戦の香気に誘われて   作:幻想のtidus

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大変ッッッ遅れました!!!!
本気と気合いと根性が足りませんでした!(土下座しながら
これからは出来るだけ早く投稿していこうと思います。

久しぶりだったので、ご容赦を……(震え声


創生せよ

 暗い、暗い、暗い、闇。

 どれだけ見つめても、どれだけ待てども底は見えず、辿り着けない。

 そんな無明の空間に、一輝は居た。

 

 此処は何処で、この現象は何なのか。

 全く分からないが、何故か落ち着いていられる。

 何も感じない。

 何も感じられない。

 

 

 ただ、堕ちている。

 いや、堕ちている気がしているだけ。そんな感じなのかと疑問に思っているだけだ。

 

 

「………ん」

 

 

 すると、鼻腔を擽る何かを感じた。

 何かが焦げる匂い。甘美で、どこか惹かれる香気が漂っている。

 そして、光が一輝を包み込む。

 歓迎する様に、拒絶する様に。

 

 

 

 光が晴れた其処には────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね、死ね死ね死ね死ねぇぇッ!!!!」

 

「目障りなのよ、だからさっさと砕けて私の轍になりなさいよッ!」

 

「おおぉ……!

 見てくれよ、俺はまた首を獲ったぞ。俺を讃えるが良い!」

 

 

 

 ────凄惨なまでの地獄と化した破軍学園だった。

 皆が皆、気に入らないから、自分とは違うから、邪魔だから、と言った理由で嬉々として殺し合う。

 

 

 昨日まで和気藹々と語り合っていたであろう者達が、今や何の躊躇いもなく殺し合う。

 上を目指して研鑽を積んでいた者達は、己よりも上の者達を引き摺り下す為に殺し合う。

 

 他にも、他にも、他にも……数多の殺し合いが其処にある。

 

 

「一体、何が……!」

 

 

 一輝には何が何だか分からない。

 幾ら照魔鏡が如き慧眼を持つ《落第騎士》であろうと、コレは理解出来ない。

 確かに、人は争う物だと獣が声高々に語っていたのは知ってるし、その主張に頷ける部分は在ったが……だが、コレは────

 

 

 

「師匠……」

 

 

 背後から響くのは見知った声。

 振り返れば其処には、かつて些細ないざこざを起こし、それ以来、自身に弟子入りしていた真壁達五人が居たのだ。

 彼らの身体は煤で汚れ、所々に血が滲んでいるが、比較的軽症だった。

 

 

「良かった無事だったんだね……

 一体何が……」

 

 そして、一輝は彼らの身を案じ、事の顛末を聞こうと近くに寄るが……突如、真壁は一輝に銃口を向け、何の躊躇いもなく引き金を引き、発砲してきたのだ。

 

「ッ……!」

 

 それを一輝は並外れた戦闘技巧で紙一重で躱し、距離を取る。

 

 

「師匠……アンタには感謝している、嘘じゃない。その武技の冴え、勝利への執念、どちらもスゲェと理解してるんだぜ?

 だからこそ、妬ましいんだよ、恨めしいんだよ……ああ、だから殺す」

 

 

 彼らが発するのは混じりっ気のない純粋な殺意。

 嘘偽りなどなく、彼らは本気で一輝を殺そうとしているのだ。其処に理性という枷などありはしない。

 

 

 殺到する銃弾、長槍の刺突、日本刀の袈裟斬り、鉄棍と斧の一振り。

 すかさず一輝は《陰鉄》を幻想形態で顕現し、

 

「ごめん……!」

 

 

 謝罪を口にし、流れる様な太刀筋で五人の急所を斬り裂く。幻想形態により、痛みを発するが、外傷はない。

 五人に訪れるのは急所に攻撃を受けた事により昏倒。

 

 

 

「「「「「まだだッ」」」」」

 

「──────」

 

 

 その筈、なのに……彼らはいとも容易く乗り越えてくる。

 斬られた急所から魔力光を流れ出して尚、幻を、思い込みを、気合いと根性で淘汰し、彼らは再び一輝を殺しに狂奔する。

 確かに、幻想形態で受けた痛みは一時的なモノ。本来なら、この痛みから逃れる事は出来ないが、逃れる方法が無い訳ではない。

 決死の覚悟すら生温い、肉体と精神を超越した気力があれば容易に跳ね除ける事が出来る。

 

