もし織斑一夏がアリー・アル・サーシェスみたいな奴だったら   作:ナスの森

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オルトリアは来なかったけど、スク水エレナと委員長頼光さんが来てくれました。
……嬉しいけど、オルトリアぁ……(泣)


この世界に、神はいない

 日本の地にある、とある地下の収容所にて、その惨劇は広がっていた。

 ある者は自分達が犯した罪を互いに擦り付けながら殴り合い、血が飛び交う。そんなやり取りにうんざりした者や、己が犯した罪と罪悪感に耐えきれなかった者が、自殺していく。

 ある者は精神崩壊を起こし、極度の廃人状態に陥る者もいた。

 

 その者達の一人であったイギリスの元代表候補生、サラ・ウェルキンはその“精神崩壊を起こし、極度の廃人に陥った状態”の、その寸前まで落ちかけている少女であった。

 代表候補生として鍛えられてきた精神が、かろうじて彼女の心を正常とまでは行かずとも現実を受け入れられる程度までには保っていた。

 

 今日も今日とて、発狂しては血を流すかつての学友たちの悲鳴を聞いては、喉も通らない飯を傍に置いて、ただひたすらにサラは己の犯した罪に対して怯えていた。

 

 ガタ、ガタ、ガタ、ガタ

 

 体が未だに震える。

 あれからとうに一か月以上は立っている。

 当初は周囲の部屋から絶え間なく聞こえていた発狂や悲鳴も今では収まっている。

 廃人化したか、それとも自殺したか、そんな事はもうサラの頭の中ではどうでもよくなっている。

 

 ガタ、ガタ、ガタ、ガタ

 

 体は未だに震えていた。

 如何に誤魔化そうとしても、その感触はちゃんと覚えている。

 ラファール・リヴァイヴを駆り、学友を、教員を、来賓を、多くの人間達をこの手で殺めた感触を、サラは覚えていた。

 

 ガタ、ガタ、ガタ、ガタ

 

 ――――どうして、こうなってしまったのだろう?

 

 サラは思い返す。

 きっかけは、自分の後輩であったイギリスの代表候補生が、入学初日にあろうことか29人ものクラスメイトの真ん中で、差別発言をした事であった。同じクラスにいた男性操縦者に対する差別発言をするならともかく(よくはないが)、日本人までをも差別したのはイギリスにとっては大きな痛手であった。

 これらの噂を聞きつけたサラは、何とかセシリアのフォローに回ろうと、まずは彼女の一番の差別発言を浴びたアインに対して、祖国イギリスを代表して謝りに行こうと、アインの部屋を訪れた。

 

 それが、始まりだった気がした。

 

 彼の部屋を訪れ、ドアをノックし、そこでサラは彼と出会った。

 サラが彼に抱いた第一印象は、一言でいうのなら“紳士的”であった。

 ここ最近の男性というものは、女尊男卑の風潮のおかげで大抵は女性――――特にIS関係の職に手を付けている女性に対しては過剰な警戒を示す事例が多い。

 その最中で彼はIS乗り――――しかもイギリスの代表候補生である自分に対して何ら警戒を示す事なく、むしろにこやかな笑みを浮かべて自室へ招き入れてくれた。

 

 そんな彼に驚きつつも、サラは真っ先に己のすべき事を彼にした。本来は自分に対して怒りや不満をぶつけてもいい立場であるにも関わらず、快く自分を迎え入れてくれた彼に恥じ入る事がないように、サラもまた己の持ちうる限りの相応の礼儀で彼に謝罪をした。

 

『いえ、別に構いませんよ。自分はこういった事には慣れているので。それに、もし謝罪するのであれば自分よりも、自分のクラスメイトのお嬢さんたちにさせてやってください。勿論、貴女が、ではなく彼女にですがね』

 

 自分の謝罪に対して返って来たその男の言葉に、サラは感銘を受けた。一番に怒っていい立場である筈なのに、それに対して不満を口にせず、むしろ自分以外に差別発言を受けた生徒達に対しての謝罪をしてほしいという彼の言葉に。

