魔弾の射手の英雄譚   作:鍬形丸

4 / 9
4話

破軍学園の制服に着替えた紅刃が堂々たる歩みでアリーナのゲートから出てくる。反対側のゲートから出て来たのは今回の実技試験の相手の外部から呼んだBランク騎士とCランク騎士の5人だ。

アリーナのスピーカーからアナウンスが流れる。

 

『これよりAランク騎士 零仙紅刃の入学試験を開始する』

 

一輝とステラの決闘が終わって退場しようとしていた生徒は興味を惹かれ座りなおす。

 

LET's GO AHEAD(試合・開始)

 

試験開始のブザーがなりそれぞれの固有霊装(デバイス)を取り出す。

 

「敵を討て 悪魔の凶弾(デアフライシュッツ)

 

紅刃が取り出した霊装は一対の紅と黒の銃剣(バヨネット)だ。そして背後に7つの揺らぎが展開される。

紅刃が霊装を展開し終わったのを見て5人は散会する。

それぞれが剣 斧 弓 手甲 盾 の固有霊装(デバイス)を取り出しあらかじめ決めてあったのか陣形を取る。

5人の中のリーダー格の男が弓を構えニヤリと笑みを浮かべる。

 

「悪いな少年。君の入学試験は落第だな」

「ふふ、出来るものならね」

「はっ、FランクだってAランクに勝ったんだ。しかもこっちは5人しかもBランクもいるんだ楽勝だよ」

 

男が矢を放つが紅刃は当たるか当たらないかギリギリまでところで避ける。

紅刃は背後の揺らぎから大量の魔弾を射出する。拳大程度のサイズの魔弾は紅刃にとって様子見のつもりだろうが彼らにとって見れば敗北と紙一重の死地に他ならない。

最初は危なげなく避けていたが追加の魔弾だけで無く彼らが避けた魔弾の軌道を制御し再利用する。

今彼らに迫る魔弾は都合63発。1発1発が彼らの全力の一撃に相当する。

観客の誰かが呟くまず戦闘になってない、と。遊ばれてやんのこれじゃまるで狩りじゃないか、とも。

実際その通りだった。威勢のよかったリーダー格の男はすでに去勢を張る余裕すらない。

盾の固有霊装(デバイス)の女が状況を打破しようと絶刀絶技(ノウブルアーツ)を発動し障壁を展開する。

障壁は5人をぐるりと囲み束の間の安全地帯を形成する。様子見の魔弾だけで決まるのかと肩透かしを食らっていた紅刃は魔弾が弾かれるのを見て喜色の笑みを浮かべる。そして魔弾のサイズをふた周りほど縮小し形をドリル状にして魔力をそのままに貫通力を高める。

最初の魔弾はかろうじて防げていたが形状をドリル状にした魔弾は数回当たるたびに障壁にヒビを入れ拡大していく。そしてついに安全地帯は侵され5人は再び死地に放り出される。

 

「ほらほら、最初の威勢はどうしたのさ。掛かっておいでよ」

 

弓をつがえていたリーダー格の男は背後からの魔弾に気付かず貫かれ倒れ伏せる。しかし幻想形態であるからか傷一つない。

あいつの仇だと剣の固有霊装(デバイス)の男が突っ込み1mも進まないで魔弾を避けきれず貫かれて倒れ伏せる。

一輝のようなランク詐欺はいないと判断した紅刃は戦闘未満の狩り或いは的当てゲームに飽き飽きしていた。

彼らを襲う魔弾をピタリと静止させ籠を作る。そして並の伐刀者(ブレイザー)の28倍以上の規格外級の魔力を持つ紅刃の物差しからしてもそれなりに魔力を込めた魔弾を射出する。着弾とともに炸裂し粉塵が巻き上げられそれが晴れた時には残りの3人も倒れ伏せていた。

試合終了のブザーを聞いた紅刃は期待外れだと言わんばかりにすぐさま出て行ってしまう。

本来なら勝者に喝采を浴びせるのが道理だというのに、会場はシンと静まり返っていた。彼らは再びAランクの脅威を魂にまで刻み込まれたのだ。

一つ前の決闘が大番狂わせの結果だったために観客はもしかしたらと期待していた。しかしAランクとは大英雄の器を持つ生きた災厄だに他ならない。そんなものを倒そうとするのなら同規模の災厄をぶつけるか修羅に堕ちるほどに()を研ぎ澄ませなければならないというのに。彼ら5人はそれが理解できていなかったようだ。

 

 

早朝からある兄弟が木刀で打ち合いそれをある姉妹が眺めている。木刀同士が弾き合う不協和音はとても木製の物が奏でているとは到底信じられない音量だった。

 

「ここんところ引き分けちゃいるがそろそろ勝たせてもらうぜ。オラッ!」

 

蒼刃の鋭い掛け声と共に振り下ろされた大上段の一撃はしかし紅刃の右の木刀によっていなされ左の木刀が襲う。

 

「朝早いから寝ぼけてるの?太刀筋が鈍いよ」

 

左の一閃は木刀の柄によって弾かれる。

 

「はっ、軽い剣だな」

 

紅刃と蒼刃は互いの一撃をいなし弾きながら足元の石畳を粉砕する。紅刃が一歩踏み込む。質より量を地で行く剣術は圧倒的物量差で蒼刃の剣術を押していく。

紅刃の剣群を弾き一刀両断せんと横一閃。しかしそれを紙一重で回避する。回避によって体勢を崩した紅刃は後ろに大きく1歩2歩と下がる。10m程度離れた2人だがその程度の距離ならば瞬きの間に詰められる。

