ストライク・ザ・ブラッド―混沌の龍姫―   作:アヴ=ローラ

4 / 18
聖者の右腕 参

「〝若い世代〟、下がる」

 

〝若い世代〟の吸血鬼の男に、下がるよう促す姫乃。ああ、と首肯して彼は姫乃から少し下がった。

 一方、法衣の男は、得体の知れない姫乃(少女)に警戒しながら、問いかけた。

 

「ロドダクテュロスの一撃を、指一つで受け止める貴女はいったい何者ですか!まさか、最近この島に出没したという」

 

「うん。ワタシは、オマエの想像通りの存在。異界の楽園に棲まう龍神」

 

「な………ッ!?」

 

 姫乃の正体を知った法衣の男と人工生命体(ホムンクルス)の少女は戦慄した。

 まさか、魔族狩りをしていたら原初龍(バケモノ)に遭遇するとは、なんたる不運なことか。

 法衣の男か、冷や汗を滝のように流していると、姫乃がじっと見つめてきて、

 

「………オマエたち、御主人様が捜してる魔族狩りの常習犯の特徴と似てる」

 

「………!?」

 

『似てるもなにも、彼らが南宮那月ちゃんが捜してる、魔族狩りの常習犯だよ』

 

「やっぱり、そう」

 

 創造主(カオス)が答えると、姫乃は確信したように頷き、法衣の男と人工生命体(ホムンクルス)の少女を見回した。

 

「オマエたちをこれから御主人様の下に突き出す。逃亡も抵抗もしなければ、痛い思いはしない」

 

「―――ッ!?」

 

 法衣の男の顔が強張る。御主人様というのが誰かは知らないが、ここで捕まるわけにはいかない。

 しかし、相手は原初龍(バケモノ)。自分が挑んで勝てるわけがない。

 そんな彼を庇うように、人工生命体(ホムンクルス)の少女が前に出てきて、

 

執行せよ(エクスキュート)、〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟」

 

 仄白く輝く透き通った腕で姫乃を攻撃した。が、腕が姫乃を殴打するよりも早く―――

 

「―――ガッ!?」

 

 人工生命体(ホムンクルス)の少女の小柄な身体が、不可視の攻撃を受けたように吹き飛ばされてしまった。

 

「アスタルテ!?」

 

 法衣の男は、血相を変えてアスタルテと呼ばれた少女の下へ駆け寄る。

 彼女は幸い目立った怪我はなかったが、地面に背中を強く打ち付けたのか、苦悶の表情をしていた。

 

「貴様………!」

 

 法衣の男は、怒りに任せて姫乃に襲いかかった。彼が戦斧を振り上げた刹那―――バキャン、と戦斧(それ)は粉々に砕け散り、

 

「―――ガハッ!?」

 

 不可視の攻撃を受けて法衣の男の着用していた強化服も砕け、彼の巨躯な身体は呆気なく吹き飛ばされた。

 地面に倒れ伏す彼を見た〝若い世代〟の吸血鬼は、唖然とした表情をしていた。自分と友達(ダチ)が手も足も出せなかったあの僧侶(ボーズ)を、あんな簡単に倒してしまう姫乃に恐怖と憧憬が入り混じった感情を抱く。

〝若い世代〟の吸血鬼が見るからに、姫乃は一歩も動かず、指一つ数回振っただけだった。まるで、杖を振って魔法を行使する魔法使いのように。

 地面に倒れた彼らの確保に向かおうとする姫乃。すると、不意に〝若い世代〟の吸血鬼が姫乃を呼び止めた。

 

「ま、待ってくれ!」

 

「ん?」

 

「俺の友達(ダチ)が死にかけてるんだ!あんたの力で助けられないか!?」

 

 必死に懇願する〝若い世代〟の吸血鬼。姫乃は、うん、と首肯し、

 

「獣人の彼はまだ生きてる。ワタシが彼の傷を癒せるから、ちょっと待つ」

 

「ほ、本当か!?す、すまん………どうか、俺の友達(ダチ)を頼む!」

 