 

 女尊男卑の世の中であるにも関わらず、いや、そんな世の中でもやってこれた男の強かさを感じ取ったサラは、アインに対してセシリアの身の上を打ち明けた。

 列車事故により両親が他界、今までオルコット家の財産を一人で守り続けてきた孤独、孤高な後輩の話をアインにした。

 

 ここが、サラ・ウェルキンという少女の、最大の間違いだった。

 

 サラはアインの事を信用、とまでは行かずとも彼女の身の上を話すのにふさわしい人物だと思ってしまった。彼女の罵倒を一心に受け続け、それでも彼女に怒ったりせずに受け入れる心を持つ(振りをしている)男を、この男になら彼女を任せてもいいのではないかと思ってしまった。

 

 セシリア・オルコットという後輩は、ひそかに『強い男』という者を望んでいるのを、サラは知っている。憧れた母親が強い女性であったからこそ、その母親に媚びてばかりであった父親を敬遠しつつも、母親と同じように強くあってほしかったという後輩の望みをサラは理解していた。

 

 サラは知ってほしかった。

 

 セシリア・オルコットという少女は、典型的な女尊男卑の風潮に染まった少女ではないのだ、女尊男卑の世になる前から彼女は強い男を見た事がなかった。

 女尊男卑の思考に染まったセシリアに対して、サラは何度も忠告した事があったが、それでもセシリアのその考えを改めさせる事はサラにはできなかった。

 このIS学園に世界初の男性操縦者が入学してくると知り、セシリアがその男性とクラスメイトになってしまった事にサラは密かに不安を抱いていたが、あろうことかセシリアの入学初日にその不安は的中してしまったのだから、始末に負えない。

 噂を聞きつけ、サラはどれだけ胃を痛めたか。

 

 男が弱い生き物だ、セシリアのその考えが根底から抜ける事はないだろうと散々思い知ったサラは、できるだけ彼女を公の場で男に会わせないように努めてきたが、世界初の男性操縦者がIS学園に入学したとあっては彼女の努力もいよいよ限界である。

 

 一度はあきらめていたサラであったが、もしセシリアがこのIS学園の中で自分の中の黒い感情を爆発させてしまえば、今度こそ彼女は壊れてしまうと危惧したサラは、アインにある頼み事をした。

 

 どうか、クラス代表決定戦で彼女を負かしてほしいと。

 

 イギリスの代表候補生としてあるまじき発現である事は百も承知であった。

 それでも、『男に敗北する』という経験がなければ、セシリアの思想が覆されることはないとサラは焦っていた。

 セシリアは男性差別者というだけでなく、イギリス以外の国、特に日本という極東の島国をも密かに見下している。勿論、セシリアがそれを易々と発言する人間ではないという事をサラは知っているが、『男』という生き物が絡めば何を仕出かすのか分からないのがセシリア・オルコットという少女なのである。

 

 そして、初日にセシリアはやらかしてしまった。

 胃を痛めたサラは、セシリアの従者からお願いされた身として、もうセシリアの女尊男卑思考を直さなければ彼女の学園生活はお先真っ暗だと危惧し、アインに願い出たのである。

 

 無茶な願いである事は承知だ。

 下手すれば彼が笑い物にされる可能性だってある。

 だから、彼が断わってくるのであればそれまでだ、とサラは覚悟を決めていた。

 

 彼は、快く承知してくれた。

 

 それを機に、サラは彼に対して感情を爆発させてしまった。

 彼に感謝の言葉を繰り返し言うと共に、今まで自分がどれだけ苦労してきたかを無意識の内に語ってしまった。

 

 何を言うかというと、それくらい嬉しかった。

 

