藤丸さんちのカルデア事情   作:アーニャMK9

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お久しぶりです、アーニャです。藤丸さんちのカルデア事情、二作目です。
またマシュかよとか、なんで6月なのに五月病なんだとか、色々言いたいことあるでしょうけど、とりあえず読め!


マシュ/五月病

 その日、藤丸立香は一人で目を覚ました。

 ベッドの上で上体を起こし、ゆっくりと伸びをする。それから壁にかけてある時計へと目を向ける。時刻はすでに9時を回っていた。

 別に用事もなく、この時間に起きることに問題はないが、一つの疑問が頭に浮かんだ。

 

「今日はマシュが起こしに来なかったな……」

 

 そう、特異点での旅が始まった日から、毎朝起こしに来てくれていたマシュが、やってこなかったのだ。今までにないことに立香は首をかしげる。

 とりあえず何かあったのか、と思い、食堂に行ってみることにした。もしかしたらそこでマシュが待っているかもしれない。

 食堂に行ってみると、ダヴィンチちゃんがいた。珍しい人物に立香は少し驚く。

 

「おはよう、ダヴィンチちゃん。珍しいね、食堂にいるなんて」

「おはよう、藤丸君。そんなに珍しいものでもないだろう?」

 

 ダヴィンチは苦笑しながら言う。立香は彼女の前の席に座り、気になっていたことを口にした。

 

「そういえば、今朝マシュが部屋に来なかったんだけど、ダヴィンチちゃん何か知らない?」

「うん? ああ、そのことね」

 

 立香の問いに、ダヴィンチは含みがあるように答える。

 

「何、理由知ってるの?」

「まあ、一応ね。ちょっと着いてきたまえよ」

 

 そう言って、ダヴィンチは立ち上がり食堂を出ていく。立香も急いでその後を追う。

 しばらく歩くと、ダヴィンチは足を止める。そこはマシュの部屋の前だった。

 

「マシュの部屋? もしかして何かあった?」

「うん、ちょっとね。とりあえず入ろうか」

 

 ダヴィンチはポケットからカードキーを取り出す。カルデアの各部屋の扉を開けるマスターキーだ。

 カードを読み込むと、自動で扉が開き中の様子が見えるようになる。ゆっくりと立香は部屋に足を踏み入れる。

 部屋の中は静かだった。特に装飾が施されているわけでもなく、シンプルな内装であり、一種の寒々しさを感じさせる。

 部屋の隅にあるベッドには、布団に潜り込んで眠っている者がいた。

 部屋の主であるマシュ・キリエライトだ。マシュは布団に包まり、安らかに眠り続けている。

 

「マシュ? まだ寝てるのか?」

「ああ、そうなんだよ。とりあえず起こしてくれるかい?」

 

 ダヴィンチはマシュを起こすように立香を促す。立香は頷き、ベッドへと近づく。

 

「マシュ。朝だよ、起きて」

「う~ん……せんぱい……?」

 

 立香の声に反応し、マシュは目を覚ます。しかしその瞳はまだ完全には覚醒しておらず、どこか夢現(ゆめうつつ)な様子だった。 

 

「おはよう、マシュ。もう起きよう?」

「……嫌です」

「え?」

「……起きたくないです……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 マシュはもぞもぞと布団の中に頭を引っ込め、完全に二度寝の態勢に入った。予想外の展開に立香は絶句する。

 後ろで見ていたダヴィンチは、この展開が分かっていたかのように笑いをこらえていた。

 

「ダヴィンチちゃん、どういうこと?」

「うん、今朝からこの調子なんだ。これは……」

「これは……?」

 

 トーンを落として語るダヴィンチを見て、立香は息を呑む。一体マシュに何が起こったというのか?

 

「これは間違いなく……五月病だ」

「…………え?」

「もう一度言うよ。マシュは五月病だ」

 

 ダヴィンチは真剣な顔で言う。対する立香はポカンとした表情で固まってしまう。予想外の発言に、耳を疑ってしまった。

 しかし、今のマシュの状態はだらけきってやる気が全く感じられない。確かに五月病と言われる状態に酷似していた。立香はそれでもと首を振り。

 

「でも、なんでよりによってマシュが五月病になるんだ? しかももう五月も終わりなのに」

「さあね。大方これまでの疲れの反動が出たんじゃない?」

 

 ダヴィンチはさらっと答える。立香は反論しかけるが、思いとどまる。

 今まで、マシュは懸命に頑張ってきた。立香と共に戦い、共に笑い、共に泣き、共に歩んできた。その旅はマシュの心身に見えない負担を積み重ねてきたことだろう。

 その反動が今出たと考えれば、五月病になるのも仕方ないと言える。

 だが、立香にはもう一つ疑問が生まれた。

 

「なんで今更反動が出てくるのさ。もしかしてダヴィンチちゃん、何かした?」

「さて、なんのことかな」

 