 だが、そんな手合いは滅多に存在しない。

 されど目の前の五人は確かに気力で痛みを跳ね除け戦闘を継続している。

 

 

「くっ……!」

 

 

 故に、一輝は逃走を開始する。

 今の彼ら相手に幻想形態は無意味。だからと言って実像形態で斬ろうにも、彼らは死ぬまで戦いを止めない。

 そんな確信があるからこその逃走だ。

 

 全身の筋肉を完全に掌握し、全力で真壁達から離れる。

 コレは明らかに可笑しい。

 幾ら何でも度が過ぎている。

 高レベルの精神操作……それを可能にする《伐刀者》によるテロ。

 一輝の脳内で幾つもの仮説が生まれる中────

 

 

 

 ────森羅(セカイ)が乱れ、世を穢す。

 

 業火が天を焦がし、氷と水が大地を埋め尽くす。

 大気を焼く紫電と刃の星屑は悲壮と恋慕の輪舞(ロンド)を奏で、(ヤミ)が流れ出し、影は蠢き、傷は開く。

 他にも、他にも他にも……

 

 常識など知らぬとばかりに世界を蹂躙する異界法則。

 お前ら気に食わんぞ。我が道を阻むというならその思い、理解はするが認めはしない。故に砕け散れ。

 

 此処は獣が踊る、真の人世である。

 

 

「なん、なんだコレは……!」

 

 

 あまりに現実離れし過ぎている。

 しかし、異常は終わらない。

 上空から発せられる濃厚な殺意の波濤。

 それに応じる様に、誰かが殺意を放つ。

 

 

 ────そして天が割れた。

 

 

 到来するは覇道を謳う天の星。

 童女が手繰る破壊の鉄槌に他ならない。

 重力という人が抗う事のできない絶対法則が牙を剥き、たった一人の人間に向かって撃ち放たれようとしていた。

 

 

 ────応じる様に、時空が捩れる。

 

 顕現するのは時と空間を捻り狂わせる一発の弾丸。

 麗人が放つ世界を破滅させる絶技。

 

 昔を再現(なぞ)る様に、あの時の再戦を開始した二人の女。

 訪れたのは、大破壊。

 天の星は砕け、捻れた時空間は罅が奔る。

 どちらも互角、故に余波で破軍学園の校舎が壊れていく。当然、生徒や教員達も巻き込まれ、圧倒的な破壊力の前に沈んでいく。

 

 

 

『まだだッ!!!!』

 

 

 またもや皆が口を揃えて否だと告げる。

 こんなの物に負けなどしない、と気合いと根性で大破壊に堪えていたのだ。

 身体に罅が奔ろうとも、魔力が尽きようとも負けはしない。

 

 

「ぐ……!」

 

 

 一輝は堪らず全身から力を抜き、二つの絶対が巻き起こす余波に身を任せ、ダメージの軽減を図る。

 天高く巻き上げられるが、何とかダメージを軽減させる事が出来た一輝は近くに在った第七訓練所の屋根に着地した。

 

 

「……が、げほっ……!

 本当、何なんだ……!?」

 

 

 咳き込み、珍しく悪態を吐く一輝。

 だが、仕方のない事だろう。

 今までの日常が非日常に飲まれ、人は皆、獣と成り果てている。

 

 

「イッキ?」

 

「───ッ!?」

 

 

 またも背後を取られ、一輝はその場で身を捩りながら、声の主から距離を取る為に後退。

 直様、《陰鉄》を構え、攻撃に備えるが、

 

 

「ステラ?」

 

「どうしたのよイッキ、そんなに慌てて」

 

 

 其処に居たのは恋人であるステラだった。

 この地獄の様な世界の中で、初めて安堵出来た瞬間だった。

 思わず抱き付いてしまったが、是非もない。

 こんなに愛おしい彼女を離せる訳がない。

 

「良かったよ、ステラが無事で!

 本当に、本当に良かっ……」

 

 なのに、言葉が最後まで紡ぐ事が出来なかった。

 口から鉄の味がする。

 口の端から血が流れる。

 ゆっくりと、視線を下に移すと、

 

 

「ス、テラ……!?

