ストライク・ザ・ブラッド―混沌の龍姫―   作:アヴ=ローラ

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お久しぶりの方はお久しぶりです。突然ですが、『ストライク・ザ・ブラッド―真祖と無限―』をリメイクすることにしました。
理由は二つ。一つ目は、聖者の右腕と戦王の使者の回が、原作通りすぎたこと。二つ目は、原作文字の多さで書くのがしんどくなったこと。
以上の理由により、リメイクとなりました。続きを楽しみにしていた方、すみません。

リメイク版は、オリ主最強のままなので、敵は各神話の神々+強化をたくさん出していく予定です。………あと、古城達も原作より強くしていきます。
相変わらずの不定期更新となりますが、よろしくお願いします。


〇章 龍神の再来篇
龍神と空隙


 ある真夏の日のことだった。

 太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と魔術によって造られた人工島。それは絃神島と呼ばれていた都市(まち)

 第四真祖という、この街のどこかにいるとされる吸血鬼の都市伝説がある。

 その第四真祖は不死にして不滅。一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する。世界の理から外れた冷酷非情な吸血鬼。過去に多くの都市を滅ぼした化け物だという噂があった。

 そんな第四真祖の噂があるこの街に、一人の少女がこぼれ落ちた。

 その少女は、時刻が丁度真夜中の零時になった途端、何もない闇の空から出現した。

 闇より深い姫カットの黒い長髪。落日を思わせるような真っ赤な双眸。髪色とは対照的に真っ白な肌を持つ童顔。

 闇を纏っているような漆黒の姫ドレス。そして―――幼女の言葉が似合う容姿で人形のような少女だ。

 漆黒の少女は、闇色の翼を背に広げたまま絃神島を見下ろして、

 

「この世界………久しぶりに帰ってきた」

 

『久しぶりって言っても、数ヵ月ぶりだけどね』

 

 漆黒の少女の呟きに、陽気な少年のような声が応える。

 漆黒の少女は、そうだった、と特に恥じることもなく、無感動な声音で返事をした。

 

「………〝彼〟は元気にしてる?」

 

『うん?〝暁古城〟のことかな?』

 

 コクリ、と頷く漆黒の少女。陽気な少年の声は、そうだねえ、と考えるように呟き、

 

『―――実際に会ってみた方がボクはいいと思うよ』

 

「わかった。そうする」

 

 漆黒の少女は、短く返事してゆっくり下降する。彼女が降り立ったところは、人目のつく繁華街。

 漆黒の翼を広げたまま舞い降りてきた少女を見て、彼女を目撃した者達が、何事か、と驚いた表情で見てくる。

 しかし、漆黒の少女は、周囲の目を全く気にしていないのか、なに食わぬ顔で漆黒の翼を消して繁華街を歩き始めた。

 そんな彼女に、呆れたような声音で陽気な少年の声が言ってきた。

 

『あのさ、愛娘ちゃん。捜し人は〝暁古城〟だけなんだからさ、人目のつかないところに降りない?』

 

「………この世界で龍神(ワタシ)に勝てる生物は存在しない。だからコソコソする必要はない」

 

 きっぱりと言ってのける漆黒の少女。陽気な少年の声は、まあそれはそうなんだけどねえ、と軽い口調で返す。

 

『この世界の〝天部(カミ)〟は全滅しちゃってるし、あとボクの愛娘ちゃんと戦え(遊べ)るのは……三名の真祖と』

 

「第四真祖。世界最強の吸血鬼なだけあって、中々愉しめる相手」

 

 フッと薄い笑みを浮かべる漆黒の少女。

 少し楽しそうな彼女に、陽気な少年の声は、ククと笑って、

 

『とはいっても、過去(むかし)なら兎も角、現在(いま)の第四真祖は眷獣もまともに制御できない子だよ?愛娘ちゃんが期待できるほど強くはないよ』

 

「………それは困る。どうすればいい、パパ?」

 

 困ったような顔をする漆黒の少女。彼女に〝パパ〟と呼ばれた、陽気な少年の声は、うーん、と考え込み、

 

『手っ取り早い方法なら―――愛娘ちゃんが直々に、第四真祖の覚醒を手伝ってあげる………ってのがあるけど?』

 

「それ、名案。パパ、冴えてる。うん、その方法でいく」

 

