東方超解釈   作:触手の朔良

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ファーストコンタクト 前編

 その時の目覚めは、お世辞にも良いとは言い難かった。

 重い瞼が自分の意志とは無関係に上がると、視線の先には目が眩む程の光源があり、開いたばかりの目は反射的に細められた。

 意識は不自然に霞掛かっており、身体を動かすのも億劫である。

 眩しい。冷たい。眩しい。眩しい――。

 何をするでもない、呆っとしながら、何度か目をしばたかせる。徐々に光の強さにも慣れ始め、その正体の像を結んだ。

 光の正体は、幾つものライトを大きな傘に一纏めした、手術に使っている様なヤツだった。

 理解した瞬間、跳ね起きる。

 そして物凄い勢いで首を動かし、周囲を見回す。沢山のモニターと見慣れぬ機械。見たことのないデザインの内装。切れ切れの記憶の中、そのどれを取っても当て嵌まる景色はない。強いて一番近いのを挙げるならば、病院――清潔、無機質というイメージ――だろうか。

 だが、そんな珍しい数々より彼の目を引くものがあった。

「あ――」

 驚き動きの固まった、女性の姿。

 それを認識した瞬間、彼の心臓は跳ね、体温が上昇した気がする。

 じわりと視界が滲む。会えたら、話したい事が沢山あった筈なのに、色々な事が頭に浮かんでは消え、最終的に何て馬鹿げた言葉を口にしたもんだと思う。

「に……。人間、か……?」

 その言葉を皮切りに、ハッと女の時間が再び動き始める。

 彼女は弾かれた様に近くのトレーへ飛び付き、注射器――おそらく、ではあるが。銃を模した見慣れない形状の――を手に取った。

 遅れて男はその行動に不穏な気配を察し、寝台を飛び降りて女へ駆け寄る。

 そして彼女の指が注射器を絡め構えるのと、男が女の手を取ったのはほとんど同時の事だった。

 僅かながら、男の方が早かった。

「ッ――!」

 その、手を掴む握力。その力強さに女は顔を顰め、思わず注射器が手から離れてしまった。

 そして来るだろう衝撃に備え、彼女は身を固め目を瞑る。

「……?」

 何時迄も来ない衝撃に訝しく思いつつゆっくり目を開けると、彼女にとって思い掛けない光景が目に入った。

 そこには、私の手を慈しむように包み、深々と頭を下げる男の姿があった。

「あ、ありがとう……! ありがとう!」

 震える声で何事か、女には理解できない言語を口走っていた。

 一瞬、理解の範疇を超えた状況に女の脳が真っ白になった。しかし直ぐに正気に戻る。

 拘束が緩んだ瞬間を見計らい、女は腕を振り払い注射器を拾い上げた。

 不意を突かれた男は反応が遅れた。

 女が振りかぶり注射器を刺そうとすると、男は反射的に身を守るように腕を交差させた。しかし彼女は躊躇せず、その腕目掛けて注射針を突き刺し、トリガーを引く。透明なシリンダーに満たされていた、緑色の液体がみるみる減ってゆく。

 その効果は顕著だった。

 間を置かずに男の身体から力が抜ける。

「あっ」と女が思った時はもう遅く、男の身体がゆらりと女の側へ傾いていた。退こうという試みも遅く、二人はもつれ合いながら倒れ込んだ。

 天井のライトを見上げ、女は思う

 ――なんだコレは?

 彼女の頭脳は、知能が高いと呼ばれる同族の中に於いても図抜けている。

 その頭脳が、現在の状況に理解が追いつかず、混乱していた。 

 いや、このような状況に至るまでの流れは解る。

 未開惑星で発見した原生生物が目を覚まし、襲い掛かってきた。十分な麻酔を投与していた筈なのに何故目覚めたのかなど疑問はあるが――大方耐性でもあるのだろう――、ここまではいい。

 一悶着あったものの、どうにか麻酔の投与に成功した。迂闊にもこうして原生生物に圧し掛かられるなど無様を晒しているのだから、完璧な成功とは言い難いが。全く、亻└|了や、了・/゙/″∃がこの場にいなくて、本当に良かった。閑話。