 そんな彼女に対し、困惑の表情を作りつつも、そんなサラを何とか落ち着かせるために、アインは彼女にお手製の緑茶を振舞った。

 サラとしては紅茶を飲みたい所であったが、彼が入れてくれた日本の緑茶も捨てがたい味であったため、セシリアの発言は明らかに間違いであるという事を実感した瞬間であった。

 

 そんな彼の気遣いに感謝しつつ、サラはソレを()()()()()()()

 

 そこからの記憶は曖昧だった。

 いや、曖昧などではない、その時の記憶もきちんと残っているが、それをサラは認めたくはなかった。

 

 そもそも、サラがISに乗りになりたいと思った一番の理由は、ブリュンヒルデに憧れたからというものである。

 サラがアインの部屋にきたもう一つの理由として、女性だらけの学び場で戸惑っているであろう彼に対して先輩として何かアドバイスをしてあげようという親切心も少しあったりした。

 

 自分の頼みを聞いてくれるのだから、クラスメイト付きあいの悩みで何かあれば自分に相談してくれていいと持ち掛けたサラに対し、アインは礼を言った後、学園生活に不自由はないと答えた。

 むしろ、『憧れのブリュンヒルデのクラスの配属されたので、毎日が楽しみだ』、そう彼は言ったのだ。

 

 同じくブリュンヒルデに対しての強い憧れを持っていたサラは、彼との会話を盛り上げてしまい。

 一晩中ブリュンヒルデの事について話してしまった。

 

 その中の記憶は、今度こそ曖昧だった。

 色々、サラが知らないブリュンヒルデについての事を、サラはアインに聞かされた。

 何故男性である筈のアインが、ブリュンヒルデとは無縁である筈の彼が彼女についてそこまで知っているのかという疑問を持たずに、サラはブリュンヒルデに対する憧れと興味をより一層強めていった。

 

 

 気が付けば、憧れに代わり、『信仰』を刷り込まれていた。

 

 

 以降、サラ・ウェルキンという人間の内面は大きく変わった、いや、()()()()()

 本来の目的であった後輩の改心という目的を忘れ、アインに敗北したセシリアに対し『神の地を侮辱した不信仰者』と見下すようになり、周囲から罵倒や陰口を叩かれる後輩に対して、何も思わなくなっていった。

 思わなくさせられていた。

 

 そして。

 

『この戦いは、神の御前に捧げられる聖戦である』

 

 ISのプライベート・チャンネルを通じて、ISに乗っていない生徒達には腰の無線を通じて、そのラジオが流れる中で、サラは虐殺を行っていた。

 

『伝統を軽んじ、神を冒涜せし不信仰者共に、神の代行者である我々が鉄槌を下すのだ!』

 

 今まで共に過ごしてきた学友たちが弾丸の餌食になっていく様に対して、これが神を信仰できない者達へのせめてもの救済であり、鉄槌であるのだと思い込まされて、サラはその手を汚してしまった。

 

「―――――ッ!!!」

 

 ペタリと、床に手を付く。

 今まで頭を真っ白にさせて考えないようにしていた筈なのに、一度思い出しただけで、吐きそうになる。

 

『不信仰者に屈服してはならない』

 

「グぅッ、アァ……」

 

 一度思い返してしまえば、その声が脳内で止まることはない。

 一度は拠り所として、今となってはトラウマとして刻まれたその声が、一度刷り込まれた脳裏に止まる事はない。

 

「ア、 アァッ……!」

 

 頭痛は止まらない。

 吐き気がする。

 

『我々は戦いで死す事によって、神の御許へ導かれるだろう』

 

 今にも飲み込まれそうな、あの声。

 

 気持ち悪い。

 

 ――――気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

 

 気持ち悪くて、今にもソレに塗り替えられそうで、サラはついに耐えきれなくなった。

 

「ち、がう……!!!」

 

 床に拳をドン、と突き立てる。

 脳裏に再生するその言葉に対して、サラの口は必死に否定する。

 

「死の果てに、神なんていない……!!」

 