 なんで……!」

 

 

 彼女の固有霊装が、《妃竜の罪剣》が、一輝の身体を突き刺していた。

 深々と刺さる罪剣を、ステラは躊躇いも無く引き抜く。傷口から一輝の血が飛び散り、返り血を浴びるがそれがどうしようもなく愛おしいそうに彼女は笑う。

 

「ああ、ああ……!

 イッキ、イッキ、イッキ!

 私の愛しい人、やっぱり貴方は最高よ!

 レージが言っていた事も今ならはっきりと理解できるわ。

 語り(殺し)合いの中なら、誰しもが正直でいられる……そうよ、そうよね、今もお互いを感じている思いは常に真実……なんて素晴らしいのかしら。

 さあ、イッキ。繋がり、抱き合い、交わって……甘い戦場(すばこ)に溺れましょう!」

 

 要領を得ないステラの長舌。

 しかし、一輝はそれさえ気にならない程、信じられない事実を見抜いてしまった。

 それは辺りの人々が、ステラが抱える爆弾とも言えるソレ。

 細胞が崩れる、激痛が身体を奔る。

 連鎖する暴威が犯し、冒し、侵し尽くす。

 想像を絶する痛みがステラ達の身体は蝕んでいたのだ。

 

 

「あら、イッキ。貴方は聖印を食らってないのね」

 

 心底、勿体無いと言わんばかりにステラは嘆く。

 こんなに素晴らしいモノを彼が受け取らずにいるなど考えられない。貴方はこの場に最も相応しいのに。

 その時、ステラの嘆きに何かが応じる。

 胎動する光の意思。斯く在れかしと叫ぶ獣の咆哮が轟く。

 

「さあ、イッキ。貴方も一緒に」

 

 暖かく、血に染まる赤い手を一輝の頬に添え、ある一点に視線を促すステラ。

 其は天に輝く第二太陽──燦然と輝く輝照恒星(■■■■■■)が獣達の夢の果てを歓迎しながら佇んでいた。

 認識した瞬間、獣が此方へ首を向けた。

 

 そうか、お前も未だ人擬きか。

 ならば俺が用立てよう。遠慮するなよ、お前らは心の何処かで正直になりたいと思っていると知っている。

 好きに欲を描けよ。

 心の底から欲するのなら、それを得られる場所と力を与えよう。

 さあ、半端者よ。この聖印を受けるが良い。

 約束された繁栄を真世界にて齎そう。

 

 

 

「がああああァァァァッ───!?」

 

 

 途端、身体に奔るは連鎖する激痛。焼き刻まれる聖印。

 細胞の一つ一つを浄滅せんと猛る鏖殺の暴威が一輝の身体の中を蹂躙する。

 地に伏し、のたうち回りそうになるが、気力を振り絞って、なんとか膝を折るまでに留めるが、痛みは加速度的に増していく。

 崩壊という苦痛を丹念に凝縮された果てに純化された地獄の釜。

 この痛みと比べれば、死さえ優しく思えてしまう。

 

「……可笑しいわね、道理が合わない」

 

 しかし、ステラは当然の帰結を訝しげに眺める。

 意図していた結末と違う。そうじゃない、貴方がやるべき事は他にあるだろう。

 だが、それは一輝もそれは同じ。

 道理が合わない。自分だけでなく、彼女もこの痛みを常時受けている筈なのに、彼女はそれをまるで何事もないかの様に振る舞うなどあり得ない。

 

 

「ねえ、イッキ。なんで貴方は覚醒しないの?」

 

「覚、醒……?」

 

「決意、気合い、根性、胆力、努力、欲望……それを貫くだけの思いの度量があればこんな痛みなんてなんでもないじゃない。

 それに、貴方は出来る筈でしょう?

 ねえ、なんで覚醒しないのかしら」

 

 皆目見当も付かないとステラは首を傾げる。

 当然のことながら、ステラが語るのは暴論も暴論だ。

 そんな事、皆が出来ればこの世に無理や不可能など存在しない。

 だが、おそらくこの世界はそういう世界なのだろう。

 出来る者は出来るし、出来無い者は出来るまで無限に続く地獄の世。

 

「本来なら、此処に一番適合してるのはイッキなのに……貴方も偽るの?

 そんなに嫌?