(それにしても重いわね……)

 自身に伸し掛かる、混乱の元凶へ目をやる。

 自分らと同じヒューマノイドタイプの生物。乳房が無かったり、股間に見たことのない器官が生えていたりと、幾らか我々の肉体と異なる点はあるものの、身に纏う物もなく、髪も髭も伸び放題な見た目は正に原人と呼ぶに相応しい。

 だが、先の謎の言語と行動からは一定以上の知能を有している様にも思えた。

 何より――。

(……何かしらね、コレ)

 女は目を瞑り自身の状態をチェックする。

 心臓は早鐘を打ち、顔も、僅かばかり熱を持っているように感じる。

 自身の身体に現れた明確な変調、その答えを導き出せない事実に彼女は混乱していた。

 そこまで考え、彼女は一つの考えに至り、その顔に焦りが浮かぶ。

(まさか――未知のウィルス……!?)

 男を乗船させた際に、徹底した滅菌処理は行った。

 だが、この男の異常な再生能力――メスを入れた先から傷が塞がるのだから、ちっとも調査が進まない――を考えれば有り得ない話ではない。

「~~っ!」

 脱力しきった肉の塊をどかすそうと腕に力を込める。女の細腕にそれは酷な作業であったが、どうにか抜け出す事が出来た。

 落ち着いて荒くなった呼吸を整える。すると不思議な事にも、先程あれだけ乱れていた脈が元に戻っていた。

「……?」

 圧迫による一過性の症状だったのだろうか。

 女は首をひねり、毛むくじゃらの男の顔を見やる。すると、矢張り身体が熱を帯びるのを感じた。

 彼女は慌てて視線を外し、頭を振る。

(オモイカネ。バイタルチェック)

 そして一人念じる。

 女の耳飾りの、ライトを点灯した。

 一体何のつもりなのだろうと思っていると、何処からともなく女性的な、抑揚のない機械音声が応えた。

『ヱレゞ刂ω博士のバイタルチェックを開始。……脈拍、血圧の上昇を確認。いずれも規定値未満です』

 一先ず病気を移されていない事実に、胸を撫で下ろす。

(原因は?)

『極度の緊張と推測されます。温かいココアと睡眠を推奨します』

(そう……)

 圧倒的信頼を寄せる管理システムは、そのように判断したようだ。彼女自身、同様の答えを導き出した。

 だのに解せない。何かが引っ掛かる。

 自分の症状とこの男に因果関係がある事は間違いない。だが、正体までは、分からないが。

 その正体を詮索するより先にやるべき事がある。

 彼女は耳飾りに指を添え、一言念じた。

(オモイカネ。回線を開いて)

 

 

 男が意識を取り戻すと、また見知らぬ場所にいた。

 何だかこんな事ばかりだな、と苦笑を形作り、クッと喉を鳴らした。

 床は染み一つ無く白く、天井も壁も見当たらない。そして足元には影すら存在しておらず、宙に浮いているのかと錯覚してしまう。

 ペタペタと自身の身体に手を這わせる。異常は見当たらない、生まれたままの姿だ。

 これは夢か? 当然の思考が真っ先に浮かぶが、彼は経験からそれを否定した。

 そして不用意に足を踏み出す。一歩先、全てが白色で塗りつぶされた世界は距離感も掴めず、床が続いているかも見た目では判断できなかったが、彼の足裏は硬質な何かを掴んだ。

 そのまま真っ直ぐ、方向感覚も定かではないが、歩き続ける。

 そして十歩も経たない内に、男は盛大に、頭をぶつけた。

「痛ぅ~~っ」

 額を押さえながら、もう一方の手を突き出すと、指先が硬質な何かに触れる。

 壁だ。壁があったのだ。掌から伝わる感触からして、おそらく、床の材質と同じものだろう。床と壁とが――おそらく天井もあるのだろう――全くの同色であること。そして全体が発光でもしているのか、影が出来ない事もあり全く距離感も存在感も認識出来ない。

 もしかして、閉じ込められた? いや、もしかしなくてもそうなのか?