 結局、ブリュンヒルデの名は戦争を勃発させるのに便利な肩書でしかない。

 宗教など、争いの温床でしかない。

 神の代弁者の語りなど、所詮は富と権力を求める浅ましい人間の法螺でしかない。

 

「この世界に、神なんていない!!」

 

 ベッドと机しか用意されていない殺風景な一室に、彼女の叫びが響き渡る。

 

 その直後。

 

『サラ・ウェルキンさん。日本政府、およびイギリス政府からの要請により、特例として貴女を収容所から出します。部屋のロックを解除しましたので、指定のポイントまで監査員が案内致します』

 

 彼女の部屋に設置されていたスピーカーから、そんな放送が流れた。

 

 

     ◇

 

 

『ただいまより数時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走。街中でエネルギー弾をばら撒き、市民に数十人の死者、および数百人の怪我人を出した後、監視空域により離脱。各国は至急対空警戒を怠らないようにしてください』

 

「最近、物騒だなぁ。ここまで来なきゃいいんだが……」

 

 五反田食堂と呼ばれる食堂で、その手伝いをしていた高校生、五反田 弾は突如ラジオで放送された音声に、冷や汗を拭いながらそう呟く。

 

「この間のIS学園でのテロ事件といい、蘭がIS学園に入学希望を出してなくて本当に良かったぜ……」

 

 テロが起こるような地に妹を送り出すような事をせずに済んだ事に弾は心の底から胸を撫で下ろす。

 

「まったくだな」

 

 それに同意するように、カウンターの奥から年寄りの声が聞こえてきた。

 

「ただでさえ女尊男卑の世に染まってるってんのに、家の孫娘までそれに染められちゃあ堪ったもんじゃねえからな。蘭はまだ純粋な娘だ。あんな所に行かせられるかってんだ」

 

 IS学園の方角を向きながらそう吐き捨てる赤毛の老人、五反田 厳。弾の祖父にしてこの五反田食堂を営む男である。

 弾もまたそんな祖父の言葉にうんうんと頷きながら、客が置いていったお盆を集めてお盆置き場に置く。

 

「それにしても、数十人が死亡か。ISが暴走したにしては奇跡的な少なさとはいえ、これからどうなるんだ?」

 

「本当にそう思うか、弾?」

 

 これからの不安を口にする弾に対し、厳がそう問いかける。

 思わず首を傾げる弾を見て、厳は口を続けた。

 

「そもそもだな、ISが暴走して人が死んだなんて事、そんな大っぴらに報道できると思うか? しかも被害者たちは自国民と来たもんだ。そんなもん報道すりゃあ、向こうさんの地位がどれだけ脅かされるか分かったもんじゃねえよ」

 

「け、けど、現に報道されちゃってるぜ? 米国様が態々自分達の立場が不利になるような嘘の報道なんてするのかよじいちゃん?」

 

「そこだよ」

 

 弾を指さし、厳は言う。

 国が態々が自分達の不利になるような嘘の報道を流す筈がない。つまり――――

 

「つまりな、弾。これでもまだ事実を隠蔽している方だという可能性があるって事だ。これ以上にアメリカの立場を揺るがしかねない事実がその報道の裏にあるかもしれねえんだ」

 

「そ、それって、つまり……」

 

 祖父の言わんとしている事をなんとなく理解し始めた弾は、冷や汗を掻きながら祖父の言葉を待つ。

 

「これは俺の勘だがな、実際は――――」

 

 

     ◇

 

 

『繰り返します。ただいまより数時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走。街中でエネルギー弾をばら撒き、市民に数十人の死者、および数百人の怪我人を出した後、監視空域により離脱。各国は至急対空警戒を怠らないようにしてください』

 

 バーの中で、突如流れたその放送に、三人は固まってしまった。

 この情勢の中で、他国が開発したISが暴走してしまい、しかも自国民に死者を出してしまうという事実が、三人の精神にこれ以上にない程の精神的負担を強いた。

 