「うん、わかった」

 

 姫乃は了承し、指を振る。たったそれだけで、瀕死だった獣人の男は、まるで時間が巻き戻るかのように再生していった。

 そして、完治した獣人の男の下へと〝若い世代〟の吸血鬼が駆け寄る。

 

「おい、無事か!?無事なら返事してくれ!」

 

 しかし、獣人の男からの返事はない。代わりに、姫乃が〝若い世代〟の吸血鬼の下へ歩み寄ってきて、

 

「大丈夫。ワタシの能力で眠らせてるだけ。じきに目覚める」

 

「そ、そうか………よかった」

 

 ホッと胸を撫で下ろす〝若い世代〟の吸血鬼。その彼が姫乃をじっと見つめて、

 

「………なに?」

 

「いや。昨日会った時のあんたとは、まるで別人だなと思って。天使みたいに優しくしてくれるからさ」

 

「天使、違う。ワタシは龍神」

 

「あ、ああ。そうだったな………悪い」

 

 頭を掻きながら謝る〝若い世代〟の吸血鬼。そんな彼は、完治した獣人の男を背負い、

 

「本当にありがとな、あんた。この恩は一生忘れない」

 

「うん。ナンパはほどほどに」

 

 うぐ、と姫乃の忠告が〝若い世代〟の吸血鬼の胸を抉る。今回のケースは、向こうから誘ってきたわけだが、その言い訳は飲み込んで頷いた。

 

「じゃあ、俺たちはこれで」

 

「うん」

 

 獣人の男を背負って、〝若い世代〟の吸血鬼は去っていった。

 姫乃は、彼らの背を見送り、法衣の男たちが倒れている方に向き直ると、

 

「―――!」

 

 不意に光の槍が、姫乃の眼前に迫ってきた。

 その不意打ちに、姫乃は小さな拳で殴りつけて粉砕する。

 姫乃は、光の槍が飛んできた方向に視線を向ける。するとそこには―――

 

「ほう?貴様が弱者を守り、命まで救うとは驚きだ」

 

 黄金の髪と蒼い双眸を持つ、純白のローブを着た少年がいた。

 神々しい力、神力(霊力)を全身から溢れ出している彼を、姫乃は、あっ、と呟き―――

 

「………聖書の神ヤハウェ(やー君)?」

 

「誰が、やー君だ!(オレ)は唯一神ヤハウェ!ユダヤ・キリスト教の唯一絶対なる神だ!イスラム教では唯一神アッラーフと呼ばれているがな」

 

 やー君もとい唯一神(ヤハウェ)が怒りながら姫乃を睨みつけた。

 しかし、姫乃は華麗に無視して、彼の背後に目を向けて小首を傾げる。

 

「………人間と人工生命体(ホムンクルス)の子は?」

 

「ん?ロタリンギア殱教師、ルードルフ・オイスタッハと、人工生命体アスタルテ(オレの妻)なら………(オレ)が逃がした」

 

「―――――え?」

 

 唯一神(ヤハウェ)の言葉に驚く姫乃。

 

「………あの人工生命体(ホムンクルス)の子が、ヤハウェ(やー君)の正妻?」

 

「驚くところソコかよ!?名前がアスタルテだから、かつての(オレ)の妻と重ねて言っただけだ!つか、やー君言うな駄龍!」

 

「地中海世界各地で広く崇められたセム系の豊穣多産の女神(アスタルテ)?たしかに、ウガリット神話において、女神アスタルテは最高神イル(やー君)の妻とされる説もあるけど―――」

 

 じっと唯一神(ヤハウェ)を見つめたのち、姫乃はポンと納得したように手を打った。

 

ヤハウェ(やー君)って………幼女好き(ロリコン)?」

 

「はあ!?なにを馬鹿なことを言ってんだこの駄龍は!?」

 

『なるほどねえ。たしかに、人工生命体(あの子)可愛かったからね。ヤハウェくんが妻にしたくなる気持ち、わからなくもないよ?まあ、ボクの愛娘ちゃんよりは劣るけど』

 

