前話での神裂の口調が合ってるかイマイチ自信がない……大丈夫…だよね?
「───という涙無しでは語れない話でして……!」
「どこがだよ!単なる神父さんのミスじゃん!」
涙を滝の様に流すアダムに対して上条はキレのあるツッコミを入れた。
インデックスの再三に渡る食事の要求に折れ、朝食ついでに上条は二人から事の顛末を聞いていた。
「大体、いきなり魔術なんて言われても『あぁ、はい。そうですか』って納得出来る方がどうかしてるよ」
「むぅ…あるもん!あるもん!あるもん!あるもん!魔術はあるもん!」
「だったら、その魔術を見せてみろって!お前も魔術師なんだろ?」
先程まで威勢良く──というより、子供が癇癪を起こした様に騒いでいたインデックスは押し黙り、静かに呟く。
「魔力がないから…使えない」
「ほらな?それ見たことか」
「それなら君だって何か出来るの?例えば、炎を出したり念動力とか」
「うっ…それを言われると耳が痛い…」
というのも、上条自身は炎を生成したり卵を念じて動かす事すら不可能な"無能力者"。魔術を信じられない気持ちは変わらないが、科学的異能を披露出来ない事に歯痒さを感じた。
唯一、自分が持っているものは、その異能な力を無にする右手──"
「それにしても、Ms.インデックスは良い修道服を着ていますね。綿100%なのですか?」
「それだけじゃないんだよ。布地や刺繍、この服を構成する有りとあらゆる物が使用者を保護する為に計算されてるの。しかも強度は法王級!」
「おぉ!それは素晴らしい!何処で販売されているのですか?ユ○クロ?し○むら?」
「い、いや非売品なんだよ…」
その時、上条に電流走る。(比喩的表現)
もし、その修道服が本当に異能であるなら、自身の能力を証明出来るのではないかと。逆に、触れて何も起こらないなら魔術をインチキだと証明出来る。
早速、上条はインデックスに『修道服を右手で触り、自分の能力を証明する』と提案した。出来るものなら、やってみろと言わんばかりに快く承諾したインデックスと未だに『ねぇ~何処ぉ。もしかしてヤ○オク?Am○zon?』としつこく質問するアダム。
「じゃあ…触るぞ」
何とも淫靡な語感を漂わせながら、上条の右手が修道服に触れる。
───が、何も起きない。
「何も起きねぇ…って事は、やっぱインチキじゃねぇか!」
「ふーんだ!君の力こそインチキなんじゃない?何故ならシスターはウソつかないから!はい論破!」
「いや、全然論破してないっての!屁理屈通り越して開き直りだろ!」
ギャーギャーと騒ぐ二人とは正反対にTVの占いコーナーで静かに一喜一憂するアダム。
───そんな中、インデックスの修道服に異変が起きる。
ハラリ…とインデックスの身体を纏う布が音を立てず床に落ちる。
一糸纏わぬ姿を晒した事にインデックスが気付いたのは、上条の凍り付いた表情とアダムの『Oh…』という悲し気な呟きだった。
修道服を台無しにされた事よりも裸体を晒した事の方がインデックスの羞恥心は増大し、躾が不十分な猛犬の如く上条の頭に噛み付いた。
「ギャャアァァァ!止めてくれぇぇぇ!!」
インデックスが上条の頭を齧る傍ら、アダムは手慣れた手つきでせっせと修道服を修繕していた。
~~~
インデックスは修繕された修道服を身に纏い、嬉し気に回転する。年相応にはしゃぐインデックスは確かに可憐であり、人を和ませるオーラを感じさせた。
だが、修道服の背中には"道産子パワー"と金色の刺繍が施されており、先程のいざこざで辟易していた上条は敢えて見てみぬ振りをした。
昨日の魔術師の件と修道服を修繕した事により、すっかりアダムに懐いたインデックスは質問を投げ掛ける。
「そういえばアダムさんはどこの宗派?イギリス清教?それとも……」
「いえ、私はどこにも所属しておりませんので。敢えて言うなら"Love&Peace教"ですかね」
「あってたまるか!そんな珍妙な宗派!」
キレのあるツッコミを入れる上条。早速、ツッコミ要員としての頭角を露にしていた。
アダムの言葉をただの冗談だと上条は軽く受け流したが、インデックスは違った。
小刻みに震えだし、その振動でテーブルもガタガタと震える。
「ア、アダム神父…もう一回聞くんだよ?あ、貴方の宗派は?」
「…?基本的にどこにも属していませんが、敢えて言うなら"Love&Peace教"とだけ──」
インデックスは脱兎の如く部屋の隅に逃げ、頭を抑えだす。
まるで、猛禽類に狙われた小動物の様に。
「ま、ままっまさか…ホッホントに実在するなんて…」
「おいおい…一体どうしたんだよ」
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遠い昔、イギリス清教の管轄内には多数の村があった。
当然、管轄内の村にはイギリス清教は恩恵を与え、村民にはイギリス清教への信仰を義務付けていた。
正に、持ちつ持たれつの関係である。
そんな時、一人の神父が村に迷い着いた。
かなりの長旅だったらしく、不憫に思った村民達は手厚く歓迎した。すると神父はその事に感銘を覚え───、
『お礼に長旅の話をしたい』
と、村民達に自身が体験した長旅の話をした。
そこからである──歯車が狂い出したのは。
突如、村民達はイギリス清教への信仰を捨て、謎の神父を師事し始めた。
当時のイギリス清教の信徒が村民に問いただすと、皆が口を揃えて、こう述べた。
『我々は世界に友愛と安寧を広げる"Love&Peace教"の信徒となります』
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インデックスの話が終わり、上条はあまりの衝撃に口を大きく開けて言葉を失う。
アダムは懐かしむ様な表情で虚空を眺めていた。
「あぁ~、懐かしいですねぇ。長らく村民の方々とお会いしていないので、お元気だと良いんですが…」
「ヤ、ヤダなぁ神父さん。まるで、その場にいたみたいな言い方するなんて」
「いえいえ。私は実際にその村を訪れ、村民方と交流しましたよ」
「…ちなみに、この話は……すっ、数百年前なんだよ…」
場の空気が凍る。
言葉を失う二人をよそにアダムは何かを察知し、鋭い目付きで外に視線を送る。
「むっ!今、助けを呼ぶ声が…」
そう言うと、ベランダの窓を開けて柵に乗り掛かる。
「名残惜しいですが、私には使命がありますので…これにて失敬!」
「待て待て待て!まだ話は──」
「いざ!Flyaway!!」
綺麗に十字のポーズを取りながら落下し、慌てて上条はアダムが落ちたであろう落下位置を確認する。
だが、そこにアダムは居らず少し離れた歩道を爆走中だった。
木枯しの様に忽然と現れ、疑問だけを残して嵐の様に去って行く。上条はただそれだけで疲労感の許容範囲が上限を突き抜けてしまい、へ垂れ込む様にベランダで胡座をかく。
そんな上条を露知らず、インデックスは未だに震えていた。
モヤモヤとした心とは正反対の雲一つ無い青空に顔を向けて、小さく溜め息を溢す。
「不幸だ…」
次回は風紀委員との邂逅です、お楽しみに。