ストライク・ザ・ブラッド―混沌の龍姫―   作:アヴ=ローラ

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聖者の右腕 弐

 翌日。那月家のマンション―――屋上。

 今朝も那月は、メイドラゴンこと姫乃の特訓を受け、戦闘技術を高めていた。

 前哨戦(ウォーミングアッブ)の内容は、那月が姫乃の攻撃をひたすら避けるというものだった。

 

「―――――」

 

 姫乃が、無から生み出した石の(つぶて)を同じテンポで投擲してくる。那月は、寸分の狂いなく自分の胸元に吸い込まれるように迫ってくる礫を、空間制御の魔術で生み出した衝撃波で迎え撃つ。

 最初の方は、それでどうにか凌げていた。が、姫乃の投擲速度が増していくたびに、衝撃波で対処するのが困難になっていき、

 

「―――ッ!」

 

 遂には、那月の衝撃波を礫が突き破り、彼女の左肩を掠めた。すぐ間近に迫ってきた追撃の礫を見て、ちぃ、と舌打ちした那月は、空間転移でその場から離脱する。

 だが、転移した先には、まるで待ち構えていたかのように礫が迫っていた。

 

「く………!」

 

 那月は、無造作に腕を振るって、銀色の鎖―――〝戒めの鎖(レージング)〟を虚空から撃ち出し、礫を撃ち落とす。

 それを見た姫乃は、クスリと笑って、

 

「………鎖を使うなら―――礫の数を増やす」

 

「は?」

 

 那月が間の抜けた声を洩らした瞬間、姫乃の周りには数十個に増えた礫が浮遊していた。そして、

 

「―――一斉攻撃」

 

 姫乃の一斉射撃が開始された。

 

「な………!?」

 

 那月は、超高速で迫ってきた無数の礫に戦慄し、恨めしそうに姫乃を睨みつけた。

 数が多すぎだ、駄メイド!という言葉を目で訴える那月。が、姫乃は無視して追撃の礫を用意する。

 那月は、自棄になって虚空から無数の銀鎖を撃ち放ち、礫を撃墜………しきれなかったので、空間転移で躱しながら鎖で礫を迎撃していく。

 だが、那月が回避できる速度に限界がきたようで、姫乃の操る礫を躱しきれず、胸板を撃ち抜かれてしまった。

 でも、那月のこの身体は、彼女の魔力で創り出された幻影―――人形だ。故に、壊されたところで那月本人が死ぬことはない。

 しかし、分身体である幻影の破損具合が酷ければ、那月の戦闘能力は失われてしまう。

 そんな那月の幻影は、姫乃が指一つ振るだけで再構築(リセット)された。

 復活した那月は、相も変わらずデタラメなメイドラゴンの能力に頬を引き攣らせる。

 

「………姫乃」

 

「なに?」

 

「昨日の特訓に比べて、今日のはハードすぎる気がするんだが」

 

 那月が指摘すると、姫乃は静かに頷き、

 

「御主人様が簡単にクリアするから、難易度上げた」

 

「そうか。たしかに、昨日の特訓は物足りないと思っていたが………今日のはクリアさせる気ないだろう?」

 

「うん」

 

 隠す素振りもなく答える姫乃。それに苦笑いを浮かべる那月。まあ、昨日の特訓よりは遣り甲斐があったが。

 

「………そうだ、姫乃」

 

「なに?」

 

「暁には会えたか?」

 

「うん、会えた。………けど」

 

「けど、なんだ?」

 

「勧誘失敗。暁古城は、ワタシの特訓を拒否した。必要ない、と言われた」

 

 しょんぼりと肩を落とす姫乃。そんな彼女を、那月は不思議そうな表情で見つめる。

 

「暁を特訓して、どうする気だ?」

 

「もちろん、戦う(遊ぶ)。強くなった第四真祖と」

 

「………姫乃は、強者と戦うのが好きなのか?」

 

「うん、好き。強者と戦う(遊ぶ)のはとても楽しい。弱者は、つまらない。簡単に殺せる(壊せる)から」

 