原初龍(コイツ)幼女体型(ロリ)に創ってにやけている変態の貴様と一緒にするな!」

 

 姫乃の紅い双眸の奥に潜むであろう〝原初の混沌(カオス)〟を睨みながら吼える唯一神(ヤハウェ)

 混沌神(カオス)は、やれやれ、と呟いて、

 

『ボクが愛娘ちゃんを幼女体型(ロリータ)に創ってるのは、その方が弱く見えるからに決まってるよ?ヤハウェくんと違って根っからの幼女好き(ロリータ・コンプレックス)というわけじゃないよ』

 

「ふん、どうだか―――って、だから(オレ)はロリコンじゃねえ!」

 

「………昔、ヤハウェ(やー君)神話(世界)に行った時―――天使や悪魔が幼女(ロリ)に統一されていた気が」

 

「だー!それは、貴様の、見間違いだ!」

 

 唯一神(ヤハウェ)が鬼のような形相で姫乃に詰め寄りながら言ってくる。

 そんな彼から、姫乃()を守るように混沌神(カオス)が言った。

 

『うわあ!愛娘ちゃん逃げて!ヤハウェ(ロリコン)くんに孕まさせられちゃうよ!』

 

「ロリコンじゃねえって言ってんだろ!って、誰が駄龍(コイツ)孕ませる(妊娠させる)かよ!?駄龍(貴様)も然り気無く(オレ)から距離を取ってんじゃねえ!」

 

 自然な動きで離れていく姫乃に激怒する唯一神(ヤハウェ)。そんな彼を愉しそうにからかって遊ぶ混沌神(カオス)

 姫乃は、唯一神(ヤハウェ)から一定の距離を保ちつつ、無感動な瞳で見つめて、

 

「………ヤハウェ(やー君)は、この世界に何しに来た?」

 

「やー君言うなと言ってんだろ駄龍!ん?(オレ)か?(オレ)は、さっきの殱教師と妻―――ではなく、人工生命体(ホムンクルス)の娘とは協力関係といったところだな」

 

 姫乃の質問に答える唯一神(ヤハウェ)。それと、と彼は言葉を付け足して、

 

原初龍(貴様)殺しに(壊しに)来た」

 

「………!」

 

 唯一神(ヤハウェ)の放つ殺気に身構える姫乃。すぐに殺し(壊し)合えるよう臨戦態勢に入る。

 だが、唯一神(ヤハウェ)は殺気を消して首を横に振った。

 

「今、貴様と殺し(壊し)合う気はない。〝(オレ)〟と〝龍神(貴様)〟がここで闘えば、間違いなくこの島は滅ぶからな」

 

「うん。全知全能の神(全盛期)だった頃のヤハウェ(やー君)と異界で闘った時、その世界が滅んだ」

 

 姫乃の言葉に頷く唯一神(ヤハウェ)

 全能者同士の戦闘は、宇宙の法則を容易く捻じ曲げ、世界を破滅させるほどのものだったのだ。それを経験している二人だからこそ、絃神島(ここ)での戦闘を避けるべきと悟ったのである。

 

「けど、現時点()ヤハウェ(やー君)は全知全能の神じゃない」

 

「ああ。貴様に敗れた(オレ)は、貴様にかけられた呪い(パラドックス)によって全知全能の力は封じられ、そして―――龍蛇の創造の権能を剥奪された」

 

 聖書に記された龍蛇たちの創造の権能を原初龍(貴様)にな、と溜め息混じりに言う唯一神(ヤハウェ)

 姫乃は、うん、と頷いた。

 

ヤハウェ(やー君)聖書(神話)に記された龍蛇(彼ら)の扱いが酷い。だからワタシは、オマエから龍蛇(彼ら)の創造の権能を奪った」

 