 貴方の末路が────」

 

 

 彼女は告げる。一輝が辿る末路を。

 しかし、それを最後まで聞く前に、一輝の意識は無明に落ちた。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「─────キ」

 

 

 声が、聞こえる。

 とても愛らしく、先程恐ろしいと感じた声が。

 

「──、…ッキ!」

 

 

 薄っすらと、瞼の隙間に射し込む光を得て、ボヤけた視界に映るのは紅蓮の如き赤。

 

「ねえ、イッキ!」

 

 そうして、脳は覚醒を果たし、眼前の情報を正常に処理を開始する。

 覗き込む様に目と鼻の先まで迫るステラ。

 

「もう、イッキ。早くしないと珠雫の試合が始まっちゃうわよ?」

 

 ふと、時計に視線を向ければ、時刻は正午を回ろうとしており、珠雫の試合の30分前となっていた。

 

「ああ、ごめん。ステラ」

 

「珍しいわね、イッキ。何時もならこんな時間に寝たりなんかしないのに」

 

「うん、ちょっとね……」

 

「……レージのこと?」

 

「いや、違うよ。心配させてごめんねステラ」

 

 

 一輝はステラに要らぬ心配をさせない為に嘘を吐く。

 彼女の言う様に、一輝には《雷切》と《天香香背男》の戦いが脳裏に焼き付いて離れない。

 もう三日前の話だというのに、妹の試合の目前だというのに、気付いた時にはあの試合を思い返している。

 

 何故、自分はここまであの試合に惹きつけられているのか──理由は分からない。

 東堂刀華の騎士道に懸ける思いや信念、背負った物の重みを尊敬したのか。

 はたまた、櫻井嶺二の獣に懸ける渇望や、あの雄々しさに憧れているのか。

 理由は分からない。

 けれど、確かな事は一つ。自分は、あの獣を知りたいと思っていること。

 

 この事を鑑みれば、後者が正しいのかもしれない。

 では、彼の言う獣とは一体なんだというのだろうか。

 嘘を吐かぬ正直者か?

 鋼の決意を持つ何某か?

 絶対無比の力を持つ強者か?

 きっと、どれでもあって、どれでもない。

 そんな気がしてならないのだ。

 

 

「ねえイッキ、聞いてるの?」

 

「え、ああ……ごめん何の話だっけ」

 

「だから、珠雫は今日の試合勝てるかどうかよ」

 

「……勝てるかどうかは分からないな。珠雫の相手は学園序列2位《紅の淑女》。厳しい戦いになるだろうね」

 

 《紅の淑女》────あの《雷切》東堂刀華に次ぐ実力者にして、この学園の中でも《特別招集》による実戦経験のある数少ない《伐刀者》だ。

 彼女が身に纏う白い服が鮮血に染まって見える程の凶暴な気配を、一輝は知っている。

 

 故に、今回は激戦だ。

 お互いの得意分野であるロングレンジとミドルレンジの奪い合いとなることは必至だ。

 だからこそ、一輝は珠雫に無理はして欲しくないのだが……

 

 

 現実は、誰しもが予想だにしない方向へと舵を切る。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 ──破軍学園・第四訓練場。

 

 

『さあ、本日の最終戦の選手を紹介しましょう!

 青ゲートから姿を見せたのは、今我が校で知らない者はいない注目の騎士・黒鉄一輝選手の妹にして今年度次席入学生!

 

 戦績は十三戦十三勝無敗!

 抜群の魔力制御を武器に、今日も敵手を深海に引きずり込むのか!

 一年《深海の魔女》黒鉄珠雫選手です!!』

 

 

 割れんばかりの歓声は、彼女の覇道への期待。長らく破軍学園に齎されなかった頂という夢だった。

 そんな歓声を背に、珠雫は思いを馳せる。

 第四訓練所は兄の覇道の第一歩となった《狩人》との戦場。

 ならば、自身も続くのみ。こんな所では止まれない。

 

 どうか此方を振り向いて欲しい。私は、守られるだけの女じゃないと認めて欲しい。

 その一心で彼女は、此処まで上り詰めたのだ。

 

 だが、相手もまた強者。

 あの《雷切》に続く《伐刀者》。

 

 自然と目の前で日傘を差す淑女から目を離せなくなる。

 相手がこの学園の二位だからか?

