魔弾の射手の英雄譚   作:鍬形丸

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5話

ある寮の一室にて一人の少女が少年を正座させ説教していた。

 

「それで?なぜあんな事をしたんだ紅刃」

「伶愛が転ばされたのを見たらカッとなって…」

 

バツが悪いのか紅刃は視線を合わせずボソボソと言い訳する。

 

「全く、あの勢いじゃ怪我しないのは分かっていただろう」

 

手を腰に当ててため息まじりに苦笑した伶愛を見て一区切りしたと判断した伶奈と蒼刃は助け舟を出す。

 

「まぁそんくらいにしといてやれよ。紅刃だって悪気があってやったんじゃねぇんだから」

「そうそう。それにこのくらいで一々説教してたら身がもたないよ」

「姉さんたちは黙っていてくれ」

 

あまりフォローになってない気がするが一通り説教して溜飲を下げた伶愛は紅刃に手を貸す。

 

「ほら、足が痺れて立ち上がり辛いだろう」

「うう、足が」

 

あ、そうそうとなんでもないように紅刃は伶愛にとって爆弾発言をする。

 

「今度の休み空いてる?」

「特に用事は無いが。どうした何かあるのか?」

「ショッピングモールに買い物に行こうよ」

「ああ分かった。楽しみにしているぞ」

「ボクも楽しみだなぁ。あっ」

「どうした?」

「初デートだね。これって」

「デデデデート⁉︎」

 

紅刃との約束(デート)の日伶愛は洗面所の備え付けの鏡の前でおかしな所はないか変じゃないかなどと悶々としながらくるくる回って確認していた。これも余計事を言って意識させる紅刃が悪いんだと脳内の紅刃に文句を言う。

 

「よしっ、準備完了だ。開けていいぞ」

 

そして2人は同じ事を口走る。

 

『可愛い』

『え?』

 

伶愛は紅刃から見て世界一可愛いと思っているが着飾るともう可愛さとか色気とか綺麗さとかが超新星爆発を起こしていて表現できる言葉が見つからないくらいに色々とヤバイなとショートしそうになった思考をまとめる。

女子にしては比較的長身のスレンダー体型な伶愛はスラリとした形のいい足を強調し普段穿かないような白のショートワンピースだった。

紅刃は女の伶愛から見てもそこいらの女子とは比べ物にならないくらいに整った女顔で芸術品めいた美しさを持っているとは思っていたが何処から見ても男装の麗人にしか見えない。着ている服も色も男女どちらが着てもおかしくないデザインのためいつもより性別が迷子になっている。

ジーンズ風のショートパンツに白のノースリーブシャツに濃い灰色のカーディガンを羽織っている。

 

「それではエスコートを頼むぞ王子様」

 

自らの羞恥心を隠すためいつもなら絶対言わないような言い回しを言う。だがそれにのった紅刃の言い回しに顔を真っ赤にする。

 

「お手をどうぞお姫様」

 

部屋を出でてから紅刃は伶愛の手を握る。それが指を絡ませる俗に言う恋人繋ぎモノだと気付いた伶愛は顔を真っ赤にする。顔を真っ赤にした伶愛を見て自分が無意識に恋人繋ぎをしていた事を知りあっと思う紅刃だったが振り払われないならいいかとそのままにする。

ちょうどいい風が吹き真っ赤になった伶愛の顔を冷ましていく。

そろそろ校門といったところである4人組が目に映る。

最近紅刃と伶愛と一緒にいることが多い一輝とステラと先日の雫と後1人は見たことの無い男子生徒だった。

 

「あれ、クレハとレアじゃないどうし…たの…」

 

一番最初に2人に気付いたのはステラでどうしたのかと聞こうとしたが尻すぼみになる。2人が恋人繋ぎで手を繋いるのを見て色々と察したのだ。

 

「やぁ、おはよう一輝にステラ」

「おはよう紅刃。どこに行くの?」

「近くのショッピングモールでデートさ。デートだよ」

 

手を繋いでない方の腕をブンブン振り今のテンションの上がり具合を表す。

 

「ふふ、よっぽど嬉しいのね」

 

その仕草が微笑ましかったのか紅刃とは初対面の男子生徒が女言葉で笑う。

 

「ん?君は」

 

よく見るとどこかで見た事のある顔なのだがどこで見たか思い出せない。その疑問を勘違いしたのか男子生徒は自己紹介する。

 

「初めましてあたしは有栖院凪よ。名前で呼ばれるのは嫌いだからアリスって呼んでくれると嬉しいわ」

「よろしくねアリス」

 

じゃあねっと特に何も言わずに立ち去ろうとする2人をステラが呼び止める。

 

「なんか言うことあるでしょ⁈」

 

ステラが言いたいことはなんとなくわかるが零仙家は馬鹿ばっかで無駄にキャラの濃い人ばかりなので今更ただのオカマにあったところで鍛えられた紅刃は動揺しないのだ。

 

「え?いや特に何も無いよ」

 