 那月はゾッとした。姫乃の口ぶりは、かつて〝弱者〟と呼べる存在を数多に殺して(壊して)きたように聞こえた。

 那月が額に冷や汗を掻いていると、姫乃が、無表情に見つめてきて、

 

「今日も暁古城を勧誘しにいく。だから御主人様、また少し出かけてきてもいい?」

 

「ん?暁に会いたいのか?なら、私と一緒に学校へ行こう」

 

「え?」

 

 目を瞬かせる姫乃。そんな彼女に、那月はニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 時刻は朝の九時前。場所は、彩海学園の高等部―――追試会場。

 姫乃は、那月に連れられてその会場の教室に入ると、

 

「―――――は?」

 

 世界最強の吸血鬼、第四真祖―――暁古城が席につき、だらしなく頬杖を突いていた。

 古城は、予想外の来客に瞳を見開く。

 

「なんでおまえが那月ちゃんといるんだ!?」

 

 古城の疑問に、眉を顰めて那月が答える。

 

「教師をちゃん付けで呼ぶなと言ってるだろう。姫乃は、私のメイドラゴンだからな。一緒にいるのが自然だと思うが?」

 

「メイドラゴン?………原初龍(そいつ)が、那月ちゃんのメイドだと!?」

 

 ぎょっと目を剥く古城。〝原初の龍(ウロボロス)〟をメイドにすることなど、可能なものだろうか。

 

「………那月ちゃん。まさか、そいつを飼い慣らしたのか?」

 

「そいつ、違う。空無姫乃。御主人様に付けてもらった、ワタシの名前」

 

「お、おう」

 

 姫乃に無感動な声音で言われて、古城は、苦笑いを浮かべる。

 那月は、ふん、と鼻を鳴らして答えた。

 

「飼い慣らしたわけではない。互いに利益があるからこういう関係が成り立っているだけだ」

 

「利益?」

 

「うん。ワタシにとってのプラスは、強者と戦える(遊べる)こと」

 

「そして、私にとってのプラスは、世界最強の龍神をメイドラゴンとして扱えることだ」

 

 姫乃と那月がそう言うと、古城は、新たな疑問が生まれた。

 

「え?………那月ちゃんって、空無が認めるほど強いのか!?」

 

「ううん、弱い」

 

「は?」

 

「けど、魔女(人間)にしてはかなり強い。〝空隙〟を、カオス(パパ)の異名を持ってるから、ワタシが育てればきっと強者になれる。だからワタシは御主人様に期待してる」

 

「そ、そうか」

 

 古城には、那月の力がどの程度かは知らないが、龍神が期待するほどの人間なんだな、と取り敢えず納得しておく。

 

「〝空隙(カオス)の魔女〟か。悪くない異名だが、それでは姫乃の父親の株価が暴落する気がするんだがな」

 

「平気。遠くない未来に、時空を自在に操る魔女にしてみせる」

 

「おまえはいったい、私を何にする気だ?」

 

「ワタシを楽しませられる、〝神〟に最も近い魔女」

 

 時空を操る魔女。時間と空間の両方を制御できる魔女が誕生するならば、この世界でその魔女に勝てる生物は存在しなくなるだろう。

 一方、那月の正体を魔女と知った古城は、愕然とした表情で那月を見た。

 

「は?那月ちゃんはただのプロ攻魔師じゃなくて、魔女なのか!?」

 

「ん?そうだが?」

 

「軽っ!?とてもじゃないが正体隠してた人の反応じゃねえな!」

 

 叫ぶ古城を、那月が面倒臭そうに見下ろす。

 姫乃は、古城から那月に視線を向けて、

 

「御主人様。暁古城の記憶………消す?」

 

「は?」

 

「いや、いい。どのみちいつかは正体がバレる日がくるからな。それが早まっただけだ。記憶を消す必要はない」

 

「わかった」

 

 那月に、それは不要だ、と言われて、姫乃は頷いた。が、

 

「ちょっと待てェ!」

 

「ん?」

 

「ん?じゃねえよ!なに他人の記憶を消す消さない言ってんだよあんた!人をなんだと思ってやがる!」

 

殺して(壊して)もいい………最弱者?」

 