 意識の落ちる前、記憶の糸を手繰る。久々に人間(?)と出会えた喜びのあまり、女性の手を取り――警戒されても仕方のない。

 男の頬をタラリと一筋の汗が流れる。

 どうすっぺなぁと頭を抱えそうになったその時である。丁度目の前にあった壁が突如として透明になり、その向こう、三つの人影がこちらを伺うように並んでいた。内一人は、先程の女性である。

 その技術にも驚いたのは勿論のこと、それ以上に彼が驚いた事があった。

 三人の目鼻立ちから髪の色、身体の造形まで、一寸違わず同じだったからだ。

 それでも、彼が先程の女性と認識出来たのは三人それぞれの服装と、髪型が異なっていたからだ。

 まず、先程の女性。プラチナブロンドの髪を三つ編みにし、白衣を纏っている。目が合うと、何故か顔を逸らされてしまった。彼女の手元には半透明のモニターが浮かんでおり、見たことのない文字が綴られている。

 次にガラス壁に手をつき、こちらを興味深そうに伺っている女性。ボリュームのある髪は緩やかに波打っており、見事な肢体を浮び上がらせるピッチリとしたパイロットスーツとのようなものを着ている。

 その二人の間に立っているベリーショートの女性。彼女も同様にパイロットスーツを着用しているが、更にその上から軍服、を羽織っている。見たことのないデザインの服をどうしてそう思ったのか、それは彼女のおおよそ隙の見当たらない佇まいに起因していた。

 彼女らの呼称を便宜上、ロング、ウェーブ、ショートとしよう。

 さて、そのショートだが。腕を組んだまま微動だにせず、決してこちらから視線を外そうとしない。少し、色の薄い鈍色した瞳からは一切の感情が読み取れず、好奇の色も、蔑む色も見られない。本当にただ、目の前で何か動いている、そう事実を淡々と視認しているだけのようだった。

 皆一様に飛びきりの美人ではあるが――同じ顔なのだから当たり前だ――、その美貌もそれぞれの纏う雰囲気だけでこうまで違う印象を与えるのだから不思議なものだ。

 どうしたもんかと、男は「あー」だとか「うー」だとか唸りながら考える。

 その度にウェーブは指を差して笑い、ショートは眉根の皺を更に深くした。

 どうするか、なんて考えつかない。どうなるか、なんて分からない。

 取れる行動は限りなく少ない。それでも、自分以外の人間、異星人であろうとも友好的でなかろうとも、出会えたという事実は彼の心にとって随分な救いであり。

 前ほど悪いことにはならんだろうと結論づけ、彼は思考を打ち切った。

 

 

(アレ面白いねぇ)

 ガラスに顔を目一杯近づけウェーブが言う。

 その視線の先には、今正に目を覚まし、自分の身体をペタペタと不思議そうに触る彼の姿があった。

 ウェーブが触れているガラスは通常のガラスではない。こちらから中は見えるが、中からは見ることが出来ない。マジックミラーのようなものだが、それと違うのは特殊な電気信号を流す事で向こう側からも見えるようになるところだ。

(近づき過ぎよ、亻└|了)

 そんなウェーブのハシャギっぷりにロングは溜め息を吐いた。彼女はウェーブとは対象的に、壁から距離を取っていた。そして、数値が目まぐるしく変わる、手元のホログラフモニターと眼前の男を、交互に見ている。

(心配性だねぇ、ヱレゞ刂ωは。アレが何したって、どうすることも出来ないわよ。ねぇ了・/゙/″∃?)

 突然話を振られたショートの返答はというと、眉根の皺を深める、というものだった。

(まったく。了・/゙/″∃は相変わらず無口なんだから)

 ウェーブは不満そうに唇を尖らせ、仲間らへの興味を失うと再び男の観察へと戻る。

(あっ! ほらほら! こっちに来たよ!)

 その言葉に二人も視線を男へと移す。キョロキョロと忙しなく周囲を見回しながら、こちらに近付いてくる。その勢いを緩める事無く――。

 ゴツン。

「アハハハハハハハハ!!」

 盛大に頭をぶつける男の滑稽な姿に、ウェーブは声を上げて大笑いした。

(……はしたないわよ)

(いやぁ、しょうがないじゃん?)