紅刃は右の木刀を投擲する。目視することすら出来るか怪しい速度で放たれたソレをなんとか回避した蒼刃だったが体勢を崩した隙を突かれ紅刃が蒼刃の木刀を弾きそして顎を砕かない程度に全力で蹴り飛ばす。脳を揺らされた蒼刃はなんとか意識を保ったが後頭部と石畳が激突し意識を手放す。

 

「よしっ、31戦中10敗11勝10分」

 

辺りの惨状から目を逸らしつつ伶愛の元に駆け寄りハイタッチを求める。

 

「見てた?伶愛久しぶりに綺麗に勝ったよ」

「見ていたが剣術勝負をしていたのでは無かったのか?」

「ボクは剣士である前に伐刀者(ブレイザー)で魔導騎士だからね」

 

ジト目で非難する伶愛に対し紅刃は屁理屈をこねる。

しばらくすると日課のランニングから戻って来た一輝が死にそうな顔をしたステラと歩いていた。

 

「また随分と荒らしたみたいだけど理事長先生に怒られるんじゃ」

「そうよ、さっきなんて木刀が飛んで来て転びかけたんだからね」

「木刀のはごめんね。だけどこれやったの九割がた蒼刃だから」

 

さり気無く責任転嫁した紅刃はまだ気絶している蒼刃を背負い天城姉妹とその場を後にする。

視界から消えるまでその背中を見ていた一輝だったがステラが自分をジト目で睨んでいることに気付いた。

 

「ど、どうしたのステラ」

「あの浴衣の娘新入生でしょう随分と仲がよろしいのね」

「紅刃はあんな見た目だけど男だよ」

「は?男ってあの男?」

「他にどんな男があるのさ」

「ふ〜ん、オトコノコってやつなのね」

「なんでそんなことは知ってるのさ⁈」

 

 

紅刃と伶愛の教室はステラや一輝とも同じだった。

 

「ねぇアンタ」

 

ステラは教室を進んで行きやがて紅刃の前に止まる。

 

「なに?ステラ・ヴァーミリオンさん」

「さっきは忘れてたけどクレハ・レイセンよね」

 

それとステラでいいわと言って席に座る。

 

「じゃあステラって呼ばせてもらうけど。ステラとは会ってみたかったんだよね」

「お、おい」

 

紅刃の口説く様な言い回しに伶愛が焦るがそれを手で制する。

 

「同年代のAランクと合うなんてジュニアリーグ以来だよ」

 

まだ言いたい事はありそうだったが担任が入って来たことにより中断される。

 

「はーいみんな〜席について〜」

 

入って来たのはCランク騎士の折木有里だ。彼女はやたら高いテンションで挨拶をする。

年不相応な口調と仕草で七星剣武祭の代表選抜戦の説明を進める。

謎のテンションと口調によって分かりずらかったがようするにこういう事らしい。

去年までの『能力値選抜』は廃止。代わりに『全校生徒参加の実践選抜』になる。成績上位者『6名』を選手とする。そして試合の日程は生徒手帳にメールで送られる。来なければ当然不戦敗。

どのくらい戦うのかと考え紅刃は挙手する。

 

「先生」

「ノンノン。ユリちゃん☆って呼んでくれないと返事してあげないゾ?」

 

別にイラッとかしてないし、うわっとか、ウザっとか全く思ってないし年齢考えろよBBAとかなんて全く思ってないのである(まる)

 

「ユリちゃん」

「はい、なーに紅刃ちゃん」

「選抜戦はどのくらい戦うんですか」

「詳しくは言えないけど、1人10試合以上は軽くかかるかな〜選抜戦が始まったら3日に一回はあると思ってくれていいよ♪」

 

あまり意識の高くない生徒たちはダルそうに騒つく。そんな中で紅刃は一輝が小さくガッツポーズをするを見た。

 

「確かに大変だとは思う。だけど誰にでも平等にチャンスがあるってとても素敵な事だと先生思うな♪」

 

その直後唐突に大量の吐血をし倒れる。

日常茶飯事だったのか耐性のある一輝がテキパキと指示を出す。

その後一輝が解散だと告げる。

小腹がすいていた事もあってか一輝が女生徒に囲まれていても、それに嫉妬した男子生徒がいても気にならなかったし一輝の妹の雫がディープキスをしていても構わず伶愛に食堂に早く行こうと催促していた。

だが___

 

「デブ」

「ブス」

『殺す!』

 

一悶着あってか固有霊装(デバイス)を取り出しての戦闘の余波で伶愛が体勢を崩し大きく転び頭を打つ。

 

「きゃっ」

 

それを見た紅刃は自分の何かがブチンッとキレるのを感じた。

 

『敵を討て悪魔の凶弾(デアフライシュッツ)

 

ゆらりと無意識に『抜き足』を使いながらハイライトを無くした目で近く。

 

「え…?ちょっと紅刃⁈なにやってんの⁉︎」

 

後ろで誰かが騒いでいるのを知覚したが無視する。

 

「部外者は他所に行って下さい」

「クレハ、アンタの出る幕じゃないわ」

 

目の前の2人が何かを言っている。気にするな殺せ。

ステラと雫に突撃する。

学年主席と次席の戦いからスペックデータ学年三強の三つ巴の戦いに移行した。

教室が木っ端微塵に吹き飛ぶどころか辺り一帯が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

正気に戻った紅刃とステラと雫は一週間の停学を言い渡された。

トイレを一人で呪詛を吐きながら掃除するのだった。うっかりそれを見てしまった男子生徒は悲鳴を上げたと言う。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。