今度こそじゃあねっと2人は走り去る。

打ちひしがれるステラを苦笑しながら一輝はフォローする。

 

「ねぇイッキ、アタシの方がおかしいの?」

「紅刃も紅刃で一般の感性を持ってるとは言い難いから」

 

 

目的地に着いた伶愛は服を見ようといった紅刃に手を引かれ案内される。

紅刃が伶愛に案内した店は周りの店と比べて値段の桁がひとつふたつ違く、その店の利用客はセレブが殆どで今風のファッションの2人は確実に浮いている。

ひっかえ取っ替え試着していく2人を場違い者を見るような目つきで不躾に眺めている。

だが2人は__

 

「どうだ」

「似合ってるよ。これなんかもいいんじゃない」

「そうか、じゃあそれも着てみようか」

「待ってるよ」

 

__全く気にしていなかった。感性が常人とは言い難い紅刃はともかくとして伶愛は気にしそうなものだが意外にも動じていなかった。

そもそも2人は実家からして一般人とは言い難かった。両家とも千年以上続く歴史を持つ名家で特に天城家は世界有数の大財閥として名を馳せている。

つまり2人は一般人からしたら金銭感覚が狂っている部類にカテゴリされる。

伶愛の試着が終わり紅刃は近くの店員に言い付ける。

 

「さっき試着したヤツ全部ください」

「は?」

 

店員の女は紅刃が言ったことに対しポカンとした表情で一瞬惚ける。

さっと見ただけでも20万以上するのだ。学生どころか大の大人ですら出し渋るような金額を払えるのかと訝しむ。

 

「お客様大変失礼ですがお代金の方はお持ちでしょうか?」

「はい」

 

払えるのかと言われた紅刃は黒色のクレジットカードを取り出してみせる。世界的にも有名な会社が発行しているものだった。

 

「あと破軍学園の第一学生寮404号室に送ってください」

「か、かしこまりました」

 

店を出た後小腹が空いたので一階のフードコートで何か食べることにした。

 

「う〜ん、微妙な時間帯だから空いてると思ったんだけどな」

「相席を頼むか?」

「そうしよっか、あっ」

 

自分たちと同じ考えの人が多かったのかフードコートは混み合っており美味しいと評判のクレープを片手に立往生していた紅刃と伶愛だがフードコートに一輝たち4人を見つけた。

 

「やぁ相席いい?」

 

一輝たちは席を詰めて紅刃と伶愛の場所を確保してくれた。

 

「うむ、このクレープは絶品だな」

「だよね」

 

向かい側に座る紅刃の頬に生クリームが付いているのを見つけた伶愛はそれを指ですくい舐める。

 

「ななな何を⁈」

 

隣の雫も一輝の手によって同じ目にあったらしく2人揃って顔を真っ赤にして慌てている。その光景が面白かったのかアリスはくすりと笑う。

 

「2人とも防御力ないタイプなのね」

「うううるさいわよっ、突然だから、おおおどろいた、だだたけよっ」

「そうだよ、それにボクの防御力はAだよっ⁉︎」

 

紅刃の慌てる仕草が完全に女だったためステラが呆れた目で見ている。

 

「なんでアンタがやられる側なのよ。本当に性別がどっちか分からなくなるわ」

 

呆れた目で見るステラだったが紅刃からして見ればステラはアホだった。こっちが性別迷子ならそっちは生クリームサンタだと思う。

 

「ステラ⁉︎どうしたのそれ⁉︎」

「どうしたのよイッキ。アタシの顔に何かついてる?」

「むしろついてないと思ってる方が驚きだよ⁉︎」

「何かついてるならシズクにしたみたいにとってくれてもいいのよ?」

「いや、指ですくえる次元じゃないし。とりあえずタオル貰ってくるね」

「あっ」

「ステラ、ひょっとしてお前は馬鹿なのか?」

 

伶愛の発言に追従するかのように頷く紅刃だった。

 

「ちょっとトイレに行ってくるよ」

 

一輝が席を立った後紅刃は席を立つ。だがトイレのある方向とは逆に進んで行った。

 

「おーい紅刃。そっちじゃないだろう」

 

珍しく反応しなかった紅刃に伶愛は訝しむ。それを見たアリスが意味深に微笑む。

 

「あら、そういう事ね」

 

タオルを取ってきた一輝が帰ってきた後4人は4階のシネマランドに向かってしまった。

紅刃がちっとも帰ってくる気配がなく1人寂しく座っていた伶愛に耳が何か倒れる音を捉えたかと思ったら銃声と悲鳴が聞こえた。

 

「お楽しみのところ申し訳ないが、たった今このショッピングモールは俺たち《解放軍》が占拠した!殺されたくなかったら黙って従いな!」

 

そう怒鳴り散らした覆面は女性や子どもだけ一箇所にまとめると男を追い出す。

ぞくぞくとショッピングモール中から人質が集められてくる。

その中にはステラと雫の姿もあった。

 