「そ、そんな……」

 

 目を泳がせながら、真耶は呟く。

 

「……クラリッサ。これをどう見る?」

 

「……」

 

 動揺を何とか抑え込み、千冬はクラリッサに先の放送について問うた。

 それに対してクラリッサはしばらく沈黙を貫く。

 ただでさえ、彼女の隊は何の為に戦えばいいのか分からない状況であるというのに、そんな状況の中でコレだ。

 

 それでも、千冬はクラリッサの返答を待つ。

 

 如何なる状況でも、冷静であれとクラリッサは千冬に教えられてきた。

 

 やがて、クラリッサは口を開いた。

 

「こんな事実、そのまま報道される訳がありません。もし先ほど報道されたのが事実だとすれば、アメリカはとんだ能天気です。勿論、そんな事あるわけない。つまり――――」

 

「これでも、隠蔽した方であると考えるべきだな。くそッ……!!」

 

 苦虫を噛みつぶすような表情になる千冬。

 彼女も、クラリッサも、そして真耶も。

 この報道がそのままの事実でないことくらいは予想が付く。

 

(私は、どうすれば……)

 

 そんな中で、クラリッサは更なる葛藤に陥っていた。

 先ほど自分の教官に言われた通り、アメリカがこんな事実をそのままに報道する訳がない。

 もし()()()()()()()が発覚すれば、世界は更に荒れる。

 

(私は、私達は一体、何を信じれば……)

 

 このままでは、自分達黒兎隊も近い内に出撃命令が下されてしまうだろう。

 だが、クラリッサは正直、今のドイツを信用できないでいた。

 

 自分の隊長のISにVTシステムを搭載したのがドイツであるのだとすれば、自分達は一体何の為に戦えばいいのだろうか?

 軍人に戦いの理由を求めるのはナンセンスだというが、軍人とて人間である。

 その軍人の上層部が黒で、自分達がそれに踊らされているのだとしたら、それこそが自分達が軍人をする意味もないのである。

 

 ――――だからといって、果たして遺伝子強化遺体(作られた存在)である自分達に、あそこ以外の居場所があるのか?

 

 もし、自分達が本当に戦うべき相手がその居場所そのものであるとして、それを打倒したとして、自分達の外の居場所は何処にあるというのだ?

 

 そんな葛藤を彼女は抱え続けてきた。

 抱え続けて、悩み続けて、苦悩の末に軍の目を盗んでドイツを抜け出し、こうして極東の地までやってきた。

 事件の当事者たる人物に会い、少しでも情報が欲しかった。

 そして、ようやくここにたどり着いたのだ。

 

 ようやくたどり着いたその矢先で、このラジオからの放送である。

 

 欧州の情勢といい、世界がどのような方向に傾きつつあるかは分かっているのにも関わらず、クラリッサは自分達が戦う理由を見いだせなかった。

 

「織斑、先生。この死傷者って……」

 

「ああ、十数人程度で済む筈がない。実際は――――」

 

 

     ◇

 

 

「十数人の死者、ですか……IS学園での例があるというのに、軍用ISが暴走して死者が高々十数人程度で済むのか……」

 

「どうにも、嘘くさいですな」

 

「ええ、そうですね」

 

 突如として聞こえてきたラジオの音声から、チェルシーと老人の執事は先ほど報道された事実は嘘であると断じる。

 

「今の情勢が分からない程アメリカも馬鹿ではない。徐々に戦争に向かいつつある世界の中で、各国が密かに殺戮に特化した軍用ISを開発している可能性だって否めない。アメリカのその例に洩れない」

 

 呟くチェルシーの言葉に、執事の言葉が続く。

 

「そして、そんな最中で開発している軍用ISが戦争向きである可能性は高い。そんな軍用ISが暴走したとなれば、死者は十数人では済まないでしょう」

 

「そうですね、実際は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「実際は、数千人くらいの死傷者を出してしまっているのではないか?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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