 強く頷いて賛同する漆黒の少女。陽気な少年の声は、それじゃあ決まりだね、と返し、

 

『………っと。その前に、愛娘ちゃんに〝お客さん〟みたいだよ』

 

「〝お客さん〟?」

 

 漆黒の少女は、きょとんとした顔で立ち止まる。陽気な少年の声が、後ろ後ろ、と彼女を促す。

 漆黒の少女は、彼に従い振り返る。そこには、数名の特区警備隊(アイランド・ガード)の者達と―――黒い日傘を差した少女がいた。

 日傘を差しているその少女は、容姿は漆黒の少女と大差なく、童顔で人形のような幼い少女だ。

 瞳の色は紺。フリルまみれの豪華な黒のドレスを着ている。

 

「貴様か?通報にあった、身元不明の魔族の娘というのは」

 

「………魔族?」

 

 漆黒の少女は、自分と同じ髪色の少女の問いに小首を傾げる。

 その日傘の少女は、そうだ、と頷いた。

 

「つい先ほど、匿名の通報があってな。その通報してきた奴の情報と、貴様の容姿や恰好が一致している。それで、私がこうして貴様に質問しているんだが………人違いか?」

 

 日傘の少女が、漆黒の少女の全身を見回し訊いてくる。漆黒の少女は、無感情な表情で彼女を見返し、

 

「………ワタシは魔族じゃない。龍神」

 

「―――――は?」

 

 日傘の少女と、彼女の後ろに控えていた数名の特区警備隊(アイランド・ガード)が素っ頓狂な声を洩らす。

 日傘の少女は、疑わしいような目で漆黒の少女を睨み、

 

「貴様、大人をからかってるのか?」

 

「からかってない。ワタシは龍神。異界に棲むドラゴン」

 

 淡々と告げる漆黒の少女。日傘の少女は、ふん、と鼻を鳴らして、

 

「………貴様がどういうつもりで大人をからかっているのかは知らんが―――あまり調子に乗らない方がいい」

 

「………調子に乗ったら、どうなる?」

 

 無感動な声で訊き返す漆黒の少女。すると、日傘の少女は、フッと笑い、

 

「当然―――痛い目を見ることになるぞ、小娘」

 

 そう言うと、日傘の少女の周囲の虚空から、無数の銀色の鎖が出現して、漆黒の少女の全身を搦め捕った。

 不意打ちの攻撃を受けた漆黒の少女。だが、銀色の鎖に捕縛されたまま、特に驚いた様子を見せることもなく、ただ冷静な口調で言葉を紡いだ。

 

「………〝天部〟の遺産、〝戒めの鎖(レージング)〟」

 

「なに!?」

 

 漆黒の少女の呟きを耳にした日傘の少女は、ぎょっと彼女を見つめ、

 

「貴様、〝天部〟を知っているのか!?」

 

「知ってる。けど、魔女風情に教える義理はない」

 

 漆黒の少女は、きっぱりと断ると、軽く動いて銀色の鎖を粉々に破壊した。

戒めの鎖(レージング)〟を容易く破壊した漆黒の少女に、なっ、と驚愕する日傘の少女。

 そんな彼女を庇うように、特区警備隊(アイランド・ガード)の者達が前に出てきて、

 

「南宮教官、あの娘は我々が………!」

 

「―――!待て、よせっ!」

 

「これでも喰らえ………ッ!」

 

 南宮と呼ばれた日傘の少女の制止は間に合わず、特区警備隊(アイランド・ガード)の数名が対魔族用の呪力弾を、漆黒の少女めがけて一斉射撃した。

 が、漆黒の少女の胸元に、寸分の狂いなく全ての呪力弾が叩き込まれたはずが、彼女に触れた瞬間―――パァンと風船が割れたように銃弾が粉々に弾け飛んだ。

 

「馬鹿なッ!?」

 

 特区警備隊(アイランド・ガード)の者達が有り得ないものを見たような表情を見せる。

 漆黒の少女は、そんな彼らをつまらないものを見るかのような目で眺め、

 

「………?」

 

 彼女の眼前に突如、巨大な黄金の鎖が迫ってきた。それは、戦艦の錨鎖(アンカーチェーン)にも似た、直径十数センチにも達する鋼鉄製の鎖。鎖を構成する(リンク)の一つ一つが、最早完全な凶器である。南宮が、砲弾のような勢いで撃ち出した新たな鎖だ。

