の推移を見守っている。隊を実質率いているのは副長のようだ。

 副長を狙うか。

 しかし相手もわかっているようだ二人ほどが副長のガードに入る。

雷撃(ライトニング)!」

 一応殺してしまわないように加減して雷撃(ライトニング)を放つ。

「ぐぁ。」

 一人の騎士が痙攣して倒れる。

 ゴーレムが僕の背中をガードしながら人形がその素早さを生かして敵騎士を倒していく。

 よし、これで3人目。これなら簡単に……。

「ぐぁぁぁ………。」

 遠くから悲鳴が聞こえた。

 そちらは村人が避難している方角だ。

「別働隊?しまった!!」

 僕はその場をゴーレムとドールに任せて悲鳴のほうへ走り出した。

 

「エンリ!逃げろ!!」

「お父さん!!」

「ネムを頼む!」

 僕がその場に着いたときには村人が何人か大怪我を負っていた。

魔法効果集団化(マスターゲティング)中傷治療(ミドルキュアウーンズ)。」

 これで何人かは軽症にはなったはず。

「お姉ちゃん!!」

 ネムの悲鳴。見ればネムの姉、エンリが斬りつけられているところであった。

魔法の矢(マジックアロー)!」

 魔法の矢がエンリを斬りつけた騎士を吹き飛ばした。騎士は家の壁に叩きつけられて気絶した。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫です。」

 あまり大丈夫そうには見えない。背中を大きく傷つけられていた。

「飲んで。」

「これは?」

「ポーション。」

「あの、赤いんですけど……。」

「うん、赤いね。」

 ヴァンパイアの持っているポーションだからアンデッド用とか思っているのだろうか?

「大丈夫。普通の人間に効くから。舐めてごらん。」

「はい。」

 エンリはポーションを舐めてみる。そして思い切ってそれを飲み干す。

 とたんに身体の傷どころか、服の破けまで直してしまった。

「「うそ。」」

 思わずハモッてしまう。

 唯のマイナーポーションがなんて効果を発揮するんだ?

 

 周りにはまた20人からなる騎士が逃げた村人達を囲んでいた。

 どうやら部隊を二つに分けて囲い込む算段だったようだ。

 ちょっとまずい。

 守るには人数が多すぎる。敵も多すぎる。

「おい、あっち!」

 村人の指した方を見ると、さらに多勢の騎兵。

 なんということだ、いくらなんでもこれ以上では守りきることは……。

 

 いや、新手は同じフルプレートを着ていない。これは、もしかしたら……。

「突撃ーーーー!!」

 思ったとおり、新手は敵騎兵を蹴散らし始めた。

「各自、二人一組で敵兵を駆逐、逃げた敵は追わんでよい。とにかく村人の安全が最優先だ!!」

 

 何とか、助かったのか?

「お前がこの村を救ってくれた、魔法詠唱者(マジックキャスター)か?」

 掃討は部下に任せて隊長格の男が馬から下りてきた。

「救うって程貢献してませんけど。」

「向こうで暴れてたゴーレムと人形は君が呼び出したと聞いたが。」

「僕にはそのくらいしかできませんから。」

「そうか、いや、この村を救ってくれて、ありがとう…。」

「お父さん!!」

 悲鳴のようなエンリの声に僕と隊長がそちらを向く。

 僕はエンリの隣まで行くと、彼女の父親の容態を見る。

「いけない。」

 剣の傷は心臓を損傷していた。僕の言葉が聞こえたのか、エンリとネムが悲愴な顔をする。

「中位人形作成・くるみ割り人形。くるみ割り人形、この者の復活経験値を割れ!」

「経験値割りまして、LV2。」

「ありがとう。」

「おい、一体何を?彼はもう事切れて……。」

「黙ってて!」

 僕はユグドラシル金貨4枚を父親の胸の上に置く。

死者復活(レイズデッド)。」

「おい、今、レイズデッドって……。」

 呆然と僕の目を見る隊長さん。

「言ってない。」

「いや、確かに……。」

「言ってない。気のせい。」

「そ、そうか、気の、……せいか。」

「………うう、ごほっ、ごほっ。」

「お父さん!!」

 エンリとネムは父親にすがり付いて泣き始めた。

「生き返った……。」

「生き返らせてない。死んでなかっただけ。」

「そうなのか?じゃあその棒読みは何なんだ?」

「僕は初めからこういうしゃべり方。」

「そうか、まあ良い。ところで君は信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)だったのか?」

「………。」

「そういえば自己紹介が遅れていたな。私の名はガゼフ。ガゼフ・ストロノーフという。王国戦士長だ。」

 王国戦士長?どのくらい偉い人なんだろう?