「最低だなオイ!?」

 

 姫乃の回答にガクリと項垂れる古城。しかし、この傍迷惑な龍神を更正させる力は、古城にはないが。

 姫乃は、無感動な瞳で古城を見下ろし、

 

「暁古城」

 

「………なんだ?」

 

「ワタシの特訓………受ける気になった?」

 

「ならねえよ!つか、どうして俺を強くしようとするんだ?」

 

 古城は、一番気になった疑問をぶつけてみる。すると、姫乃は暫し考えたのち、口を開き質問に答えた。

 

「それはオマエが、第四真祖が―――殺神兵器だから」

 

「は?」

 

「オマエは〝神〟を殺せる(壊せる)世界最強の吸血鬼。〝龍神(カミ)〟であるワタシも殺せる(壊せる)かもしれない存在。だから、ワタシはオマエを至高の戦い(遊び)相手にするために、特訓に誘ってる」

 

「結局、自分のためじゃねえか!?」

 

 自己中心的な姫乃を睨みつけて吼える古城。うん、と隠す素振りもなく素直に肯定する姫乃。

 一方、那月は、真剣な表情で姫乃に問いただした。

 

「姫乃。第四真祖は殺神兵器だと言ったな。それは、『誰が』〝神〟を斃すために創ったんだ?」

 

「教えない」

 

「なに?」

 

「もし知りたいなら、ワタシに一撃与える。それができたら御主人様にも教える」

 

 ばっさり切り捨てる姫乃。ちぃ、と悔しそうに舌打ちする那月。

 ここで、私のメイドラゴンの分際で!と言ってしまったら、魔女風情がワタシに逆らうつもり?と姫乃に返され契約は破棄されていたことだろう。

 姫乃にとって、那月は〝自分を楽しませてくれるだろう〟と期待している程度であって、期待外れだった場合は即刻切り捨てられる、いわば蛇の脱皮した皮のようなもの。

 基本的には那月の言うことを聞く所存ではあるが、自分のことや〝天部(お気に入り)〟の情報をタダで提供するつもりはないのだ。

 那月も、メイドラゴンの主人なのに立場が下、というのは不服に思っているが、相手は世界最強の龍神。龍神と魔女では、強さは天と地の差どころか、次元が違うから逆らえない。

 それに姫乃は、知られたくないこと以外は那月に従順であり、家事全般の技術(スキル)も完璧にこなせるので、契約を破棄するのは非常に惜しい存在だ。

 そして、姫乃を満足させられるほど強くなった暁には、彼女の真の主人となりなんでも言うことを聞かせる、本当の意味で彼女をメイドラゴンにする、という目標もあるため『我慢』することを選んでいるのだ。

 

「………俺にも、教えてくれないんだよな?」

 

「うん」

 

「そっか。じゃあ、俺もおまえの特訓は受けねえよ。そっちが話さねえなら、俺が従う必要もないしな」

 

 馬鹿馬鹿しい、と古城が呟いた刹那―――姫乃の殺意が彼を射抜いた。

 

「な―――っ!?」

 

 古城は、堪らず跳び退く。姫乃の顔を見るが、彼女の表情に変化はない。が、その紅い双眸には落胆の色が浮かんでいた。

 

「真祖風情が龍神(ワタシ)に対価を求めるなど烏滸(おこ)がましい。オマエがワタシの特訓を拒否するなら、勝手にしろ」

 

「あ?」

 

「その代わり、オマエに一つ言っておく。弱者のオマエには興味ないから、ワタシは手を出さない。けど―――異界の神々は、〝殺神兵器〟である第四真祖(オマエ)を絶対に生かさない。弱者のオマエは彼らにとって、格好の餌。狙われても知らない。助けない。そのことを覚えておく」

 

 姫乃は警告した。ワタシの特訓を受けなければ、近い未来〝神〟に殺される(壊される)と。

 だが、古城は、姫乃の態度に怒りが頂点に達したらしく、憤怒の炎を瞳に宿して言った。

 