「私に策があります。ですが準備に時間がかかるので絶対にバレないでくださいね」

 

そう言って雫は水を精製し張りめぐらせる。作業が順調に進んでいたが場の空気を一変させる事態が起きてしまった。

5歳くらいの子どもがアイスを投げつけたのだ。それに激昂した覆面は銃を乱射するが咄嗟に飛び出たステラが壁になって子どもは傷一つなかった。

今回の主犯と思わしき伐刀者(ブレイザー)のビショウが悪辣な手段を用いてステラを辱める。

ステラが服を脱ぐたびに覆面たちはいやらしく下品な笑い声を上げる。

とうとう下着だけになりそれに手をかけたステラが怒りと羞恥で身体を震わせ涙を零したのを見た時伶愛はブチリとキレた。

 

「巫山戯るな貴様ら!恥を知れ!」

 

人質がいるからか新たな伐刀者(ブレイザー)の登場にも動じずむしろ下品な笑い声を大きくする。

 

「それで貴女はどうしたいのですかな?それともステラ・ヴァーミリオン殿下の代わりに全裸で土下座して貰えるのですかな?」

 

ビショウは粘着質な物言いで標的をステラから伶愛に移す。目で合図を受けた覆面は銃を子どもの足元に撃つ。

伶愛が服に手をかけた時の事だった。

 

『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️!!!!!!!!』

 

この世のものとは思えない人が出せることは到底思えない叫び声がなり轟く。

3階の一輝たちが潜伏しているのとは反対側の吹き抜けの手摺に紅刃が立っていた。

 

 

時間を遡るほど十数分。

不自然なカタチでフードコートを抜け出した紅刃は3階の装飾品店に居た。あらかじめ注文してあったのかネックレスの入った包装された箱を袋に入れてフードコートに戻ろうした。

その時覆面が現れ銃を乱射しようとしたが固有霊装(デバイス)を取り出した紅刃によって幻想形態で脳天をぶち抜かれる。

周囲の人間に礼を言われた紅刃だったがロクに耳に入ってなかった。紅刃は全力で走りフードコートの見える吹き抜けのところで様子を伺う。その時反対側に一輝たちがいることに気付いたが視線をすぐに戻す。

子どもが殺されそうになった時もステラが辱められている時も全く動じず冷静でいられた紅刃だが伶愛が脱げと強制された時紅刃は控えめに言ってブチギレた。

反対側のアリスが目でやめろというが紅刃はいらない情報とカットする。

今の紅刃には鏖殺対象の覆面とビショウと護るべき伶愛しか見えていない。

 

『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️!!!!!!!!』

 

人ならざる叫びで殺害予告をした紅刃は悪魔の凶弾(デアフライシュッツ)を召喚しながら一階に飛び降りる。

 

「ひぃぃぃぃい⁉︎」

 

紅刃は背後の揺らぎからでは無く悪魔の凶弾(デアフライシュッツ)から魔弾を放つ。たとえ射線に人質が挟まれようとも。今の紅刃は幻想形態を使うことはあり得ない。ゆえに打たれた人質は絶命せずとも傷を負うはず。しかし倒れ呻いているのは覆面だった。

その後も紅刃は暴れ回りどんだけ狙いを荒く撃っても必ず当たる(・・・・・)

まるで必中の魔弾だ。

残るは主犯のビショウただ1人のみ。ただそれも相手の戦力に数えてもいいのか。両腕を切断され既に戦意喪失し倒れ込んでいるビショウの顔を蹴り飛ばす。

機会を伺っていた一輝とアリスが飛び降りてくる。僅かに眉を潜め紅刃を非難する。

 

「紅刃さすがにやりすぎだよ」

 

だが紅刃はまるで聞こえていないかのように幽鬼のごとくゆらりゆらりとビショウに向かう。流石に危険だと思った一輝は紅刃の肩を掴もうとするが掴めず一輝の視界から完全に消える。

次に紅刃を認識した時にはビショウの元まで辿り着いていた。

ビショウの身体の上で足を上げ思いっきり踏み潰す。ビショウがあまりの痛さに気絶するがまた踏み潰し意識を覚醒させる。それを何度も繰り返しビショウは僅かな声を上げることすら出来ないほどに弱り切っていた。

人質に紛れていた覆面の仲間は人質に銃を突き付けるが紅刃は行為を止めず右の悪魔の凶弾(デアフライシュッツ)で手を撃ち抜く。

最後のトドメと言わんばかりに悪魔の凶弾(デアフライシュッツ)の剣で首を落とそうと振り上げる。

止める者はもういないと思われたが紅刃に背中から抱き着いて止める者がいた。

伶愛だ。

 

「やめろっ!それは駄目だ!私なら大丈夫だ!ほら何もされてないぞ!」

 

伶愛が叫ぶ。やめてと。するとだんだん紅刃から人外の狂気が失せていく。

伶愛の腕の中で紅刃は意識を失い安からな寝音を立てる。


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