 腹を抱えて笑うウェーブに、ロングは非難めいた視線で睨めつける。ウェーブはさして反省した様子もなく、目尻に浮かんだ涙を拭っている。

 そんな仲間の姿が――ウェーブが騒がしいのは何時ものことなのに、何故かロングの鼻についた。

 彼女らが口を開かずに意思の疎通を行っている事に気付いた者はいるだろう。

 テレパシー、などというオカルトではない。れっきとした科学技術の恩恵である。三人全員が着用している耳飾りはフォーカスと呼ばれ、脳内の電気信号を解析し、管理システムたるオモイカネが解析した電気信号を他の着用者に送信しているのだ。

 大層な説明をしたが、端に思考で行う携帯電話といったところだ。

(あ、いいこと思いついたわ!)

 ウェーブの顔がパァっと明るくなる。対象的にロングとショートは顰めっ面になった。

 何をするつもりなのか知らないが、碌な事ではないことを二人は理解していた。止めよう、とするよりもウェーブの行動は素早かった。

「オモイカネ!スクリーンオフ!」

『了解しました。スクリーンを解除します』

 機械音声が響いた次の瞬間、こちら側に変化は無いが、男のいる部屋からすれば劇的な変化が訪れたことだろう。

 男は驚きに背を仰け反らせる。そして彼もまた、興味深げにこちらをじいっと見ている。

 ふと、男とロングの視線が絡んだ。

 ――まただ。

 彼女は体温が高くなるのを感じた。

 咄嗟に視線を逸らす。何故、そんな事をする必要がある? 自分で自分の行動の制御も効かない。こんな事は、彼女にとって初めての事であった。

 何が、一体、どうして、アレは、私の心をこんなにも掻き乱すのだろうか?

 ――知りたい。

 手元のホログラフモニターの、男の健康状態を現した忙しなく変化する数字を見ながら、女の知的欲求がむくりと鎌首をもたげた。

 そう思い至るのは当然の帰結であった。何せ彼女の頭脳は生まれてこの方、理解出来ない事が無かったのだ。なればこそ、この感情の正体を掴もうとするのはごく自然なことで、そう、させる原因たる男に興味を持つのもまた、自然な事だった。

 モニターから顔を上げ、ちらりと横目にアレの様子を伺う。

 どうやらウンウンと唸り何事かを考え込んでいるようだ。

 アレの視線がこちらに向いていない事にホッと胸を撫で下ろすと同時に、一抹の寂寥感を覚えた。何故、そんな風に感じるのか、分からない、分からない……。

 だからこそ、知る必要がある。アレの事を。もっと、もっと。知らなくてはならない。

 

 

 ――少し、いいかしら。

 三人が部屋を退出した後、そう声を掛けたのはロングだった。

 アレの目が覚めた、とロングに言われ、二人は招かれこのような物を見せられた訳だが。

 一体どのような意図があってこんな真似を、とショートが訝しんでいると、ロングの先の台詞である。

 アレを披露する必要性なんて、そもそも無い。それ故にショートは、これがただの前フリに過ぎず、これから切り出す話こそが本命なのだとショートは考えていた。

(アレにフォーカスを与えてみようと思うのだけど)

 このような提案をロングがしてきたことは、あまりにも意外過ぎて言葉を窮したぐらいだ。

 フォーカス、というのは彼女らが着用している、耳飾りを模した端末のことだ。

 小型ながらも、その機能は多岐に渡る。この艦は管理システムであるオモイカネを通してほとんど全てが機能しており、フォーカスはそのオモイカネにアクセスする為に必要な端末であった。

 だからこそ、三人という少ない人員とアンドロイドらで艦を運用出来ているのだ。

 ロングは遠回しに、こう言っているのだ。彼を自由にしてみないか、と。

 馬鹿馬鹿しい。ロングも詰まらん冗談を言うものだと一笑に付してやろうとしたのだが、その様子は一ミリも巫山戯た箇所がなかった。

(……正気か?)

(勿論よ)

(尚更たちが悪い)

 ショートは眉間の皺を更に深めた。

(いいじゃんいいじゃん! 面白そうだし!)