「てめえが龍神(カミ)だからって、人を散々見下しやがって!神々が俺を殺しにくる?それはてめえが俺を言うこと聞かせるためのデマだろうがッ!てめえの都合に俺を巻き込むんじゃねえ!俺のことはもう知らない、助けない?ああ、そうかよ。なら勝手にしろ!てめえの顔を見ないで済むんなら、むしろ清々するぜ」

 

「………!?」

 

 古城の予想外な返事に、姫乃は驚く。まさか、彼が自分に反抗的な態度をとってくるとは思いもしなかったのだろう。

 古城は、イライラと歯軋りすると、那月に視線を向けて言った。

 

「那月ちゃん。悪いけど、そいつをこの教室から追い出してくれませんか?顔も見たくないんで」

 

「私をちゃん付けで呼ぶな!………ふん、いいだろう。姫乃、悪いがこの教室から出ていってくれないか?この古城(バカ)の追試を始めたいんでな」

 

「………わかった」

 

 姫乃は、古城に睨まれながら異空間へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 時刻は夜。場所は、絃神島西地区(アイランド・ウエスト)の人気の途絶えた夜の公園。

 姫乃は、昨日の夕方頃に感じた魔力と同じ魔力を感じ取って、この場所の遥か上空に来ていた。

 漆黒の翼を広げたまま夜の空を浮遊している姫乃が、公園を見下ろすと―――案の定、例の〝若い世代〟の吸血鬼の男と、彼の眷獣〝灼蹄(シャクテイ)〟が何者か達と対峙していた。

 その何者か達の方に姫乃は目を向ける。

 一人目は、藍色の髪の小柄な少女。恐らく姫乃と大差ない容姿だろうか。

 左右対称の整った顔立ちで、透き通るような白い肌を持つ、瞳の色は薄い水色。膝丈までのケープコートですっぽりと身体を覆っている。

 二人目は、金髪を軍人のように短く刈った外国人の男。背は姫乃より五十センチ以上はありそうな巨躯な人間。

 左目には眼帯のような金属製の片眼鏡(モノクル)を嵌めている。聖職者のような法衣を纏っており、その下には、軍の重装歩兵部隊が使用する装甲強化服。男の右手には、巨大な刃を備えた金属製の半月斧(バルディッシュ)があった。

 

「ふうん。人工生命体(ホムンクルス)と人間が、〝若い世代〟の吸血鬼と対峙している」

 

『そうだね。でも、地面に転がってる瀕死の獣人を見るからに、殱教師の彼は相当な腕を持ってるよ』

 

「そう。けど、所詮は人間。弱者。ワタシの戦い(遊び)相手にすらならない雑魚」

 

『………今日の愛娘ちゃんは毒舌だねえ。暁古城くんに嫌われたこと、引き摺ってるの?』

 

「………!」

 

 陽気な少年の声―――創造主(カオス)の指摘に、ギクリと表情を微かに歪ませる。

 だが、声音は冷静さを失っておらず、淡々と返した。

 

「………真祖風情に怒られたのがむかつくだけ。暁古城という弱者なんかはどうでもいい」

 

『ふーん?本当にどうでもいいのかなあ?』

 

「……………どうでも、いい。あんなやつ」

 

 姫乃のか細い声は、風の音に掻き消される。が、もちろん創造主(カオス)には聞こえていた。

 微かに不貞腐れたような表情を見せる姫乃。そんな彼女を創造主(カオス)は、面白そうに眺めていた。

 姫乃にとって、自分の正体を知っているのに、あんな風に堂々と向き合ってくる人間は、初めてだった。

 那月は、御主人様だから除くとして、大抵の人間は、恐怖して逃げたり、敬語を使ったりして〝龍神様〟とか言ってくる。

 だが、暁古城は違う。恐怖して逃げたり、敬語を使ったりしてこない。そればかりか、〝龍神(カミ)〟に対して『てめえ』と言ってくる。勇敢なのか、それとも恐いもの知らずのタダの馬鹿なのかは知らないが、姫乃にとっては『不思議』な存在であるのは確かだ。