戒めの鎖(レージング)〟の比ではないその巨大な黄金の錨鎖は、漆黒の少女の身体に吸い込まれるように、鎖の先端が叩き込まれ―――バキャン、と音を立てて黄金の鎖の方が粉々に弾け飛んだ。

 

「な………!?」

 

 南宮が、愕然と声を上げる。漆黒の少女は、落胆したような瞳で南宮を見つめ、

 

「〝天部〟の遺産、〝呪いの縛鎖(ドローミ)〟。たしかに強力。けど、龍神のワタシには通用しない」

 

「く………!」

 

 南宮は、試しに左腕を一閃する。漆黒の少女の身体を吹き飛ばすイメージで。だが、肝心の彼女の身体は微動だにしなかった。

 空間そのものを振動させて、爆発的な衝撃波を作り出して、漆黒の少女のこめかみに叩きつけたが、彼女には全く効いていない。

 それもそのはず、漆黒の少女にとって、南宮の放った不可視の衝撃波は、そよ風とも感じていない攻撃だったからだ。

 南宮は、ちぃ、と舌打ちすると、まるで凄腕の手品師のように、日傘を掲げ、その中から小さな獣達を撒き散らした。見た目はクマの縫いぐるみに似ている。二頭身の可愛らしい獣の群れだ。

 

「………?」

 

 漆黒の少女が、それらを怪訝な瞳で見回す。その獣達は、見た目に反した敏捷さで動きだし、漆黒の少女を包囲した。

 その正体を、陽気な少年の声が答える。

 

『魔女の使い魔(ファミリア)だね。迂闊に触れたら、手脚の一、二本は吹き飛ぶけど………ボクの愛娘ちゃんなら問題ないね』

 

「うん」

 

 漆黒の少女は、彼の意見に賛同し頷く。そんな彼女へと、南宮の使い魔(ファミリア)達が四方から跳んだ。

 漆黒の少女は、避ける暇もなく全ての使い魔(ファミリア)達を身体に受け―――ズドガァン、と凄まじい爆発が巻き起こった。

 これなら流石の奴でも無傷とはいかんだろう、と南宮は思った。が、

 

 

「―――もう終わり?」

 

 

「………っ!?」

 

 爆炎が晴れると、無傷の状態で漆黒の少女の姿が現れた。

 使い魔(ファミリア)達の攻撃でも、漆黒の少女にダメージを与えるどころか、傷一つ負わせることができなかった。

 南宮は、ギリッと歯軋りする。なんてデタラメな身体をしているんだ、と思いながら。

 漆黒の少女は、南宮をつまらないものを見るかのような瞳で見つめ、

 

「………所詮、魔女の力はその程度。降参する?」

 

 漆黒の少女の問いに、南宮は首を横に振り、

 

「安心しろ、自称龍神娘。私の力はこんなものではない」

 

「………そう。なら、見せて。オマエの全力」

 

 まだ何かある南宮を、漆黒の少女は少し嬉しそうな笑みを浮かべながら見つめる。

 南宮は、言われなくても見せてやる、と呟き、

 

 

「―――起きろ、〝輪環王(ラインゴルト)〟」

 

 

 自らの影に向かって傲然と命じた。

 その瞬間、南宮の背後に現れたのは、全長数十メートルもある巨大な影だった。

 優雅さと荒々しさを併せ持つ、金色の甲冑を纏った人型の影。機械仕掛けの黄金の騎士。

 禍々しい存在感が、人工の大地を震わせた。

 闇そのものを閉じ込めたような分厚い鎧の内側から、巨大な歯車や駆動装置の蠢く音が、怪物の咆哮のように聞こえてくる。

 巨大な黄金の騎士の姿を見上げて、漆黒の少女の口元に笑みが浮かぶ。

 陽気な少年の声も、少し喜んでいるような声音で呟く。

 

『へえ………中々強力な手札(もの)を隠し持っていたみたいだね。まあ、ボクの愛娘ちゃんの敵じゃないけど』

 

「うん。けど、少し楽しめそう」

 

 黄金の騎士像を見上げたまま、少し喜んでいるような笑みを浮かべる漆黒の少女。

 南宮は、そんな彼女を怪訝な顔で見つめ、

 

「嬉しそうだな、娘。だが、私の〝守護者〟は強力だぞ?慢心している場合ではないと思うんだが」

 