「………ふん。貴様は様々な神話(世界)を渡り歩き、神々(我々)に勝利しては呪い(パラドックス)をかけて全知全能の力を封じ、さらに龍蛇の創造の権能を剥奪。そして、剥奪したその権能を使用して各神話の龍蛇(ヤツら)母龍(オヤ)となった」

 

 唯一神(ヤハウェ)が語り、姫乃が首肯する。

 そう。神々が姫乃を倒せずにいる真の理由は呪い(パラドックス)をかけられているからだ。

 全能の逆説(パラドックス)。それは、全能者の能力の矛盾を指摘し、全能者の全能性を否定する呪い(パラドックス)

 例えば、〝全能者は、自分でも持ち上げられない石を造ることは可能か?〟という質問をされたとする。

 全能者はその質問に〝(YES)〟と答えると、彼は『自分でも持ち上げられない石を造ることができる』。故に、彼は全能者である。

 が、それを造れるということは彼は『その石を持ち上げられない』。即ち、完全無欠の才能(全能)なはずなのに〝持てない〟のでは、彼は全能者ではないことを意味する。

 逆に、全能者はその質問に〝(NO)〟と答えると、彼は『自分でも持ち上げられない石を造ることはできない』。故に、彼は全能者ではないことを意味する。

 本来、この呪い(パラドックス)は、宇宙の法則を容易く捻じ曲げられる開闢者(創造神)たちには通用しない。

 だが、この呪い(パラドックス)をかける存在が同格の、〝宇宙の根源〟を司る龍神〝原初の龍(ウロボロス)〟が使用することで、創造神(彼ら)も例外なく呪い(パラドックス)の影響を受けて、全知全能の力を封じられてしまうのだ。

 それ故に、神々は姫乃の呪い(パラドックス)に屈し、全能を振るえず、今まで彼女を斃す手段がなかった。

 

「―――だが、神々(我々)は遂に、貴様を滅ぼし得る力を完成させた。故に、(オレ)は貴様に宣戦布告に来たというわけだ」

 

「………ワタシを殺せる(壊せる)力?」

 

「そうだ。ククク………戦場(舞台)が調い次第、貴様を我が聖戦の地(メギドの丘)へと招いてやる。首を洗って待っているんだな」

 

 高らかに笑う唯一神(ヤハウェ)。彼には既に、自分の思い描いた〝勝利〟が見えているのだろう。

 姫乃は、そう、と呟くと、薄く笑って返した。

 

「わかった。ヤハウェ(やー君)との終末戦争(壊し合い)、楽しみにしてる」

 

「ふん。すぐに(オレ)のことを〝やー君〟ではなく〝()()〟と呼ばせてやるからな!覚悟しておけよ!」

 

「え?」

 

「それではな―――未来の(オレ)の娘」

 

 意味深な発言を残して、異空間へと消え去る唯一神(ヤハウェ)

 姫乃が小首を傾げていると、混沌神(カオス)が呆れたような声音で言った。

 

『………ヤハウェくん、やっぱりロリコンだね。ボクの愛娘ちゃんに〝パパ〟と呼ばせたいなんて』

 

「パパ?」

 

『愛娘ちゃん。この終末戦争(ハルマゲドン)………敗北しちゃ駄目だからね?負けたら愛娘ちゃんは―――ヤハウェくんの養女にされちゃうよ』

 

「………それは、嫌。よくわからないけど………ヤハウェ(やー君)の養女にされるって想像しただけで悪寒がする」

 

 身震いする姫乃。苦笑いする混沌神(カオス)

 そんな二人(?)は、深い溜め息を吐くと那月家へ帰宅するのだった。




聖書の神に特殊な性癖(ロリコン)を設定しました。
オリ主の創造主は単なる親バカです。ロリコンではありません。

前回、北欧神話のニーズヘッグがオリ主の子という謎設定が登場していましたが、オリ主が龍族と蛇族の始祖と呼ばれている由縁は、各神話の龍蛇の創造権を神々から奪ったからだったんです。

ちなみに、この裏事情は古城たちは知るよしもありません。知っているのは、喧嘩売られた神々だけです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。