 素知らぬ顔で、しかし口元を愉快そうに緩めながらダヴィンチは答える。その態度で、このマシュの状態がダヴィンチの差し金であることが、容易に想像できた。

 抗議しようと立香が口を開くより先に、ダヴィンチは部屋のドアまで移動し。

 

「それじゃ、あとは君に任せたよ、藤丸君」

「あ、ちょっと!」

 

 立香に追及される前にダヴィンチは部屋から出て行ってしまう。取り残された立香はどうするべきかとベッドで眠るマシュを見る。

 マシュは安らかな顔で眠っている。警戒心など欠片もなく、間近であれほど騒いだのに少しも反応を見せなかった。

 普段から可憐な容姿をしているマシュだが、眠っているときはまた違った可愛らしさを見せている。具体的にはあどけない雰囲気を醸し出している。

 いつしか立夏は、膝をかがめてマシュの寝顔を間近で見ていた。ゆっくりと、だが確実に顔が近づいていく。もっとこの可愛らしい姿を近くで見たいと、無意識に思ってしまっていた。

 

「うぅぅん……」

 

 突如、マシュが声を出しながら身もだえしたので、立香はすぐさま体を起こす。いつの間にか近付き過ぎていたことに、この時気付き、愕然とする。

 そんな立香の動揺など全く知らぬ、と言わんばかりにマシュはゆっくりと目を開ける。ベッドの上で体を起こし、ぼんやりと周りを見回している。

 その未だ覚醒しきっていない動作に、立香は思わず笑みをこぼす。あのマシュがこんなに隙だらけの姿を見せることと、そんな姿を現状一人占め出来ていることが面白く感じたのだ。

 

「改めておはよう、マシュ。よく眠れた?」

 

 立香は微笑を浮かべたまま、マシュに声をかける。マシュはまだ寝ぼけ眼といった感じであったが、立香の姿を認めると微笑み返した。

 

「おはようございます、先輩。さっきぶりですね」

「うん、マシュが二度寝しちゃったからね」

 

 立香はベッドに腰かけ、からかうように言う。マシュも反論しようとするが、眠気からか上手く言葉が出ず、何も言わない。

 

「そうだ、朝ご飯はどうする? 何か貰ってこようか?」

「はい、お願いできますか? 正直、まだ眠気が強くて、自分で食堂に行けそうにないです」

「うん、任せて」

 

 そう言って立香は立ち上がり、部屋を出て行った。

 廊下を歩いていると、何人かのサーヴァントや職員にマシュのことを聞かれたので、事情を説明すると、皆一様に驚いていた。マシュの勤勉さは周知の事実であったため、五月病というものとイメージが大分遠かったらしい。

 マシュの周りからのイメージを知ることができたことで、なんとなく立香は楽しくなった。今日は新しいマシュの姿を多く見ている気がしていた。

 食堂に着くと中は多くのサーヴァントや職員でにぎわっていた。立香は彼らに軽く挨拶しながら奥へ進み、厨房へと向かう。

 

「エミヤ、朝ご飯頂戴」

「またずいぶんストレートな注文だな、マスター」

 

 呆れたような笑みを浮かべるのは、アーチャーのサーヴァント、エミヤ。今の彼は黒いインナーの上にエプロンという出で立ちで、完全に主夫の体を成している。

 そんな姿に、オカンという言葉が思い浮かぶがなんとか飲み込み、立香は話を続ける。

 

「ごめんごめん。それより、何か軽い朝食作ってくれないかな。二人分」

「いいだろう。二人分ということは君とマシュの分か?」

「あれ、知ってたの?」

 

 少し驚きながら立香が言う。当然とばかりにエミヤは頷き。

 

「ダヴィンチ女史から事情は聞いている。きっとそういう注文をするだろうと思ってすでに用意していたよ」

 

 そう言うと、エミヤはお盆に乗った朝食を二つ、立香に向けて差し出した。

 

「白飯と焼き魚、それにお手製の漬物だ。朝に手早く済ませるならちょうどいいだろう」

「ありがとう」

 

 あまりの手際の良さに再びオカンと言いそうになるのをこらえながら、立香は礼を言う。

 お盆から料理を落とさないように気を付けながら、立香は廊下を歩く。部屋の前に着くと、器用にカードキーを取りだし、ドアを開ける。

 

「お待たせマシュ。ご飯貰ってきたよ」

「むにゃ……ありがとうございます。先輩」

 

 どうやら再びベッドに横になっていたらしいマシュは、目をこすりながら体を起こす。

 立香はその様子に苦笑しながらも、テーブルの上にお盆を置き、近くにあった椅子に腰かける。

 

「さあ、冷めないうちに食べちゃおう」

「そうですね。……むっ」

 

 箸を取ろうとしたマシュだったが、何やら悩むような素振りを見せると手を止めてしまう。何事かと立香が首をかしげていると。

 

「先輩、ご飯食べさせてください」

「……はあ?」

 