「僕はつかさ。単なる旅人です。」

「ほう、単なる旅人か。復活魔法を唱えたということはラキュースと同程度と考えた方が良いか?」

 僕を見ながら僕に聞こえないようぼそぼそ言う。あんまり信じてないような口調だ。

 でも僕のヴァンパイアの耳にははっきり聞こえている。

 ラキュースって誰?

 

「戦士長!捕虜7名ひっとらえました。」

 彼の部下が縄を掛けた騎士を引き連れてきた。

「おう、ご苦労。さて色々しゃべってもらおうか。ここに来るまで俺達は5箇所の襲われた村を見た。お前達の仕業だな!」

 ガゼフは捕虜のかぶとを脱がすとアイアンクローをかます。

「おい、ストロノーフ!キサマは何時からヴァンパイアとつるむようになったんだ?」

「ヴァンパイア?」

「はっはっは、これは傑作だ。知らずに共闘していたということか。だったら殺せ!その女は人間の敵、ヴァンパイアだ。」

 ……………………。

 驚いた表情でしばらく何かを考えるガゼフ。

 最初に動いたのはネムだった。

 僕の前に立つと、両手を広げる。

「ダメ。」

「お前は彼女がヴァンパイアと知っていたのか?」

「つかさお姉ちゃんは私達の、この村の恩人。戦士長様は盗賊の人間と恩人のヴァンパイアのどっちを信用するの?」

 その言葉に村人が次々と僕を守るように立つ。

「そうだな、このお嬢ちゃんは俺達の恩人だ。」

「お嬢ちゃんがいなかったら俺等はこいつ等に殺されていただろうしな。」

「そうだ。実際そいつらの仲間が近隣の村を襲ってる最低な人間だ。お嬢ちゃんは最高のヴァンパイアだ。」

 何か、アレ?単語が妙な配置になってる感じがして……。人間とヴァンパイアの位置を変えたらしっくり来るんだけど。

 ガゼフも呆然としている。

 しかしガゼフは徐々に笑い始めた。

「そうだな。現実はこいつらが村々を襲った賊、この女性はその村々を救ってきた方だ。事実を履き違えてはいかんな。」

 大きな声で、これはおそらく部下にも念入りしたのだろう。

 そして心配そうなネムの頭を目線を合わせて、その頭をひとつかみできそうな大きな手でグシグシ撫で始めた。

 撫で回すたびにネムの頭が左右に大きく傾ぐ。

「副長、見張りを2名づつ、3ヵ所に配置し、あとは交代で休ませて貰え。こいつらは何処かの倉庫に拘留。尋問は王都に帰ってからだ。」

「ハ!」

「ああ、それと一人伝令を王都へ走らせ、王に現状を報告しろ。ただし、まだ彼女のことは報告してはならんぞ。」

「分かっております。」

 副長は指示を下しに部下の下へ走って行った。

 

「さて、つかさ、少し君と話をさせて欲しいのだが…。」

「はい。」

「村長!何処か話しができる場所を借りたいのだが…。」

 僕とガゼフは神殿の待合室で話をすることになった。

 今までの経過をネムに語ったうそを織り交ぜて話す。

 

「それで、その真祖(トゥルーヴァンパイア)はどうなったんだ?」

「僕も助けてくれたモモ、…モモタロウさんも逃げるのが精一杯でした。モモタロウさんともそれ以来はぐれてしまって…。一体今どこで何をしているのか……。」

「そうか。大体分かった。」

 組んでた腕を解いて水を一杯口にするガゼフ。

「改めて、礼を言わせてくれ。村々を救ってくれて、本当にありがとう。」

「いや、これは自分の為ですよ。」

 怪訝な表情になるガゼフ。

「言ったでしょう?僕はヴァンパイアになる前は修道女です。僕が信仰する教義には他人を助けるのは誰のためでもない、自分の為という教えが在るのです。」

「なんというか、王国の聖職者達に聞かせたい話だ。だから君は英雄の領域である復活魔法を一村人に……。」

「英雄の領域?」

「ああ、他国から流れてきた君には分からんか?さっき君が使っていた復活魔法は王国では一人の女性しか使えん。」

 え?どういうこと?ユグドラシルでは最低ランクの復活魔法なのに。それが英雄の領域?

「本来ならこの村が買えるような金を払わねばその魔法を使ってはいかんと、法律で定められているくらいなんだが…。」

「……………。」

「安心しろ、俺は何も見ていないし、聞いてもいない。」

 ニヤッと笑って親指を立てて見せるガゼフ。

 かっこいい。

 なんてーか、渋いおっさんだ。昔見たサムライ映画のハリウッドスターをほうふつさせる。

 

 突然慌しく副長が入ってきた。

「戦士長!大変です。この村が包囲され始めました!!」

 

 

 

続く

 


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