 話し合いに乗り気では無かったウェーブが食いつく。

 ショートはロングを睨めつけ、その真意を探ろうとする。

(何故そんな事を?)

(簡単よ。彼に知性があるから。なら話を聞いてみる価値があるかもしれないじゃない)

 彼女が断定する根拠がどこにあるのか、ショートには分からない。ショートは更に眉を顰めた。

(あのヒューマノイドもどきがか? とても知性があるようには見えなかったがな。仮にあるとしてだ、有意義な情報を得られるとも思わん)

(んもう、了・/゙/″∃はお硬いなぁ)

(感情論で艦を危険に晒せるか、バカめ)

 テーブルに伏し、ブーたれるウェーブの潰れた饅頭のような顔がむくれた。

(そもそも、原生生物との過度な接触は法律で禁止されてる。現状ですら、抵触しているとも取られかねない)

(超法規的措置を取ればいいじゃない、監察官殿?)

(それを許可する状況ではないだろう……!)

 問答はどこまで行っても平行線を辿った。いやさ、既に茶番の領域である。

 何故なら、彼女ら三人の権限は――緊急時に於いてはその限りではないが――いずれも同等である。二人が賛成に回っている現状、幾らショートが反対したところで、どちらかが反対に回らなければ結果は変わらないのだ。

 そして、提案を持ち出したロングは勿論のこと、ひたすら面白いと連呼するウェーブも、そうなる可能性はほとんど無いだろう。

 ショートにしては珍しく、疲れたように溜め息を吐いた。

(……条件がある)

 彼女が掲示した条件は以下のものだ。

 一つ、艦の安全の確保。これは絶対条件だ。これが認められなければ、如何なる手段を用いても提案を棄却する構えである。

 一つ、対象の常時監視。アレに何が出来るとも思わないが、だからこそ何をしでかすか分からない。

 一つ、緊急時に於ける対象の自由の剥奪。そのナニかがあった際に於ける対応である。無論、生死を問わずである。

 要するには、一つ目の条件である、艦の安全を絶対に守れという事だ。

(妥当なところね)

 ロングにしてもそれぐらいの条件は織り込み済みだったのだろう。一つ頷き間を置かず、条件を満たした提案を喋り始めた。

(その三つを満たすのは容易なことよ。フォーカスを着用させれば、その信号を拾い続けることが出来るわ。そしてオモイカネなら、常に監視することが出来るし、行動ログを遡ることも可能よ。それに緊急時ならフォーカスでアレの脳へ停止信号を発する事も出来る。それが不満なら、信号の強度でも上げて頂戴。原生生物の脳味噌を停止させるぐらい、訳ないでしょう)

 それで一の条件も同時に満たせるでしょ、とロングは最後に締めるもショートは首を横に振った。

(いいや、一つ目の条件が不十分だ)

 ロングは目を見張った。ショートの強情さに。

(報告は受けているぞ。アレの再生力は。フォーカスの信号程度で止まるとも限らん)

(それじゃぁ首輪でも付けたら? 爆弾付きの)

 ロングは投げやりに言った。本心からの言葉ではない。

 それでアレが死ぬとは、彼女は思わなかったがそれを口にすれば、問題をほじくり返し兼ねない。彼女は敢えて情報を伏せた。

(あ、それいいね! 首輪! ペットみたいで!)

 答えたのはウェーブだった。身を乗り出し、笑顔を張り付けている。

 ショートが僅かに口角を歪めた。

(そうだな。それで行こう)

 冗談で言ったつもりが本気で採用され、ロングは少しばかし頭痛を覚えた。

(ま、アナタ達がそれでいいなら)

(いやぁ、楽しみだねぇ)

 いつもと変わらぬ、マイペースを崩さないウェーブに、二人は呆れるばかりだった。

(ヱレゞ刂ω。私はアレが暴れたら殺すぞ?)

(ご自由にどうぞ)

 こうして、水面下では様々な思いが錯綜しつつも、話し合いは平和的に終わりを迎え、三人は解散した。

 

(待て――亻└|了)

 




長いので三つに分けることにしました

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