 突然の頼みに立香も思わず変な声を出す。マシュは気にせず続ける。

 

「なんだか、ご飯を食べるために体を動かすのも億劫に感じてきました。だから先輩に食べさせてほしいんです」

「……それはさすがにダメじゃない?」

 

 マシュの言葉に、立香は難色を示した。

 いくら五月病で体を動かすのが億劫でも、食事すら他人に頼るのはどうかと思うからだ。

 しかしマシュは、いやいやと首を振り。

 

「お願いします。食べさせてもらえないと何もできません」

「う~ん」

 

 立香は眉を寄せて悩む素振りを見せる。

 本来ならこのようなことをするべきではないというのは分かっている。しかし、マシュに食べさせるというシチュに心が惹かれる自分もいた。

 どうするかと思い、マシュに視線を戻すと、潤んだ瞳でこちらを見つめていた。その視線はズルいなぁと立香は思いながら。

 

「分かったよ。食べさせてあげるよ」

 

 結局、立香は誘惑に負けて承諾した。マシュのお盆に乗っている茶碗と箸を手に取り、軽く白飯をつまみ、マシュの目の前へと持っていく。

 

「はい、あーん」

 

 なんでもないように、しかし内心では心臓が早鐘を打ちながら、立香は口を開けるように促す。

 マシュの方はというと、面喰らったように顔を赤く染めるが、すぐに目を閉じ口を開ける。

 瑞々しくハリがある唇の動きに目を奪われながらも、その気持ちを押し殺しながら立香は箸を動かす。少しずつ、少しずつ、箸が進み、やがてマシュの口内にたどり着く。

 ゆっくりと箸を開き、白米を舌の上に置くと、マシュは口を閉じ噛みしめるように咀嚼する。その口の動きに艶めかしさを感じて、立香は顔をそむけた。

 しばらくお互い無言のまま、マシュの口が動く音だけが聞こえていた。やがてマシュが飲み込むと目を開けて、立香を見る。

 

「……やっぱり普通に食べます」

「……そうだね」

 

 結局、マシュは自分で食事をすることにし、立香も黙々と食事を続けた。

 お互いの食器が空になるまで、二人とも無言であった。

 

 

 食事が終わり、食器を食堂に返した後、二人は部屋で過ごしていた。

 特に会話もなく、漠然と時間を過ごす。先ほどの行為が未だに尾を引いていた。

 しばらくして、マシュがうつらうつらと船を漕ぎだした。それを見て立香は部屋を出ることにした。

 

「俺は部屋に帰るよ。マシュはまた眠いんだろう? ゆっくりお休み」

「はい……そうします……」

 

 ベッドに転がり、布団をかぶるマシュ。立香は立ち上がり部屋を出ようとする。が、裾をマシュにつかまれ動きを止める。

 

「どうしたの、マシュ?」

「先輩、少しこちらに近づいてくれませんか?」

「え? いいけど」

 

 マシュの言う通り、立香はしゃがみ寝そべるマシュの近くに身体を寄せる。

 その瞬間、マシュは目にも止まらぬ速さで動き、立香の身体を抱き寄せ拘束する。突然のことに立香は全く反応できず、なすがままになる。

 

「ま、マシュ……!?」

「すみません、このまま、抱き枕代わりに……」

 

 言い終わると同時に、マシュは寝息を立て始める。しかし拘束は緩まず、ガッチリと固まったままだ。

 対する立香はパニックになっていた。ただでさえマシュに抱きしめられるというだけでも心臓が早鐘を打つというのに、今立香の目の前には、マシュの豊満な二つの果実があった。衣服越しでもしっかりと柔らかさを感じさせる胸部に、立香は目を奪われていた。

 

「ま、マシュ……! 放して……!」

「スウゥ~……スウゥ~……」

 

 マシュを振り解こうとしながら、懸命に呼びかけるが全く反応しない。むしろ拘束が強くなり、顔が胸に押し当てられる。

 

「ん~!? んん~!?」

 

 予想外のことの連発で、立香の頭は真っ白になる。とにかく抜け出ようともがくが、口を押さえられ呼吸もし辛くなる。

 やがて、脱出を諦め立香は抵抗をやめる。そのまま目を閉じ、自分も眠りに甘んじることにしたのだ。

 

(まあ……たまにはこういうのも……悪くないか……)

 

 意識を失う直前、そんなことを思いながら、立香は眠りにつくのであった。

 

 




五月病って、別に5月じゃなくても起こるらしいですわよ、知ってらして?

ちなみに今回のマシュのアレは、某天才や花の魔術師の仕業ですが、尺の都合でカットしました。ぶっちゃっけだらけているマシュを書きたいだけだったしね!

次回は未定ですが、マシュかジャンヌ・オルタかアルトリアかになりそうです。はい、全部持ってるキャラです(ドヤッ)

それでは今回はこの辺で。次回もお楽しみに。

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