 相手が自分より格上だから?

 いいや違う。ひたすら不快なのだ。

 見ていると気持ちが悪くて仕方がない。

 

 

『対するは、この学園二位の淑女!

 戦績は十三戦十三勝無敗!

 今日もその星屑で、全てを赤く染めるのか!?

 《紅の淑女》貴徳原カナタ選手!』

 

 

 人嫌いを自称する自身だからこそ見える物がある。これでも兄に降りかかる悪意には敏感だという自負はあるし、見逃すことなどあり得ない。

 だが、理由が分からない。

 目の前の淑女が兄に悪意を向ける理由など見当たらない。

 

 

 しかし、そんなモノなど些事だと即座に切り捨てる。

 どちらにせよ、己は勝たねばならないのだ。

 こんな所で迷ってる暇は無い。

 

 

「飛沫け──《宵時雨》」

 

「参りますよ──《フランチェスカ》」

 

 互いが手にしたのは小太刀と細剣。

 それと得意とするはミドルレンジとロングレンジによる戦闘。

 ゆえに────

 

 

(開幕と同時に押し切る!)

 

 

 試合開始と同時に魔法で押し切る。倒し切れなく共、此方のペースに引き込む。

 出し惜しみなど、してはいけない。

 お互いの間合いは同じ、得意分野も同じとなれば、此方が引き込まれては勝ちは遠退いてしまう。

 

『LET's GO AHEAD!』

 

 

 魔力を廻し、冷気として解き放つ。

 何時もの様に、世界を白く染め上げるべく、絶技の名を口にする。

 

「凍てつけ──……」

 

 

 凍土平原。

 そう、何時もの様に。氷の世界が顕現する。

 顕現したのに……

 

「ぐ、が……!」

 

 

 ──拳が、脳を揺らす。

 珠雫や一輝、この場にいた者達の予想は大きく裏切られた。

 ミドルレンジとロングレンジを奪い合うのでもなく、開幕は淑女による拳撃だった。

 意表を突く、クロスレンジによる戦闘。

 そこから貴徳原は《フランチェスカ》による怒涛の連撃へと移行した。

 

 

 直様体勢を立て直した珠雫は《宵時雨》を盾にし、連撃をいなす。仮にも彼女の家は《伐刀者》の名家。一輝程ではないにしろ、ある程度の武術は納めている。

 十合打ち合い、珠雫は堪らず距離を取り────

 

 

「《水牢弾》!!」

 

 

 水の砲撃を放った。

 タイミング、威力共に完璧に放たれた絶技は、過去最高の精度で飛来する。

 

「────フランチェスカ」

 

 しかし、水の砲撃は淑女の眼前で、霞の様に消え失せた。

 これこそ、彼女の能力。

 手に持つ細剣を素粒子レベルまで砕き、億を越える刃を持って、敵手を削る絶技。

 

「ふふふ……」

 

 淑女は嗤う。

 三日月の様に裂けた笑みを浮かべて。その笑みと《雷切》が、あの獣が重なって見えるのだ。

 

「ああ、素晴らしいですわね、珠雫さん。

 溢れんばかりの闘志……そして愛。どちらも同じ恋する女として感服しました」

 

 唐突に貴徳原の口から出てきたのは賞賛。

 彼女は本気で賞賛し、口にしている。

 素晴らしいと認めている。ゆえに、だからこそ────

 

 

「認めているからこそ、否定しますわ。それこそ、光に奉じる道なのですから」

 

 かつて出会った至上の光を、赤く染まった戦場で舞う獣に恋い焦がれた少女の魔力が廻り、狂した意志が駆動する。

 そうだとも、光は光で素晴らしい。

 素晴らしいのだから、皆も手と手を繋いであの偉大な光を讃えよう。

 

 

「創生せよ、天に願った渇望を──我らは狂える狂愛(あい)の使徒」

 

 

 さあ、刮目せよ──これこそ愛の発露。

 我が祈りの果てとしれ。

 星屑の産声が、獣の咆哮が天に轟く。

 

 

 






さて、皆さん。
狂人に恋する少女はお好きですか?
英雄はお好きですか?
自己愛はありますか?
覚醒できますか?
そして、詠唱は好きですか?

感想、アドバイス、待ってます。次回もこんな作品で良ければお待ち下さい!

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