「うん。でも、勝つのはワタシ。その事実は揺るがない」

 

 漆黒の少女の言葉に、南宮は、ふん、と鼻を鳴らして、

 

「貴様のその驕り―――叩き潰してくれる………!」

 

 南宮の宣言と共に、黄金の騎士像が巨大な右腕を、漆黒の少女に振り下ろした。

 漆黒の少女は、その巨大な黄金の右腕を―――左手の人差し指のみで受け止めた。

 

「なん、だと………!?」

 

 自分の〝守護者〟の怪力を、たったの指一本で止めて見せたデタラメな少女を、愕然とした表情で見つめる南宮。

 漆黒の少女は、クスリと笑って南宮を見返し、

 

「これで終わり?」

 

「いや、まだだ!」

 

 南宮が叫ぶと、黄金の騎士像は真紅の荊を放ち、漆黒の少女の全身を搦め捕った。

 

「………無駄―――っ!?」

 

 漆黒の少女は〝戒めの鎖(レージング)〟と同じ要領で、真紅の荊の破壊を試みたが、壊れなかった。

 ようやく彼女の表情を驚きに染めることができて、南宮は満足げに笑う。

 

「ふふん。この〝禁忌の荊(グレイプニール)〟は、そう簡単には千切れんよ」

 

「〝禁忌の荊(グレイプニール)〟?………そう。北欧神話の魔狼を捕縛するためにドワーフ達がつくったという魔法の紐」

 

 真紅の荊の正体を知り、冷静な口調で己が持つ知識を口にする漆黒の少女。

 南宮は、ほう、と感心したような瞳で彼女を見つめた。

 

「さすがは龍神を自称するだけあるな。この真紅の荊も知っているのか」

 

「自称、違う。ワタシは本物の龍神」

 

 少し怒ったような声音で言う漆黒の少女。南宮は、ふん、と鼻を鳴らして、

 

「なら、この荊も千切ってみせろ。できたら、貴様が龍神だということを認めてやってもいいぞ?」

 

「………言われなくてもやる。こんな荊、すぐにでも壊せる」

 

 漆黒の少女はそう言うと、全身から〝闇〟を放出した。その〝闇〟はみるみるうちに真紅の荊を呑み込んでいき―――次の瞬間には消失した。

 

「な、に………!?」

 

 有り得ない光景を目にして、唖然とする南宮。そうしている間に、自由を取り戻した漆黒の少女が地面を軽く蹴り、黄金の騎士像に肉薄する。

 南宮がハッと背後を見た時には、漆黒の少女の小さな拳が、黄金の騎士像を粉々に叩き壊していた。

 自分の〝守護者〟を斃されて、放心する南宮。一方、彼女の目の前に着地した漆黒の少女は、薄い笑みを浮かべて、

 

「オマエ、魔女なのに中々強い。()()()()()。名前、なんていう?」

 

「私か?………南宮那月だ」

 

 なんとか口を動かして言葉を紡ぐ南宮那月。漆黒の少女は、クスリと笑って、

 

「南宮、那月。………うん、覚えておく」

 

 それだけを言い残すと、漆黒の少女は、那月の目の前から姿を消した。

 漆黒の少女が消えたのを確認した特区警備隊(アイランド・ガード)の者達が、那月の下へ駆け寄る。

 

「ご無事ですか、南宮教官!」

 

「なにもできず申し訳ありません!」

 

「私は平気だ。おまえたちは、先に戻って報告しておけ」

 

 那月の号令の下、特区警備隊(アイランド・ガード)の者達は、はっ、と応えて現場をあとにした。

 那月は、ふん、と鼻を鳴らして、漆黒の少女がいた場所に目を向ける。

 

「………龍神の娘、か」

 

 自称かと思っていたが、自分の攻撃が一切通用しないとなると、ある意味、本物の龍神と捉えてもいいかもしれない。

 あれほどの怪物が、この都市(まち)に潜んでいたとはな、と那月はフッと笑って天を仰ぐ。

 そして、密かにこう思った。あの龍神娘が、自分のメイドにならないかな、と星に願う。

 

 ―――その願いが叶って、翌日、メイドラゴンとして、漆黒の少女が那月の家に来ようとは、この時は思いもしなかった。




那月ちゃん家のメイドラゴン………的なノリで〇章は終了です。次回から聖者の右腕篇開始です。

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