 とはいえ、暁古城を姫乃が『好き』になったりすることはない。暁古城が『弱者』であり続ける限り、彼女が彼のことを永遠に『好き』になることは絶対にありえないことのだ。

 そんなことを姫乃が思い返していると、人工生命体(ホムンクルス)の少女の身体から生えた、仄白く輝く透き通った腕が―――妖馬の眷獣を『喰った』。

 

『へえ………眷獣を、魔力の塊を喰らう能力か。ボクの愛娘ちゃんの眷族()にもいたね』

 

「うん。〝北欧神話〟で世界樹(ユグドラシル)の根を齧って、宇宙の根源の破壊を企む邪龍ニーズヘッグ(にー君)。ワタシの可愛い九体の眷族()たちのうちの一体」

 

『そうそう。愛娘の眷族(息子)である彼は、死体が好物だからね。吸血鬼の魔力なんかは欲しがっちゃうよ、きっと』

 

「うん。けど、〝若い世代〟の眷獣じゃあの子は物足りない。真祖級なら、喜んで貪りつく」

 

『〝腹ペコ龍神〟って愛娘の他の眷族()たちから付けられるくらいだからね。真祖の魔力さえ喰らい尽くしかねないよ』

 

 苦笑する創造主(カオス)創造主の娘(ウロボロス)

 そんな彼らが視線を公園に戻すと、今まさに、人工生命体(ホムンクルス)の少女が、眷獣を失った(喰われた)〝若い世代〟に止めを刺そうとしていた。

 

『………助けないの?愛娘ちゃん』

 

「弱者を助ける義理はない。それに、あの弱者には昨日喧嘩売られたから、一回痛い目を見るべき」

 

 姫乃がそう口にした瞬間、暁古城の言葉が不意に脳裏を掠めた。

 

 

『てめえが龍神(カミ)だからって、人を散々見下しやがって!』

 

 

 龍神(カミ)だから、弱者である人間を見下してもいいじゃないか。これの一体なにがいけないというのか。

 でも、暁古城の立場で考えてみると………むかつく。見下すな!と叫びたくなる。

 そうか。暁古城の感じていた『苛立ち』というものは、これほどに不快なものだったのか。

 人間も、〝神〟も、皆、世界に存在することを許された者たちだ。存在こそ違えど、人間と〝神〟は世界の仲間。それを否定するということは、世界に嫌われた仲間外れになってしまうだろう。

 そして、始まりの人間は〝神〟が生み出したように、始まりの〝神〟も〝無〟に生み出された存在。〝原初神〟であっても、〝無〟より先に存在していたわけではないじゃないか。

 即ち、〝神〟も所詮は〝無〟という得体の知れない存在が生み出した『被造物』。〝神〟の『被造物』である人間と同じ〝創作物(ツクリモノ)〟に過ぎないのだ。

 現に自分は、『カオス』と名付けられた〝混沌〟に、〝無〟に生み出された存在ではなかったか。

〝神〟は人間より優れた存在。だが、所詮は〝無〟より劣った不完全な存在。〝無〟こそ存在しないが故に、斃すことのできない完全。〝神〟は存在しているが故に、斃すことができる不完全。言葉通りの全知全能の〝神〟など、この世に存在しない。所詮〝神〟も、人間より優れた存在という程度なのだから。

 

「……………」

 

 そう結論に至った姫乃は動いた。彼女が『弱者』と貶していた〝若い世代〟の吸血鬼の彼を助けるために。

 そして、

 

「―――なに!?」

 

「………!?」

 

 驚愕する法衣の男と人工生命体(ホムンクルス)の少女。彼女の身体から生えた巨大な腕を―――指一つで受け止めた謎の少女を見て。

 その少女を知っている〝若い世代〟の吸血鬼の男は驚愕に瞳を見開く。

 

「え?………あ、あんたは!?」

 

 驚く彼に、少女は振り返り、

 

 

「昨日ぶり、〝若い世代〟。安心して。オマエは、ワタシが守る」

 

 

 人間を見下すことをやめた少女―――空無姫乃は薄く笑ってそう言ったのだった。




長くなるのでここまでです。

次回、章のタイトル通り〝聖書の神〟が登場します。

登場しなかったら、オイスタッハたちの企みここで終了しちゃいますからね(^_^;)

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